【ルイン視点】天眼の持ち主
解決策が見いだせない。
そんなことを思いながら座った俺のデスクの上には、見慣れない書類の束が置いてある。
「ザッハこれは?」
「さぁ…」
俺はその書類の紐をほどくと1枚の小さなメモが挟まれていた。
『証拠をお渡し忘れたので配達します』
フィオラ嬢か!
王城に忍び込むどころか執務室にまで忍び込んだのか。
一体どうやって。
昨晩ディアッハが執務室を出る時だな…
俺はそんなことを思いながら書類に目を通した。
書類は、ウィルオス伯爵と帝国とのやり取りの密書に、ウィルオス伯爵から帝国へ宛てた魔法師団の、特にサシェル義兄様の一次報告の控えだった。
完全な黒だな…。
よくこんなもの見つけてきたものだ…。
更には、ウィルオス伯爵が帝国より融通されたスキル持ちの私兵が存在することまでまとめられている。
確認できたのは二名。
一人は腕力に関する何らかのスキルで、もう一人が移動に関する何らかのスキル。
なるほど。
これほどのスキル持ちが帝国から融通されていたとなると、本格的に危なかったな…。
そして恐らくこの移動に関する何らかのスキルを持った人間の仕業だろう。
大方、家族の誰かがセルジュ兄上から協力すれば伯爵を釈放するという感じで話されたのだろう。
伯爵家も一家全員捕まえるべきだったか…。
いやでも、子爵家ですら一家全員連れてくるのはかなり強引というか、もはや無理やりに近いところがあったからな…。
犯人の予想はついたが、かといって証拠があるわけでもないので、動くこともできない。
もし証拠があって犯人を捕らえたとしても、カイエン兄上が回復するわけでもない。
それでは結局セルジュ兄上の思うがままだ。
やはり事態をいい方向に収拾するにはカイエン兄上に回復してもらう必要がある。
セルジュ兄上が王太子となり、伯爵と子爵がセルジュ兄上のその権限を持って釈放されれば、フィオラ嬢の処遇は元に戻ってしまう。
それだけは避けねばならない。
しかし唯一リコリラの毒を解毒できる、ミゼールの花はない…。
何か方法はないか…。
毒…。
状態異常。
フィオラ嬢が俺には状態異常耐性のスキルがあると言っていた。
もしそれが本当なら、俺はリコリラの毒を意識的に解毒することが出来るはずだ。
しかしそのスキルを使ったこともなければ、俺が回復したところで意味はない。
もう一つが錬成。
言葉から何かを強くできるということだろう。
もし。
もしだ。
状態異常耐性のイメージを持ったまま、錬成で俺の血を強くすることが出来れば、その血で解毒できる可能性がある?
それしかない。
悩んでいる暇はない。
その可能性にかけるしかない。
俺がそう思い顔をあげると、執務室にエリオートが入ってきた。
「ルイン様、お耳に入れておいていただきたいことが」
「どうした」
「城内でカイエン殿下に毒を盛ったのはルイン様ではないかと噂になっております」
「だろうな」
「どういたしましょうか?」
「今回恐らくセルジュ兄上の仕業だ。しかし、証拠がないうえに、変に騒ぎ立ててもあっちの思うつぼだ。今は必要以上に噂がひどくならないかを見張っていてくれ」
「畏まりました」
そういうとエリオートは執務室を出ていった。
「ザッハ」
「はい」
「リコリラの毒はすぐ手に入るか?」
「それは可能ですが?」
「すぐ持ってきてくれ」
「どうするのです?」
「俺が飲む」
「はぁ?! 解毒剤はありませんよ?!」
「ザッハ、人払いをしてくれ」
「はっ」
ザッハはそう言うと執務室の前に控える侍女に人払いを伝え、扉の鍵を閉めて戻ってきた。
「ザッハ、ここだけの秘密にしてくれ。俺は昨日晩、フィオラ嬢に会ってきた」
俺がそう言うとザッハは呆れた表情で言った。
「いらっしゃらないと思ったら…」
「そこで俺はライール殿含め、彼らの秘密を教えてもらった」
「なるほど」
「フィオラ嬢は天眼の持ち主だ」
ザッハ驚愕した。
帝国で例の伝承を探してきたのもザッハだからな。
「真ですか?」
「うむ。俺には暗視の他に状態異常耐性と錬成と言うスキルがあるそうだ」
「なんと…」
「そして彼らはフィオラ嬢の天眼によって全員スキル持ちだ。アーティファクトも作れるそうだ」
「なるほど……そうだと思うと、私がしっぽを掴めなかったのもある程度納得できますね」
「うむ。だから恐らくそれは真実であると俺は考える。俺に嘘をつく必要もないしな」
「そうですね」
「だから状態異常耐性をまず試す。それを発動出来たら、そのイメージを保持したまま俺の血を錬成する。そしてその血をカイエン兄上に与える」
「な、なるほど…。可能性はありそうですが…ミゼールの花が手に入らない今下手すると死にますぞ?」
「このままではいずれセルジュ兄上の牙が俺に向く。遅かれ早かれだ」
「わかりました…」
「ザッハ決して他言するなよ? 天眼のことは父上にも報告していないよな?」
「はい、ルイン様からそのように言われておりますので」
「了解だ。ではリコリラの毒を」
「はっ」
そういうとザッハ執務室を出ていき30分ほどで戻ってきた。
「こちらがリコリラの毒です」
「わかった。どうなるか俺にもわからないから、決してこの部屋には誰も入れるな」
「はっ」
ザッハはそう言うと、執務室の扉の鍵を閉めその前に立った。
俺はリコリラの毒の入った小瓶を持ち、そして一思いに飲んだ。
のどが焼けるように熱い。
体中に痛みが走る。
集中しろ!
この原因となっている、俺の体の中に入った毒をはねのけるイメージだ。
俺は痛みに耐えながら、全身に魔力を巡らせた。
すると、全身の鋭い痛みにほのかな暖かさが通り過ぎて、綺麗になくなった。
「る、ルイン様!」
「本当のようだな」
「ま、まさか、本当に天眼が存在するとは…」
「まだだ! このイメージを持ったまま錬成する!!」
俺はそう言うと、今度はその温かさを血液にしみこませるイメージで、全身の血管を流れる血液をイメージして、再び体全体に魔力をまとわせた。
どこまでやればいいかわからない。
しかし、何度もできるかわからない。
最大限、ギリギリまで魔力を注ぎ込む!!!!
しばらくその状態を続け、そろそろ魔力欠乏症の症状が近づいてきたことを感じ、俺は魔力をまとわせることをやめた。
「ザッハ! 直ぐに切ってくれ!」
「失礼します」
ザッハは音もなく俺に近づくと俺の手首を切った。
小瓶3本分ぐらいの血液を流し、俺は止血の為にタオルを宛てた。
「これ以上は…きつい…」
「いえ、直ぐに回復術師を連れてまいります」
「そ、それより、この血を小瓶に詰めてカイエン兄上へ届けねば…」
俺がそう言うとザッハ懐から小瓶を取り出し、慎重に俺の血液を移した。
すると、胸元からもう1本小瓶を取り出し、ザッハは飲んだ。
「ざ、ザッハそれは!」
「か、確認せねば…カイエン様に…は」
ザッハそう言いながら、俺の血液の入った小瓶を1本飲み干す。
そして、
「ルイン様、直ぐに回復術師を手配し、カイエン様へ届けてまいります」
「だめだ。確実に…誰が敵か……わからない……」
「お待ちください! 直ぐに回復術師を!」
そういうとザッハは消えるように出ていき、暫くするとサシェル義兄様を連れてきた。
「なんだいなんだい? ってええ?! ルインなにしたんだい!!」
「サシェル義兄様…動けるぐらいに回復していただけませんか…」
「あ、う、うん?」
そういうとサシェル義兄様は傷口に手を当てて回復魔法を使ってくれた。
流石だみるみる傷口がふさがる。
「一体どうしたっていうんだい?」
「それどころではありません! すぐにカイエン兄上の所へ!」
「でもルイン見た感じかなりの血液を失ってないかい? フラフラじゃないか」
「しかし!」
「しょうがないなぁ」
そういうとサシェル義兄様はフワッと魔法で浮いて俺を抱えた。
「それじゃあ行きましょうか王子様」
そうして俺はカイエン兄上のもとに向かった。




