憎くても生きてく
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僕の考えはあまり理解してもらえないみたいだ。
三人の反応がなんかよろしくない。
「大体、この魔法が発動するかは、次の代替わりの日まで分からないんだよ。欲深いやつの話も僕の妄想だし、ただの対策だよ? もしもがあっても、その時は僕含めてここにいる皆んな死んでるのに何が不満なの?」
「それだ」
「サク? どしたの?」
いままで黙ってたのに、いきなりどうしたんだろ?
「なぜお前がここまでやる必要があるんだ? 死んだ後の世界の事なんてお前には関係ないだろう? なぜお前はここまでするんだ? なぜ俺達に魔法をかける必要があったんだ? お前が世界樹に転生してまだたった二日だぞ? たった二日でここまでやるのか? そこまで、この世界が……憎いのか?」
うーん、サクが次の長なの納得。この中で一番世界樹の気持ちが分かってる感じがする。これも次の長に選ぶ要素になるのかな。
「この世界が憎いかって言われたら憎いとしか言えないよ。理不尽に殺されて、世界樹に転生したけど人間の姿で地面に埋まってて、ろくに身動きできない。そして、次のが決まるまで死ぬこともできずに、ずっと生きることを強要されてるんだよ。その間、この世界のために働かないといけないし、しかも年中無休のタダ働き! 転生できてよかったなんて感謝すると思うわけ? この世界を憎むなとでも言いたいの?」
僕の言葉にサクは顔を歪めてる。
「いや、すまない。軽率だったが、この世界を憎みながらこの世界を守る立場になったお前の考えが知りたかったんだ」
「知りたいからって理由で聞くのはどうかと思うけど、まあいいや。僕は僕のやり方で世界を安定させる為に動くだけだから、僕の邪魔なんてできないサク達は好きにしてるといいよ」
ちょっと投げやりになったな。
とりあえずサク達の反応は無視して、僕が転生してたった二日で魔法を作った理由を改めて言っておこう。
「この世界の人間にかけた魔法が必要かって言われると、そうだよとしか言えない。世界樹としての僕が対策を考えるのは当然だし。僕が何もしなかったせいで、次の世界樹がまた人間になるかもと考えただけでなんか気分悪くなったし。魔法は、思いついたばかりだから穴だらけだけど、時間はたっぷりあるから少しずつ改良する予定」
僕の話をサク達は静かに聞いてくれてる。
「最初は、夢だけで代替わりの日は外に出れなくなればいいって思ってた。けどさ、痛みを感じないと人って残酷な事をたくさんできちゃうよね。僕がこうして世界樹をしているって知ったら、誰かは僕を利用しようって考えるだろうし」
実際には不可能だと思うよ。僕をどうこうする前に、そもそも僕の前に立てないと思う。
サク達を人質にってのも難しいだろうね。サク達の一族も、長年世界樹をみてただけじゃないだろうし。じゃないとこれまでの世界樹が覚えてないよね。
「セン殿のことは一族以外にはまだ知られていない。これからも黙っていれば」
「やだな、記録の神様がいるじゃん。僕の存在なんてすぐ調べたら分かるでしょ。すぐじゃなくても、全ての人間が同じ日に同じような夢を見た現象を調べようとする人間は出てくる」
「確かに、村でも騒ぎになっていたのですから、他の場所でも騒ぎになっているのは確実ですね。長のように、世界樹が原因だとすぐに気づく人はいないでしょうが、それを調べるために記録の神に願う人はいるでしょう」
「あ、記録ってどうやって見せてもらえるの? 僕でも見れる?」
「記録の神が祀られている神殿で、神官に調べたい内容を書いた紙を渡すんです。神官が祈ることでその情報が閲覧可能になります」
「なら動けない僕はダメってことか。残念」
祈るだけで閲覧可能になるってどんな見せ方なんだろ。
「この会話も記録されてるのかな?」
「この世界の全てを記録していると言われている神ですから、されているかもしれませんね。閲覧できるかはまた別の話ですが」
「なんでも見せてもらえるわけじゃないんだ?」
「記録の神のご厚意ですので」
記録したものをどれだけ見せるかは、記録の神様の気分次第ってことね。
「僕としては最悪のケースを想定して動きたいの。想像の斜め上をいく人間が出てくるならそれの更に上を目指したい。この魔法は、今後生まれてくる人間にも自動的にかかるようになってる。僕が代替わりをして死んだ後でも、それは変わらない。あ、外に出ると痛む魔法は生まれた時から有効にしてるけど、夢を見るのは十六才になった時にしてるよ」
子供にあの夢を見せるのは早いかなって思った。
だから、今回も成人してる十六才以上が夢を見たはず、サク達から子供が怯えていたという非難がなかったし大丈夫だよね。
「新生児に魔法が有効なのは、流石にやりすぎではないか?」
サクが悲しそうにしてる。
「夢と同じ年齢に設定するとそれ以下の子供にヌシ狩りをさせる奴が出てきそうだなって。だからいっそ、生まれたてからの方が良いかなって」
「いそうですね。数百年に一度ある代替わりの日の為だけに、それ専用の子供の育成施設を設立とかありえますね」
軽い口調でアルがやけくそ気味に言った。
だよねだよね。アルは冗談で言ったかもだけど、その発想が出る時点でもう警戒ものだよ。
「ほら、やっぱり代替わりの日がある世代だけだと他人事になる人間もいるじゃん? きちんと大人しくしていれば何も起きないって伝えていってほしい気持ちがあるんだよ」
自分達のご先祖が、やらかした諸々にすぐには気づけなくても、世界樹の前世の死にざまを知っておいて損はない。
いっそ、世界樹こそが悪だと考える人間も出てくるかもしれない。そうなったらきっと面白いことになる。
それが見れないのは残念だな。
「しかし、このような夢を見た人間から澱みが発生しないのだろうか? 負の感情というものは簡単に澱みを生みだす」
レンの疑問はちょっと分かる。確かに夢の内容が内容だから、負の感情で生まれる澱みは少量だけど出ちゃうんだよね。でも大丈夫!
「澱みが出ても自己浄化できる程度だよ。所詮は夢。もし澱みが生まれても、場に留まるほどの量ではないよ。これくらいの事で澱みが大量発生してるなら、もうこの世界は終わってると思う」
今回の夢での騒動で澱みが活発になった所は無い。気分が落ち着かなくても生活してれば消え去る程度だ。
「もう俺達には、何も出来ないことは分かった。だから、この話はこれくらいにしておこう」
「そうだね、終わり終わり。僕は夢と痛みの魔法を改良する気はあっても、解除する気は全くないからね。むしろ僕でも解けないようにしてる」
「かけた術者が解けない魔法ですか? それは、いえ、むしろその方が良いのかもしれませんね」
アルが何か気づいたようだけど、何も言うつもりは無いみたい。そうそう、人間が何をしようがどうしようもない事もあるよね。
「とりあえずは長を持ってさっさと村に帰ってほしいな。あ、いや待って。その前にこの世界の悪魔って言葉はどんな意味?」
僕の帰れコールから翻訳されたと思う悪魔についての質問に、サク達は目を丸くしてる。
「悪魔? 長がお前をそう呼んだのか?」
サクの真剣な顔に、僕はこの世界には悪魔に似た何かが存在しているのだと思ったが違った。
「この世界に、そのようなものは存在しません。悪魔とは異世界人から伝わった存在ですね。概念と言った方が正しいのかもしれません」
「異世界人にも悪人はいる。そういった者を悪魔と罵り蔑んでいる。要は異世界人に対して悪感情を持つ者が使う蔑称だ。決して、セン殿に向かって使うものではない」
サク達は気まずそうに、今もパッキングされてる長を見ている。息子でもあるレンは苦々しい顔になってる。
「なるほど。僕が代替わりを台無しにした、憎むべき異世界人だから長は悪魔呼ばわりしただけか。別に、好きでこうなったわけじゃないって言ったんだけどな」
神様がいる世界だから、悪魔みたいなのがいるのかと思ったら、ただの異世界の情報が伝わっていただけなのか。
なんだかなーと僕も長の方に視線を向けるが、斧が振り下ろされなくなった長は、ずっと膜を剥がそうと無駄に足掻いている。体が細かく震えているのが見えてる。
長は、ここにいる誰よりも年上なのにとても元気いっぱいだ。膜には防音をしてたからこちらの話は聞こえてない。サク達がきちんと今日話した内容を伝えるはずだけど、長は理解しなさそー。
「悪魔呼ばわりされた理由も分かってすっきりしたから持って帰っていいよ」
「あ、その前に少しいいですか?」
アルから待ったがかかった。何だろう?
「これを、センさんに渡そうと用意した物です」
アルが敷布を広げると、リュックから上着や食べ物とかを取り出し始めた。
「あ、服だ! 食べ物もある!」
「新品を用立てる時間がなかったので、息子のお古になってしまうのですが、洗濯はしています。あと、センさんには少し大きいですが肌着は新品です。こちらの食べ物は今日中に食べるものと、気にしていた保存食を持ってきています。サクからはお茶の葉と茶器です。レンからは石鹸とタオルと桶ですね」
「おー! ありがとう!」
めちゃくちゃ嬉しい! お古とか気にならないし、肌着は新品とか気にしてくれてるのが嬉しい!
お湯を出す魔法は教えてもらってるからお茶も飲めるし、膜を使ってなんちゃって風呂ができるかも!
「皆んな、ありがとう!」
「いや、もう少し用意するはずだったのだが、これだけですまない。長の、無礼の詫びの品は必ず持参するので待っていてほしい」
「いいよ、詫びの品なんていらない。それより長から話を聞けるように頑張ってね!」
「ああ、分かった」
サクの硬かった表情が、少し柔らかくなった気がする。
「じゃあ、長を連れてってね」
僕は長に張りつけてた膜を動かして、長をすまき状態にした。地面に刺してた斧はサクの前に置いとこ。
サク達には膜が見えないけど、長がころころ転がっているのと斧が勝手に動いたのを見て、僕が何かしているのだと気づいたらしい。
ぎゅっと膜に包まれ押さえつけられてる長をレンが肩に担いだ。年配の割に体格のいい長をそのまま軽々と動くレンは凄い。
人間だった僕では、レンくらいの年齢になってもあんな事はできなかったろうな。
「では、俺たちはこれで失礼する。長との話し合いは、少し時間がかかると思うが必ず連れてくる」
「はいはい。できれば村の人達からもどんな夢を見たのかを聞いておいてほしいな。サンプルはあればあるほどうれしいからさ」
「分かった。ではまたな」
サク達が村に帰る後ろ姿を見送りながら、長に魔法を発動させて痛みの体験をさせればよかったなと今更なことを考えた。
もしも、長が出禁を破ろうとしたら痛みの魔法を発動してみようかな。




