シーズン2 第7話:裏切りの皇子
シーズン2第6話をお読みいただきありがとうございます!
皇宮の茶会で第2皇子にワインを浴びせかけ、見事に情報を引き出した茜。第7話では、その傲慢な皇子を逆に裏から手懐け、帝国の中枢を内部からかき乱す知略の駆け引きをお届けします!
ガルド帝国の首都、その夜の帳が降りる頃。
帝都の一角にある豪華なプライベートサロンで、第2皇子――ルキウスは、高級なブランデーグラスを片手に苛立ちを隠せない様子でソファに沈み込んでいた。
「くそっ……! あの女、ただの貴族の夫人だと思っていたのに、よくもこの私に恥をかかせてくれたな!」
昼間の茶会でワインをかけられた一件が、彼のプライドを激しく傷つけていたのだ。
「皇子殿下、お怒りはごもっともです。ですが、あの正体不明の婦人、ただ者ではありません。皇宮の厳重な警戒をすり抜け、しかも誰一人として身元を正確に把握できていないのです」
側近の宰相補佐が冷や汗を拭いながらそう進言すると、ルキウスは険しい顔で眉間を寄た。
「ふん、調べればすぐに尻尾を掴めるさ。見つけ出し、この手で徹底的に屈服させて――」
「――お探しですか?」
突如、部屋の隅の暗がりから、凛とした冷ややかな声が響いた。
「なっ……! 誰だ!?」
ルキウスが飛び上がるように振り返ると、そこには影からスッと姿を現した、あの昼間の黒いドレスの女性――宮内茜が優雅にたたずんでいた。護衛をすり抜け、いつの間に部屋の奥に入り込んでいたのか、気配すら感じさせなかったのだ。
「き、貴様……! よくも私の私室に……! 衛兵! 誰か――」
「叫んでも無駄よ。外の衛兵たちは全員、今頃心地よい眠りについているわ」
茜がフッと冷笑を浮かべると、その圧倒的な気迫に気圧され、ルキウスは思わず言葉を呑み込んだ。
普通の貴族の夫人であれば見せない、凍てつくような死神の眼光。それが目の前の美しい女性の瞳に宿っていた。
「な、なんだお前は……。一体、私に何の用だ」
ルキウスは冷や汗を流しながら、震える声で問いかけた。
茜は優雅に歩を進め、ルキウスの目の前のソファに勝手に腰を下ろした。まるで、しつけのなっていない子供を諭す母親のような、呆れたような目を向ける。
「第2皇子ルキウス。あなた、お兄さまである第1皇子や、後ろ盾である神殿勢力にいいように使われて、今の地位すら危うくなっている自覚はあるのかしら?」
「なっ……! なぜそれを……!」
「見ればわかるわ。頭の悪い子供が、無理して大人のイスに座りたがっているようにしか見えないもの。このままじゃ、あなたは利用されるだけ利用されて、最後には用済みとして消し去られる運命よ」
核心を突いた茜の言葉に、ルキウスの顔色が一気に青ざめた。
図星だった。皇帝の座を巡る権力闘争において、ルキウスは兄である第1皇子に押され、さらに後ろ盾であるはずの神殿からも駒の一つとしてしか見られていないことを、彼自身が一番よく分かっていたからだ。
「くっ……! 私とて、このまま黙っているつもりはない! だが、兄上も神殿も強大すぎる……! 私にどうしろと言うのだ!」
ルキウスが絶望混じりに吠えると、茜はふわりと美しい微笑みを浮かべた。
その笑顔は、かつて数々の難題を機転で乗り切ってきた最強の主婦が、愚痴をこぼす隣人に手を差し伸べる時のそれによく似ていた。
「簡単なことよ。私と手を組みなさい」
「……は?」
「私があなたの背中を押してあげる。兄を失脚させ、神殿の鼻を明かし、あなたを帝国の次期皇帝にしてあげるわ。もちろん、私の言う通りに動くという『正しい家計のルール』に従うことが条件だけどね」
ルキウスは呆然と茜を見つめた。
目の前の女が何を考えているのか分からない。だが、その瞳に宿る絶対的な自信と底知れぬ力は、彼に「この女に従わなければ殺される」という本能的な恐怖と、同時に「この女についていけば勝てる」という奇妙な確信を抱かせるのに十分だった。
「……わ、分かった。お前の言う通りにする。だから、私を助けてくれ」
ルキウスが頭を下げた瞬間、茜の唇に満足げな笑みが浮かんだ。
帝国の第2皇子を手玉に取り、内部からガルド帝国を完全にコントロールするための「最高の手駒」が、ここにしっかりと組み込まれたのだ。
(ふふ、反抗的な子供をしつけるのは大変だけど、うまく手懐ければこれほど頼もしい駒はないわね)
王国の女王であり、裏社会の支配者である宮内茜の知略は、いよいよガルド帝国の中枢そのものを内側から食い潰していく。
シーズン2第7話「裏切りの皇子」をお読みいただきありがとうございました!
傲慢な第2皇子ルキウスを鮮やかに手懐け、自分の配下(駒)にしてしまう茜の圧倒的な交渉術と知略を描いたスリリングな回でした。帝国崩壊へのカウントダウンがさらに加速します!
次回、第8話「神殿の地下牢」もお楽しみに!よろしければブックマークや評価、感想をよろしくお願いいたします!




