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【ルイン視点】今度は何を始めた…

ウトリルの勢いはとどまる所を知らない。


販売を開始してもう少しで2カ月にもなるのに、未だに行列が絶えない。


開店して10分で売り切れるのも変わらずだ。




王城でも大変な話題となり、国でも何か活用できないかと、ウトリルが使っていると公言しているアルバの泉の水を取り扱っているという商会を呼んで、急遽仕入れたりもした。



現物についても、入手させてその中身を解析したが、原料は水だけ。


違法な薬物どころか何の薬品も入っていない。


しかし、侍女に使ってもらったが確かに肌が瑞々しくなるのが私でもわかった。



残るは魔法の可能性だが、魔法師団で鑑定させても、縄同様魔法の力を感じるぐらいしかわからないらしい。


あの魔法バカのサシェル義兄様が言うのだからそれは間違いない。


あの人はこと魔法に限っては嘘なんかついたりしない。


ライールと旧知の仲とかそういうのは、彼の魔法の研究に対しては一切関係しない。



1本10万ゴルドだから、既に1億ゴルド程がウトリルに入っていることになるだろう。



このままいくと王国貴族のお金が吸い上げられていく。




しかし国を始め、多くの豪商たちも類似商品の開発は考えているだろうが、どこも実現しない。


一件、完全なまがい物で全く効果のない水を高額で販売した商会を取り締まったりもした。



正攻法な商売である以上、我々としては何もできない…。


悩ましい…。




俺が執務室で額に手を置いて悩んでいると、




「ルイン様、ご報告にあがりました」


「エリオートか」


「はっ。フィオラ嬢の母君ですが、これまでの調べでは帝国の関与はありません」


「そうか」


「はい。母君は貿易都市ウィラーの、しがない商店の産まれです。しかし幼い頃に人攫いにあい、王都にいたカジミール伯爵に売られています。カジミール伯爵が借金の形に手放したところ、あの娼館に紹介されたようです」


「そうか…」


「はい。ただ、娼館には帝国の密偵も来ていたようですので、その線をこれから探ります」


「わかった。引き続き頼む」


「はっ」




そういうとエリオートは執務室から出ていった。



もし帝国と関係なかったとした、フィオラ嬢は一体何を考えているんだ?


もう、全くわからない…。




「ルイン様」


「ザッハか」


「ご報告したいことが」


「今度は何だ…フィオラ嬢は今度は何を始めた……」




もう最近ザッハからの報告を聞きたくない…。


またフィオラ嬢が俺の先を行く新しいことを始めて、大きく翻弄される。


もう俺の心も頭ももたないぞ……。




「はっ。大変恐縮なのですがフィオラ嬢です…」


「はぁ…なんだ」


「フィレス公爵家の孤児院はご存じでしょうか?」


「ああ、聞いた。就業支援も聞いたぞ。素晴らしいことじゃないか。あれでこそ、この国の貴族だ。流石伯母上だ。寄付をしたという商会も、何かしら伯母上たちの力を利用したいのだろうが、それでも素晴らしい。国で称えたいぐらいだ」


「はい。それがですね、恐らくその就業支援の出資元がウトリルです」




俺は沈黙した。


てっきり、フィレス公爵家の力を借りて王都に進出したい商会とかかと思っていた。




「…本当か……?」


「はい、恐らく。就業支援で働いていた子どもの何人かが現在ウトリルの店員として働いています」


「はぁ…サシェル義兄様を呼んできてくれ……」


「承知しました……」




ウトリルで莫大な利益を得た後は孤児の就業支援?!


フィオラ嬢は為政者にでもなるつもりか?!?!



就業支援は、王都の道の掃除や用水路の清掃がメインだと聞いている。


その光景をみて、最近は街の人達も孤児を見る目が変わってきて、食べ物を分け与えたりする人も出てきているらしい。


ここ最近の王国にはなかった、ものすごくいい傾向だ。


しかしそのきっかけをつくったのはフィオラ嬢だとすると、何が狙いだ…。



就業支援で得られるもの…。


清掃…。






王都の詳細な地図か!!!!






誰も持ち得ていない、用水路までカバーした詳細地図の作成か!!





帝国かもしくは反乱か。


もし地図が目的で、それに手を付けたとするとある程度準備が整っている事になる。



ダメだ。


そこまで進んでいるとなると、あっちの方が早い。


今からどう頑張っても先回りまではできなそうだ…。



どうする…。





俺が悩んでると、サシェル義兄様を連れたザッハが戻ってきた。




「ルイン今度はなんだーい?」


「サシェル義兄様、孤児院と就業支援の出資元はウトリルですか?」


「そうだよー! 公爵領の方は我が家で出してるけどねー」


「どうして教えてくれないんですか!」


「だっていいことじゃない? 別に教える必要もないでしょ」


「それがどのような結果を招くとお思いですか!!」




俺が強い口調で言うと、サシェル義兄様は少し目を細めて、




「ははーん。ルイン、まだ答えに辿り着けていないみたいだね?」


「なんのことですか?!」


「ルイン、君は一度暗部を離れた方がいい」


「なにを! 私がこれまでどれだけこの国の為を思って!」


「それは知っているよ。ただ、ことこの件だけは、全く話にならないね」


「どういうことですか!」


「ルイン。君は小さい頃から暗部の教育を受けて、悪いものを見すぎている。一度離れないと、君もあっち側の人間になってしまうよ?」


「もっとはっきり仰ってください!!」


「そうだなー、そうだ! 母上と話してみてはどうだい?」


「は、母上と?」


「そう! 君の母上なら、今のルインを見つけ出してくれるかもね?」




そういうと出ていってしまった。




「ルイン様どうされますか?」


「悔しいが、サシェル義兄様は天才だ。母上と話してくる…」


「承知しました」


「少し執務の代行を頼む」




俺はそれだけ言うと執務室を出て、母上の住む離宮へ向かった。




「ルインです」




母上の部屋の前でそういうと、侍女が扉を開けてくれた。




「あら、いらっしゃいルイン。どうしたの? 化粧肌専用水はまだあるわよ?」


「その件ではありません。いえ、無関係でもないのですが…」


「あらあら、どうしたの、とりあえず座りなさい。ティーセットをこちらに準備して、人払いして頂戴」




母上がそう言うと侍女がティーセットをテーブル脇に運んできて、全員出ていった。



ティエラ・リオルダート。


俺の母親で、父上の側妃。


元は王国のセディア男爵家の次女。


母上が側妃になった頃のセディア家は伯爵家だったが、俺が産まれ少しして男爵家に降爵している。


確か、意図的に国に対して収入の一部を隠していたのが原因だ。




中々子供のできなかった現王が王太子時代に、側妃を増やすべく選ばれたのが母上だった。


非常におっとりしていてマイペースで、いつの間にか母上のペースに持って行かれてしまう。




俺は母上の向かい側に座ると、




「母上、私は今壁にぶつかっています」


「あら、ルインちゃんが壁に本格的にぶつかるのは初めてねぇ」


「はい…。そして全くわからないのです」


「あらぁ。どういうことに悩んでいるの?」


「母上、人とは何ですか?」




俺が母上にそう聞くと、母上は「うーん」とほっぺに人差し指を当てて悩みだした。


この人は母親になっても、こういう少女のような仕草を自然とするんだよな…。




「んー、そうねぇ。難しいわね。でもルインちゃんが一番ぶつかりそうな壁ねぇ」




とニコッとしながら言った。




「どういうことでしょう」


「そうねぇ。ルインちゃんは人の悪い部分をいっぱい見てきたじゃない?」


「はい」


「じゃあ、人のいい部分は?」


「…」




思えば人のいい部分なんて考えたこともなかった。


あんなクズ達で溢れかえっていて、むしろいい部分なんてあるのか?




「そうねぇ、じゃあ一つお話をしましょう!」


「お話し?」


「ある所に伯爵令嬢がいました。伯爵令嬢はある日、王太子の側妃に選ばれました。伯爵家はそれはそれは大喜び。しかし本人は王太子など全く興味ありませんでした」


「…」


「王太子には既に正妃と側妃が1人ずつおり、言ってしまえば世継ぎ要員でした。そこに愛なんてありませんでした。そしてその使命を果たし、一人の男の子を出産します。伯爵家は、次王にすべく、その側妃をけしかけます。側妃は我が子を愛していたので、血みどろの争いなんてさせたくありません。それでもしつこくけしかけてくる実家が嫌になり、伯爵家の悪行を騎士団へ報告し、伯爵家は男爵家になりました!」


「母上それは…」


「さてルインちゃん、その伯爵令嬢はどうしてそんなことをしたのでしょう? 実家の身分を下げさせてまで!」




母上は指を立ててニコッとしながら言った。




「母上、ありがとうございます」




俺はそれだけ言うと立ち上がった。




「あ、ルインちゃん? 答えがわかったら教えてね?」


「畏まりました」


「後、化粧肌専用水もよろしくね?」


「承知しました。そちらも必ず」


「ふふふ、いい子ね」




俺は母上の部屋を出て執務室に戻った。




「ザッハ」


「はっ」


「夜会を開くぞ」


「はい?!」


「第3王子主催の夜会を開く。フィオラ嬢を招待してくれ」


「本気ですか?!」


「ああ、本気だ。必ずフィオラ嬢に来て欲しい。ジョルト子爵家に知らせないわけにはいかないが、信用できないからフィオラ嬢にも直接の招待状を」


「承知しました。直ちに準備いたします」





答えはまだわからない。


ただ、母上の話でわかったこともある。


人の行動は、悪い側面もあればいい側面もある。


母上のお話は、恐らく母上自身のことだ。


きっと伯爵家からしたら最悪の行動だが、母上からすると最良の行動だったということだろう。


俺のところにあがってくるのは、悪い側面に特化したようなやつらばかりだ。



だから、サシェル義兄様は暗部を離れろと言ったのか…。



フィオラ嬢、あなたは一体どんなことを思っているのだ。直接話してみたい。

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