【ルイン視点】傀儡か処分
暫く何事もなかったかのように執務をしていると、音もなくザッハが部屋に入ってきて、カイエン兄上が目覚めたことを伝えた。
俺はこの後の指示を伝え、席を立ちあがり、父上の私室に向かう。
王城の最上階に位置する、父上の私室。
「父上に話がある。通してくれ」
俺は警備の近衛騎士団員に話す。
「はっ。それが誰もいれるなと申し使っております」
俺を見ながらそう話す近衛騎士団員。
「そんなことを言っている場合ではない。どかぬというのなら押し通るぞ」
「そ、それは困ります!」
「ではどけ!」
「できません!」
俺はドアの前に近寄ろうとするが近衛騎士団員二人が立ちはだかる。
しょうがない。
俺は一気に踏み込み、近衛騎士団員の一人の鳩尾を蹴り上げた。
そして気付いたもう一人が止めに来ようとするが、すかさず後ろに回り首を絞め落とす。
暗部の力も役に立つものだな…。
俺はそう思いながら、大きな両扉のドアを開けた。
部屋の中は真っ暗で、真ん中のテーブルにろうそくが一本ともっているのみ。
「父上」
俺はそのテーブルの前のソファーに座って、外を見ながらワインを持っている父上に話しかけた。
「ルインか。なんだ。わしも殺しに来たか」
ガルタ・リオルダート。
第18代リオルダート国王。
金髪に碧眼で、非常に容姿に優れている。
王としては、愚王ではないが賢王でもない。
産まれる時代が時代であれば賢王と呼ばれていたかもしれないが、現状の状態の王国では現状維持は緩やかな衰退であり、愚王と言っても過言ではなくなってしまう。
「わしもということはどういう事でしょうか」
「カイエンをやったのであろう? ついに王太子になる気になったか?」
父上はこちらをみずにゆっくりと話す。
「一体何のことでしょうか。王ともあろう人が、証拠もない噂などに翻弄されないで頂きたい」
「ふん、お前がやったのであれば証拠など残すはずもなかろう」
父上はゆっくりこっちを見た。
どうもずっと飲んでいるようで、目は少しうつろだ。
無理もないか。
父上は、人間味のあるカイエン兄上やセルジュ兄上を殊の外可愛がっていた。
俺のことは別に何かされたわけではないが、母上に気味が悪いと言っていたらしい。
まぁそんなことは今となっては最早どうでもいい。
「私がやるのであれば噂すら立てさせませんよ」
俺がそう言うと父上はグラスをテーブルに置いた。
「どうだかな。それで何用だ? 本当に殺しに来たのか?」
「まさか」
「では、一体なんだ」
父上は目を細めながら言った。
俺はじっと父上を見据え、
「王太子を決めて頂きたい」
「ほう。お前は王には興味がなかったのではないか?」
父上は少しフッと笑った感じで言う。
「ないですよ」
「では一体どういうことだ」
すると、ドアがゆっくりと開き、ザッハに肩を持たれたカイエン兄上が入ってきた。
「か、カイエン!? 毒は?」
「ははは! 父上! 私は毒など盛られておりませんぞ!」
と、起きたばかりだというのに、いつも通りの張りのある声でカイエン兄上は話した。
「し、しかし! ミゼールの花は何者かに抜かれていたと聞いておるぞ!」
「ははは! なに世迷言を! ミゼールの花が必要になるのはリコリラの毒に侵された場合ではないですか! 先ほどお伝えした通り、私は毒など盛られておりません故必要もありません!」
「な、なにを言っている!」
父上はその場に立ち上がった。
「カイエン兄上を王太子に決めて頂きたく、ここに参りました」
俺が頭を下げてそう言った。
「なっ。しかし一体どうやって!」
「父上。カイエン兄上は毒など盛られておりませんよ? 一体なんのことですか? それとも毒を盛ったことにしたい何か理由でも?」
俺は顔をあげて、父上を睨みつけるように言った。
「な、ルインお前! 口が過ぎるぞ!」
「なんのことでしょう。いいのですか? 私は暗部の指揮官ですよ?」
「どういうことだ…」
「そういえばセルジュ兄上の母君の、デルオラ公爵家もよからぬ噂がありますね」
「お前…」
「そう言えば、セデルラント辺境伯も。あぁ、セデルラント辺境伯は、父上のご友人でしたか」
「…」
「そうだそうだ。北のウィストの街に父親のいない母と娘がいましたね。確か名前はクイナでしたかねぇ」
俺がそう言うと父上は俺の近くに来て胸ぐらを掴んだ。
「ルイン、手をだしたら許さんぞ」
「なんのことですか? それとも何かされては困ることでも?」
「ぐ…」
俺は父上の腕を掴み、掴んでいる胸ぐらを離させた。
「父上。今すぐは無理ですが、王を退いていただきます。カイエン兄上を次王としてこの国は変わらねばなりません」
「しかし」
「父上は凡庸です。世が世であれば賢王とも呼ばれたでしょう。しかし今は腐敗が進み、もう少しで取り返しがつかなくなります」
「…」
「その前にカイエン兄上に変わっていただきます。もちろんカイエン兄上だけでは、なんでもかんでも悪にされてしまう可能性がありますので、補佐をつけます」
「…お前がやると言うのか……」
「いえ。ティエル家のディアッハをつけます。ここ最近彼の仕事ぶりを見ておりましたが、彼はバランス感に長けている。カイエン兄上の不得意なことを一手に引き受けれるでしょう」
「ティエル公爵の次男か…」
するとザッハに肩をもられたカイエン兄上が向かいのソファーに座らされ、
「ハハハ! 流石の私もそこまではせぬぞ!!」
と快活に言った。
「いや、その危険は大いにあると思いますので…」
俺は少し苦笑いしながら言った。
そして改めて父上の方を向き直り、
「それにディアッハがつけば、ひいてはレミア嬢が付くこととなり、フィレス公爵とも繋がることとなります」
「…あの魔法バカか……」
「ですのでカイエン兄上を王太子に据えて頂きます。執務も全てこちらで代行します。カイエン兄上が次王になるまで、王としての肩書を維持だけしてくれれば構いません」
俺がそう言うと父上は、
「お、お前! 父親に向かって傀儡になれと言うのか!!!!」
と、俺を睨んで怒鳴った。
「その通りです。父上が采配していては、この国は緩やかに衰退していくのみ。今やフィレス公爵家の方が民には慕われています。この現状をどのようにされるおつもりですか?」
「…」
「ですから、カイエン兄上を王太子に決めてください。今すぐ。ここで」
「しかし王太子は妃とも相談せねば…」
全く。
そうやって何も決めてこなかったから今の状況になってるんだろうが!!
俺はそう思うとイライラが募ってきて、
「しかしもくそもない! いいのですか! 王家の血筋が、王家の認識しないところに存在しているなど、こちらに迎えないのであれば、即刻処分ですよ!!!!!!!」
「な…! お前…」
「さぁ父上。決めてください。今ここでカイエン兄上を王太子に決めてクイナ嬢と母君を後宮に迎えて幸せな傀儡生活を送るか、クイナ嬢を処分するか」
俺は父上を今にも殺すというように睨みつけて言った。
父上は下を向きしばらくした後、
「………………………………カイエンを王太子にする」
「承知しました。カイエン兄上もよろしいですか?」
「構わんぞ! むしろ王太子になる気だったからな!」
「では、正式な書類にするために文官を呼びます。ザッハ」
「はっ」
そう言うとザッハは音もなく部屋から出ていった。




