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【ルイン視点】毒

王城を忍び出て、フィオラ嬢に意図を読み取ったと事を伝えに行ったら、そんな意図はないと言われた。



なんだろう…。


フィオラ嬢の事となると、いつもの先読みは全然当たらない…。


暗部の仕事では、的確に読んできているのに、全く当たらない…。




チェスで言えば、10手先を読んで動かしたのに、次に全く予想もしなかったような手を打たれ続ける感じだ。


まぁ、話してみた感じ、そんなに深く考えているというよりは、今最善だと思うことをその時に考えている感じなんだろうな。




本当、暗部にまみれた自分の考えに我ながら呆れてしまう…。




フィオラ嬢と会った翌朝、そんなことを思いながら俺が執務室へ向かおうとすると、急ぎ足で誰かが部屋のドアの前に来るのがわかった。




「ザッハか。どうした。この後執務室に行くぞ」




俺が閉まったままのドアに向かって話すと、そっとドアが開きザッハが足音をさせて急ぎ足で中に入ってきた。




「ルイン様。至急のご報告です」


「どうした?」


「カイエン殿下が何者かに毒を盛られたようです」


「はぁ?! どこでだ?!」


「自室です。どうも夜中に侵入され、寝ているところに毒を盛られたようです」


「はぁ?! 騎士団長室だぞ? そんな簡単に何者かに侵入などされるはずなかろうが!」


「はい…。なのでこれから急ぎ調べますが、恐らく内部の犯行かと…」




セルジュ兄上か…。




先日子爵家と伯爵を城へ連行し、サシェル義兄様には、セルジュ兄上を支持しないことを表明してもらった。


そのタイミングで、多くの貴族がディアッハが私の元にいることから、サシェル義兄様は暗にルインを支持していると考えただろう。






カイエン兄上と俺の約束は二人だけしか知らないので、セルジュ兄上には伝わっていないはずだ。


なので、俺に何か仕掛けてくる可能性は考えていた。


まさかカイエン兄上とは…。



しかし、なるほど。


こうなると、セルジュ兄上が王太子候補から外れたも同然の今、俺がカイエン兄上に何かを仕掛ける動機があるように見せることは出来る。


証拠がないにせよ、俺がカイエン兄上に毒を持ったのではないかとなれば、王太子にすぐなるということはないだろう。


カイエン兄上がこの毒で死ねば、残るは毒殺疑惑のある俺とサシェル義兄様に支持されていないだけのセルジュ兄上ということになる。




そうなると、サシェル義兄様が支持しているかいないか以前の問題となるだろう。


しかも行動が早い。




くそっ、まさか第2騎士団長にまでなったカイエン兄上がそんな簡単に賊の侵入を許すとは思わなった。


そうだ、スキルもなく第2騎士団長にまでなったカイエン兄上は、間違いなく強い。


例え寝ていたとしてもそこら辺のやつらの侵入ならば気づくはずだ。


となると、スキル持ちか、もしくはカイエン兄上が無条件で信用し得る人物。


フィオラ嬢達ならできるだろうが、昨晩俺と話していた彼女たちがそんなことを実行するとは思えない。


となるといったい誰が…。




「使われた毒は?」


「恐らくリコリラかと」


「王城の薬草園にミゼールの花はあったよな」


「はい、既に薬師が回収に向かっています」


「カイエン兄上の部屋に行く」




俺は足早にカイエン兄上の第2騎士団長室に向かった。




第2騎士団長室に着くと、多くの侍女や医師がベッドに横たわるカイエン兄上の看病にあたっており、部屋の中は騒然としていた。




「薬師はまだか!」


「もうまもなくかと!」


「動かすなよ! 体が活動すると毒の周りが早くなる!」


「カイエン兄上…」




俺はそっとベッドに横たわるカイエン兄上の横に立つと、手を置いた。




「確かにリコリラだな」




カイエン兄上の皮膚にはリコリラ特有の紫色の斑点が浮かび上がっている。


リコリラは、直ぐに死ぬわけではないが、ゆっくり体の機能を奪っていき、1日以内にほぼ確実に死ぬと言われている毒だ。


唯一ミゼールの花を摘んで30分以内に、特級の薬草と煎じる解毒薬だけで解毒できる。


リコリラの毒は、リコリラと言う花の根っこから作ることが出来る。


しかしリコリラの花は1年で数日しか花を咲かせることがなく、花が咲いていないとそこら辺の雑草と見分けがつかず、毒自体の希少性も高い。


しかし、解毒薬の調合に鮮度が必要なことからも、確実に殺したい場合に使われることが多い。





ただ今回、俺の仮説が正しければ、ミゼールの花はないはずだ。




「ル、ルイン殿下…。はい、リコリラです」


「薬師はまだなのか?」




俺がそう言うと、第2騎士団長室のドアが勢いよく開けられた。




「た、大変で…す…」




薬師の服を着た男が息を切らせながら話した。




「み、ミゼールの花が…全て何者かに摘み取られています…」




だろうな…。


これでほぼセルジュ兄上の手の者が行ったことは確定した。





「もちろん証拠になりそうなものはないんだよな?」


「は、はい…。足跡みたいなものも私の目からは…」


「そうか」




この計画がセルジュ兄上の指示だとすると、カイエン兄上が死ななければ意味がない。


カイエン兄上が復活しようものなら、現状では王太子に意欲のあるカイエン兄上の一人勝ちが確定的になる。




「ミゼールの花がないと解毒できない!」




医師がそう言った。




「至急回復術師を集めろ。少しでも毒の進行を遅らせるんだ」


「はい!」




俺がそういうと何名かの侍女が部屋を飛び出していった。




「ザッハ、ミゼールの花が自生している場所まではどれぐらいだ?」


「馬車で7日ほどの所にあるアオリッタの村の更に山の頂上付近です」


「無理か…」


「しかしこのままではカイエン殿下は…」


「助からないだろうな。一度執務室に戻るぞ。治療に関する者以外決して誰も入れるでないぞ! 例えそれが父上やセルジュ兄上でもだ! 困ったら俺の所へ直ぐに知らせろ! わかったな!」


「「「「「「「はっ」」」」」」」




そして俺はザッハを連れて足早に執務室へ戻る。




これから暗部に捜索させるが恐らく証拠になりうるものはないだろう。


証拠がない以上俺がどうこうなることもないが、逆にセルジュ兄上がどうこうなることもない。


事態を収拾する為にはカイエン兄上が回復するしかないが、ミゼールの花がない以上それは現状難しい。




俺は悩みながら執務室に入り、いつものデスクに座った。

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