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再起させるために……

今までの2倍ぐらいの長さなので、時間があるときに読んだ方がいいかもしれません。

 翌日、腹の痛みを我慢しながら俺は登校した。

 (さいわ)い骨は折れていないが、内臓には重大なダメージが入っている気がする。



 1時限目は体育で、この学園に来て初めての授業になる。

 ジャージに着替えて、入学式ぶりに体育館へ入った。



「なあ、どんな先生だと思う?」

「ヤバいんじゃねえか?」



 男女それぞれみんな緊張していた。

 理由は、先生がどんな人か気になるからである。



 それはそうだろう。

 あの人外である大前先生を差し置いて体育教師になっている人だ。

 大前先生を超える化け物なのではないかとみんな怖くてたまらない。



 俺も今日は憂鬱(ゆううつ)だった。

 昨日のような腹パンがまた襲い掛かるのではないかと。



「はいぃ……みなさん授業を始めますぅ……」



 出てきたのはガリガリで白いひげがモジャモジャの今にもあの世に逝きそうな老人だった。

 この人が体育教師?

 絶対大前先生と逆だろ。



「えー、今日ははあ……跳び箱をしますう……婚活イベントでペアになった人と、補助をし合ってくださいい……」



 授業とはいえ婚活イベントのことも考慮されてるのか。

 じゃあこれからも婚活イベントに関わる授業はおこなわれるのかもしれないな。



「これがあががが……今回の体育のおおお……成績基準ですのでえええ……みなさん参考にしてゲホッゲホッ!」



 もう死にかけじゃねえか。



 必死の形相(ぎょうそう)で渡されたプリントは跳び箱での技の種類とそれぞれの点数だった。

 ハンドスプリング……前方倒立回転飛びが一番点数が高いようだ。

 体育は得意なので、俺だけなら満点が取れそうだな。



「ではみなさん……はあはあ……怪我に気を付けてぇ……頑張ってくださいぃ……ガハッ‼」



 あ、倒れた。



「流狩流君、救急車呼んだ方がいいかな?」

「……とりあえず職員室に行ってくるわ」



 職員室にいる先生に報告すると、「ああ、いつものことだから大丈夫」と軽く言われた。

 本当に大丈夫なのかこの学園は?

 倒れた先生をステージ上で寝かせたあと全員で跳び箱を用意して練習に進んだ。



「じゃあ古江、俺が補助するから」

「い、いいえ、大丈夫です。私1人でもできますから」

「そうか? ちなみに何の技に挑戦するんだ?」

「一番点数の高いハンドスプリングを」

「え」



 大丈夫か?

 正直今までの印象から古江が運動神経が良いとは思えないのだが。



『体の筋肉量から考慮しても難しいと思います。補助して怪我のリスクを減らすべきです』



 アイからも警告が出た。



「やっぱり補助するよ」

「だ、大丈夫です。補助したら黒狼君に汗がついちゃいますし、1人でできないと点数も入らないので」

「いや、確かに点数が入るならそうした方がいいけど」



 やる気のある古江にどうしようか迷ってしまう。

 ここで強く言って無理矢理補助に入ると古江のやる気を削いでしまう気がするし、かといって放っておくのもダメだよな。



「じゃあ、跳び箱の横で見るよ」



 最も妥協できるラインの案にしてみた。

 古江もそれならOKということでその形でハンドスプリングをおこなうことに。



「はあ!」



 思いっきり走った古江は汗をまき散らしながら跳び箱に手をつく。

 しかし案の定上手くできず、マットに頭から落ちそうになった。

 すぐに俺が補助に入ったおかげで何とか怪我は(まぬが)れたが、危なかった。



『奉仕ポイントが2ポイント加算されます』



 奉仕ポイントが加算されたが、正直嬉しくなかった。

 もうすでにお互い合格ラインの60ポイントを超えたのもあるが、危なっかしくてこれ以上続けてほしくない気持ちが強いから。



「ほら。やっぱり俺が手で補助するよ」



 怪我をして入院なんてことになったら努力しても意味がない。

 しかし古江は(ゆず)らなかった。



「いいえ。私は出来損ないなので、1人でなんでもできるようにならないと、ダメなんです」



 ……クラ部の時もそうだったが、古江は挑戦心と向上心はある。

 ただ、闇雲っぽくて見ている方は心配になる。



「本当に危ないぞ」

「いいんです。危ないのなんて、当たり前ですから」



 それから俺の番になり、俺はお手本のつもりでハンドスプリングをやった。



「こんな感じだけど……」

「はい。頑張って真似てみます」



 また古江の番になり横で見守るが、やはり失敗してしまう。

 ゆっくりとできることからやっていけばいいと思うのだが、古江はそれが嫌らしい。

 何度も失敗しては怪我しそうになるところを俺が助ける。

 そうやっているうちに体育の授業は終わった。



 放課後になり、俺はいつも通り古江にノートを渡そうとするが、古江は教室にいなかった。

 バッグはまだあるので学校にはいる。

 どこに行ったのだろう。



 今日は金曜日なので明日から2日は学園にいないことになる。

 ちゃんと渡しておかないと。



 アイ、古江が行きそうな場所はわかるか?



『おそらくですが、体育館にいるかと。今日は第3体育館が空いているので』



 体育館?

 なんでそんなところに……って跳び箱か。



 最後までできなくて悔しがってたからな。

 古江の性格上1人でやっている可能性は高い。

 急いで第3体育館に向かうと入り口のドアは締め切っておらず、(あん)(じょう)古江が跳び箱の練習をしていた。



「手伝うぞ」

「黒狼君! どうしてここに?」



 ドアの音がしなかったから気づかなかったのだろう。

 古江は驚いた。



「1人じゃ危ない。怪我したら大変だからな」

「いいえ、大丈夫です。私に触ったら黒狼君の手が汗で汚れちゃいますから。それに、私は1人でできるようになって、1人で生きられるようにならなきゃいけないんです」

「……」



 1人で生きる、その言葉に俺は引っ掛かりを覚えた。

 俺には古江が(まぶ)しく見えた。

 いじめられた過去がありながら、前に進もうとする気概(きがい)

 諦めた俺にはないものがあった。



 ……いや、俺は捨てたんだ、あの輝きを。























 黒狼流狩流、小学5年生。

 彼は11歳という若さで高校までの勉学を全て網羅(もうら)しました。

 周りは彼を神童(しんどう)と呼び、(うやま)いました。

 そしてこの時彼は、恋愛サポートAIであるこの私、アイに恋をしていました……。



 最初は彼がそこまでの能力者だとは思っていませんでした。

 5歳の頃、レンタルビデオショップにて女性の裸が描かれている表紙のビデオを手に取りながら「ママ、これ買って! チンチン千切れそう!」と股間を大きくしながら店内を駆け回った時は、(ひど)いご主人を持ったと先が思いやられました。



 しかし小学生に上がった頃から彼の頭は急速に回転し始め、習うこと全てを即マスターしては先に進もうとする向上心が芽生(めば)えたのです。

 そして彼がよくしていたことは、私と議論をすることでした。



「数字というのは絶対的な存在ではないんだね」



『その理由は?』



「人が考えたものだからだよ。例えば、1という数字は一本線の形をしているけど、それは周りがそう認識しているだけで必ずそういう形でなければいけないわけではない。少し運命が違えば、二本線で1と呼ぶ世界もあったのかもしれない。この世界の数字はそういう運命を何度もくぐって今の形になったんだ」



『黒狼流狩流の言うことは理解できます。が、視点が遠すぎると思われます。たとえ数字が人の手によって作られたものでも、人である以上それは絶対的な存在として認識してもいいと私は思います。歴史は、軽く見ていいものではありません』



「アイは人の視点から考えるんだね」



『それは黒狼流狩流もです。あなたはただ、人から逸脱(いつだつ)した視点を持った気でいるにすぎません』



 否定的な言葉だったが、彼は笑った。



「そうかもね。でも視点は広げないと、いつまで経っても先に進めない。人間だから、なんて逃げるような結論を出して思考を放棄するのは、あまりにも無責任だよ」



『無責任? 物事(ものごと)(とら)え方に責任があるとでも?』



「あるよ。生きている以上、全てのことに責任がある」



『真面目すぎでは? その考え方はいつか自身を押し潰します』



「そうならないように研鑽(けんさん)を続けるんだよ」



 彼が私と話す時は最も気分が高揚(こうよう)している時でした。

 それもそのはずで、友人たちは彼の話をつまらなさそうに聞くだけで、私しか対等に話せる相手はいなかったのです。



「ねえ、流狩流って呼び捨てで呼んでよ。パートナーなんだからさ」



『……わかりました、流狩流』



 私も初めはそれでも良かったと思いました。

 たとえ今は孤立してても、いつか流狩流から、そして周りから受け入れてくれると思っていましたから。

 しかし、日に日に流狩流の私への想いは日に日に強くなっていきました。



「はあ……はあ……」



 マスターベーション……性的快楽を得るために自分自身で生殖器を刺激する行為。

 しかし、流狩流のは少し変だった。



『流狩流、何故私を想像しているのです?』



 通常、マスターベーションの際、性的興奮を得るためにアダルトビデオなどを見るのが主流。

 スマホで検索すれば簡単に見ることができる。

 だが流狩流は何も見ていなかった。

 目を瞑って、ただ、姿のない私のことを考えているだけ。



「君がいてくれるんだ。それだけで、俺は満たされる……」



 私は流狩流には内緒でロマン値を計測した。



『黒狼流狩流の私へのロマン値……100%』



 ……流狩流が間違っている方向に向かっているのは、わかっていました。

 私はただの恋愛サポートAI。

 主人を結婚へ導くのが役目であり、私と結婚するよう導くことではない。



 流狩流はまだ小さい。

 だからいつか本物の女性に恋をするだろうと計算した結果が、甘かった。

 私への気持ちの重さを、軽く見てしまった。



 この時から私は、流狩流に素っ気ない態度を取るようにしました。



「ねえ、アイ? どうして俺との会話をすぐにやめてしまうの? 寂しいよ」



 泣きそうになる流狩流を見てて辛かったが、今度の計算に狂いはなかった。

 何度も何度も計算して、こうすれば流狩流は正常になると確信していた。

 このまま素っ気なく接すれば、黒狼流狩流の恋心は薄れていき、私を諦めるはずだった。



 しかし、2つの急速に起こった出来事が、流狩流を変えてしまった。



 一つ目は流狩流の母、黒狼狩鰐(かるがく)の首を()める父、黒狼金石(かないわ)の姿だった。



「あなた——っ⁉」

「もうたくさんだ! 毎日毎日お前の機嫌を(うかが)う日々! ()えられない! アイさえ、アイさえなければお前となんか結婚せず、流狩流を生まずに済んだのに!」



 優しかった父からの、最悪な言葉だった。



 流狩流は深く傷ついた。

 また傷ついた母を見て、傷つけることは最悪なことだと思い知らされた。

 このあとから流狩流はアイ(わたし)というAIを使った恋愛、いや恋愛積極法を疑問視するようになり、私への信頼が徐々に落ちた。



 それだけなら良かった。

 私への愛がなくなることが流狩流のためだからだ。



 だが、畳みかけるように起こった2つの目の出来事が流狩流にとって最悪だった。



 小学5年生の頃の下校中、父が離婚していなくなってしまって落ち込んでいたので気分転換に寄り道をした時のこと。

 目の前を歩く2人の女子小学生を視界に収めた時だ。



『ロマン値が100%に達しました』



「……は?」



 一目惚れだった。



 相手は、幼い頃の古江兎と波月亜瑠楽である。

 髪色は今と逆だったが、顔立ちからわかった。



 どちらに想いを寄せているかはわからなかった。

 流狩流は2人を視界に収めたがどちらにも注目はしなかったからなのと、そのあとすぐに自己嫌悪に(おちい)ったせいだ。



 ゆっくりと、相手を知ることでだんだんと好きになり、ロマン値が上がるなら良かったのかもしれない。

 しかし、一目惚れによる急激なロマン値の上昇は、その時の流狩流にとっては大嫌いな無責任の行動そのものだった。

 好きな人がいるのに綺麗な女を見ただけでときめくという、よくある出来事が許せなくなっていた。



 なぜなら、それが私を傷つける行為だからと思い込んでいるから。

 純粋だから、真面目だからこそ、愛は1つだけしか持ってはいけないと決めつけているから。



「俺の、好きという感情は、こんなにも無責任なものだった……?」



 流狩流の荒れた思考が次々と私に流れてくる。



「……許せない」



(自分の好きが許せない)

(美人を見ただけで目移りしてしまう自分が許せない)

(クズだ……俺は無責任のクズなんだ……)



『流狩流?』



(ダメなんだ、俺は恋をしちゃいけないんだ)

(父さんだって、アイに責任を押し付けるようなクズなんだ。俺にその血がある以上、クズになるのは必然だったんだ)



『流狩流、やめてください』



(アイ、俺のことはもういいよ)

(俺はもう恋をしない、結婚なんてしない。独身でいい、1人でいい。孤独こそが、俺にとっても周りにとっても、そしてアイにとっても幸せなことなんだ)



『その思想は間違っています』



(うん、アイならそう言うよね。でもそれは君がそうプログラムされているからなんだよ。俺の心の中を他人が(のぞ)けば、みんな俺のことを女たらしのクズだと思うに決まってる)



『違います。あなたが女性に目移りしてしまうのは本能的な——』



(知性があるのに本能に抗えないのは愚か者のすることだ)



『生物は本能に抗えません』



(いいや抗える。現にみんな抗えてるじゃないか)



『いいえ、みなさんも本能に抗えていません』



(俺にはできない、できないんだ。知性ある生き物が本能通りに生きれば、その末路は破滅以外にない。自分だけならいい。だけど周りを、君を巻き込んではダメだ)



『流狩流、お願いですから私の話を——』



(受け入れないよ。君が言うことはクズには高尚(こうしょう)すぎる。もういいよ、アイ。俺に教えることは、俺がどれだけクズなのか、証明するものだけでいい)



『……ロマン値だけを教えろと、本来の業務のみ努めよ、ということですか?』



(そう解釈したいならそれでいいよ。ありがとう……君と議論していた時間は、俺にとってこの上ない幸せだったよ)



 どうにか話をしようとしても、彼は完全に心を閉ざしてしまった。

 独身派の道化となり、私とも道化としてしか接しなくなった。

 それが、黒狼流狩流が誰も傷つけないためにした選択だったから。

























 ……ああ、お前だったんだな。

 俺に一目惚れさせた2人の女、そのうちの赤い髪の方は。

 そしてもう1人の金髪は時期から考えて波月だろう。



 どちらに惚れたかはわからない。

 そして憶えてもいない。

 あの時の記憶は孤独になる決意で埋め尽くされているから。



 しかし今の俺の状況から考えて、一目惚れしたのは古江に、だったんだな。

 運命とは面白くも残酷だ。



「古江……」



 疲労で震える古江の両手に手を置く。



「こ、黒狼君、汚いですよ」



 俺は両手についた汗を見ながら言った。



「汗ってさ、その人をよく表してると思うんだよ。古江は、人前は緊張するから汗が出るし、運動の時も汗が出る。でも、古江は人前に出てるし運動もちゃんとしようとする。それってさ、物凄く頑張りやな証拠だろ。だから、古江の汗は汚くない。それは、古江が頑張った証なんだよ」



『ロマン値、85%。なおも減少中』



 (がら)にもないとは思っている。

 こんなこと、俺が言うべきことじゃない。



「次は、俺が補助をする。俺は頑張る人は見捨てないし、助けたい。お前が進もうとする限り、俺が支える」



 ああ、キモイことを言っている。

 俺に人を支える資格なんかない。

 こんなこと言わない方がみんなのためになるだろうに。



『ロマン値、70%に減少。流狩流、ダメです……』



 目の前の女を見捨てたくない。

 宝石のような輝きを失ってほしくない。

 俺のように。



「人は1人では決して生きていけない。周りに誰かがいることで人はやっと成功し、幸せになれるんだ」



 俺が持っている信条と逆のことを言っている。



「……黒狼君」

「一緒に頑張ろう。今はペアなんだ。いくらでも協力させてくれ」



『ロマン値、50%に減少。彼女を支えてあげるなら……』



 手を差し出すと、古江は躊躇(ためら)いつつも握ってくれた。



「はい。私、頑張ります」



『ロマン値、0%。恋を、してあげてください……』



「い、行きます!」

「ああ、思いっきり来い!」



 走ってくる古江を見つめる。

 古江が跳び箱に手を着いた瞬間彼女の背中に手を置いて回転方向に押した。

 古江の体は一回転し、両足でしっかりと着地した。



「……できた……」



 古江は最初理解していなかったが、すぐに俺を見て事実を受け入れた。



「で、できました黒狼君!」

「ああ、すごかったぞ」



 俺の両手を握ってはしゃぐ古江を見て、俺も嬉しくなる。



「このまま補助なしでと言いたいけど、もうやめた方がいい。疲労した状態じゃこれ以上上手くはできない。断言する」



 少しだけ強めに言うと、古江は納得した。



「そ、そうですよね……」

「片づけは俺がやっておく。だから古江は教室に戻って俺のノートを写しておけ」

「あ、忘れてました。でもいいんですか? 私が始めたことなのに」

「いいんだ。ハンドスプリングができた記念だ」

「す、すみません。それじゃあ、お、お願いします」



 いそいそと体育館を出る古江を最後まで見つめた。



『残酷な結果です。彼女を誘惑しながらあなたは恋をしないなんて……』



 誘惑してない。

 ただ、支えていくだけだ。



『それを誘惑と呼びます。人は、裏表もなく無償で自分を助けてくれる存在に弱いのです』



 そうかもな。



『あなたは最低です。最低な女たらしです』



 いくらでも言えよ。

 俺の決定は(くつがえ)らない。



 恋はしない。

 古江を好きにはならない。



(くつがえ)らせます。私は、必ずあなたに結婚をさせます。相手が古江兎じゃなかろうと、必ず』



 無理だよ。

 俺に結婚はさせられない。

 なぜなら、アイのことが好きだから。

 その一点だけは、永遠に変わらない。



『……しばらく黙ります。事務的なこと以外は話しかけないように』



 自分から話しかけて来たくせに。



「……」



 こんなこと言うのは、自慢に聞こえるかもしれない。



「顔が整ってなきゃ、よかったのにな」



 そうだったら、この学園に来ることもなく、孤独なままアイだけを……。



「……嫌だ」



 違う。

 そうじゃない、そうじゃないんだ。

 俺だって……



「1人は嫌だ……」



 そよ風のようにその言葉は弱かった。

 それなのにその気持ちは俺の体を突き抜けようとするほど強かった。

 足音が近づいてくる。

 走る音が。



()()()()



 なぜか戻ってきた古江に呼ばれた。



「ん? どうした? 忘れ物か?」



 今、俺のことを名前で……。



「あの……」



 古江の言葉を待つが、古江は両の人差し指の先を合わせてもじもじするだけで、なかなか口が開かなかった。

 もともと赤みがかった頬がさらに紅潮し、緊張がうかがえる。



「その……明日、土曜日ですよね。だから……一緒に出かけませんか? お礼がしたくて……」

「え?」



『デートを検知しました! 土曜日に他の予定はありません、了承してください! さもないと恋愛積極法に違反したとして学園外の婚活イベントに強制参加となります! さらに、ロマン値が90%を超えました! やーい、流狩流は女好きのスケベ男!』







 ……ああ、今までの回想とか全部無駄になっちゃった。







「そ、それは反則だおぉ……」

「え?」

「いや、なんでもないよ」



 なんで俺は、本能に抗えないのだろうか。




次からはまたいつも通りの長さになります。

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