シーズン2 第2話:隣国の使者
シーズン2第1話をお読みいただきありがとうございます!
平和を取り戻したクタバレ王国に突如として突きつけられた、大国ガルド帝国からの「隷属化」の要求。第2話では、高圧的な帝国の使者と、我が国(我が家)を守る新女王・茜のガチンコ外交対決を描きます!
クタバレ王国の王宮・大謁見の間。
かつては腐敗した貴族たちが私腹を肥やし、怯えた前国王が座っていたその玉座に、いまや宮内茜は堂々と腰掛けていた。
大理石の床を重々しい足音で鳴らしながら、一人の男がズカズカと進み出てくる。
ガルド帝国の特命全権大使――バルトルド。
全身を威圧的な黒い魔導甲冑に包み、顔には傲慢な笑みを張り付けた巨体の男だ。彼は周囲に控える王国軍の兵士たちを一瞥し、鼻で笑った。
「ほう、これが噂の新女王か。聞いていた通り、若い女が一人で玉座に座っているとはな」
バルトルドは礼儀もわきまえず、堂々と王の前に立ち塞がった。周囲の側近やミリアンダが険しい表情を浮かべ、殺気を匂わせるが、茜は微動だにせず、優雅に足を組んだまま冷ややかな視線を返した。
「ガルド帝国の特命全権大使殿ね。アポなしで我が国の国境を越え、挙句の果てに『全主権の譲渡』を要求する書状を叩きつけてきた、非常識なお客様でよろしかったかしら?」
茜の鋭い声音に、バルトルドは不敵な笑みを深くした。
「おやおや、言葉の選び方に気を付けるんだな、小娘。我がガルド帝国は大陸の覇者だ。貴様のような弱小国が、勇者を失って混乱している隙に独立を保てていること自体が分不相応なのだよ。今日から我が帝国の直轄領となり、年間予算の八割を上納しろ。さもなくば――この王都を地図から消し炭にしてやる」
圧倒的な武力と大国の権威を笠に着た、露骨な脅し。
通常の国の王であれば、恐怖に震え上がり、屈服せざるを得ない絶対的な圧力だった。
だが、茜の脳裏に浮かんでいたのは、かつて近所の悪質な訪問販売や、理不尽なクレーマーの姿だった。
(……予算の八割を上納? はっ、どこの詐欺業者よ。家計を完全に無視した、頭の悪い数字並べやがって)
茜はふうと小さく息をつき、氷のように冷たい微笑みを浮かべた。
「大使殿。あなた、自分の言っていることがどれだけおバカさんか、おわかり?」
「なっ……なんだと……!?」
「我が国の財政、そして流通やインフラは、すべて私が完璧に管理し、健全な黒字化を達成しているのよ。そこに寄生虫のように現れて『予算の八割を寄越せ』だなんて、どこの世界に我が家の大切な生活費をドブに捨てる親バカがいるっていうのよ」
「き、貴様……! 帝国を愚弄するか! 我々がその気になれば、数個の魔導要塞でこの王都など一瞬で――」
バルトルドが怒りに任せて怒鳴り声を上げ、魔導の力を込めようとした、その瞬間だった。
ガチャンッ!
大謁見の間の扉が一斉に開き、屈強な近衛騎士団、そしてその背後を隙なく固める暗殺ギルド『カナリア』の精鋭たちが、一斉に鋭い殺気を解放した。その数は大使が連れてきた護衛の何倍にも及ぶ。さらに、窓の外を見れば、王都の防衛魔導砲がすべて正確に帝国の使節団の頭上をロックオンしていた。
「――おや、威勢がいいけれど、ここは我が家の敷地よ」
茜は玉座からスッと立ち上がり、圧倒的な威圧感を纏いながらバルトルドを見下ろした。
「我が国の治安と家計を脅かす不法侵入者は、たとえ大国の使者であっても容赦しないわ。――お引き取りなさい。それとも、ここで全員、二度と故郷の土を踏めなくしてほしいのかしら?」
「ぐっ……なっ……!」
バルトルドの額から、冷や汗がダラダラと流れ落ちた。
彼が連れてきた精鋭たちは、この王国の防衛網がこれほどまでに完璧に、そして一糸乱れぬ連携で自分たちを包囲しているとは夢にも思っていなかったのだ。武力で威圧できるのは、相手が弱者である時だけ。いまやクタバレ王国は、最強の元主婦によって鉄壁の要塞と化していた。
「……覚悟しておけ、小娘! 帝国の怒りに触れれば、貴様らなど数日で全滅するわ!」
バルトルドは恐怖を押し隠すように悪態をつき、部下を引き連れて逃げるように謁見の間から去っていった。
静まり返った謁見の間で、茜は小さく鼻を鳴らした。
「やれやれ、最初から最後まで品のない男ね。……ミリアンダ」
「はっ、陛下」
「帝国が本気で軍を動かしてくるわね。迎撃の準備を急ぎなさい。それと、相手の補給路をあらかじめ徹底的にマークして、一文の利益も出せないように経済封鎖の準備もしておくこと」
「かしこまりました。……さすがは陛下、すでに次の手を」
ミリアンダが感心したように深く頭を下げる。
圧倒的な軍事力を持つ大国を相手にしても、茜の表情には微塵の怯えもなかった。
我が家(王国)を守るため、そして平和な日常を脅かす者には、容赦ない「主婦の制裁」を下す。
帝国との本格的な全面戦争の足音が、静かに、しかし確実に近づいていた。
シーズン2第2話「隣国の使者」をお読みいただきありがとうございました!
高圧的な大国の使者を、鉄壁の防衛網と主婦のド正論(?)で華麗に追い返すスカッとする外交対決回でした。ここから帝国との本格的な戦争・知恵比べが始まります!
次回、第3話「暗殺者の新たな任務」もお楽しみに!よろしければブックマークや評価、感想をよろしくお願いいたします!




