【ルイン視点】聞いているのが嫌になる
「皆よく戻った。報告を頼む」
ザッハから聞いた様々な衝撃的な事実。
それらを現状で何とか解決に繋げるために、俺はジョルト子爵及びフィオラ嬢の周辺情報を、暗部を総動員して5日で探らせた。
そして今俺の執務室に10人の全メンバーがいる。
「はっ。私の方でまとめておりますので、私より一通りご報告いたします」
とザッハが一歩前にでた。
「頼む」
「まずジョルト子爵とフィオラ嬢の血のつながりは、あるようです」
「そうなのか。てっきり珍しい白髪だから買い取ったのかと思っていた」
「はい。フィオラ嬢の母君は、フィオラ嬢が以前住んでいた娼婦寮が運営する娼館で働いており、若い子爵が母君にのめりこんでしまい、領地の指輪まで渡して子供を作ってしまったようです」
「領地の指輪を渡すなんてアホだな…」
「母君は特にそれで借金等はしなかったようで、今回それは特に問題にならなかったようです」
「なるほど。それで」
「今回一人娘のアマレーヌ嬢に、ウィルオス伯爵の次男アルジェとの婚約をウィルオス伯爵側から打診されたようです」
「アルジェ…知らないな…」
「アルジェ氏のことも調べましたが報告しましょうか?」
「簡単でいい」
「現在15歳のアルジェ氏は、言ってしまえば貴族のお坊ちゃんの悪い部分を体現したような人間ですね。執務もせずに部屋に閉じこもっているのでたいそう太っており、女の使用人を侍らせいかがわしいことを」
「もういい…」
「それで子爵は、婚約の打診が娘をと言う記載だった為、隠し子のような存在であったフィオラ嬢を引き取り、身代わりにしようと考えているようです」
「婚姻の打診を断ってしまえばいいだろう」
「それがどうも子爵本人が、ウィルオス伯爵が手掛けていると噂されてる、招待制の非合法な賭博とストリップショーを組合わせた、「夜の帳」と言う名の変態達の集まりの常連なようで、その際の賭博でどうも伯爵にかなりの額の借金があるようです」
「本当クズばかりで聞いているのが嫌になってくる…」
「今回の婚約を受けるとその借金が帳消しになるという条件付けがされているようです」
「なるほどな…」
子爵がフィオラ嬢を引き取った意図は、一人娘の身代わりで間違いないな。
しかし一人娘のアマレーヌ嬢…。
あまり覚えていないが、それほどまでして守りたくなるような感じだっただろうか…。
「フィオラ嬢の方はどうだ?」
「はい。フィオラ嬢は、お母様が子爵を待っているということを話されていたようで、5歳の時に亡くなった母親の形見を、母親がずっと待っていた父親の元へいつか連れて行く為に、目立たないように生活してきたようです」
「…そうか…」
「残念ながら、フィオラ嬢の方は、小さい頃からうまくスキル持ちの子達を活かしてきたようで、殆どその情報を得ることはできませんでした。しかし、スキル持ちの女の子の名前はリリアと言うようです。フィオラ嬢が7歳頃からずっと友達のようです」
「なるほど…」
「寮の管理人に賄賂を握らせたところなんでも話してくれたのですが、フィオラ嬢は教会の鑑定水晶ではスキルがなかったようです。しかし、例の郵便屋を主導していたのはフィオラ嬢であると予想されます」
「そ、そうなのか?! スキル持ちの男子では???」
「違うようです。周辺で聞き込みを行ったところ、基本的にフィオラ嬢が彼らの前を歩いて引っ張りまわしている感じだったと」
「なんと…」
「そして2年ほど前に、鍛えてくれる人を探していると、仲の良い商店街の人に聞いて回っていたようで、恐らくそれでライールに行きついたのかと」
「なるほど…ということは、ライールが集めたのではなく、フィオラ嬢が集めてライールを巻き込んだということか…」
「恐らくは。これはあくまで推測ですが、2年前と言えば私が足取りを追っていたタイミングですので、恐らくそれに気づき対策したのだと思います」
「決断が早いうえに、ライールと巡り合う運まで持っているということか」
「はい。そこからは以前ご報告させていただいていた通りです」
「なるほど。フィオラ嬢をライールが守る理由は?」
「申し訳ありません。不明です」
「そうか」
フィオラ嬢がこの人間達を裏から主導していたと考えるのが妥当だろう。
しかし、それほどの人間達がなぜそこまでフィオラ嬢を重要視する?
ただ、裏から指示しているだけでは、自分たちの価値に気が付いた時、人心なんて一気に離れるぞ。
ライールはそれもわかっているはずなのに、だが自分の人生を賭けるぐらいの想いを感じる。
フィオラ嬢はただ指示を出しているだけではない…。
「子爵家はどうだ?」
「それは私の方から」
そういうとエリオートが一歩前に出た。
「よろしく頼む」
「子爵家領地の中心は、王都リオレイアの西に馬車で7日ほどの所の街ラビオナです。平野にある街で、海辺と王都の中継地として出来上がった町です」
「知っている」
「現在の領地運営は下の上と言った辺りです。領民はギリギリなんとかなっているが、これより経済状況が下がると暴動もあり得ます」
「それはもう領地運営しているとは言わないだろう」
「子爵も王都にいることが多いようで、基本的には代理人である名士任せのようです。名士はそれをいいことに、税を自身に横流しして私腹を肥やしております」
「はぁ…」
「しかしそれにもかかわらず領地がギリギリなんとかなっているのは、子爵家から時折領民の為と言う名目で食料カゴの支給があり、そのカゴの底には現金が入っているようです」
「別に悪いことではないが、子爵はウィルオスに多額の借金があるのでは?」
「はい。これらの資金源は別でして、海の向こうの大陸から輸入している神経系の薬」
「ま、まさか、トリップか?!」
「はい」
俺は頭を抱える。
トリップは麻薬とは違い、違法性がない薬物をある割合で混ぜ合わせ薄めて温めて揮発させ、その揮発成分を吸引することで、幸福な感覚が得られるというものだ。
そして麻薬と同じく依存性がある。
違法性のない薬物が基本となっていて、その薬物自体は塗料として活用されている為、非常に規制が難しいものだ。
「フィオラ嬢を調べるはずが随分と大事に…」
「はい…。また子爵の奥方は領地に2名、間男を囲っています」
「………」
「余談になりますが、一人娘のアマレーヌ嬢も、既に生娘ではないようです」
「おいおい、娘はまだ成人していないだろう。しかも貴族家の一人娘だぞ?!」
「はい。どうもお遊び感覚で、学院の同年代のライデン男爵家の三男と既に」
「おいおいおいおいおいおい……」
「さらにはその後に他の貴族の子弟とも」
フィオラ嬢の事とは違う話だが、俺は現状の貴族社会に愕然とした。




