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転生ヒロインは攻略しない⋯⋯逆ハーレムは望まないので物語には逆らってみようと思う  作者: おかき


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9話 見えない力

女神様のお祭りを一緒に回ってからのミリアとエアハルトの関係は随分変わった。


エアハルトはミリアへの好意を少しずつ態度で出していった。

護衛騎士からの助言で無理に距離を縮めずに、ゆっくりと愛情を伝えた方が良いと言われていた。

エアハルトは大人で女性にもてる護衛騎士の助言に従って行動してみることにする。


この護衛騎士はミリアの侍女のナタリーからミリアの性格などを聞き、ナタリーと騎士とでお互いに仕える主が上手くいくように相談し合っていたのだ。


こうしてエアハルトとミリアは影の支えもあり、ゆっくりと距離が近づいて行った


ミリアが一番喜んだのは「古本市」であった。

国中の古書が集まりジャンル問わずに沢山の本が売りに出される。

開催される四日間はカルロスの許可をもらい、市が開くと同時に会場に入り日が暮れるまでミリアは本を探し買っていた。


エアハルトもミリアの影響で色んな種類の本を読むので、沢山の本を買ったがミリアに比べるとはるかに少ない。

ミリアが買った本は、伯爵家と商会に置くものと分けて届けられた。


届けられた大量の本に伯爵家も商会も驚いていた。


王都で催し物やお祭りがあると仲良く二人で出かけていく。

商会の者をはじめ、周りの大人達はミリヤとエアハルトを温かく見守っていた。



ミリアは古本市でとても興味を惹かれる本に出会っていた。


古本市で売れ残っていた本で、誰も読めないため見向きもされなかった本にミリアはすごく惹かれてしまったのだ。


商会に急いで帰り、逸る気持ちを押さえつつソファーに座り丁寧に本を膝に乗せる。

表紙には「古代聖域」と書かれていたが、中の文字を見るとやはり見たこともない文字が並んでいた。

暗号のようにも見える、表紙は隣国の文字で書かれている。

文字を指で撫でながら、先人の書き記した文字の意味を知りたいと強く思っていた。



自分の知らない文字がまだこの世界にある事に強く興味を惹かれていた。








商会での仕事に没頭し、エアハルトと一緒に切磋琢磨して勉学に励み……ミリアは14歳になっていた。



ある日、エアハルトが体調不良で暫く会えなくなる日が続いた。


ミリアは心配をするが、エアハルトの事をあまり知らないミリアはただ待つしかなかった。


10日程過ぎた頃、顔色のあまり良くないエアハルトが商会のミリアの部屋に入って来た。

ミリアはエアハルトを直ぐにソファーに座らせ、ナタリーにお水を持って来るように頼んだ。


「体調悪いのに外に出たら駄目じゃない!」

ミリアがエアハルトの体を心配して強めの口調で話しかけた。


「だってずっとミミに会えなくて、ぼくは寂しくて……」


エアハルトがポロリと涙を流したのだ。

それに驚くミリアだが、エアハルトが漏らした言葉を聞き心臓がキュンとし、そしてツキリと痛む。


「泣かないでハルト。私も会えなくて寂しかったの」


ミリアもポロポロ泣き始めた。

ナタリーは慌てて二人を慰める。



二人は長く勉学を共にし、「ミミ」「ハルト」そう呼び合う程に親しくなっていた。


ミリアは前世は大人であったが、エアハルトに抱くこの気持ちが好意である事を自覚していた。

前世、恋愛はしたし恋人もいた。

でも、相手の事を想い胸がツキリと痛む程の恋はしていない。

ミリアの中の幼いミリアが確実にエアハルトへの好意を押してくる。


今世でエアハルトはミリアの初恋の相手となった。


エアハルトをソファーに横にさせ、ミリアは床に座りエアハルトの手を握りしめながら顔色を伺う。


「手が熱い……。熱があるの?」


「この症状が出ると、熱が続いて思うように体が動かないんだ……。頭も痛くて重いしね」


エアハルトがそう教えてくれた……


【ミリア。ハルトの症状は魔力過多だ。魔力をぶっ放したら良くなるよ。

ハルトは常に魔力過多の状態だから、体の中に魔力を溜め込んでるんだ。

それを熱で放出してるけど、効率悪いよ】


レンがミリアの膝に乗りそう言葉にする。

エアハルトはレンの言葉は聞こえない。

レンと意思疎通出来るのはミリアとナタリーだけ。

ミリアだけに症状が知らされた。


「魔力過多?」


「え?」


ミリアのポツリと呟いた言葉にエアハルトの表情が色を無くしていく。


「魔力……過多……?そう言った?」


エアハルトが顔を真っ青にしてミリアに問いかけた。

ミリアはレンをチラリと見ると、エアハルトの目を見て頷いた。


「そっか……」


その一言を呟くとエアハルトは目を閉じ、キュッと唇を噛んだ。


【ミリア外で話そう】


レンがミリアに声をかけ、レンを抱き上げると部屋のベランダに出た。


【魔力過多はこの国では死ぬ病だと思われている。病人扱いだから、寝て過ごすだけなんだよ。でも、魔力を放出すれば良いだけなんだけど……。この国はその知識がないんだ】


ミリアはレンからの説明を聞いて、エアハルトの病は不治の病ではないと知った。


「その病を克服している国はある?」


【東の小国は既に周知されているよ。その近隣諸国にもね。この国は離れているから、まだ情報が伝わっていないと思う】


「解ったわ。ありがとう、レン」


ミリアはレンをキュッと抱きしめ、エアハルトの寝ているソファーの側で膝を突いた。


「ハルト。魔力過多は治癒できるわ。東の小国では魔力過多を克服しているもの」


「ほんとに?」


エアハルトがミリアをじっと見つめ問いかけた。


「魔力が溜まると体の中に熱がこもるの。ゆっくり熱で放出しているけど、それでは体がもたない。

魔力をぶっ放して、体内の魔力溜まりを外に出すと治るわ。でも、魔力を無理矢理放出するから、体への負担は大きいと思う」


重たい体をエアハルトは無理矢理起こすとミリアに抱きついた。


「ミミを信じるよ。ミミは博識だし、僕に嘘はつかないから」


「辛いかもしれないけれど、頑張ってね」


エアハルトの背を擦り励ましていると、エアハルトの護衛騎士が慌てて迎えに来た。


「心配致しました。ご無理なさってはいけません」


騎士は横たわるエアハルトを抱きかかえ、ミリアに頭を下げた。


「ミリア様。エアハルト様を休ませたいので失礼致します」


「元気になったらまた一緒に勉強しよう!治癒も頑張るよ!」


顔色はまだ悪いが、笑顔でミリアに手を振り帰って行った。


「元気になったらまた会えるわよね」


エアハルトが帰った先に視線をむけ、安堵の声でレンへと伝えた。



この日を境に、エアハルトとミリアが顔を合わせる事はなかった……。




エアハルトと会えない生活を過ごしていると、アドルフがミリアの部屋にやってきた。


「久し振りだね、ミリアちゃん。元気にしてるかい?」


アドルフは初めて会った時からミリアへ向ける態度が甘い。


頭を優しく撫で、14歳になった今でもヒョイと抱きかかえる。

ミリアはアドルフの首に落ちないように手を伸ばす。


「お久しぶりです。アドルフ様。翻訳はまだ終わっていませんよ?」


「今日は別の用事があってね。ミリアの負担になるかもしれないが、お願いしたくてね」


アドルフはミリアを抱きかかえたまま、ソファーへと歩き出す。

アドルフがソファーに腰をおろすが、ミリアは膝の上に座らせる。


ミリアと側に控えるナタリーはいつもの事なので、黙ってアドルフの好きにさせていた。

拒否をすると、アドルフの落ち込み方が酷いからだ。


ガタガタッ。


扉には三人の男の子が体制を崩し、扉にしがみついていた。

ミリアと同じくらいの男の子はミリアの顔を正面から見た事で頬を赤らめるが、ハッとなり姿勢を正した。


「ミリアはこれから教会に行くのだろう?この三人に授業を見学させたい。口を開く事はないから、安心してくれ。ただミリアには邪魔かもしれないけどね」


(ハルトと同じ事かしら?でもあの時とは少し違うかな。アドルフ様はあの子達に優しくない気がするもの……)


「わかりました。私はいつも通りにしていれば良いのですね?」


「そうだね。すまないが頼んだよ」


名残惜しそうにミリアの頭を撫でると、ミリアを仕事机へと抱き運び椅子におろした。


「数日この子達はここに来るだろう。挨拶もいらないから、置物とでも思ってくれればいいよ」


その言葉を残してアドルフはミリアから離れた。

扉で立ち尽くす三人の男の子の側を通り過ぎる時にアドルフは視線も向けず声も掛けなかった。


居心地悪そうに立ち尽くす三人を、どうしたものかと考え無意識にナタリーに助けを求め視線を向けていた。


「とりあえずソファーにお座りください。もう直ぐミリア様も翻訳のお仕事が終わります」


ナタリーが座るように促し、紅茶を出した。


三人は顔を見合わせてから紅茶に口をつけた。

お茶を口にしたことで緊張がほぐれたのかほっと息を吐いた。


ミリアはそれを確認すると、翻訳の仕事に戻った。


部屋の中にはカリカリとミリアの羽ペンの音しか聞こえない。

三人は気配を消しミリアの仕事が終わるのをじっと待っている。


コンコン


ナタリーが返事をして扉を開けるとカルロスが大きな籠を両脇に抱え入ってきた。


「おや?そうかそうか」


三人を目にすると、カルロスがそう呟いた。

ナタリーは聞こえないふりをしてカルロスのお茶も用意する。


カルロスは籠をテーブルに置くとソファーに座った。


「昼食を沢山用意しろと言われていたが、こういう事だったのだな」


カルロスと三人はお互い何やら話は通じているらしいが、ミリアやナタリーは意味が理解できない。


ナタリーはミリアに不都合がないならば、カルロスやアドルフのする事を受け入れている。

ミリアは何がどうなろうが、他ごとに関心がなかったからだった。


「ミリアの授業風景の見学会?」


カルロスが声を掛けると三人は頷いた。


「高位貴族だろうと何者であろうと、貴方がたがやった事を私は消して許さない。自身の家の名を利用して、商会の品を金を払わず婚約者でもない女に与えるような愚か者など屑としか思えん。そして従業員に怪我を負わせた事もな」


どすの効いた低い声のカルロスは本気で怒っていることがわかる。


(ようするに、貴族の我儘子息がアドルフ様とカルロス様の逆鱗に触れる行為をされたと。ですが、なぜお嬢様に近づけるのでしょか。理解できませんわね)


ナタリーは三人を警戒対象に認定した。


カルロスのどすの効いた声にすら反応せず、黙々と仕事をするミリア。


「お前たちは16歳か?ミリアの二歳上か……」


そう言うとカルロスは三人をじっと観察する。


「足元にも及ばん」


カルロスが言い放つとサッと席を立った。

ミリアの羽ペンに触れ、仕事の手を止める。


「ミリア。ここまでだ。お昼を食べたら教会だ」


カルロスが羽ペンを取り上げて箱にしまった。

ミリアは苦笑いをし、仕事の片づけを始めた。


カルロスはソファーに座り、籠からサンドイッチを取り出し皿に並べる。

ミリアがカルロスの側に来ると三人に視線を向けた。


「ミリアです」


軽い挨拶と微笑みで挨拶をする。

少し笑っただけでも可愛さが落ちないミリアの笑みに、三人はポーっと魅入られていた。


ミリアは動かない三人にコテンと首をかしげるが、アドルフに会話をするなと言われていたことを思い出して呆けたままの三人を放置し、カルロスの隣に座った。


「カルロスさん。いつもありがとうございます」


「いや、頑張るミリアへのちょっとしたご褒美だ。気にするな」


カルロスがミリアの頭を撫でると、心地良さにふにゃりとミリアが笑った。

三人はガタガタとソファーから落ちたり立ち上がり鼻を抑えたり、急に騒がしくなった。


カルロスは放置してミリアへサンドイッチを取り分ける。


ナタリーが側に来ると、ミリアの膝にレンを乗せる。


「退屈だったかな?」


ニャーンと返事するレンを愛おしそうに撫でるミリアを見て三人はまたドタバタ騒ぎ出す。


うるさい三人を放置してミリアは教会へと馬車で向かう。

エアハルトがいない今は馬車移動がまた始まった。


ミリアははいつも馬車からエアハルトと訪れたお店や場所に視線を向ける。

ナタリーはミリアの無意識の行動に気が付いている。


寂しいと、会いたいと……決して口にしないミリアに、ナタリーの心はギュッと握り潰されてしまう。


教会につくと三人の乗る馬車を待つことなく中へと入っていく。


三人が追いつくころには教師に隣国の正式な儀礼をとったま動かないミリアが視界に入った。

綺麗な所作で、完璧に礼をとる令嬢を見たことがなかった。


どれほどの努力をしてきたかは高位貴族であれば理解できる。


「おはようございます。今日も美しい礼でした。問題ありません」


部屋の中にいる女性を見て、三人は絶句する。


教師がアドルフの奥方のサシャなのだから。


「三人は静かに控えるように」


そこから始まった授業に三人はついていけずにいた。

隣国のカルス帝国の国内貴族の勢力図は末端貴族にまで及ぶ知識を詰め込まれていた。


ありえないのだ。教会で学ぶだけの少女が大臣クラスの知識を習得していることが。

ありえない……。三人の顔色がどんどん悪くなっていく。


「どうだい?年下の少女が貴方達では敵わない知識を習得している事実を見て。

貴方達は何を思いますか?昼間は他国の書籍や歴史書に外交文書の翻訳の修正をして国に多大な貢献をする少女。

かたや女の尻を追い掛け回す貴方達。学ぶ環境は遥かに貴方達の方が良いはずなのに。この知識の差を貴方達は理解できていますか?」


監視で付き添うカルロスからの特大な嫌味。


「8年です。毎日のように勉学に励み続けるミリアを私はずっと見てきました。ミリアは今は何者でもありません。ですが何者かになる可能性があります。侯爵家以上はミリアの存在を知っていますし、欲しています。貴方がたが変わらなければ切り捨てられる事も頭に入れておくことです。王太子殿下であろうとです」


三人は思うところがあるのか、死にそうな顔色でガタガタ震えている。


カルロスの背後に控えていたナタリーもガタガタと震えていた。


口に手を当て声が漏れないように必死に息を殺していた。


(カルロス様は今王太子殿下と……そうおっしゃった。この三人は王太子殿下と側近という事?)


口に手をあてたまま、ナタリーはミリヤに視線を向ける。

サシャから学ぶことを必死に吸収しようと懸命に励んでいる。



(アドルフ様の正体も私にはわからない。見えない強い力にミリア様は囲われてしまったのでしょか……。

今となってはカルロス様の事もわからなくなってきましたし。それに王太子殿下が現れた事はミリア様に伝えなければなりません。物語とやらを避けるために努力されているミリア様を何が何でもお守りしなければ……)


真っ直ぐミリアへ視線を向けるカルロスに対してナタリーはカルロスの考えもわからない。


(この場にミリア様が会いたくなかった王太子殿下がいらっしゃる。

連れてこられたのはアドルフ様……)


ナタリーの思考は混乱していた。恐怖に震える体を必死にさするしかなかった。




短編小説 『私を無視する貴方 捨てる準備を始めました』

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