ドロヌマ学園(2)
廊下を歩いている時もだが、教室に入ると生徒たちが一斉にこちらを見てくる。
ひょっとこのお面と絵にかいたような貧乏人が入ってきたのだ、当たり前のこと。
しかし重要なのは、そこでうろたえないことだ。
これがナチュラルな姿なのだと周りに思わせる。
とりあえず元気に挨拶するとしよう。
「よ、よろしくー……」
薄い声が出た。
やっべ、失敗した。
「流狩流君、とりあえず席に座ろうよ」
「そ、そうだな」
こうなったら陰キャを装うことにしよう。
縮こまりながら黒板に貼ってある座席表を確認し、名前のある席へ。
30脚ある机のうち、俺の席は右端の真ん中。
運よく帝音と席が隣だった。
苗字が「こ」と「て」だったから近くになる可能性はあったが、ここでも天が味方をしてくれたようだ。
喜びも束の間、教室のドアが開かれた。
「はーい、席につけー」
入ってきたのはガチムチではなく、ガチしかなさそうなくらいの筋肉のついた2メートル以上の身長を持った女性教師だった。
「今日からお前らの担任になった大前空だ。この学校ではクラス替えも教師替えもない。3年間よろしくな」
マジか。
あんな脳まで筋肉に侵されてそうな教師と3年間一緒とは。
「ん? おいおいお前」
「お、俺ですか?」
大前先生が俺を見てきた。
顔に何かついてるのだろうか。
「なんでひょっとこのお面をしてるんだ? 顔が見えないから取りなさい」
なるほど。
確かに入学初日からひょっとこのお面をつけてるなんて変だよな。
だが俺は外されないようにちゃんと対策を考えてきている。
「嫌です先生。俺の醜い顔を見られたくないのでこのままで卒業させてください」
最近は教師も生徒の自主性を尊重して自由な恰好が認められているからな。
「そうか……」
よし。
これで俺の素顔は見られることなく卒業まで行け——。
「では3秒以内に取らないと顔面の皮を剥ぎます」
……え?
「さん、に、いち——」
剥ぐ? 顔面の皮を?
そんな、今の時代に教師が生徒にそんな脅迫を言っていいわけがない。
何かの間違いだろう。
「ぜろ。カウントが過ぎたので黒狼君は教壇の前に来なさい。今から爪切りで皮を剥ぎます」
冗談じゃなかった‼
しかも爪切りだって⁉
「確か教壇の中に……おおあったあった」
しかも出したのはニッパー型だと⁉
「はあはあはあはあはあはあはあ……‼」
過呼吸になってしまう。
体中が震える。
これが命の危機ってやつなのか。
恐怖で動けないでいると、帝音が立ち上がった。
「先生だめですよ!」
抗議してくれた。
帝音、お前はなんて良い奴なんだ。
出会ってすぐの俺のために、あんな化け物教師に立ち向かってくれるなんて。
「それじゃあちょっとずつしか剥げないじゃないですか! 入学式に遅れてしまいます!」
フォローの仕方が違う!
俺より式優先かよ!
「確かにそうだな。じゃあ素手でブチブチやるから今すぐ来なさい。教室が血だらけになるが放課後の清掃でお前らが綺麗にするんだぞ」
皮だけでなく掃除を俺たちになすりつけるなんて。
こんな奴が教師でいいのかよ。
「さあ黒狼、早く来なさい」
「いや、あの俺——」
「なんだ、貧血か? 仕方ない、先生が行ってやるか」
大前先生が教壇から降りてきた。
「取ります取ります! だから皮だけは勘弁してください!」
「最初からそうしろバカが」
今完全に罵倒したよ。
こんなの一発退職だろ普通。
仕方なくひょっとこの仮面を外した。
すると周りから「おー」という感想が出てきた。
そうなんだよな。
俺の顔を見ると大体そういうリアクションをする。
こっちがこの顔でどれだけ苦労しているかも知らないで。
もうすでに何人かの女子が俺をターゲットにした気配も感じた。
これで俺は毎日告白に震えながら高校生活を過ごさなければならなくなった。
「なんだ黒狼、凄い美形じゃないか。先生たちをバカにしてるのか? ムカついたから今日の掃除当番はお前一人でやりなさい」
ここまで来たらもう独裁者だろあの教師。
「さて、もうすぐ入学式だな。全員今からこれを着なさい。ちなみに今日から1週間は学校にいる間はこれを着ているように」
そう言って大前先生は大きな袋を1つずつ俺たちに配った。
中を見ると……。
「先生、なんですかこれは……」
思わず口から出てしまった。
周りのクラスメイトも同様で、中を見て困惑していた。
「男子は小袖と肩衣と裃。よく時代劇で武士が着てるだろ。女子は振袖だ。これがここの制服だ」
「制服って今着てるやつじゃないんですか!」
今着てる紺色の制服も学校から送られてきたやつなのに。
「それは登下校用だ。こっちは校内用。ちなみに1週間後は男子は執事服、女子はメイド服を着てもらう」
「え、どういうこと⁉」
女子の振袖はめでたい時に着てるのをよく目にするので、入学できた新1年生が着るのはまだわかる。
でも執事服やメイド服は完全にコスプレになってしまう。
「この学校に決められた制服は存在しない。異性との交流を深めるためにいろいろな恰好をしてもらう」
「なんですかそれ!」
「これはルールだ。ちゃんと守れよ」
「そんなことパンフレットには一文字も書いてませんでしたよ!」
あらかじめドロヌマ学園のことはネットでも調べたが、そんな情報はなかった。
「そりゃあバレたらお前みたいな独身派は入学してこないからな」
「え?」
なんであの教師は俺が独身派なことを知ってるんだ?
まだ帝音以外には言ってないのに。
「顔だけで学費免除の特別推薦なんて得られるわけがないだろ。お前が大層な美貌を持つのに度がつくほどの独身派だから入学を許可したんだ」
大前先生が全員を見渡しながら言った。
「ここはドロヌマ学園。優れた者たちを婚約させるためにある学校だ」
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ‼」




