【ルイン視点】狭くて極端な世界
おいおいおい、聞いていたフィオラ嬢と容姿が全然違うぞ!
乾杯の為にステージに上った俺の後ろから、ザッハがフィオラ嬢の位置を皆に気が付かれないように告げて行った。
サシェル義兄様と一緒の所にいるフィオラ嬢は、俺が聞いていた容姿と似て非なるものだった。
元々いい生活をできていなかったらしく、子爵家に引き取られるまではガリガリで身長も低く、年齢より3歳ぐらい小さく見えてしまほどだと聞いた。
子爵家に引き取られてからは、食生活は改善したようで、多少ましにはなったが、まだまだ痩せている小さな少女だったはずだ。
一体どういうことだ?
会場の他の者も注目しているようだが、あれはもう女性だ。
白髪だと聞いていた髪は銀色で、恐らくサシェル義兄様が手配したのであろうドレスを着て、それはもう高貴な姫君かのような佇まいだ。
一体この2カ月ほどで何をするとこんなに変わるんだ?!
いかん。とりあえず挨拶しなければ。
俺はそう思いなおし、乾杯の挨拶をし、貴族の挨拶を受けた。
「やーやールイン。夜会なんて思い切ったね!」
一番最初にサシェル義兄様達が挨拶に来た。
「サシェル義兄様、ちゃかさないで頂きたい」
「今日は娘も連れてきてるからねー。ルインは学院に行ってないから知らないでしょ?」
「初めまして。フィレス公爵家が長女、レミア・フィレスでございます」
完璧な公爵令嬢だな。
挨拶も佇まいも全て優雅であり、気品を感じる。
サシェル義兄様の娘とは思えない…。
「お初にお目にかかります、フィレス公爵令嬢。リオルダート王国第3王子ルイン・リオルダートだ。今後ともよろしく頼む」
「こちらこそですわ。こちらが婚約者のディアッハ・ティエルですわ」
「初めましてルイン殿下。ティエル公爵家が次男、ディアッハ・ティエルでございます」
こちらも素晴らしい。
ティエル公爵家の次男か。
「しかしサシェル義兄様、フィレス家とティエル家の婚約とは思いきりましたね。他の貴族に嫌われませんか?」
「私は元々嫌われてるからねー。でも、二人の婚約は家同士が決めたことじゃないんだ」
「そうですわ。ディアッハがどうしてもとしつこいのでお受けしたまでです」
「待った待った! レミアがはっきりしないなら、死にたいと思うほど辱められてから死ぬか、死にたいと思うほど苦痛を味わってから死ぬか選べって言うから!」
「と言うわけで、二人は仲良しなんだよ~」
なるほど。
貴族家では珍しい恋愛を経ての婚約と言うわけか。
選択肢は死しかなかったがな…。
流石伯母上の孫だな…。
その後フィレス公爵家の方々と少し話、爵位順に挨拶をこなした。
「初めまして、ルイン殿下。ジョルト子爵家現当主、セイン・ジョルトです。こちらは娘のアマレーヌです」
「お初にお目にかかります。ジョルト子爵家が長女アマレーヌ・ジョルトでございますわ」
二人はそう言って挨拶した。
「アマレーヌの方が1歳年上になりますが、是非今後とも目にかけて頂けますと幸いです」
ジョルト子爵はそう続けた。
「リオルダート王国第3王子、ルイン・リオルダートだ。以後よろしく頼む。して、確か招待状は別の娘宛に出したと聞いていたのだが」
「恐らく手続きの手違いか何かで別の名前をご記載いただいておりましたが、我が家には殿下にご紹介できるような娘はアマレーヌしかおりません故」
「左様か」
なるほど。
一体どういう了見かしらないが、フィオラ嬢宛の名指しの招待状の名指しは無視したわけか。
王家の夜会の招待状で、名前の記載を間違えるなんてミス起こると思っているのか?
しかもフィオラ嬢来てるぞ?
気付いてないのか???
俺は子爵家のあまりのバカさに呆れながら、挨拶をこなした。
爵位持ちの挨拶が終ると、後は商会や騎士団等の面々だ。
そしていよいよ、フィオラ嬢が来た。
「元王国第5騎士団騎士団長、ライールでございます。お初にお目にかかります。」
「ジョルト子爵家が次女、フィオラ・ジョルトでございます」
「初めまして、リオルダート王国第3王子ルイン・リオルダートだ。此度はご参加感謝する」
と俺が形式的な挨拶を返すと。
「それでは失礼しますわ」
とすぐさま帰っていくフィオラ嬢。
親交を深めよう等と言う気は一切ありませんといわんばかりだ。
どういうことだ?!
王家からの名指しだというのに、浮かれるような様子はないどころか、逆に興味がありませんと言いに来ましたという雰囲気すら感じる。
俺が暗部の指揮官でフィオラ嬢を危険視していることは、サシェル義兄様が言ってない限りは知らないはずだ。
サシェル義兄様は、そんな国家機密をペラペラとお話しするような人ではない。
ライールも俺が暗部に顔を出しだしたころには騎士団を辞めていた。
王子と言う身分もあって、ここまで拒絶されることはこれまでなかった。
だか、あなたが何を思っているのか。
それを知るまで、今日は逃がすつもりはないからな。
俺はそんなことを思いつつ挨拶を終えた。
そしてダンスの時間となった。
挨拶を終えた俺の周りには令嬢たちが集まっている。
正直うっとうしい。
俺はフィオラ嬢と話したいのだ。
しかしさっきチラッと見えたアマレーヌ嬢は一体何を思ってこの場にいるのだ?
仮に生娘でないことが貴族社会で受け入れられるのだとしても、王家はあり得ないぞ?
本当何を考えているんだ? あんなのが貴族で大丈夫か?
そんなことを思っていると、ダンスの音楽が流れ出した。
今日の俺の周りには常に人がいる。
多分護衛もいれると一人になれるタイミングなんてないだろう。
ここしかない。
俺は強引に移動し、令嬢方に道を開けてもらい、フィオラ嬢の前に立ち、
「どうか私と一曲踊ってくれませんか? フィオラ・ジョルト子爵令嬢」
と貴族の挨拶をして手を差し出した。
フィオラ嬢はじっと私を見て、
「ええ、喜んで」
そう言うと俺の手を取った。
特に賓客等理由のない令嬢に王子が自らファーストダンスを申し込むなど、もうそういう意味だと受け取られかねないが、この際それはしょうがない。
そんな話はあとで何とでもできる。
今俺はフィオラ嬢と話したいのだ。
「ではこちらへ」
俺はそう言うと、ホールのひらけた場所にフィオラ嬢を連れて行く。
そして俺とフィオラ嬢が手を取り合って立ち止まると、待ってましたと言わんばかりのタイミングで音楽が鳴り始める。
しかし、令嬢教育を幼少から受けてきたわけでもないのにダンスうまいな。
なんて思っていると、
「目立つので今後はこういうことは辞めて頂きたいです」
とフィオラ嬢がステップを踏んで、少し微笑んでいった。
俺がお前の真意を見極めてやる。
「そういわず、ダンスお上手ですね」
俺はそう言いながらフィオラ嬢の腰を持つ。
「ええ、元騎士団長様に教えて頂きましたから」
「ライール殿ですか。彼なら確かにできそうですね」
俺はそう言いながらくるっとフィオラ嬢を回す。
すごいな。
話しながら表情も崩さず踊っている。
「それはそうとフィオラ嬢は普段はどんなことをされているのですか?」
「本を読んでいるだけですわよ」
そういうと、フィオラ嬢は俺の横に戻ってくる。
「またまた。美しい髪の毛ですが何か秘密でも?」
「ふふふ、まだお教えできませんわ」
「そんなことは言わずに。そう言えば最近話題の化粧品があるそうですね」
「ウトリルですか? 私も愛用しておりますわ」
「ほー、国でも調べているのですが、製法がわからないのですよね」
「そうなんですね。私は利用者として使えるだけで満足ですわ」
そういうと、フィオラ嬢はステップを変えた。
ほー、そんなことまでできるとは。
俺もそれに合わせてステップを変えて、更にステップにアクセントをつける。
「それに最近では王都の孤児の支援を、実はウトリルさんが出資しているなんて噂も」
「あら、そうなんですの? いいことではないですか」
「そうですね。王家として、我々ができていないことなので歯がゆい思いもありますが」
「まぁ、王家の方がそんなことを思っていらっしゃるとは思わなかったわ」
俺がアクセントを加えたステップにも合わせてくる。
俺はそのままリードしてフィオラ嬢をくるっと回す。
「しかし、もしこれらが帝国と繋がっているかもしれないと思うとぞっとする思い出もあります」
「帝国?」
「ええ」
フィオラ嬢は俺の横に戻ってきたが、「なんのこと?」と言う感じだ。
やはり帝国は関係ないのか?
「帝国がどんなところかは存じませんが、私にはわかりかねますわ」
と俺がリードした通りにステップを踏むフィオラ嬢。
「私も行ったことはないのですがね」
「そうなんですの」
「フィオラ嬢は帝国のことはあまりご存じではないのですか?」
「東にあるというぐらいしかしりませんわ」
「そうなのですね」
うーん。
どうも本当に知らなそうだ。
目の動きや呼吸を見ていてもどこも不自然なところがない。
「フィオラ嬢は、何か大切なものはございますか?」
俺はステップを踏みながら聞いた。
「ありますわ」
「ほう、それはどんな?」
「秘密ですわ」
フィオラ嬢はステップを踏みながら、ニコッとしてこっちを見て言った。
「左様ですか。それは残念だ」
「でも、それを守るために生きると決めておりますわ」
「それはそれは。是非とも機会があればそれが何かが知りたいところですね」
「ふふふ、機会がございましたら」
「またこうやってお呼びしても?」
「ふふふ、目立つので今後はこういうことは辞めて頂きたいですわ。でも、そうですね、殿下の力を借りたくなったら参るかもしれませんわ」
「そうですか。では借りたくなるほど私は力をつけるとしましょう」
「楽しみにしておりますわ」
そう言って、フィオラ嬢の腰を持ちフィニッシュとなった。
フィオラ嬢はそのまま、サシェル義兄様にダンスを申し込まれ連れていかれた。
フィオラ嬢。
とても帝国と裏でつながっているようには見えない。
それどころか、その大きな紫色の瞳からは自身の意志の強さが伝わってきた。
彼女が見ているものは俺とは全然違う気がする。
俺はいつの間にか暗部という狭くて極端な世界に、自分の心まで浸かってしまっていたのかもしれない。
俺はそんなことを思いながらその後のダンスをこなした。




