シーズン2 第1話:女王の初仕事
皆様、長らくお待たせいたしました!
前シーズンで暗殺ギルドごとクタバレ王国を乗っ取り、見事「女王」へと登り詰めた最強の元主婦・茜。シーズン2では、さらにスケールアップして隣国や世界の裏に巣食う闇へと挑みます。新章第1話、ぜひお楽しみください!
クタバレ王国の王宮、その最も贅沢な装飾が施された執務室に、軽やかな紙のめくる音が響いていた。
「……ふう」
玉座に似せた特注の執務椅子に深く腰掛けた宮内茜は、目の前に山積みにされた公文書の束から顔を上げ、小さく息をついた。
身に纏っているのは、かつての簡素なメイド服や暗殺用の黒い防具ではない。女王としての威厳と気品を兼ね備えた、純白と深い藍色の気高いロイヤルドレスだった。だが、その美しい耳に挟まれた万年筆の扱いだけは、どこか手際の良い主婦のそれだった。
「陛下、本日の財政再建に関する最終報告書です」
そう言って書類を差し出したのは、かつての暗殺ギルド『カナリア』の冷酷な責任者――いまや王国の有能すぎる宰相となったミリアンダだった。その顔には、かつての冷徹な殺し屋の面影はなく、ただひたむきに働き蜂のごとく茜を支える「有能な部下」の疲労の色が浮かんでいた。
茜は差し出された書類を一瞥し、素早く数字を追いかけていく。
「……ダメね、ミリアンダ。この港町の関税に関する予算配分、少し甘いわ」
「はっ? ですが、これでも先月に比べれば税収は倍増しておりますが……」
茜はすっと眉をひそめ、シャープペンシル(異世界ではオーパーツじみた便利グッズと化している)で該当箇所を指し示した。
「税収が増えたからって、すぐにあちこちの修繕に予算を回しちゃダメなのよ。一ヶ月の家計と同じよ。予備費――つまり、もしもの時の『貯金』を全体の十五パーセントは必ずキープしなさい。それに、この商会の流通コスト、無駄な中抜きが多すぎるわ。明日までにこの業者リストをすべて洗い出して、不当な利権は容赦なくカットしなさい」
「は、はあ……! すぐに手配いたします……」
ミリアンダは冷や汗を拭いながら、すごまじい手際で国の財政を「主婦の家計簿」の如く完璧に切り盛りする茜の姿に、改めて圧倒されていた。
思えば、この国を乗っ取ってから半年が経つ。
勇者アルスの死と、前国王の退位に伴う混乱は、茜の徹底した情報工作と容赦ない不正の摘発によって完全に鎮圧されていた。腐敗しきっていた貴族制度は解体され、没収された私財は平民層への減税やインフラ整備へと綺麗に還元された。
結果として、クタバレ王国はかつてないほどの経済復興と、驚異的な治安の良さを誇るようになっていた。
「表向きの政治なんて、要するに『国の家計管理』の規模が大きくなっただけよ」
茜はティーカップを傾け、優雅に紅茶を啜る。
「無駄な出費を削り、必要なところにしっかり投資し、いざという時の蓄えを切らさない。どこの家庭でもお母さんが毎日やっていることの延長線上にすぎないわ」
「お母さん、ですか……一国の女王をそこらの主婦と一緒にされては困りますが、事実、あなたの手腕のおかげでこの国は救われました」
ミリアンダが苦笑いを浮かべた、その時だった。
重厚な執務室の扉が激しくノックされ、息を切らせた近衛騎士団長が慌てた様子で飛び込んできた。
「け、陛下! 大変でございます!」
「落ち着きなさい。いったい何があったの?」
茜が冷ややかなトーンで問いかけると、騎士団長は青ざめた顔で一枚の分厚い書状を差し出した。
「我が国の北方にある大国――『ガルド帝国』からの使者が、国境を突破して王都へ向かっております! 彼らの要求は……クタバレ王国の『全主権の譲渡』および『隷属化』です!」
執務室の空気が一瞬で凍りついた。
ガルド帝国。大陸の過半数を支配し、圧倒的な軍事力と魔導技術を誇る超大国。クタバレ王国のような中堅国など、彼らにとっては片手で捻り潰せる虫けらに等しい。
そして、その帝国がなぜ、このタイミングで突然牙を剥いてきたのか。
茜はスッと立ち上がり、その瞳の奥に、かつて暗殺ギルドを制圧した時と同じ、冷酷で美しい殺意の光を宿した。
「……私たちの作った平和な家計(国)を、荒らしに来る不届き者がいるようね」
茜はドレスの裾を翻し、冷たく言い放った。
「迎撃の準備をしなさい。――お客様には、主婦の厳しいたしなみというものを、たっぷり教えてあげましょう」
平和な統治の裏で、新たな嵐の幕が今、静かに切って落とされたのだった。
シーズン2第1話「女王の初仕事」をお読みいただきありがとうございました!
平和を取り戻した王国を主婦スキルで完璧に家計管理(?)する茜の日常から、突如現れた大国からの理不尽な要求という新展開への導入回でした。ここから帝国との壮絶な知恵比べ&無双劇が始まります!
次回、第2話「隣国の使者」もお楽しみに!よろしければブックマークや評価、感想をよろしくお願いいたします!




