第15話どこまで逃げ切れるだろう
天才王子たちが仕掛けた「音楽室の罠」を、まさかの『言い間違い(噛みドジ)』からの羞恥心パワー(跳躍力)で強行突破したリリィーナ。恥ずかしさのあまり通常の3倍のスピードで爆走中ですが、肉食獣な王子たちの本格的な大捜索が始まってしまい――!?第15話、全力の追いかけっこ編です!
「掴まて見なさい!!」……思い出す
だけでも、顔から火を噴いてそのまま
消滅してしまいたい。私は恥ずかしさのあまり、いつもよりさらにスピードを出して廊下を爆走していた。ドレスの裾をこれでもかとたくし上げ、実家の山で
怒り狂ったイノシシに追われた時以上のトップスピードを叩き出している。風の抵抗なんて、今の私の羞恥心の前には無力だった。一方その頃、
誰もいなくなった音楽室で、4人の王子たちは呆然と立ち尽くしていた。
「あのやろう、逃げ足早すぎるだろ!
しかもあの動きは普通の女子は
しねぇよ……!」
オフィカール王子が、リリィーナが飛び越えていった頭上の空間を見上げ
ながら、信じられないといった様子で
頭を抱えた。
(くそっ……噛んだ癖に、なんであんなに可愛いんだよ! っていうかあの大跳躍は何なんだ!? 意味分かんねぇけど、
目が離せねぇ……!)
「むむ、リリィーナちゃんは僕がきっと捕まえるもん!」そう言うや否や、
ミディティ王子が一番に先を切って音楽室から走り出した。その瞳は、新しいおもちゃを見つけた子供のように、邪悪で愛らしい輝きを放っている。
(他のお兄様たちに捕まる前に、僕が最初に見つけて、二度と歩けないように可愛いアンクレット(足枷)をプレゼントしてあげるんだ〜)
「ふふっ。僕も、君が逃げ出してくれることを願っていたから。それが本当に起きて、願いが叶って良かったよ。
さて……どうやって捕まえようかな?」カルトナージュ王子は、とろけるような甘い微笑みを浮かべながら、ゆっくりと歩き出す。
(籠の中の鳥は、一度逃がして、絶望
させてから捕まえるのが一番美しい。
次こそは私の部屋のベッドに……フフ)「あの高さから飛ぶなんて、さすが野生リリィーナですね! 次はどこへ行くのでしょうか……あぁ、早くその脚力をじっくり解剖(観察)したい……!?」
キミラカーデ王子もまた、メガネの
ブリッジをクイッと押し上げ、嬉々として研究対象を追い始めた。こうして、
4人の恐ろしい捕食者たちが、それぞれの手法で私を探し始めたのだった。◇私は息を切らしながら、
とにかく王子たちに見つからない場所を探して学園内を彷徨っていた。すると、中庭の隅に設置されている巨大な
「うんてい」が目に入る。
「ん? このうんていのところに隠れれば、上に登ったら見つからないかな?
――よし、隠れてみよう!」
ドレスのままだろうが関係ない。私は
軽快な身のこなしで、まるで木登りでもするかのように、うんていの一番上の
細い鉄パイプの隙間へとひょいひょいと登り、身を潜めた。それから数分が
経った頃。「……チッ」足音が聞こえ、オフィカール王子が通ってきた。
まるで、ここに私がいることが分かっているかのように、キロキロと周囲を鋭い目で見回している。
「ん〜……ここにおる気がするだよ。俺の直感がそう言ってる気がする」
オフィカール王子はうんていの近くで足を止め、腕を組んで呟いた。
(あの野生リリィーナはどこでも登れるし、逃げるのも早いが……焦ると言葉を噛むところは面白い)
「(ひぃぃぃ!! 面白がってるのに、
勘が鋭いよぉぉぉ!!!)」
オレ様ツンデレのくせに、本音ではさっきの私の「でしゅか!」を思い出して
楽しんでいるらしい。恥ずかしさが再燃すると同時に、彼の野生並みの勘の鋭さに背筋が凍る。私はオフィカール王子に見つからないよう、緊張で全身から流れる汗が下に落ちてしまわないように、
必死で息を潜めて固まっていた。汗一滴でも下に落ちたら、あの鋭いイケメンには一発でバレる……!
「うーん……居ると思ったが、違うところへ行ったか?」オフィカール王子は頭をガリガリと掻いた。
「野生リリィーナは、誰かの殺気を感じると即座に逃げるところがあるだよなぁ。だから捕まえにくいんだよ」そう言い残し、「ここにはいないか」と呟き
ながら、オフィカール王子は再び歩き出していった。ハツカネズミのように息を止めていた私は、彼の足音が完全に聞こえなくなるのを見届けて、ようやく
「ぷはっ!」と大きく息を吐き出した。「あ、危なかった……! オフィカール
王子、オレ様のくせに野生の私と張り合えるくらい勘が良すぎるよぉ……!」
うんていの上でぐったりと脱力する。だけど、本当の恐怖はここからだった。
ガサッ。「――みーつけた。やっぱり、高いところが大好きだね? お姉さん」
「ひゃうん!?」不意に、うんていの真下からあざとくも冷徹な幼い声が響き、私は心臓が飛び出るかと思った。慌てて下を見下ろすと、そこにはさっき一番に音楽室を飛び出していったはずの、ミディティ王子が立っていた。だけど、私の野生の勘が、頭の中にカンカンと最大級の警報を鳴らし始める。
(な、なんでミディティ王子がここにいるの!? ――違う。これ、ミディティ
王子じゃあない……! 匂い? なのかな。なんか、私の知っているミディティ王子の匂いじゃあない!)山育ちの鼻を
ピクピクと動かし、私はうんていの上からギロリと彼を睨みつけた。
「あなた誰! あなた、ミディティ王子じゃあないでしょ!?」私が鋭く指摘した瞬間、「ミディティ王子」の顔が、
フッと悪戯っぽく歪んだ。次の瞬間、
彼の身体が陽炎のように揺らめいたかと思うと、その姿はみるみるうちに背の高い別のイケメンへと変化していく。
流れるような美しい髪に、とろけるような甘い微笑み。そこにいたのは――
カルトナージュ王子だった。
「ふーん……。さすが野生を自称するだけはあるね? どうやって俺だって
わかったの?」カルトナージュ王子は
首を少し傾げ、嬉しそうに目を細めた。(これは高度な変身魔法で、見分けられるのはこの学園の校長くらいなものだよ? ふふ……面白いなぁ。さあ、俺の
腕に、もっかい降りておいでよ)
(ひぃぃぃ! やっぱりお姫様抱っこに
執着してるーー!! 本音の音量が甘すぎて耳がとろけそうだよ!)
なぜ自分がカルトナージュ王子だと見破れたのか、私自身にもよく分からない。ただ、野生の血が「この男はヤバい
(超過保護束縛)」と告げている。
「此処を降りるの、やだなぁ……」私はうんていの鉄パイプをぎゅっと掴み直した。下に降りたら、今度こそ二度と出られない頑丈な檻に閉じ込められて、一生甘やかされる未来しか見えない。
(だけど、いつまでもここに引きこもっているわけにもいかない。どうする? どうやってこの過保護な網を突破して、次の場所に逃げる……!?)目の前で両腕を広げて待ち構えるカルトナージュ王子を前に、私は必死になって、次の一手を考え込み始めるのだった――。
第15話をお読みいただきありがとうございました!オフィカール王子の鋭い直感をなんとかやり過ごしたものの、まさかの変身魔法を使ったカルトナージュ王子に待ち伏せされていたリリィーナ。「もっかい降りておいでよ」という甘い包囲網を前に、うんていの上で絶体絶命です!次回、第16話ではリリィーナの野生児のプライドをかけた『うんてい脱出劇』が始まります!続きが気になる!と思ってくださったら、ぜひブックマーク登録や評価(☆☆☆☆☆を★★★★★に!)での応援をよろしくお願いいたします!




