うってつけ
「それで私に相談とは今度は何だい??」
寮のリビングのソファーにフィレス公爵は腰かけていった。
「わりーな、忙しいところ」
「それは構わないが、一体どうやって届けてるんだい? 公爵家はそんなに簡単に侵入できる警備ではないと思うんだけど…私の執務室の窓まで来るなんて」
とフィレス公爵は私達を見ながら言った。
リリアはフィレス公爵からは見えないように、下を向きながら私の方をチラッとみてテヘっとしている。
「まぁそれも秘密だ」
「なんだか秘密が多いねぇ。別にいいけどね! それでなんだい?」
「ウトリルはお陰様でバカ売れだ」
「知っているよ。母上や妻も、もう虜だよ」
「それはありがたい。それでな、次に孤児院をやりたくてな、孤児の就業支援をやりてーんだよ」
「ほーー! ライール、為政者にでもなるつもりかい?」
「いや、残念ながら考えたのは俺じゃねぇ」
ライールさんはそう言うと私の方を見たので、
「フィレス公爵閣下ご無沙汰しております。この度はウトリルの宣伝にご協力いただき大変ありがとうございました」
私はそう言ってカテーシーをした。
「やはり君かい。フィオラ嬢」
「実は私以外のここにいるメンバーは、全員元孤児なのです」
「そうだったのか。その割には皆しっかりしているね」
「ライールさんのおかげですわ」
「ははは、そういうことにしておこうか。それでなぜ孤児院を?」
「ライールさんから伺うに、今ある孤児院に寄付しても大人の懐に入ってしまうと」
「だろうねぇ」
「私はそんな人の為に就業支援をしたいのではありません。孤児は頑張る方法がないだけで普通の子どもなのです。だから頑張る機会をあげたいのです」
「なるほどねぇ」
「だから道の清掃や用水路の掃除を発注したいのですが、ウトリルは富裕層向けのお店となっておりますので、孤児が集まるといらぬ争いが産まれます」
「なるほどなるほど」
「ウトリルはこの1ヵ月で5000万ゴルド稼ぎました。来月も変わらないと思います。原価は瓶代いれても10万ゴルドぐらいです」
「ものすごい収益だね」
「まだ増やせますし、新しい商品もあります。ただ、これ以上稼ぐつもりもないのでまだ出しませんが…」
「そうなんだね。いいのかい? 自分達で稼いだお金なのだろう?」
「いいんです。私達は楽しく過ごせればいいだけですから」
「そうかい。それで私か」
「はい。ライールさんが無理だと言うので…」
と言いながらライールさんをチラッと見ると、ライールさんは目をそらした。
「あはは(笑) 確かにライールは無理だろうね! ここの子達とはわけが違うだろうからね!」
「はい、なのでお力添えを頂けないかと思いまして」
「んー…私では難しいねぇ…何せ一応これでも魔法師団長だからねぇ…」
「そうですか…」
「ただ、そういうのはね、私よりいい人材がいるよ?」
「本当ですか?!」
「ああ、私の母と妻。うってつけだよ」
た、確かに。
元王女様と社交界の華。
その人たちが孤児の就業支援に乗り出したとなると、色々変わるかも!
「お願いできるのですか?!」
「多分大丈夫だと思うけど、少し待ってて? 今から連れてくるよ。母も妻も君に会いたがってたんだよ」
そう言うと、ふわっと飛んで出ていってしまった。
「ら、ライールさん! どうしましょう! 王女様が来るわ!」
「あー、あいつの母君はあいつの母君だから気にすることないと思うぞ」
「せ、セリス! お土産を準備しましょう! リリア、サンプルでもらった色違いの小瓶を3つと水を4本分ぐらいとってきて! あと完成品の化粧肌専用水も3つ!」
「了解!」
そういうとリリアは消えた。
「フィオラさん何を作るんですか?」
「髪の毛用よ! まだ非売品の!」
「それはきっと喜びますねー! キッチン行きましょう!」
そうして私はセリスに、イメージと付与する魔法を伝えて、リリアがとってきてくれた小瓶にその髪の毛用の少し粘度のある水を加えた。
少し使ってみたが、品質は問題ない。
そしてお土産の準備を終えてしばらくすると、寮の前にフィレス公爵家の馬車がつけられた。
私達は玄関から出てお迎えすると、中からそれはもう美人なおばさまと奥様が出てきた。
二人ともすごいわ…。
現時点で実年齢より10歳ぐらい若く見えるし、なんだか後ろからキラキラしたものがあふれ出ているような感じだわ…。
「は、初めまして。ジョルト子爵家が次女フィオラ・ジョルトでございます」
と私は緊張でカチコチになりながらカテーシーをした。
「まぁまぁ。アニール・フィレスです。一応元王女よ」
「カミラ・フィレスです。サシェルの妻よ」
と2人もカテーシーをした。
「あー、なんだ、目立つから早く中に入ってくれ」
とライールさんがめんどくさそうに言った。
「ライール君、相変わらずね!」
「お久しぶりですアニール姫」
そういうとライールさんは一応貴族っぽい挨拶をした。
「姫はやめて頂戴。もうそんな年じゃないわ。とりあえず中に入りましょうか」
そういとライールさんは、すっと横に立ちエスコートした。
そ、そんなことできるんだライールさん!!
そしてカミラさんはフィレス公爵にエスコートされ中に入った。
「というわけです母上」
中に入り、フィレス公爵が私のことを紹介しつつ話した。
私の家庭事情まで知っていたのにはびっくりした。
横からライールさんが、暗部が私達を探っているからそれぐらいは知っているはずだと小声で話してくれた。
「なんて素晴らしいの! カミラさんどう思います?!」
「素晴らしいですわ! それをフィレス公爵家として実施して構わないということなの?」
と二人は目を輝かせた。
「はい、私達では色々問題も起こるかもしれませんので…」
と私が言うと、アニールさんが、
「そうね。うちぐらいの強さはあったほうがいいかもしれないわね。でもウトリルとは言わずとも、どこかの商会から多額の寄付があったとは言ってもいいのかしら?」
「それは構いません。どうせ続ければそのうちバレると思いますし」
「それならできるわ! 公爵家だけでやれればいいのだけれど、公爵家で取り組むとすると公爵領をもっと良くしろと言われてしまうのよね…」
「そうなんですよ。公爵家のお金は公爵領から得られたものですからね…。王都を目に見えて優先することはできないんですよね」
「そうだったんですね…」
「それに最近は国全体の活気が落ちてきているから、王都の子ども達に活気が出ればきっといい刺激になるわ!」
とアニールさんがニコニコして言って、カミラさんが腕を組んで斜め上を見ながら言った。
「実際の孤児院運営は使用人を何人かつけるとして……就業支援は公爵家の私兵に主導させましょうか!」
「ありがとうございます! こちらからも、詳細はお伝え出来ないのですが、王都の就業支援全域を監視できる人員を配置しますので!」
「あら、そんなことできるの??」
「あ、はい…」
と私が言うと、ライールさんが、
「まぁあれなんです、色々と俺のこれまでのつてもありますので!」
「そう? ただ無理はしないでね?」
「はい、それはもちろんです!」
全域の監視と言っても4人しかやらないのだけど…。
外周部広くをアリオンとリリアで。
中心部の市街地は、オフィールとセリアで。
4人でとはとても言えない…。
私がそんなことを思っていると、フィレス公爵が、
「では母上、この話受けて頂けるということでよろしいですか?」
「ええ、もちろんよ。でも本当にいいの? 折角稼いだウトリルのお金」
「いいんです! 私達は現状で十分です!」
と私が言うと、皆ウンウンと頷いた。
「本当いい子達ね。それに比べ、この国の大人共は本当ダメね。兄上はなにをやっているのかしら。サシェル、あんたももっとしっかりしなさい!」
「私は魔法だけあればいいですからー」
といつもの感じでゆーるく回答した。
「本当、なんでこんな子に…」
とアニールさんが言うと、ライールさんが、
「間違いなく姫の影響ですね」
「なんですって!」
「何度、騎士団が姫の脱走を追いかけている場面を見ていたとお思いですか」
「そんなこともあったわね~」
そういってアニールさんは笑っていた。
「あの、ありがとうございます。お礼にこちらどうぞ」
私がそう言うとリリアがすっと二人の前に二つずつ小瓶を置いた。
「あら、この青い小瓶は例のウトリルの化粧肌専用水ね!」
「はい、そろそろ以前お渡ししたものがなくなるころかと思いますので」
「本当これすごいわよねー。これなしって生活がもう考えられないわ!」
「本当です! 私もこれは手放せません!」
とアニールさんとカミラさんは青い小瓶を手に取りながら言った。
「それとこの緑色の方は?」
とアニールさんが私に聞くので、
「こちらは販売時期未定の、髪の毛専用の美容水です」
私がそう言うと、二人は目を見開き、
「け、化粧肌専用水と同じような効果があるのかしら?」
「そうですね。少し違いますが、是非少し手に出して、手のひらで伸ばして髪の毛につけてみてください」
すると二人は瓶の蓋を取り、中の液体を手に出して伸ばして髪の毛につけた。
そして、
「こ、これもすごいわ!! 子どもの頃のような髪の毛のつやとしっとり感!」
「なにこれ!! こんなに髪の毛が綺麗になるの!」
と二人は大変喜んで、効果を話し合いだした。
そして、
「こ、これはいつ販売するの!!」
「あ、ま、まだ未定です…。あんまりお金が集まるのも怖いので…」
「そ、そうなの…残念だわ…」
「あ、いえ、奥様方には定期的に特別にお渡ししますよ! 既に作ることはできますので!」
と私が言うと、アニールさんが、
「わかったわ、責任もって健全な孤児院を作るわ! こ、これもよろしくね?」
「はい!」
「サシェル!」
「なんですか母上ー」
「この子やこの家に警備を回しなさい。何があっても悪い奴に触れさせないように!」
「あーそれは大丈夫ですよ母上。国の暗部が張り付いてますから」
「あら? 何かあるの?」
「何かあるもないも、こんなもの作れるんですから、そりゃ国も注目しますよ」
「それもそうね。でもそれなら安心だわ。でもジョルト子爵家は? 私あまりいいイメージがないのだけれども」
「あー、そっちは逆にライールが目を光らせてるんで」
「そう。ライール君、しっかりやるのよ? この子はこの国の宝よ?」
「承知しております。身命をとして」
「お気遣いありがとうございます」
と私が頭を下げると、
「とんでもないわ。私達の方こそ、なんだか心が洗われるようだわ。さーってカミルさん帰って早速準備するわよ!」
「ええ、お義母様!」
「あ、こちら、娘様の分もございますので…」
と私がいうとリリアが更に2本机の上に置いた。
「嬉しいわ。あの子も化粧する機会も多くなってきたし、愛用させてるのよ! 今度連れてくるわ! 年も15歳で近いから是非仲良くしてやって」
とカミラさんが言った。
「はい、機会がございましたら是非」
そうしてウトリルの収益の一部を、フィレス公爵家が新しく作る孤児院に寄付し、王都での新規孤児院の設立と、王都及び公爵領の孤児の就業支援を公爵家が打ち出したのは、それから2週間後だった。




