【ルイン視点】好きな女性
父上は先ほどまでの怒りに満ちた目とは違い、なにか気が抜けたように俺を見て言った。
「…ルイン、お前はどうするのだ」
「私はやりたいことがありますので、暗部の指揮はザッハに任せます」
「なにをやるのだ」
「好きな女性の元に向かいます」
俺がそう言うと、父上はきょとんとした表情をした。
しばらくするとカイエン兄上が、
「ハハハ! ルイン!! 面白いぞ!!!」
「本気ですよ」
俺は真剣にカイエン兄上を見て言った。
「どこに行くというのだ?」
「彼女が帝国を見てみたいそうなので、私も一緒に」
俺がそう言うと父上は驚いて、
「待て待て待て待て! おいおい、いきなりどういうことだ! 王子が帝国に行くなどできるはずなかろう!」
「では王籍を抜いていただきます」
「おいおいおいおい! ティエラは知っているのか!」
「知りません。しかし母上なら認めてくださるでしょう」
「いや、だがしかし、流石にそれはできん! 能力で言えば本来お前が王太子になるべきなのだ!」
「興味ありません。私は今、彼女しか興味ありませんので」
「ちょっと待て! ルインそれ…」
という父上の言葉をさえぎってカイエン兄上が、
「ハハハ! いいではないですか父上! あのルインがそこまでして女を追いかけるというのであれば行かせてやれば!」
「そ、そんな簡単な…!」
「まぁしかし、直ぐは無理だぞルイン? お前にしかできぬことだけはかたずけてもらうぞ」
俺は今すぐフィオラ嬢の所に行きたいんだよ…。
しかし、もし仮にフィオラ嬢が既に王都をでていて辺境に移動している場合、辺境まではどんなに急いでも5日かかる。
流石に暗部の引継ぎや執務の引継ぎを1日で終えるのは無理だ…。
「…チッ……」
「お前本気ですぐ行くつもりだったのか……」
「当然です。求婚までしていますからね」
俺がそう言うと父上もカイエン兄上も驚愕した。
そして父上は、
「もうわかった。ルインのことはカイエンに任せる…」
と、疲れたように言った。
暫くするとザッハが城の文官を連れてきたので、カイエン兄上を正式な王太子とする書状を作成した。
書状の条件を詰めて作成したため疲れているみたいだが、どこかすっきりもしている父上を見ながら
「では父上。傀儡の最初の仕事です。明日、ウィルオス伯爵家とジョルト子爵家を潰しますので、その場でその決定を伝えてください」
「お、お前いきなり!」
「カイエン兄上構いませんよね?」
「うむ! 彼らはどこをどう切り取っても悪だからな!」
「それは間違いないですね。そう言うことですから父上」
「………わかった……」
「ではまた明日」
俺はそう言うと父上の部屋を出た。
俺の執務室に戻ると、ディアッハがボロボロの顔で執務をこなしていた。
「でぃ、ディアッハ…一体どうした…」
「どうしたもこうしたもないですよ…レミアが大激怒してるって言ったじゃないですか…。しまいには俺が悪いみたいになっちゃって、本当大変でした…。とりあえずフィレス公爵に押し付けて、俺は今日執務をするという名目で逃げてきました…」
「そ、そうか…すまなかったな……」
「本当勘弁してほしいですよ…」
「ディアッハ、そんなところ申し訳ないのだが、カイエン兄上が王太子になることになった」
「はい?! 毒は??」
「解毒した。公には王太子になるということと同時に、毒など盛られておらず健勝であると明日発表される」
「はぁ?! 一体どういう展開ですか???」
「そういうわけで、お前はカイエン兄上のお目付け役になる。ゆくゆくは宰相になるかもな。よかったな」
「ええええええええええええええ?!?!」
「俺はいずれフィオラ嬢のところにいく」
「はぁぁぁ?!?!?!」
「そういうことなんでよろしく頼む」
ディアッハは唖然としている。
詳細はいずれザッハ辺りが説明するだろう…。
俺は執務室で手に入れておいた化粧肌専用水の瓶を持って母上の元へ向かった。
「母上。夜分にすいません」
すると中から返事がしたので、侍女が扉を開けた。
「母上。化粧肌専用水をお持ちしました」
「あら、ありがとう。もう少しでなくなるのよね」
俺はそう言うと瓶をテーブルの上に置いてソファーに座った。
母上は薄手のナイトドレスにガウンを羽織って俺の向かい側に座った。
「どうしたのルインちゃん?」
そう少女のように聞く母上。
「人払いをお願いします」
すると母上は、きょとんとしながら、侍女に人払いを伝えた。
「どうしたのー? なんだか真剣だけれども」
「母上。俺、好きな女性が出来ました」
「あら!!! どこの子?」
「詳細は明日お話ししますが、明日取り崩しになるジョルト子爵家に引き取られた、次女です」
「あぁ! ルインちゃんが開いた夜会で話題になってた子ね! って、え???? 明日取り崩しになるの?」
「はい。ついでにカイエン兄上が王太子となります」
「ええ?!?! カイエン君なんだか毒を盛られたって聞いたけど?」
「解毒しました。そして先ほど父上を脅して、カイエン兄上を王太子にするように正式な書類を準備しました」
「あらあら、ルインちゃんはどうするの?」
「その女性が帝国を見てみたいと言っているので、私も共に…少し先にはなりますが…」
「あらあら!! いいわねいいわね!」
母上は両手を合わせてニコニコして喜んでいる。
「カイエン兄上にも許可を頂いております。母上にも許可を頂きたく」
俺がそう言うと、
「もちろんいいわよ!」
「ありがとうございます」
「あ、でも一つ条件があるわ!」
と、ポンッと手を叩いて言った。
「条件?」
「そう! 私も行くわ!」
「はぁ?!」
「そうと決まったら早速旅の準備をしなきゃ!」
そう言って立ち上がる母上。
「ま、待ってください! 一体どういう!!」
「ええ?」
「側妃である母上が一体どうやって!」
「んー? ルインちゃん任せたわ! ちょっと誰か来てー!」
「は、母上!」
「えー、そういう難しいことはルインちゃんの方が得意でしょ?! 適材適所よ♪」
「そういうことでは…!」
母上は楽しそうに入ってきた侍女に旅の準備をすることを伝えている。
ダメだ。
こうなってはもう止まらない…。
俺が何とか調整するしかないのか……。できるかわからないが…。
「…わかりました……。追ってご連絡します……」
「よろしくねルインちゃん!」
俺は母上の勢いに押されどっと疲れて部屋を出た。
そして翌朝、カイエン兄上は健勝であり毒など盛られていない、そして正式な王太子になると発表された。




