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元主婦、異世界で暗殺者となり世界を救う ~裏切られたので暗殺ギルドごと王国を乗っ取りました~  作者: 凪塩 未来


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第6話:五歳の夜

第5話をお読みいただきありがとうございます!


募る不安と、決して揺るがない家族への誓い。ついに時は満ち、物語は最も重大な局面へと突入します。今回は少し長めに、アルスが五歳を迎えた夜の激闘をお届けします。

王城の夜は深い静寂に包まれていた。

月明かりが冷たい石畳を照らし出し、城内の窓から漏れる微かな灯りだけが、この巨大な要塞が生きていることを証明している。


育児室のベッドの上で、小さな寝息を立てていたアルスが、ふと目を覚ました。

「……あれ?」

寝起きのあどけない声を上げながら、アルスは体を起こす。その瞳に映る月光は、いつもの純粋な子供のそれではなかった。ぎらりと底知れぬ漆黒の闇が渦巻き、その幼い肉体から、周囲の空気を歪ませるほどの強烈な圧力が放たれていた。


「……お母さん?」

アルスが呟いた瞬間、部屋の壁にかけられていたタペストリーが、理由もなく激しく引き裂かれ、床に落ちた。

彼の身体の周囲に、見えない殺気の刃が暴風のように吹き荒れている。

――覚醒。

予言されていたその日は、まさに今日、五歳の誕生日の夜だった。悪魔としての力が、完全にその封印を解き放とうとしていたのだ。


「遅かったわね、アルス」


静寂を破り、部屋の隅の暗がりから低い声が響いた。

そこに立っていたのは、メイド服の上から黒い革の防具を身に纏い、手には冷たく光る暗殺用の短刀を構えたセーラ――宮内茜だった。

その表情に、かつて乳母として慈しんだ優しい笑みは微塵もない。あるのは、家族を守るためだけに研ぎ澄まれた、凍てつくような死神の眼光だけだった。


「……セーラ、おねえちゃん?」

アルスが首をかしげる。その小さな手が宙を掻いた瞬間、凄まじい衝撃波が茜を襲った。

ガァッ! と床が砕け散り、茜の身体は勢いよく後ろの壁へと叩きつけられる。


「っ……!」

口元から一筋の血が伝う。

だが、茜は怯むどころか、鋭い笑みを浮かべて地面を蹴った。

「甘いわね!」


一年の過酷な訓練と、二年に及ぶ王城での潜伏生活。そして何よりも、我が子を奪われる恐怖を知る母親の執念が、茜の身体に常人離れした反射速度をもたらしていた。

茜の戦い方は、騎士のような華麗な剣術ではない。一秒でも長く生き残り、確実に急所を狙う、泥臭く非情な殺しの技だ。


アルスの放つ漆黒の光の刃が、茜の頬をかすめ、黒髪を焼き焦がす。

熱い。肌が焼けただれるような激痛が走る。

それでも茜は一歩も引かなかった。右手に握った短刀を逆手に持ち替え、アルスの懐へと一気に飛び込む。


「ぐっ……あぁぁぁっ!」


アルスの全身から、周囲を焼き尽くすような神聖にして邪悪な光――悪魔の覚醒に伴う暴走のエネルギーが爆発した。

その眩すぎる閃光が茜の視界を白く染め、皮膚を容赦なく抉っていく。全身が悲鳴を上げ、意識が遠のきそうになる。

(ここで倒れたら……健太は? あなたの父親は……? 私の日常は、どうなるのよ……っ!)


頭の中で、家族の笑顔が鮮やかに蘇る。

負けるわけにはいかない。こんな世界の怪物ごときに、愛する日常を奪われてたまるものか。


「ごめんね、アルス」


涙が、茜の頬を伝って一筋流れた。

それは敵に対する同情か、あるいは母親としての最後の慈悲か。

だが、その手を止めることはなかった。


茜は全身の力を振り絞り、アルスの放つ防御壁の隙間をこじ開け、その手元の短刀を一直線に突き刺した。

肉を裂く鈍い音。

世界を滅ぼすはずだった運命の心臓を、主婦の手が正確に、そして冷酷に貫いた。


部屋を包んでいた眩い光が、嘘のようにスッと消え去る。

「……お、かあ……さん……」

アルスは小さな呟きを残し、その小さな体から力を失って、ふわりとベッドの上に崩れ落ちた。

静寂が戻った部屋に、茜の荒い息遣いだけが響いていた。


自分の手を見下ろす。

そこには、温かな夕食を作っていたはずの主婦の手ではなく、真っ赤な返り血に染まった、冷酷な暗殺者の手ががあった。

戦いは終わった。

だが、茜が平穏を取り戻す道は、この血塗られた夜の向こう側へと、さらに深く続いていくのだった――。

第6話「五歳の夜」をお読みいただきありがとうございました!


ついに訪れたアルスとの決着、そして激しい死闘の行方を描きました。母としての涙と、家族を守るための容赦ない執念が交錯するシーンとなりましたがいかがでしたでしょうか?

次回、第7話「主婦の手は血に染まる」では、暗殺を完遂した茜を待ち受ける新たな運命の歯車が動き出します。よろしければブックマークや評価、感想をよろしくお願いいたします!

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