婚活イベント(1)
更衣室で着付け師に着替えさせてもらいながら、俺と帝音は愚痴を出しまくった。
「まさかドロヌマ学園がこんな学校だったなんてね。だから僕の父は文句も言わずに入学を了承してくれたんだ」
「俺もだ。急に学園から推薦の話が来た時に怪しめばよかった。中学から俺のことを聞いたって電話では言ってたけど、普通中学校が生徒の情報を進路予定にない高校に教えないもんな」
思い返してみると、顔で特別推薦枠はあっても学費免除も付いてるなんてこの学校以外にはなかった。
「スペックはあるのに独身派な学生を入学させるために恋愛関係のイベントは全て秘匿されてたみたい。おまけの僕たちが外部に公表することは禁止」
「もし公表すればアイから学校に伝達されて公表した人間を退学、おまけに逮捕か」
アイは体内に埋め込まれているため取り出すことは不可能。
絶対に不正はできないってことだ。
まあ、おかげで日本の犯罪はほぼないし冤罪も嫌疑不十分による無罪もないのだが。
「はあ……」
ため息が出た。
俺と帝音は完全に騙されたのだ。
「腹を括るしかない」
「そうだな」
ふと他の男の会話を聞くと、「お前誰に目を付けた?」だの「俺あの女の子と結婚したい」だの浮ついた内容が聞こえてきた。
今の恋愛旺盛時代では、学生で結婚なんてのは当たり前で、絶えずこういう会話が聞こえてくる。
わざと聞かせて相手に自分の気持ちを伝えてくる奴もいるくらいだ。
気を引き締めないと、すぐに俺の人生は地獄行きだ。
「ていうかなんで男子は肩衣がついてるんだ?」
着付け師のおばさんは「すごくお似合いですよ」って言ってくれるが、バトル漫画に出てくる肩パッドみたいで恥ずかしい。
「確かに。おめでたい式で着物を着る文化はあるけど、肩衣はあまり聞かないね」
「これじゃあ姫を守る武士みたいだな」と言うと、帝音も「そうだね。刀があれば完璧だ」と鼻で笑った。
教室に戻ると、1人の女が大前先生に頭を下げていた。
ブロンドの長い髪が何度も上下に揺れている。
着替える前は教室にはいなかった。
「すみません先生! 母が病気で看病したため遅れましたぁ!」
わかりやすい嘘をつくなあ。
「そうか。なら今日先生が白黄泉さんのところに家庭訪問します。そしてあなたのお母さんを殺します。そうすればもう看病で遅刻はしないでしょう」
犯罪予告じゃねえか。
もうバーサーカーだろあの教師。
「えー⁉ やめてください先生! 嘘です! 本当は寝坊しました! だから母を殺さないでくださいぃ! 母が死んだらおいしいご飯が食べれなくなっちゃうぅ!」
心配するとこそこかよ。母さん泣くぞ。
「半分冗談だから安心しなさい。さすがに先生も人を殺すのはほんの少し心が痛みます」
「それって半殺しって意味じゃないですよね?」
俺もそう思った。
「ギリギリ病院行かなくてもいいレベルで加減するから大丈夫です」
「なーんだ。それなら良かったです」
いや絶対良くないだろ。
話が終わると、白黄泉という女はこちらに振り返った。
「あ、クラスメイト! 私、白黄泉花実、よろしくね!」
白黄泉という女子生徒はそう言って俺の右手を両手で握り上下に大きく振ってきた。
「よ、よろしく」
あまりのテンションの高さに引いてしまう。
元気な女だなあ。
あと凄くかわいい顔をしている。
テレビに出るアイドルのようにバランスの整った笑顔が似合う顔だ。
『ロマン値が85%に達しました』
アイが報告してきた。
あっぶねえ、油断してた。
独身派でも男の本能はあるんだよなあ。
「早く着替えないと、入学式に間に合わないぞ」
「あ、そうだった! じゃあまたあとでね!」
白黄泉はそう言って手を振りながら教室を出て行った。
「恐ろしい子だね」
まったくだ。
ああやって軽々とボディダッチをして多くの男をときめかせてきたのだろう。
俺の中で白黄泉という女が要注意人物として指定された。
すると、教室の後ろのドアから着付けを終えた女が入ってきた。
1人で戻ってきたようで、こちらを一瞥したあと席に座り髪をいじりながらスマホを見始めた。
ポニーテールの金髪に桜の髪飾り、花柄の振袖。
気怠そうな顔のせいか、クールな感じが漂ってくる。
ギャルって言うほどではないが、ギャルとも言える、そんな女だ。どういう意味だ?
あとあの髪色……どこかで見たような気がする。
いや、金髪なんて珍しくないんだけど、昔似たような髪を見たことがあるようなないような?
『ロマン値が50%に達しました。この数値合っていますか? ときめかないのですか?』
いちいちうるさいよこのポンコツAI。
『私に対する罵倒を確認。覚えておきなさい』
はいはいわかりましたよアイ様。
「僕らも座ろうか」
「そうだな」
自分の席に戻って帝音と入学式まで雑談をすることにした。
全員の着付けが終わると大前先生を先頭に2列で並び体育館へ向かった。
入学式はどこでもおこなわれる普通の式だった。
1年生だけが体育館に集められ、話を聞く。
服装以外は、本当に普通だ。
だけど服装が違うだけで、異様な光景になる。
武士の恰好をした男と振袖の女。
ここ、江戸時代か?
「えーこのドロヌマ学園は——」
式はそんなことを気にしていないかのように進んでいった。
早く終わってくれないかなと思いながら普通のメンズスーツを着てる校長先生の長話を右耳から左耳へ通した。
「次は生徒会長の歓迎の挨拶です」
壇上に現れたのは膝まで伸びた黒くさらさらとした髪を持つ美女だった。
高校3年生とは思えない大人の色気が伝わってくる。
めちゃくちゃ頼りがいがありそうで膝枕で甘えたい。
『ロマン値が90%を超えました。アピールするべきです』
マジ黙っててくれ。
『いやです』
「新入生のみなさん、初めまして。生徒会長の合井理世です。まずはドロヌマ学園への入学おめでとうございます。本校は恋愛のためだけに計略と業にまみれた学園であり——」
凄い美人だけど挨拶の内容は特に頭に残るようなものはない。
まあ、憶える気もないんだけど。
「以上で挨拶を終わります。ではみなさんにはこの学園に少しでも早く慣れてもらうために簡単なゲームをしましょう」
ん? ゲーム?
「みなさんがさきほど着替えたお召し物にはそれぞれのクラスごとに1から15までの数字が書かれた紙があるはずです」
袂を調べると11と書かれた正方形の紙があった。
「見つけましたか? ではクラスごとに同じ数字の男女同士でペアになり、かたまってください。3クラスとも男子15女子15で30人ずついますので余りはいません」
生徒会長の言う通り数字を周りに見せながら見渡すと、11の番号を持った女がいた。
教室に一番に戻ってきた、あの気怠そうな顔をしたギャルなのかわからない女だった。
「よろしく」
「あ、ああ。よろしく」
意外にも女から眉一つ動かさずに挨拶してきた。
こういうのって相手を見ていきなり嫌そうな顔する人も多いから身構えていたために拍子抜けだった。
「ペアでかたまったようね……」
生徒会長の声色が突然変わった。
「ではこれより、新入生たちによる婚活イベントを開始するわ」
は? 婚活イベント?
生徒会長の言っている言葉の意味が分からなかった。
今からペアでお見合いでもしろというのか?
「今から2分間、先生たちがペイント弾をあなたたちに向けて撃つわ。男子生徒はペアの女子生徒をそのペイント弾から守ること。もし女子生徒にペイント弾のインクが付着した場合、脱落だから私のいる壇上に移動すること。あと、脱落したペアは1週間校内では手錠をつけて生活してもらうわ」
「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
あまりの急展開に声を上げてしまう。
しかしそんなことは構いもせず、体育館の隅にいた教師たちがポケットから拳銃サイズのペイント銃を取り出し俺たちに向けてきた。
「なお、ペイント弾に使われているインクは体内に入っても安全なものを使用しているので安心して当たるといいわ」
いやそういうことじゃなくて!
「では、はじめ!」




