思っていたより
暫くすると樽を持ったアリオンが入ってきた。
「キッチンに置いとくぞ?」
「お願い! セリス、リリア! 行きましょう!」
そう言って私達はキッチンに向かった。
「ふぅ、できました。さっきよりイメージも具体的だと思います」
「どれどれー」
私がスプーンですくって手の平に垂らして薄くのばすと
「こ、これは! 売れるわ! 間違いない! 見て!」
私はそういうと手を見せた。
最近はちゃんと食べているので、いく分ましになったとはいえ、まだまだ荒れ放題だった私の手の平がみずみずしい感じなっている。
「うわっ! すごい! 私も!」
「私も私も!!」
そういって、リリアとセリスも自分の手の平やほっぺに塗った。
「こ、これは、私達でこれだけ効果があるなら、化粧で肌が荒れている大人の女性はすごいことになりますよ!」
とセリスが言った。
するとライールさんが入ってきて、
「できたのか?」
「完璧よ!」
「多分あいつもそろそろ来ると思うんだが…」
すると玄関の方から風が流れたと思うと、ふわーっと空を飛んで一人の男の人がキッチンまで入ってきた。
「噂をすれば」
その人はキッチンに着地すると、
「ライール、久しぶりに連絡してきたと思ったら、私にとって面白いことってなんだい?! 君が言うぐらいなんだから期待していいんだろうね???」
と言った。
「あぁ、てかお前、公爵家当主なんだから挨拶しろよ」
ライールさんが呆れたよう言うと、
「これはこれは失礼。私はフィレス公爵家現当主、サシェル・フィレスです」
そう言うと片腕を下にして、片足を後ろに回しつつ、完璧な男性貴族の挨拶をした。
「こいつは公爵だ。ただ、変人でな。魔法バカなんだ。ただ、天才でもあってこの若さで魔法師団の師団長だ。他の貴族連中なんて眼中にもないから、だからかなんでか昔から気があってな」
「ふふふ、ライールがこんなところで子どもの世話をしているなんてね」
「あー、そりゃー言えねーことが多いんだが、俺が世話してるわけじゃねーんだ」
「そうなのか?」
「あぁ、今回お前に協力をお願いしたいのも、こいつらが勝手に作ったもんだ」
「へぇ」
そう言うと、フィレス公爵は少し腰を曲げて、顎を指でつまみながら私達をじろじろ見てきた。
「初めまして。フィレス公爵閣下。ジョルト子爵家が次女フィオラと申します」
私がそういって、スカートの両端を少しつまみ上げて、ライールさんにならったカテーシーをした。
「へぇ、随分しっかりしているね。でも、夜会とかでは見たことないな。ジョルト子爵と言えば、奥方も娘も含めてそういうの大好きなはずだけど」
「私はつい最近引き取られたばかりですので」
「そうだったんだー。それでそのフィオラ嬢が何を作ったんだい?」
「これですわ!」
そういうと私は置いてあったボールを持ちフィレス公爵の目の前に出した。
「んー…水? あれ、でも少し違うような…」
「どうぞ手にすくってみてください!」
私がそう言うと、リリアがスプーンをすっと持ってきた。
使用人モードね。
「どれどれ……おお? これは???」
「サシェルどうだ? なんでも化粧肌専用の水だそうだ。お前の母君には定期的に無料でプレゼントする代わりに母君に広めてもらえないか?」
「なるほどなるほど…これは…魔法のような感じがするけど、魔法ではないね…」
「詳細は秘…」
とライールさんが話をさえぎってフィレス公爵が、
「フィオラ嬢!! これはどうやって作ったんだい!!! 魔法の力を感じるけどどういうことなんだい?!?!?!?! 世紀の大発見だよこれは!!!!!!!!!!!」
そう言ってボールを持つ私の手を握って、目の前に迫ってきた。
すると、ライールさんが後ろから出てきて、フィレス公爵のジャケットの襟を持った。
「ったく、お前は変わらねーな! 詳細の製法は秘密だ! お前であっても言えん!」
「ライールそんなことを言うな! これはすごいことだぞ!! お前はこの凄さがわかっていないだろ!!!」
「ああ、もう、ざっくりはわかってるわ!」
というとごつんとフィレス公爵を殴った。
ええ、公爵殴るなんてもう不敬罪で捕まるわよ?!
「それならどうして! こんな事象私すら見たことないんだよ!!!!」
と、フィレス公爵はライールさんに取り押さえられながらギャーギャー言っている。
「そういうわけで、こいつはこれぐらいの魔法バカでな。だから別にこんなことしたって気にもしないわけだ」
「そ、そうなのね…」
「んで、サシェル。これ売れるか?」
少し落ち着いたフィレス公爵は、
「売れるに決まってるだろ。しかも超高額になるだろうな。いくらで売るんだい?」
「サシェルならいくらだ?」
「1本どれぐらいの量で売るんだい?」
「これぐらいの瓶を考えてます」
私はそう言うと大きめのスプーンを縦にした。
「ふむ、効果は永続的かい?」
「いえ、1日で切れるはずです」
「量産は?」
「できません」
「なるほど…。なんとも悪魔のような商品だ…」
「んでいくらだよ」
フィレス公爵は少し考えると、
「1本10万ゴルド」
「まじかよ」
「多分1本100万ゴルドでも売れるけど、あまりに富が集中すると狙われる危険が格段に上がるから、それぐらいの価格で、品切れ状態を継続させて、渇望させた方がいい」
「なるほどな」
オフィールの交渉で1本分100ゴルドになった水が、セリスの付与で1本10万ゴルドになった…。
100本売れば、これだけで1000万ゴルドの収入を得ることになる。
思っていたよりとんでもないものを作ってしまった…。
私は驚愕しつつ周りを見ると、皆も唖然としていた。
「んでサシェル、協力してくれるか?」
「二つ条件がある」
「なんだ」
「一つ目は私の母の分だけでなく、妻と娘の分も定期的に欲しい」
「いいだろう」
「二つ目は、私が死ぬまでの間でいいから、必ず私の意識があるうちに製法を教えてくれ。真似したいとかじゃない。純粋に知りたいんだ私は」
「わかった」
「では、小瓶を宣伝用含めて10本3日後までに準備してくれたまえ!」
「わかりました!」
「取りに来ればいいかい?」
「いんや公爵家に届けるよ」
「そうかい、ではそれでお願いするよ。あ、反響が凄いことになると思うから、ブランド名と販売時期も一緒に添えて置いてくれ」
「了解だ」
「ではフィオラ嬢。またどこかでお会いしましょう」
と貴族の挨拶をするとフィレス公爵はふわーっと空を飛んで出ていった。
そして、3日後にフィレス公爵家に小瓶とブランド名と販売時期を記載したメモを届けた。
ブランド名はみんなと考えた結果、ウトリルとなった。
「うっとりする」を短くした感じだ。
販売時期は丁度1カ月後。
そしてその次の日にフィレス公爵家の夜会があったようで、反響がものすごかったようだ。
フィレス公爵のお母様は、現王の実妹らしく、いわゆるお姫様だった人だ。
そしてフィレス公爵の現夫人は社交界の華と呼ばれている人で、次世代の社交界を仕切る人と言っても過言ではないらしい。
そんな二人が、あの水を夜会の前日から使い、その驚くべき効果を実感し、夜会で宣伝用の水を使って広めてくれた。
フィレス公爵が急遽ライールさんの所に使いをよこし、問い合わせが大変だから開店前でいいから早く店を明確にしてほしいとのことだった。
大急ぎで店舗を借りて、皆で開店準備を始め、義賊の活動は一時休止して、化粧肌専用水の準備に専念した。
そうして1カ月後、ウトリルは王都の貴族街の端に小さなお店をオープンさせた。
そして丁度時を同じくして、地下拠点も出来上がった。




