微塵も
「緊張してっか?」
「びっくりするほどしてないわ」
「お前なんか肝が据わったよな」
「当り前よ。義賊の首謀者よ?」
「前から言おうと思ってたんだが、義賊ってのは悪い奴らから回収した金品を人々に分け与えねーと義賊とは言えねーんだぞ?」
「あら、そうなの? 悪い奴をやっつけるやつだと思ってたわ。でも最後の方は、周辺に住んでた人少し持って行ったんじゃない?」
「まぁ結果的にな…」
「義賊じゃないなら何かしら。正義の味方?」
「まぁ国的には盗賊と同じような扱いなんだろうけど、街の人が義賊って噂してたから義賊でいいんじゃねーかもう」
「なによ、だったら指摘しないでよ」
「すでにもう化粧品の開発者になっちまったしな」
とライールさんと話しながら、エスコートされて中に入ると、一気に注目された。
それはもうびっくりするほど。
なんでみんなこっち見てんの??
「いや、まぁ気持ちはわかる。今までどんな夜会にも登場していない、ものすごい美女だぞ」
「褒めてもお酒代は増やさないわよ」
そんなことを言いながらライールさんに連れられて歩いた。
どこに向かうのだろうと思ったら、フィレス公爵がいた。
「いやいや、これは。フィオラ嬢。お久しぶりでございます」
とフィレス公爵は貴族の挨拶をした。
「この度は多大なるご支援感謝いたしますわ。フィレス公爵閣下」
「いえいえ、これぐらい。孤児院の方の活動で、我が家の評価はうなぎのぼりですから」
「お父様邪魔よ!」
「あ、レミア。ご機嫌麗しゅう。ジョルト子爵家が次女フィオラ・ジョルトでございます」
と私がカテーシーをすると、
「ご機嫌麗しゅう。フィレス公爵家が長女、レミア・フィレスですわ」
とレミアもカテーシーをした。
「ふ、ふふふ!」
「ふふふ! それよりフィオラ見違えたわね! どれだけ成長したの?!」
「身長が10センチも伸びたのよ…」
「そんなことあるの…」
「ところで、髪の毛の美容水はどうかしら?」
「最高よ! 友人からもどうしてるのか教えて欲しいと、いつも聞かれるわ!」
「それならよかったわ」
「この子がレミアが言ってた子かい?」
とレミアの横に立つ男の人が話してきた。
「そうよ。可愛いでしょ!」
「初めまして。ティエル公爵家次男のディアッハ・ティエルです」
と貴族の挨拶をした。
「初めまして。ジョルト子爵家が次女フィオラ・ジョルトです。」
と私もカテーシーをする。
「私の婚約者よ」
「へぇ、レミア婚約してたんだ!」
「普通15にもなったらしてるわよ…」
「しかしフィオラ嬢、白銀の姫君だね」
「あ! ディアッハ浮気よ!!」
「え、ちょ、俺は褒めただけで! というか多分ここにいる男子全員がお近づきになりたいと思ってるんじゃないかな…」
と言うので、周りを見渡すと確かに大注目を集めている。
まぁ自分の事はわからないけど、面子的にもレミアやディアッハの容姿的にも注目されるのは致し方ないのだろう。
ライールさんはおじさんだけど。
そう話していると、急に視線が前方に集中した。
「ルイン・リオルダート様ご到着ーーーー」
という口上が告げられると、ご令嬢の皆様が前方に集まっていった。
アマレーヌもちらっと見えたわ。
というかアマレーヌもだけど、子爵も奥様も気付いてないみたいね…。
どうやって気付いてもらおうかしら…。
「ライールさん、子爵家に気付かれていないようなのだけれど」
「みたいだな…」
「このままでは目的の1つを果たせないわ」
「最悪俺が話してくるよ。一回会ってるしな」
「よろしくね」
私は別に見初められたいなんて微塵も思ってないので、この場でそのご令嬢の集団を眺めていた。
「レミアは行かないの?」
「興味ないわ。フィオラは?」
「微塵も」
「なんで皆王子なんかに見初められたいのかしら? 私なんかお婆様に色々聞いているから絶対嫌よ」
「楽しくなさそうよね」
私とレミアが冷めた目でその集団を見ていると、ちょっとしたステージかなんかがあるのか、男の人が一段高いところに出てきた。
「今日は私が初めて主催する夜会へご参加いただき感謝する。是非皆様親交を深め、楽しんでいただければと思う。乾杯!」
というと、皆持っているグラスを上に突き出した。
私も直前に給仕の人に渡されたリンゴジュースを上にあげた。
あれが第3王子。ルイン・リオルダート。
何故かはわからないけど私を名指しでこの夜会へ招待した本人だ。
その後爵位が上位の者からルイン殿下に挨拶すべく、ルイン殿下の所へ向かう。
フィレス公爵家は1番最初だ。
「じゃあ、サクッと挨拶してくるわ」
そういうとレミアは、ディアッハにエスコートされてフィレス公爵の後ろをついて行った。
私とライールさんは最後の方。
私は子爵家で挨拶してもいいのだけれど、彼らは私をここに連れてきていないので、もちろん一緒には挨拶できない。
ライールさんは爵位を持っているわけじゃなく、元第5騎士団長という言わばお客さん的な扱いなので、爵位持ちの人たちが終わった後だ。
そしてついに爵位持ちの挨拶が終わり、私はライールさんにエスコートされて向かった。
私の名指しの招待状があったにも関わらず私を連れて行かなかった子爵家は、ルイン殿下に何か言われたのか、少ししどろもどろになっていたわ。
「元王国第5騎士団騎士団長、ライールでございます。お初にお目にかかりますルイン殿下。」
「ジョルト子爵家が次女、フィオラ・ジョルトでございます」
ルイン殿下の前でライールさんと私がそう挨拶すると、
「初めまして、リオルダート王国第3王子ルイン・リオルダートだ。此度はご参加感謝する」
と形式的な挨拶を返してきた。
「それでは失礼しますわ」
私はそう言って、直ぐに後ろを向いて、「え?」となっているライールさんを引き連れてその場を離れた。
「お、おい。フィオラ。見極めるんじゃなかったのかよ」
「あんなに周りに人がいるところでルイン殿下が話してくるとは思えないわ」
「しかし、もうちょっとなんかあんじゃねーのか? 一応王子様だぞ?」
「微塵も興味ないわ」
そしてフィレス公爵家の面々の所に戻り、暫くレミアやカミラさんと話していると会場に音楽が流れ出した。
「フィオラ、ダンス踊れるの?」
「ふふふ、騎士団長仕込みよ」
「あら、それじゃあファーストダンスはライールさんね。あなた、多分めちゃくちゃ申し込まれるから適当に切り上げなさい」
「そんなに?」
「間違いないわ。最悪私が助けてあげるわ」
「ありがとう」
そうレミアと話していると、挨拶が一通り終わった後ルイン殿下の周りに集まった令嬢たちの塊が、塊ごとこっちに向かってくる…。
えぇ……。
まさか、このタイミング?!
そして私たちの近くに来ると、
「ご令嬢方、少し失礼するよ」
と言って一人の男性が出てきた。
ルイン殿下だ。
そしてルイン殿下は私の前に来ると、
「どうか私と一曲踊ってくれませんか? フィオラ・ジョルト子爵令嬢」
と貴族の挨拶をして手を差し出した。
周りの令嬢たちも沈黙した。
一体何のつもりかさっぱりわからないけど、あなたがその気なら受けて立ちます。
「ええ、喜んで」
私はそう言うとルイン殿下の手を取った。
ルイン殿下が私の名前を呼んだので、ようやく塊の中にいたアマレーヌもわかったのか、早足に子爵と奥様のいるところへ向かった。
ふん。
まぁこれで、ルイン殿下と関係があると言うことは伝わったでしょう!
だって招待状が届いてないはずなのに、この場にいるんですものね!
直接渡されていたと思ってもらっても構わないわ!
悪いことばかりしてないで、暫く大人しくしていなさい!
私はそんなことを思いながら、ルイン殿下に手を引かれた。




