【ルイン視点】次から次へと
「ルイン様、ご報告にあがりました」
「エリオートか。聞こう」
「王都の郊外で噂されていた旅人狩りの集団ですが、現場を押さえましたので、騎士団と協力して拠点まで乗り込み全員捉えました」
「よくやった。引き続き頼む」
ライールというかフィオラ嬢が義賊活動を開始してから、俺は暗部に指示して義賊の対象になりそうな裏組織や活動をつぶした。
多少強引なものもあったが、義賊に先を越されると、民衆の心が離れてしまう。
街では、国と義賊の摘発合戦と噂され、義賊が多くの金品をその場に残していくことも知られ、民衆は義賊来てくれないかなと心待ちにしている。
あっという間だった。
本当にあっという間に広がってしまった。
それほど、民衆はこれまでの国の動きに疑問を持っていたということなのだろう…。
父上を説得し、騎士団まで借りて、王国のもてる戦力総動員で王都の大掃除となった。
しかしそれでも、最初は義賊に何件か先を越されてしまった。
一体どんな情報収集能力をしているんだ…。
こっちは国の全戦力と言ってもいいぐらいを総動員してるんだぞ…。
しかし、最近は流石に国の物量が勝っているのか、義賊の活動は聞かなくなった。
こっちは一気に大量の無法者を捉えることとなり、牢が足りなくなり夜通し審判を行わせている。
小さいところはまだいくつも残っているが、大きい組織の掃除は大体できた。
義賊も貴族の裏活動には手を出さないようだ。
貴族の裏活動に手を出されていたら、本当に危なかった。
貴族が絡んでくるとなると、しがらみやバランスで、こちらがそれほど強引に動けないにも関わらず、あっちは躊躇なしにやれる。
そして民衆はそれを称える。
本当に義賊に国が乗っ取られるところだった。
フィオラ嬢は本当に一体何を考えているんだ…。
「ルイン様」
「ザッハか」
「はっ。ご報告がございます」
「どうした」
「2週間ほど前に、ウトリルと言う新規の化粧品ブランドがオープンし、貴族女性の間でそれはもう驚くほどの人気になっています」
「知っている。私も母上から手に入れてくれと頼まれた」
「はい。もう毎日12時オープンだと言うのに、前の日の深夜から貴族や豪商の使用人が行列を作っています」
「知っているが、それほどまでなのか? 俺は興味がないからわからんが」
「私にもわかりかねますが、1本10万ゴルドという超高級にもかかわらず、開店して10分で毎日売り切れています」
「とんでもない収益になりそうだな」
「はい。そしてどうもその化粧品、ライール達が作っているのではないかと考えられます」
「はぁ?!」
「ウトリルを一番最初に貴族社会に持ち込んだのは、フィレス公爵家です」
「サシェル義兄様のところか」
「はい。サシェル様はライールと旧知の仲です。そして販売元はフィレス公爵家ではないようです」
「なるほど…ライールがサシェル義兄様に頼んだと…」
「恐らく…そしてサシェル様はこういっては何ですが、自由な方なので…サシェル様の母君も…」
「あぁ…確かにな…サシェル義兄様を呼んできてくれ……」
「承知しました」
ザッハはそう返事をすると音もなく消えた。
そして俺は頭を抱えた。
もう次から次へと頭が痛い…。
今度は化粧品だと?!
しかも1本10万ゴルドで飛ぶように売れている?!?!
一体どんなものを作ったらそんなことが可能になるのだ?!?!?!
何を考えているフィオラ嬢!!!
もしこれが続けば貴族のお金が、ウトリルに集中する。
何が狙いだ…。
お金…経済……。
ま、まさか!!!!!!!!!!!!
以前義賊の武器に魔法剣のようなものが確認された。
回収した縄も魔法師団で鑑定してもらったところ、詳細は不明だがなんらかしらの魔法のような力が感じられるとのことだったが、そこまでしかわからなかった。
義賊で民衆の心を国から離し、経済を回収する。
そして我々では鑑定不能の縄と魔法剣のようなものの存在。
まさか、帝国の差し金か!!!
フィオラ嬢が帝国と何らかしらの繋がりがあるとは生い立ちからも考えにくい。
しかし母親は……。
もしそこから帝国と繋がっていたら…。
これはまずい!
俺の目が目の前のことにとらわれ過ぎていた!!
「誰か!」
と俺が言うと外に控えている侍女が中に入ってきた。
「エリオートを至急呼んできてくれ! まだ休憩所にいるはずだ」
と俺が言うと、侍女は「かしこまりました」と駆け足で出ていった。
暫くすると、エリオートが部屋に入ってきて、
「お呼びとのことで」
「エリオート、すぐにフィオラ嬢の母君のことを探ってくれ。帝国とのつながりがあるかもしれない。小さなことでもだ!」
「承知しました」
エリオートはそう言うと部屋を出ていった。
それと入れ替わるように、ザッハとサシェル義兄様が入ってきた。
「なんだか穏やかじゃないね~」
サシェル義兄様はいつも通りゆるーい感じで話してきた。
「サシェル義兄様、単刀直入にお伺いします。ライールの化粧品に協力しましたね?」
「なーんのことだか」
「国を裏切るおつもりですか?」
俺がそういうと、サシェル義兄様は少し驚いた表情をした後に笑い出した。
「あはは、面白いことを言うねルイン(笑) あーなるほどなるほど、そういう発想の転換か(笑)」
「義兄様答えてください」
「ふふふ、私は国を裏切ってなんかいないよ。ただ、ライール達のことを話すつもりもないよ? 彼は私の数少ない友人なんだ」
「結果的にそれが国を裏切ることに繋がってもですか?」
「あはは、ルイン、暗部に染まってるね。私はライールから水を受け取り、それを母上や妻にプレゼントした。そしたら話題になっちゃった。それだけだよ?」
「それは間接的に協力しているということでしょう」
「それの何がいけないんだい? その代わりに、並んでも買えない超希少な化粧品を、母や妻、娘の分まで私は融通してもらっているんだ」
「ぐ…しかし!」
「ふふふ、ルイン、幼い頃から優秀だったけど、少しデビューが早かったかな? やっぱり学院には行った方がよかったんじゃない? もう少し人と言うものを考えてみるといいよ。あ、これ、前にもらったやつ一本残ってるからあげるよ。母上にでも差し上げたらどうだい?」
そう言うと、サシェル義兄様は異空間収納から、一本の小瓶を取り出した。
「ルイン、私は一切悪いことなんてしていないよ。そのことをちゃんと覚えておいてね」
そういうとひらひらと手を振って出ていってしまった。
「ザッハどういう意味だと思う?」
「難しいですね…サシェル様は天才ですからね……こちらの小瓶どうされますか?」
「……母上に渡す……」
俺はそう言うと小瓶を持って部屋を出た。
人と言うものを考えてみる……。
ダメだ。全くわからない…。
ただ、とりあえずは帝国の関与の線をつぶさないことにはどうにもならない。
方針は一旦変えない。
しかし、こちらが常に後手に回っている…。
常にあっちが一手早い…。
フィオラ嬢…一体何者なのだ……何を考えている…。
そして俺は小瓶を母上に渡し、その翌日、ひと月ほどで無くなりそうだから必ず次のものも確保するようにと、それはもうびっくりするほど強く依頼された。




