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助け船?

 映画館に行くと、土曜日なこともあって人が多かった。

 上映し始めたばかりの映画はほとんど満席だったが、上映終了間際の映画は空席が多く、そっちを見ることになった。



「何か見たいものあるか?」

「これもお礼ですから、流狩流君が見たい映画を見ましょう」



 と言われてもな。



 ほとんど見た映画だったり興味のないもので選ぼうにも選べない。

 とりあえず恋愛系は論外だ。

 雰囲気的にこれ以上ロマン値が上がるのは避けたい。

 とはいえコメディ系は新作だけで満席。

 アニメはキッズ向けしか空いてない。



 となると……ホラー系か。



 いや、ホラー系こそ選んじゃダメなものだろ。

 怖くて手を握ってしまうのが容易に想像できる、主に俺が握りに行く方で。



『流狩流はホラーが大の苦手でしたね。いつもお母様の後ろでビクビクしながら見てましたし。でもこの映画はB級ホラーなのでそこまで怖くないと思われますよ? ネットの評価でも星2をつけられています』



 それでも怖いものは怖いんだよ!



『では何を選ぶのですか?』



 ……。



「これにしていいか?」

「ホラー映画ですか。流狩流君こういうの好きなんですね」

「ま、まあな」



 やべえ、もう手が震えてきた。

 怖くて(すが)るようにキョロキョロと周りを見渡してしまう。

 すると、ある人物が目に入った。

 目が合うと、兎を見て気まずそうに離れていった。



「と、トイレに行ってくるから、先に売店の列に並んでてくれ!」



 適当な理由をつけて兎から離れると、映画館から逃げようとしてた人物の肩を掴み兎から見えない位置に移動した。



「波月先生!」

「……なに」



 素晴らしい助け船だった。



「アンタ、独身派とか言っといて女の子とデートって……」

「違うんだよ。これにはいろいろと事情があってだね先生」

「先生って言うのやめて」



 俺はこうなった経緯(けいい)を詳しく波月に話した。



「教えてくれ! 何とか俺に惚れないようにすることはできないか?」

「別に惚れるとは限らないんだから普通に接すればいいんじゃないの?」

「そうして今まで俺の顔に惚れた女が何人いると思ってるんだ! 俺はもう信じないね! 男と女に友情なんてないんだ! みんなセックスのことしか考えてないんだ!」

「ちょっ、公共の場でそういうことを大声で言うなっての!」



 波月に頭を叩かれ、俺は冷静さを取り戻した。



自惚(うぬぼ)れなのはわかってる。でも幼稚園の頃からそうだったんだ。普通に接してたら惚れられて、告白されて、断って、関係が悪くなる。だから兎みたいな良い子は俺みたいなクズじゃなくて、惚れた人を死ぬまで大切にして毎日愛の言葉を口にできるような男が相応しいだろ」

「そこまでわかってんならアンタも十分に範囲内でしょうが」



 ため息をつかれたあと、波月は言った。



「別にさ、今日惚れて告られるとは限らないじゃん。兎にだって勇気がいるだろうし。それならさ、確実にわかるまで友達気分で接してやんなって。仮に兎がアンタのことを好きになっても、顔目当てじゃないことくらいアンタならわかるでしょ。あの子、良い子なんだから」



 確かにそうだ。

 兎が俺のことを好きになってもそれが顔目当てではないことくらいわかる。

 しかし惚れてからでは遅いのだ。

 すでにこっちが外見で惚れているのだから。

 不意打ちに好きと言われるだけでも結婚してしまう可能性は大いにあるのだ。



「サポートだけは、してくれないか? 今からホラー映画見るんだ。それで俺が兎の手を握らないように後ろの席から何か(ささや)いてくれ」

「待って、兎じゃなくてアンタが握るの?」

「怖いんだもん」



 情けないものを見る目をされた。



「はあ……わかった。サポートはするけど、兎には絶対にバレないようにしてよ」

「マジか! ありがとう先生!」

「先生って言うな……」



 顔を赤くして照れる波月に俺は感謝を述べ続けた。

 売店に並んでいた兎と合流し、そのあとシアターに入った。

 しばらくして約束通り波月が俺の真後ろの席に。



 安心感がある。

 誰かが後ろにいるだけで、こんなにも心強いものだとは。

 映画が始まるとB級ホラーらしく最初から驚くような場面があり、俺は目を瞑りそうになった。

 すると、波月が後ろから俺に(ささや)いてきた。



「あの幽霊、パンスト被った帝音に似てそうじゃない?」

「ぷふっ!」



 小さく吹き出してしまった。

 パンストを被った姿の帝音など見たことないのに、想像したら笑えてきた。



「流狩流君、どうしました?」

「い、いや、なんでもないよ」



 笑うのは不自然なので笑みをこらえながら答えた。

 それ以降もその幽霊が出るたびにパンストを被った帝音を想像してしまい、笑いをこらえるのに必死だった。



「あ、あの、流狩流君」



 しかし、兎は違った。



「怖いので、手を握ってもいいですか?」

「「ッ⁉」」



 ほわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!



 頬を紅潮させながら言ってきた兎に、俺と波月、両方の理性が爆発したような気がした。



「ど、どうぞ」



 そう言うと、兎は優しく俺の右手を握ってきた。

 兎の体温が俺に伝わってきた。



「波月……」



 後ろにいる波月に救援を求めるが、無駄だった。



「さすがにこれはどうしようもないって。今何かしたら私がいることが確実にバレる」



 手を離すことはできず、映画が終わるまで俺たちは手を握り合った。



「面白かったですね」



 映画館を出ると、兎は満足そうに言った。



「そ、そうだな」



 と言っても映画の内容のほとんどは兎の手の温もりとパンストを被った帝音の想像しか記憶にない。

 俺は後ろにいる波月にとりあえず親指を立ててGoodのサインを出した。

 手は握ってしまったが、十分助けになってくれた。



「次はどこに行きましょうか」

「次?」



 時刻を見ると、16時30分。

 そろそろ門限だ。



『小学生ですか。門限などないので次に行きましょう。カラオケがおすすめです』



 クソッ、高校生になった弊害(へいがい)がここで出やがった。

 スマホに着信が鳴ったので見ると、波月から「帰るまでは協力するけど兎を傷つけるようなことはナシだから」とメッセージが。



 波月先生!



 俺はバレないように隠れてる波月先生に感謝の眼差しを送った。

 すぐに「見すぎ」とメッセージが来た。



「じゃあ、カラオケでも行くか?」

「はい、行きましょう」



 女の子とカラオケで2人っきり、というのは初めてではない。

 今までも何回かこういうことになったことはある。

 しかし、気になる相手かそうでないかでここまで心が乱されるものだとは思わなかった。

 個室で兎といるこの状況に、なんだかイケないことをしている気分になっていた。



『カラオケ店で襲うのはやめてくださいね』



 襲わねえよ!

 獣じゃあるまいし、なんで俺がそんなことをしなくちゃならないんだか。



「ここ結構暑いですね」



 個室ゆえに暖房が効いている。

 兎は俺のジャケットを脱いで汗で吸着したワンピース姿を(あら)わにした。



「……」



 ヤバい、たちそう。

 少しだけ前のめりになって股間を隠した。



『襲わないでくださいね』



 しねえって!

 兎の方をできるだけ見ないように曲を選んでいたら、隣の個室にいるであろう波月からメッセージが来た。



 「オペラを歌え」とのことだった。

 何故オペラなのかはわからない。

 しかし波月のことだ、なんらかの策があるのだろう。



 曲を選ぶことに集中している兎に注意しながら「じゃあ、『万の風になって』を歌います」と波月に送るとすぐに「それオペラじゃない!」と返信が来た。



 知らなかった……『万の風になって』はオペラじゃないのか。

 そのあと一度しか聞いたことがない『オー・ソレ・ミタ』を選択したが、それもオペラじゃないと言われ、もう何がオペラなのかわからなくなってしまった。

 波月に救いを求めたら、もうその曲でいいと返信されたので、結局『オー・ソレ・ミタ』を歌った。

 それなりに歌えたのだが、兎があまり海外の曲を知らないこともあり個室の空気が変になった。


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