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クラ部(3)

 それから俺と帝音、白黄泉と古江の男女に分かれサポートし合いながら接客することになった。

 初めは緊張していた古江も、だんだんと慣れてきて接客ができるようになってきている。

 まだ一対一で話すのは難しいが、白黄泉のサポートがあれば今日は乗り切れるだろう。

 今も3年の男の先輩を白黄泉が相手してくれてるし。



「へえ、先輩って空手部なんですね! じゃあ試しにウサギっちに仕掛けてみてくださいよぉ」

「し、白黄泉ちゃん⁉」



 本当に乗り切れるよな?



「なるほど、彼氏が欲しい?」

「そうなのよ帝音君。私どうすればいいのかしら?」



 こっちでは2年の女先輩を帝音が相手していた。



「ゴキブリホイホイはどうでしょう? 先輩のもとにたくさん男性が寄ってきますよ」

「それどういう意味かしら。私にはゴキブリのような男がお似合いってこと?」



 それは失礼すぎるだろ!

 ヤバそうだったので帝音の前に入り込んでフォローすることにした。



「いいえお客様! お客様の魅力に男はゴキブリのように群がるという意味です。そうだよな、帝音君?」

「はい。裸で踊ってあげれば簡単に寄ってきますよ」



 フォローしたのにさらに変なことを言うな!



 悪い予感がすると思った矢先、問題が起こった。



「古江兎さんを指名します!」

「この声は——!」



 聞き覚えのある声だった。



「おお、やっぱり黒狼流狩流もいたんだな!」



 どこかで噂でも聞きつけたんだろう、不死木雲がやってきた。



「え、あ、私ですか?」

「ああ! できれば二人っきりで話したいぜ」



 不死木雲の無茶ぶりに古江が困惑していると、夜顔先輩が言った。



「いいですよ」

「ちょ、ちょっと!」



 俺はマズいと思い夜顔先輩のもとへ。

 周りに聞こえないよう(ささや)いた。



「古江にはまだ早いのでは? あの男結構グイグイいく系ですよ?」

「経験を積まないと成長できるものもできないわ。それにせっかく指名が来たんだもの。これを利用しない手はないわ」



 確かに良い機会なのは間違いないのだが、相手がなあ……。

 不死木雲の場合良くないことをしそうでならない。



「そんなに気になるなら、あなたが陰でサポートしてあげたらいいわ。好きな子を取られるのは嫌だものね」

「べ、別に好きなわけじゃ——」

「んふふ、冗談よ」



 心臓に悪い冗談はやめてもらいたいです。



「よ、よろしくお願いします、不死木雲君……」

「むほほ、よろしくぅ」



 はい、もうキモイ。

 鼻の下伸ばして古江の体をまじまじと見やがって。



「えっと、ご注文はお決まりですか?」



 古江にかっこいい姿を見せたいのか、クールな雰囲気を(まと)いながら不死木雲は言った。



「この店で一番おすすめのメニューを」

「え? おすすめですか? えっと……」



 初日の古江におすすめが何かなどわかるはずもない。



「お客様、では俺がお作りしますね」

「え、黒狼流狩流(おまえ)なんでここにいるの? 邪魔なんだけど?」

「お客様に満足できるよう配慮したまでです。あなた達の邪魔はしないのでゆっくりお話しください」

「お、そうか。悪いな」



 楽しそうに(不死木雲だけ)話している2人を見守りながら俺は当部活のおすすめメニューを作った。



「お待たせしました、当部活のおすすめメニューです」

「お、早いな」



 俺は不死木雲の前に作った料理を置いた。



「不死木雲のブロマイド焼きです」

「俺の写真——‼」



 皿の上で炎を上げている不死木雲のブロマイドに2人とも、特に不死木雲が驚愕(きょうがく)した。



「焼かれている自身を見ることで己の滑稽(こっけい)さを理解してもらうという当部活の裏メニューでございます」

「初日の客に裏メニュー出す店なんて聞いたことねえよ! あとどこで俺のブロマイド手に入れたんだよ!」

「申し訳ありません。お客様のお財布に入っていたのを抜き取らせていただきました。あと雰囲気からして何度もここに足を運んでいるものかと。でも歯ごたえがあって美味しいですよ?」

「そうなんだ、じゃあいただきまーす……とはならないから! あと紙なんだから歯ごたえとかねえだろ!」



 お前には古江は渡せん。

 ここで帰るまで邪魔してやる。

 するとドアが開き、また別のお客が入ってきた。



「ほお、聞いた通りウチの生徒がいるな」



 大前先生⁉

 家庭科室の空気が変わった。

 みんな化け物の登場に身構えてしまった。



「良く似合ってるぞお前ら。じゃあ黒狼、お前を指名だ」

「えっ——‼」



 マズいことになった。

 まさかこんな形で古江と分断されるとは。



「あの先生、ここは生徒の交流の場なのでちょっと……」



 怖いけど遠慮がちに断ることにした。



「なんだ、先生である私を拒否する権利があると思っているのか——」



 確かに生徒がする部活である以上大前先生を拒否することはできないよな。



「人類に」



 主語がデカすぎる!

 人類より大前先生の方が上なのかよ!



「あ、あちらの席で座って少々お待ちください」



 仕方ない、こうなったら助っ人(すけっと)を呼ぼう。

 アイツはライフル射撃部にまだいるはずだよな。

 俺はスマホを取り出しある生徒に連絡した。

 するとすぐに既読がつき、今から行くとメッセージが入った。

 それから1分ほどで家庭科室のドアがドンと開かれた。



「で、兎がどうしたって?」

「波月先生‼」



 俺は最大の助っ人の登場に涙が出そうになった。

 走ってきたのか波月の息が荒れている。

 なんて頼もしい。



「実は、かくかくしかじかで」

「わかるわけないでしょそんな説明で」

「もしかしたら通じると思って」



 俺は波月に今までの経緯を全て話した。



「つまり、あの不死木雲って奴は兎のことが好きだけど、物凄く下心(したごころ)しかなくてろくでなしと」

「そういうこと」

「よし殺そう。そうすればあの子は助かる」

「結論が極端すぎねえか? 少し賛成だけど、もっと穏便(おんびん)にしようぜ」

「なら、邪魔をする」



 そう言うと波月は夜顔先輩に近づいた。



「すみません、兎を指名します。下校時間まで」

「え、さすがにそういうのは……」

「これでもですか?」



 そう言って波月は札束を出した。

 すげえ、100万だ。

 夜顔先輩の目の色が変わった。



「いいわ。兎ちゃん、こちらのお客様の相手をしてあげて。その代わり、不死木雲(ぼうや)は私が相手をするわ」



 夜顔先輩の金に目がくらんだ判断に俺は礼をしたい。



「ええ、ちょっと! 先に指名したの俺ですよ!」



 不死木雲はごねるが、古江は助かったとでもいうように安心した笑みを見せながら波月のもとへ向かった。



「ふう、波月と夜顔先輩に感謝だな」



 俺も指名された大前先生のもとへ。



「遅いぞ黒狼。遅すぎてここにある飲み物全部飲んでやろうかと思ったぞ」

「すみません」



 恐る恐る俺は大前先生の前に立った。



「ご注文はお決まりですか?」

「じゃあとりあえずレギュラー満タンで」

「ここガソリンスタンドじゃないんですけど」

「なんだないのか、じゃあハイオク」

「ありません」

「仕方ない、好みじゃないが軽油で我慢してやる」

「だからガソリンスタンドじゃないんですって! ていうか先生、もしかしてガソリン飲めるんですか?」



 無理だとは思いたいが、興味本位で聞いてみた。



「家でたまに飲むぞ。でもお前らはまだ未成年だから飲んじゃダメだぞ」



 未成年かどうかの問題じゃないと思う。



「まあ生徒の前でガソリンを飲むのは教育者としてダメだよな」



 教育者どころか人間としてダメだろ。



「じゃあ酒で」

「一番生徒の前で飲んじゃダメでしょそれは!」

「ここ酒はないのか……じゃあ何のための部活なんだ?」

「生徒のために決まってるでしょうが!」



 怖いのに声を荒げてしまった。



「なるほどな、正論だ。じゃあ先生はこれで我慢するか」



 そう言って大前先生はグラスをガリガリと食べ始めた。

 人間じゃない、確実にこの人はガラスを食べる地球外生命体だ。



「黒狼、さっきからお前の様子を見ていたが、結婚している立場から言うぞ。お前が古江にやってることは、期待させてるだけで古江がかわいそうだ」

「……先生、結婚してたんですか?」



 まさかの現実に口から胃が出そうになった。

 天文学的確率の事象(じしょう)を耳にした気分だった。



「結構真剣な話なのに気になるとこはそこなのか。先生傷つきました。なので黒狼にはあとで水泳の特別授業をします」

「先生、まだ4月ですよ。寒いです」

「液体窒素よりはマシだろ。先生この前全裸で泳いだぞ。体がちょうどよく凍って気持ちよかった」



 比較対象が大雑把(おおざっぱ)すぎる!

 あとなんで凍ってるのに今生きてるんだ?



「とにかくだ。お前は自分の気持ちをちゃんと決めることだ」



 無理矢理真面目な会話に戻してきた。



「……俺が独身派をつらぬくとして、古江を見捨てるのは嫌です」

「そうだな。真面目なのが本当の黒狼だもんな。真面目だから、2人を同時に好きになるような自分が嫌で独身派になったんだもんな」



 その言葉に俺は驚愕する。

 俺しか知らないはずの、過去だからだ。



「先生、どうして……」

「アイは主人をサポートするAIだ。主人の利益になるためなら勝手に主人の情報を他者に渡すこともある」



『申し訳ありません流狩流』



 すぐにアイが謝ってきた。

 責めるつもりはなかったが、大前先生に俺の過去が知られてアドバイスを貰う自分が情けなく感じた。



「黒狼、言っておくがお前の持つその2つの愛そのものは間違っていないぞ。多くの人間がそういうものだ。だから不倫というものがある。しかし、お前は聡明(そうめい)だ。聡明なお前なら間違いはおかさない。1人を選び、1人を諦める決断のできる人間だ。この1週間と数日だけでもそれはよくわかる」



 らしくない、大前先生の(さと)す言葉が辛かった。



「先生違います……俺は、俺は心から好きな人がいたのに、綺麗なだけでもう1人を好きになった。それが許せないんです」



 気持ち悪い。

 このテーブルだけが異常な空気に包まれている。

 一刻も早く逃げ出したかったが、大前先生の言葉も聞きたかった。

 世間でいう最低なおこないをした俺に、果たして先生はどんな評価を(くだ)してくれるのか。



「何を言ってる? お前のその2つの愛は合わさることでやっと通常の恋愛過程になっているんだぞ」

「え?」



「人はまず他者を見た目で判断する。そのあと関わり合うことで内面を知る。恋も同じだ。好きな見た目の人だから近づいて、中身も好きになったから付き合おうとする。まあ、例外はあるがな……」



「……俺のこの2つの好きは、1つだってことですか?」

「先生にはそう思えたぞ。内面で好きになった、外面で好きになった。お前はまだ外面での恋に不快感を持っているだけだ」



 そう言って大前先生はグラスの最後の一かけらを口に入れた。

 ガラスを噛み割る音だけがしていて、なんだか居心地が悪かった。



「わかりません。じゃあどうしたらいいんですか?」



 すがるように勢いで聞いてしまう。

 独身派なら結論は出てるはずなのに。



「それはお前次第だ。だが、これだけは心に留めておけ。外面で好きになることは悪いことじゃない。それは、恋愛への第一歩だ」



 恋愛への第一歩。

 独身派の俺には忌避(きひ)すべきこと、あってはならないこと。



 それなのにどうして……嬉しいと感じているんだ。



「あと、このまま無意識に古江に肩入れするのはやめた方が良い。古江のためにも、お前のためにもな」

「……先生は、もっと生徒に関心がない人だと思ってました」

「私はお前の先生だ、導けはしないが、悩んでいるならアドバイスぐらいは出さないとな」

「先生……」



 (うつ)ろな胸の中がいっぱいになっていくのを感じた。

 (ほお)(ゆる)むくらい暖かかった。



「じゃあ良いこと言ったので、代金として黒狼の腹にグーをかまします」



「先生……?」

「覚悟を決めるための(カツ)だ。しっかり身に()み込ませろよ」

「それはちょっとおかしいよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



 そのあと、いっぱいになった胸がゲロ吐いてまた空っぽになった。

 下校時間になり、なんとか大きなハプニングもなく1日を終えられた。

 白黄泉と帝音はクラ部を気に入ったようで入部したが、俺と古江は保留にした。


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