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勇者になるのを断ったら世界樹に転生した  作者: 央美音


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ゆったりしてみる

「ふぁあああああー」


 ここには僕以外誰もいなくなったから、魔力の膜で作ったお風呂にお湯を足して半身浴ならぬ上半身浴を楽しんでいる。地面ぴったりに底を作ったので上半身があったかい。人がいたらこんな事出来ないよね。

 上半身だけでも自分だけがお風呂に入るって結構恥ずかしいし、サク達をお風呂に誘うのも違うよね。さっさと長を回収して欲しかったし。

 僕、露天風呂って入ったことあるけど周りが囲まれてるタイプだったから、山の景色を一望とかオーシャンビューが出来るとかいう温泉って経験無いんだよね。今、僕の周りは自然豊かな景色でいっぱい。

 お湯の温度は五十六度にしている。これくらいの熱さじゃないと今の僕にはちょうどいい温度にならなかった。世界樹になったので感度とか鈍くなりすぎてるみたいだ。

 アルから貰った石鹸は使えなかった。だってタオルで擦っても泡立ちが悪いし、何か変な臭いがしてちょっと好きじゃなかった。石鹸とタオルは洗浄と乾燥をして膜で包んで僕が作った棚に入れた。

 そして、仕方がないから洗浄の魔法で僕の体を綺麗にしてお風呂に入る事にした。

 桶を使ってお湯を頭からかぶる。やろうと思えば膜を使ってシャワーっぽいのが出来そうだけど、桶から一気にお湯をかぶる方が気持ちがいい。

 欲を言えば固形石鹸じゃなくて、僕の世界にあったボディソープとかシャンプーが欲しいな。

 今度来るヤルガヌさんに異世界の良い石鹸を買えないか聞いてみようかな。

 僕、無一文だけど世界樹の力でどうにか出来ないかな?

 僕が着ていたサクのマントは、魔法で綺麗にして膜で作った棚の上に置いている。サク達から貰った物は、石鹸とタオル含めて全部その棚の中に入れている。

 引き出し式の三段棚で、僕の意思で自由に動いて僕の高さに丁度いい様に作った。透明な膜で出来た引き出しなのに閉じた状態だと中身が見えなくなるのはちょっと面白い。

 茶器とか食べ物は一番上で石鹸とか雑貨なんかは二番目、服は三番目に入れてある。 

 個別に臭いが移らないように膜で包んであるから臭いうつりとかの心配はない。

 ただの荷物入れにしているだけなので、アルのリュックみたいなたくさん入る魔法はかかっていないし、入れた時と出した時の状態が変わらないとかにはならない。

 今度大容量で入れた物が劣化しない箱でも作ってみようかな。

 ゲームのインベントリっぽい仕様にすると面白いかもしれない。

 

「あー、もうこのまま何もしたくないなー」


 出来ない事を言ってみる。

 世界樹としてやる事はやっとかないといけない。

 間引きもだけど、世界の安定は世界樹が何もしなかったらすぐに破綻する。

 面倒くさい世界だよね、ここ。

 世界樹ありきの世界の割には世界樹って孤独すぎる。僕がいる所に生き物の気配が全くない。虫や鳥の気配もない。

 サク達が住んでいる村は馬を使って半日くらいの場所にある。そこが世界樹に一番近い、人間が定住している場所だそうだ。

 馬での移動なんて僕は知らないので、ここと村の距離が全く分からないけど、まあ結構離れているんだとは思う。

 長、朝から馬を走らせて昼くらいでここまで全速力で来たのって、魔法を使ったとしても結構すごい人なのかな。

 何でそんなに距離を開けた場所に、世界樹を管理する一族の住む村があるのかというと、サク達からここって【不毛の大地】って呼ばれていて、一族だろうと住めない場所なのだそう。

 僕視点だと木が生い茂ってるし、僕がいる場所にも草が生えてるのに何言ってんだろうと思ってたけど、【不毛の大地】と呼ばれる理由は生き物が全く生活出来ないからだそうだ。

 まず水がない。絶対に雨が降らない場所で、水源と呼ばれるものが見つからない。生き物にとって水は大事だ。魔法で出す水だけでは到底生活出来ない。

 そして、【不毛の大地】にある僕の周りの木達は大森林と呼ばれていて、生き物を寄せ付けない。

 この大森林、僕が考えているよりすごく広くて一族以外は世界樹に近づけない様にする一種の結界でもあるらしい。この大森林の中に、僕の次の世界樹候補がいる。

 ここに一族以外の人間がある距離まで侵入すると方向感覚が狂ってしまい、力尽きて大森林の養分になっているらしい。怖いね。

 これ、動物や虫にも適応しているので渡り鳥も避けて通る地帯になっている。やばいね。

 一族が世界樹に向かう時は歩いて五分もしないで着くとサクから聞いた。一族、優遇されすぎでは?

 昔、一族の先祖が何をすればこんな事になったんだろう。

 大森林の周りも物騒だ。ただの平地が続いているだけの土地。

 住もうと思えば住めそうだけど、家を建てる事は出来なかった。水の確保がどうやっても出来なかったから。

 地面を掘っても水が出てこなきゃ住めないよね。

 記録の神様からこの一帯で生活した生き物はいないって教えてもらった事で、ここはいつの頃からか【不毛の大地】と呼ばれる様になったらしい。

 それでも世界樹がいる土地を自分の領土にしようとした国はたくさんあった。だけど、どの国も達成することはなかった。

 サク達が住む村の国は、我関せずな時があればやっぱり世界樹が欲しいなってなる時もあるらしい。

 【不毛の大地】に隣接してる国はどこも似た様な感じらしいけど、正直人間が世界樹を好き勝手出来るかと言われると無理だと思う。

 サク達の一族が許されているのは、あくまで世界樹の管理をしているだけだから。代替わりの時に世界樹の次代になる木を切り倒させる人間は必要だ。

 一族がこの【不毛の大地】で優遇されているのは、一々人間を選んで代替わりの役目を一から教えるのが面倒だからだろうな。

 誰がサク達一族を選んだのかは知らない。

 記録の神様なら知っているのかも知れないけど、サク達に頼んで記録の神様の神殿に行って貰う程ではないよね。

 

「んー、そろそろ上がるか」


 僕の体が温かくなったのでまずは温くなったお湯を捨てる。とは言っても、お風呂にしていた膜ごと横にずらしてお湯を包んで膜を消すだけ。

 中身の入った膜を消すと、中身ごと消えるのでお湯を捨てる手間が省けて便利。

中身が入った膜を消すと、中身も消えると知ったのは偶然だった。

 サク達と話をしている時、膜の可能性を調べていたら発見したのだ。僕が膜に触れている時に消したいと思うとそのまま消えてしまう。

 消したのがどうなるのかは深く考えない。うん。

 なので棚にしている膜をうっかり消さない様に気をつけないといけない。

 水気を魔法で飛ばした後、棚から肌着と服を取り出して着てみる。肌触りが僕のいた世界のものより少し悪いけど、裸マントより数百倍マシだ。

 上半身だけだけど、まともな人間になれた気がする。僕、人間じゃなくて世界樹だけど形が人間なのでそっち寄りの感覚が忘れられない。


「うん、さっぱりした! けど、やっぱり泡立ちと匂いの良いやつ欲しいな」

 

 何だろうね、この感覚。元の世界でお風呂入ってた時なんか適当に洗ってただけの僕が泡立ちといい匂いを求めている。


「お茶飲もー」


 棚から茶器とお茶の葉、あとお菓子を取り出す。 お茶の葉をポットについてる茶こしに入れて魔法でお湯を入れる。

 このお茶の葉はシーナ茶だ。飲みやすくて僕は好きだ。

 冷たい水から熱いお湯まで、魔法で出す水の温度調節は簡単に出来た。

 これ、練習すれば好きな大きさの氷が作れないかな。

 お茶が美味しくなる時間までしばし待つ。時計なんてないから、アルから聞いた数字まで口には出さずに数える。

 コップにお茶を注ぐと良い感じの色と匂いがしている。よし、良い感じのお茶が出来た。

 そしてお茶を魔法で冷ます。冷たいお茶が飲みたい時でもお湯を使ってお茶を作らないといけないのは少し面倒。

 さて、いただきます。


「あー、おいし!」


 さっぱりしたお茶を冷たくして飲むと更にさっぱりして美味しい。初めて食べる硬めのお菓子は香ばしい感じが好き。甘くも塩っぱくもないこの感じがいい。

 荷物にはミイ餅が入っていたから朝ごはんにでもしようかな。

 味覚が鈍くなってなくてほんとに良かった!


「あー、暇だ。スマホが、いや、あっても使えないよね。てか、壊されてそう。今度、アルに学校で使っている教科書とか持ってきて貰うかな。僕、こっちの世界の人間社会なんて全く分からないもんな」


 異世界警察のヤルガヌさんから言葉と文字が翻訳されてるって保証されていたからこの世界の文字も読めるはず。

 僕が分かるのは、世界樹の引き継ぎ記録から学べる事だけなので、人間に全く興味のない世界樹から人間を知るのは難しい。

 世界樹にとって人間は澱みをよく出して、ヌシを殺す生き物くらいの認識。

 引き継ぎ情報では、人間は他の生き物に比べたら間引きする数が少ない方らしい。マジ。

 僕としては、最初に間引きするのが人間だと決まっているのでちょっと信じられない。

 今の所、間引くほど澱みを生んでいる場所はアホの国だけで、他にある澱みは間引くほどじゃ無いんだよね。

 この世界に、どれだけの人間が住んでいるのかを世界樹の僕には分からない。国がどれだけあるのかも知らない。 

 間引くほどでは無いけど、世界中に澱みがある。世界樹が生まれてから澱みが無くなった事など、引き継ぎ情報では一度も無いっぽい。

 やっぱり一度、澱みの発生源である全ての生き物を消し去った方がいいのでは?

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