第81話「壊れかけの次元の壁」
いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!前回、まさかの現実世界で作者と対面してしまったリリィーナちゃん。「これで一安心、設定を書き換えてもらおう!」……と思いきや、物語は作者の予想すら超える斜め上の方向へと暴走を始めます。タイトル通り、次元の壁が大変なことになっております。幼児化してしまった作者と、現代社会に放り出されたリリィーナちゃんのハチャメチャな逃亡劇をどうぞお楽しみください!
ピキ、ピキキキキ……!
お洋服屋さんの真ん中で、作者さんの
スマホの画面が、まるで生き物のように不気味なひび割れを広げていく。
そこから溢れ出しているのは、間違いなく私がいた世界の上級魔法――それも、4人の王子たちのドス黒いまでの執念が混ざり合った、凄まじい魔力の奔流
だった。
「ひぃっ! 私の大事なスマホがーー!? 待って割れないで、スマホが熱くなってショートしちゃうよぉ!」
作者さんは必死にスマホが割れないように両手でパチッと抑え込んだ。けれど、王子たちの執念はそんな生易しいもので止まるはずがない。
バリバリと音を立てて液晶が完全に砕け散り、そこから怪しい紫色をした魔力の「煙」がブワッと容赦なく噴き出したのだ。そして、その禍々しい煙が作者さんの指先に触れた瞬間、誰も予想していなかった、世界の法則を無視したまさかの事態が巻き起こった。
ポンッ! という奇妙な破裂音とともに、白い煙が作者さんの身体を包み込む。
「あう? あうあうあう!!!??? な、ななうーーーーー!」
「……はぇ?」
煙が晴れたそこには、さっきまでメガネをかけてオロオロしていた大人の作者さんの姿はなかった。
代わりに床に転がっていたのは、ぶかぶかの大人の服に溺れそうになっている、どう見ても1〜2歳児のよちよち赤ちゃんだった。
メガネだけが床にカランと虚しく転がっている。
(作者の心の声:待って、待って! なんで私が子供になってるのよ!? 魔法なの!? それとも王子たちのバグった魔力に直接触れたから……!? いやいや
いや、これじゃあスマホも持てないし、キーボードも叩けないから、続きの小説が書けないよぉーーー!)
見た目は赤ちゃん、中身は締切に追われるWeb作家。そんな前代未聞の幼児化を果たした作者さんを前に、私の頭のキャパシティは完全に限界を迎えた。
「えっ? 作者さん、ちょっとなんで子供の姿になってるのぉ!!? えっ、服は!? お金は!? 家はどこよ!? 誰か私に教えてくださいわさーーーい!!」
あまりの衝撃に、お上品な私も野生の私も混ざり合って、おかしな悲鳴が口から飛び出してしまう。当然である。私は
この現代社会のことを何一つ知らないのだ。頼みの綱だった
「この世界の神様(作者)」が言葉も
通じない赤ちゃんになってしまったら
私は一体どうやってこの服の会計を
済ませ、どこへ帰ればいいというのか。
「な、ななうー! ばぶーっ!」
大人のズボンに埋もれながら、必死に
短い手をバタバタさせて何かを訴えようとする作者さん。
(リリィーナの心の声:待って、店の
人達たちがこっちをさらに変な目で
見てる!
『あのお嬢様、急に赤ちゃん誘拐
したの!?』
『いや、服の中から赤ちゃんが生えてきたぞ……?』
みたいなヒソヒソ声が聞こえる! 違うの、この赤ちゃんが私をここに生み出した神様なのぉぉ!)
その時、床に転がったままのスマホが、再び不気味に低く唸りを上げた。画面の割れ目から、どろりとした黒い影のような魔力が、まるで意思を持つ手のように伸びてくる。
『……見つけたぞ、リリィーナ。そこが、君を隠した不届き者の世界か』
スマホのスピーカーからノイズ混じりに響いてきたのは、いつも完璧なはずのカルト王子の、低く冷え切った、狂気交じりの心の声だった。
作者さんが幼児化して「執筆の制御」を失ったせいで、王子たちの現実世界への侵入スピードが、一気に加速しているのだ。
『リリィーナちゃん、ずるいよ。僕たちを置いてそんな知らない世界に行くなんて……。今すぐその端末をハッキングして、君の足元に魔法陣を描いてあげるからねぇ♪』
画面のヒビの奥から、ミディ王子のあざとくも恐ろしい執着の声が漏れる。
『リリィーナさん、待っていなさい。今、世界の記述式を書き換えています。あなたの隣にいるその幼児が「作者」ですね? 我々の恋路を邪魔する神など、私の研究材料にして分解してあげます』
マッドサイエンティストなミキラ王子の知的な暴論まで聞こえてきた。
『おいリリィーナ! 誰が赤ちゃん連れて逃げろって言った! 俺が今すぐその画面をぶち破って、お前を抱きしめに行ってやるからそこを動くなァ!』
オフィカール王子の怒号とともに、スマホの画面からパチパチと本物の電撃が飛び散る。
「ひえええっ! 王子たちの声がスマホからガチで大音量で聞こえるぅぅ! 全員
ストーカーの化身になってるじゃないの!」
「あうー! ななうっ!
(逃げて、リリィーナちゃん!)」
赤ちゃん作者が必死に私のパーカーの
裾を引っ張る。
「言われなくても逃げるわよぉ!」
私は覚悟を決めた。新しく着替えたばかりのデニムのおかげで、足元は前のドレスより何倍も動きやすい。
私はスカート……じゃなくてズボンを
ぐっと踏み締めると、ぶかぶかの大人の服の中で芋虫のようになっている作者
(赤ちゃん)をガシッと抱き上げ、小脇にしっかりと抱え込んだ。
そして、床で禍々しい紫の光を放ち続けるスマホを、パーカーの大きめのポケットに無理やり突っ込んだ。ポケットの奥から「リリィーナァァ!」とまだ声が聞こえるが無視だ。
「野生の私の脚力、舐めないでよねー!」
お洋服屋さんの店員さんが「あ、あのお客さん!? 試着したままどこへ!?
お会計は!?」と驚愕の声をあげるのを背中に聞きながら、私は赤ちゃんを抱えたまま、全力のダッシュで店外へと飛び出した。
ピキ、ピキピキ……!ポケットの中の
スマホから、次元がさらにひび割れる音が響く。アスファルトを蹴りながら
都会の雑踏を爆走する私。
(リリィーナの心の声:待って、お金払ってないから私、この世界だと
『どろぼう』になっちゃうじゃないのぉぉ! 神様、早く元に戻って私にお金を
持たせてぇぇぇ!)
脇に抱えられた赤ちゃん作者は、あまりの猛スピードに目を回しながら
「ばぶぶぶぶ!」と泡を吹いている。
果たして私は、幼児化した神様を守りながら、次元の壁を壊して迫りくる4人の王子から逃げ切ることができるのだろうか――!?
(第81話 終わり)
第81話をお読みいただき、ありがとうございました!……神様(作者)、まさかの退化(幼児化)です!!(笑)王子たちの執着の魔力が強すぎて、時空どころか作者の年齢までバグらせてしまいました。「ななうー!」としか喋れなくなってしまった赤ちゃん作者を小脇に抱え、現代の服を着て都会を爆走するリリィーナちゃん。お上品な敬語と野生のタメ口が混ざり合って、完全にキャパオーバーしています。しかも、置いていかれた王子たちはスマホの画面越しに逆ハッキングを仕掛けてくる始末。カルト王子たちの心の声(もはや直の声)がホラーすぎて、お洋服屋さんが一瞬で修羅場と化してしまいました。「作者幼児化は草」「リリィーナちゃん実質無銭飲食(着逃げ)になってて笑う」など、皆様からの感想をぜひコメント欄でお待ちしております!続きが気になる!と思ってくださったら、ぜひブックマークや、下にある【☆☆☆☆☆】の評価欄から応援していただけると、執筆の大きな励みになります!次回、第82話もお楽しみに




