第19話初めてのキスなのに
今回のお話は、リリィーナの「人生初キス」回になります。
いつも以上に甘めで、物理とラブが両方飛んでくる回なので、そういうのが苦手な方はご注意ください。
カルトナージュ視点の心の声も多めに入っています。
彼の独占欲がどれくらい本気なのか、楽しんでいただけたらうれしいです。
「んんーーーーー!!」
ひゃぁぁぁ! き、キスされてる!?
私、初めてなのに。出会ったばかりなのにーーーーー!
唇を塞がれたまま、私の脳内は真っ白になっていた。
鍛え上げた筋肉も、光の縄の前では全く役に立たない。
どれくらいそうしていたのか分からない。
数秒のはずなのに、永遠みたいに長く感じた。
ようやく解放された私の唇を、カルトナージュ王子が熱い視線で見つめる。
そして、ふっと妖しく微笑んだ。
「……ん。何、キスするの下手だね。もしかして、初めて?」
そ、そんなこと言わなくてもいいじゃない!
(そっか、僕が初めてなんだ。嬉しいなぁ。
ねえ、もっと可愛くて、僕をぞくぞくさせるような顔を見せてよ……)
「っ……!」
待って、無理!
カルトナージュ王子の意地悪なセリフと、脳内に直接流れ込んでくる甘すぎる心の声が、同時に押し寄せてくる。
頭の中で警報と甘いささやきが一緒に鳴り響いて、何を考えればいいのか分からなくなっちゃう……!
「ぷはっ……! もうやめて……っ、反省しましたからー! お願いですから、もう許してください!」
顔から火が出るほど真っ赤になりながら、私は必死に降参の声を上げた。
いつもの野生のプライドなんて、この至近距離の男の色気の前には木っ端みじんだ。
それでも、カルトナージュ王子の甘い独占欲は、私の涙目の懇願くらいでは止まらなかった。
「……もう? 降参するの? さっきまで僕の肩からピョンピョン逃げてたくせに。
あの威勢は、一体どこへ行っちゃったのかな? ──まだまだ、全然足りないだろ」
「ひ、ひゃ……っ」
「ちゅぅっ……」
「んんんんっ!!」
ちょ、待って。本当に無理。これ以上は私の理性が死んじゃう──!
再び重なった彼の唇は、さっきよりもずっと深く、私の口内を容赦なく侵食していくのだった──。
(んんんんっ!!)
頭がどうにかなりそうなほどの甘い口づけの最中、私の理性が必死に警報を鳴らしていた。
やめてほしい。本当にやめてほしい……!
なんとかして、この絶体絶命の状況をどうにかしないと……!!
(そうだわ。おでこを思いきりぶつけたら、さすがに離れたりしないかしら?
──うん、やってみないと分からないわね!)
全身を縛られていても、首から上の自由はかろうじて残されている。
私は唇を塞がれたまま、肺に限界まで空気を吸い込んだ。
「ふ、は、んん……!(せーのっ!)」
──ゴンッ!!!
廊下に、およそお姫様らしからぬ鈍い破壊音が響き渡る。
私は己の身体をバネのようにしならせ、額に全神経を集中させて、勢いよくカルトナージュ王子の美形なおでこに渾身の頭突きをブチかました。
「……っっ!?」
さすがに予想外の物理攻撃だったらしく、カルトナージュ王子は一瞬で私の唇から離れた。
額を押さえて痛がる仕草を見せながらも、その綺麗な瞳は、かつてないほど鋭く私を睨みつける。
「……痛いな、リリィーナ。でも、良かった。君にはまだ、それだけの威勢が残っていたんだね?」
(おでこが割れるかと思った……。
本当に君って子は、僕の想像をどこまで超えれば気が済むんだろう。
──あぁ、ますますゾクゾクする。もう絶対に手放したくない)
カルトナージュ王子は低く笑うと、パチンと指を鳴らした。
すると、私の全身をぎりぎりと締め付けていた光の縄が、嘘のように、はらはらと解けて消えていく。
「ふはぁっ! 助かった……っ!」
自由になった手首をさする私に、カルトナージュ王子は一歩、また一歩と怪しく距離を詰めてきた。
その笑顔は、完全に逃げ道を塞ぐ捕食者のものだ。
「縄は解いてあげる。……だけど、ここからが本当のお仕置きだよ。
これから僕がすることに耐えられたら、今日のところは大人しく解放してあげる。
でも──もし耐えられなかったら、君が腰を抜かしてその場に倒れるまで、たっぷり可愛がってあげるからね?」
光の縄よりも何倍も重い、カルトナージュ王子の濃厚な独占欲のオーラが、再び私を包み込もうとしていた。
「わ、わかりました! 受けて立ちます!! 勝ったら、すぐ家に帰らせていただきます!」
(負けるわけにはいかない……。でも……
い、意外と良かった? ……っ。もしかして、私ってドMなの!?)
「じゃあ、交渉成立だね。僕の本気、見せてあげるね?」
(まあ、俺のキスに耐えられる人なんか存在しないんだけどね。
もし耐えられたら、ちゃんとすぐ家に帰してあげるよ。交渉だからね)
私は、やる気に満ちた目をしながらも、ぷるぷると震えていた。
首まで真っ赤に染めて、カルトナージュ王子に挑みかかる。
「ふふっ。その震えてるリリィーナも可愛いよ。さて──始めよっか」
「ちゅっ……」
(ふーん。さっきよりは上手いね。
でも、これならどうかな? 特に女の子は苦手だよね……ここ)
私は足をがくがくさせながら、なんとか耐えていた。
けれど、カルトナージュ王子の唇がめっちゃ重なる!?ちょっと、何!?口の中、舌が入ってるー!
しかも、キスしながら甘い心の声を垂れ
流すのも、耳を触るのもズルいってば!
もがこうとする私とは反対に、カルトナージュ王子のキスは、さらに勢いを増していくばかりだった。
「っ、も、もぉ……っ、本当に、腰が抜ける……!」
半分泣きそうな声で訴える私の耳元で、彼は楽しそうに笑う。
「大丈夫。ちゃんと支えてあげるよ。
君が立てなくなるまで、たっぷり可愛がってあげるって、さっき言っただろ?」
ぞわり、と背筋をなぞるような声色に、心臓がどくんと跳ねた。
……この人、本気で言ってる。
そう理解した瞬間、胸の奥まで熱くなって、頭の中の警報も、野生の勘も、何もかもがぐちゃぐちゃになる。
私は必死に目をぎゅっと閉じて、カルトナージュ王子の肩をつかんだ。
今だけは、何も考えたくない。
何も、聞きたくない。
──この人がくれる、甘すぎる感覚
以外は。
そんなふうに、彼の世界に飲み込まれていく自分に気づきながら。
……だから。
その視線に、ぞわりとした気配が混じっていることにも。
廊下の曲がり角の陰から、じっとこちらを見つめる別の王子様の存在にも。
このときの私は、まだまったく気づいていなかった──。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
リリィーナの初キスは、やっぱり全力で甘くて物理で、そしてだいぶ命がけになりました。
カルトナージュ王子の「捕食者モード」、少しでも気に入ってもらえたらうれしいです。
そして、最後にこっそり登場した「廊下の陰の誰かさん」。
四人の王子様の関係が、ここからさらに面倒くさく甘くこじれていく予定です。
よろしければ、カルトナージュの感想や、「誰が見ていたと思うか」の予想なんかも書いてもらえると励みになります。
次回も、ゆるくお付き合いいただけたらうれしいです。




