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ドロヌマ学園(1)

 中学卒業から1カ月が経ち、俺はひょっとこの仮面をかぶって校門前に立っていた。

 私立ドロヌマ学園。

 小学校から大学まで併設していて、元は貴族やお金持ちが通っていた学校。

 今でもその名残が多く、学費なんか庶民の俺では眠らずにバイトしても払えないほどだ。



 そんなところに俺が入学できたのは、特別推薦を手に入れたからだ。



 今の恋愛(れんあい)旺盛(おうせい)時代、学校の評価は学力や運動だけではない。

 顔や体でも評価される。

 イケメン、美女、抜群のプロポーション。

 そういう結婚相手に求める要素も評価に含まれる。



 自慢になってしまうが、俺はこの顔でドロヌマ学園の特別推薦枠に入り学費免除を認めてもらった。

 しかし、この学園を選んだ理由は他にある。



 ドロヌマ学園は大企業の子供や政治家の子供など、高スペックな人間が通っていることが多い。

 ならば、顔だけしか取り柄がない俺なら誰も見向きもしないだろうと考えたからだ。

 ひょっとこの仮面は、第一印象という大事な部分を下げるため。

 あわよくば卒業までつけているつもりだ。



「行くか」



 校門を通ろうと足を前に出した。

 すると、横から同じタイミングで足を出す男がいた。

 抹茶色の渦巻きの模様が刺繍された風呂敷を背負う、虫食いだらけの制服を着た男だった。



「「え……」」



 俺たちは見つめ合った。

 そしてお互いの事情を一瞬で悟り、口を開いた。



「まさか、お前も……」

「僕と同じ……」



 次の言葉に俺らの想いがある。



「「独身派!」」



 なんとなくテンションが上がってしまった。

 いきなり俺と同じ独身派に会えたのは幸先が良い。

 独身派だとバレないように隠す人間も少なくないし、人数が増えれば互いに告白されないようフォローし合えるからだ。



「俺の名前は黒狼流狩流。顔で入学した」

「僕の名前は帝音(ていおと)駿(しゅん)。帝音グループの御曹司。金しか取り柄がない。よろしく」

「あの世界2位の資産を持つ大企業か。よろしく」



 さっそく元貴族校らしい同級生が現れたか。

 俺と帝音は握手をした。

 固い絆を作るための握手を。



「お前、どうしてそんなボロボロの恰好なんだ。それに今時風呂敷って」

「これは貧乏だと思わせるための変装だよ。貧乏な人ってこういうもんでしょ?」

「……多分違うと思うぞ」



 アニメや漫画ではよく見る姿だが、実際貧乏な人がそんなわかりやすい恰好をしたところを見たことがない。



「そうなんだ。ちょっとやりすぎたかな」

「やりすぎというより、世間知らずだと思う」

「君はどうしてひょっとこのお面をつけてるの?」

「さっきも言ったが、俺、超がつくほどのイケメンなんだよ。だからお面で隠した」

「そんなに?」

「マジマジ。なんだったらお面と顔の間から覗いてみろよ」



 帝音が覗いた。

 香水だろう、シトラス系のいい匂いがした。



「こ、これは——⁉」



 帝音が口を大きく開けてリアクションした。



「な、隠す理由にもなるだろ?」

「さぞ今まで苦労したんだろうね。どれだけの女性から言い寄られたんだい」

「千を越えてからは数えてない。幼稚園の入園式からいきなり10人以上に迫られてからはこのお面をつけて外出するようになった」

「それでも千人以上に言い寄られるのか、恐ろしいな。外食など論外だろうね」

「ああ。この顔のせいで絵にかいたような青春は夢のまた夢だった。本当なら学校にも行きたくはないんだが、将来がかかってるからな」



 恋愛旺盛時代ではあるが、学歴が就職に有利なのは変わらない。

 告白されるリスクはあるが、それでも学校に通わなければならないのだ。



「そうか。辛いことがあったら遠慮せず僕に相談して。その代わりと言ってはなんだけど……」

「言わなくてもわかってるよ。俺もお前に協力する。同じ独身派だしな」

「ありがとう。これから3年間、手を取り合って生きて行こう。こんなに早く少ない独身派に会えたのは嬉しいよ。スペックがある独身派は1人だと結婚を避けることがほぼ不可能だからね」



 帝音の言う通り独身派は人数が少ない。

 恋愛積極法が当たり前になった現代では独身でいようとすることの方が非常に稀だ。

 だからこそ同志を見つけたがる。



「あとは……」

「あとは……」



 俺たちはドロヌマ学園の玄関に掲示してある新1年生のクラスを見る。



「あった。俺は1―Aだ」

「僕もだ」



 幸運の女神が舞い降りた。



 俺たちは同じクラスだ。

 これで学校にいる間は常に互いのフォローがしやすくなる。



「やったな!」

「これからクラスメイトとしてよろしく!」



 互いの手を顔まで上げて強く握る。

 俺たちは仲間だ。


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