【ルイン視点】敵の顔
ザッハに頼んでフィオラ嬢が来てくれるまでの間、何を話すか考えた。
勢いで連れてきてくれと頼んだはいいものの、もうすでに自分がやりましたと記載した紙が俺以外の目に触れてしまっている以上、今更撤回なんてできない。
俺が強引に撤回などしようものなら、余計セルジュ兄上の思うつぼだ。
しかしそうなると俺はフィオラ嬢に何を伝えたいのだろう。
思い返せばここ数年、大なり小なりフィオラ嬢やその周りのスキル持ち達のことについて結果的にずっと考えてきた。
ザッハが目撃したところから始まり、郵便屋、義賊、化粧品屋、そして孤児の就業支援。
彼女達は目の前の問題や、今後の自分達の為に、また自分達と同じ境遇の者たちの為に、ただ純粋に自分たちの能力を最大限生かせることを考え、実行してきた。
彼女たちの行動にある一貫性は目的の達成ではなく、問題の解決なのだ。
悪い組織や人間を相手にしていると、その目的を考えれば自ずと答えは見えてくる。
しかし、問題の解決が目的となると、問題がわからない限りわからない。
俺の推理なんて当たるわけがない。
しかし、そんな彼女には国に協力する気はないときっぱりと言われた。
まぁ彼女は大体きっぱりしているんだが…。
まぁしかし、こんな汚職や賄賂や私情にまみれた国に協力する必要はないと、俺も思う。
それに、彼女能力は破格な上に別格だ。
正直、公になったらどれほどの密偵や暗殺者や、勧誘が訪れるかは俺ですら未知数だ。
それならば、今まで通り目の届く範囲で、隠れて後ろから活動してくれればいいと思っていた。
そんな時に起こった今回の事件。
カイエン兄上はギリギリ一命を取り留めたが、まだ目を覚ましてはいない。
俺がやったのではないかという噂も消えたわけではない。
セルジュ兄上がやった証拠が手に入っているわけでもない。
しかし、その結果フィオラ嬢は俺の身代わりとなって国を出ると言っている。
それは全く望んでいない。
俺はフィオラ嬢を見ていたのだ。
彼女は調査の結果を聞く限りは、決して楽な暮らしをしてきたわけではないと思う。
しかし、その知性と優しさと、王子にも臆することのない意志の強さ。
俺に臆しないのは、単純に王子と言うものに興味がないだけか…。
違う、興味がないというか面倒だと思ってる感じだった…。
ただ一つ。
彼女が守ると決めたものを守る意志の強さに、否が応でも惹かれてしまう。
もちろん外見も、夜会ではびっくりするほどの美人に変貌を遂げていたし、昨晩会った時も、そのままだった。
でもやはり俺はその容姿よりも、彼女の発言や行動にどうしようもなく惹かれてしまっているんだと思う。
そうじゃなければわざわざ自ら城を抜け出して会いに行こうとだなんて思わなった。
まぁそれすらも結局勘違いだったわけだがな…。
正直何を話せばいいかの答えがわからない。
ただ、俺は彼女を見ていたし、出来れば彼女にも俺を見て欲しい。
この暗部に染まった俺の穢れた手だが、その銀髪が夜空を照らす月のように、彼女が近くにいてくれれば俺が暗部の闇に飲まれようとも、立ち止まることがきっと出来る。
俺は彼女と共にありたい。
その為であれば王族すら抜けても構わないと思うほどに。
流石にそれはできないが…。
そんなことを思っていると、執務室がノックされ、ザッハが扉を開けた。
暫くすると、そこに突如現れたように、スキル持ちの男に抱えらえたフィオラ嬢が入ってきた。
少し話をしたがやはり彼女はある程度わかっている。
しかし、わかっていないこともあるぞ!
俺は帰ろうとする彼女を引き留め、
そして求婚した。
後ろではザッハが驚愕の表情をしている。
彼女は何も言わず出ていこうとするので、算段があったわけではないが、7日間だけ国を出るのを待ってくれと伝えた。
少しの猶予。
この間に、彼女が振り向いてもいいと思える状況と俺に変わる。
そうしてフィオラ嬢は、スキル持ちの男に抱えられ、目の前から消えた。
「ザッハ」
「ハッ」
「カイエン兄上の監視は抜かりないか?」
「はい、スキル持ちの可能性を考慮して工夫して監視しておりますので、この1日2日程度であれば何ら問題ありません」
「わかった」
すると執務室の向こうから足音が聞こえてきた。
「やぁやぁ、ルイン」
「セルジュ兄上…」
手をあげて俺に軽い感じで話しかけるセルジュ兄上。
「いやぁ、身代わりとはまさかだよ」
セルジュ兄上は腕を組みながら言った。
「なんのことでしょうか」
「いやはや、カイエンに毒を盛ったのは君だという噂じゃないか! まさか別の人間を用意するとは! 王太子に興味ないなんて言いつつ、実はあっただなんて驚きだよ!」
セルジュ兄上はそう言うと、大きく両手を広げてニヤッと笑った。
「なんのことでしょうか。私はそんなことしておりませんので、あずかり知らぬことです」
「しかしねぇ、ミゼールの花までないそうじゃないか? カイエンは助からないねぇ」
「…そうですね」
「まぁ、カイエンがいなくなれば、君なんか敵でもないから俺で決まりだと思うが、せいぜい頑張りたまえ~」
そう俺の方をニヤッとした顔で見ると執務室を出ていった。
俺の悔しがる姿を見たいが為だけにここに訪れるとは…。
ああいう顔は、俺が暗部で見てきた敵の顔と同じだ。
あなたの思うようにどころか、俺に喧嘩を売ったこと後悔させてやるよ。
「ザッハ、俺がいいと言うまで、カイエン兄上の監視は万全の体制で続けろ」
「はっ」
「そしてもし目を覚ましたらすぐに知らせろ」
「畏まりました」
「俺はセルジュ兄上に悟られないよう執務をしている。できる治療をやっているよう、暗部の女性メンバーに侍女の格好をさせろ」
「すでに手配済みです」
「カイエン兄上が目を覚まして歩けるようなったらすぐに知らせろ。カイエン兄上には申し訳ないが、父上の所へ行く」
「承知しました」
ザッハそう言うと音もなく執務室から出ていった。




