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お茶会

 

 ……ついにこの日が来てしまった。

 頭を結ってくれているイリーナの緊張が私にも伝わる。

 いつもより、念入りに髪型を作ってくれているみたい。


「で、出来ましたあ!渾身の作です!」


 ふう、と額の汗を拭うような仕草をした彼女に私は苦笑してお礼を言った。


「ありがとう、とっても可愛く出来てるわ」

「いいえ!頑張ってくださいね、お嬢様!」


 拳を振るわせて意気込む彼女。

 私はなにをどう頑張ったらよいのだろうか……

 考えたらまた胃が痛くなってきた。


 綺麗に施された化粧の下には濃い隈が出来ている。

 昨日はほとんど寝られなかった。


 自前の青いドレスに身を包み、1階に降りると落ち着きなくウロウロするお母様と、それを宥めるお父様がいた。


「クローディア、もう出るの?」

「はい」

「失礼のないようにするんだよ」

「はい、では行ってまいります」


 両親に見送られ、私は馬車に乗り込んだ。


 ―――――……


 私は目の前にそびえ立つ大きな建物を見上げた。

 うう、目眩までしてきた。


 案内された先は中庭。

 もう皆様お揃いのようだった。


 私から見て正面に座っていた方が気づいて声を上げた。

 それに合わせて他の二人も振り向いて私を見ると、そのうち一人はガタリと音を立てて立ち上がった。


「はじめまして、クローディア」


 正面に座っていた彼女が、綺麗に巻かれたプラチナブロンドをさらっと後ろに流した。

 彼女が私をこのお茶会に招待した、サンドラ・ローヴィリア第二王女。


「あなたに会えて光栄だわ」


 ストレートの黒髪を耳にかけ直して微笑む彼女は、イザベル・フローリー公爵令嬢。


「ず、ずっとお会いしたかったんです!」


 もう一人は立ち上がったままぺこりと礼をした。ウェーブの茶髪がふわりと揺れた。

 彼女は、エルシー・スチュアート公爵令嬢。


 分かってはいたが、そうそうたる面々。

 だが、彼女達の態度は友好的なものだったので少しほっとした。


「この度はお招きありがとうございます、クローディア・ハワードです」


 なんとか挨拶をすませると、誘導された席に着いた。


「そんなに緊張しなくていいのよ、堅苦しいのはなしにしましょう」


 サンドラ王女がにこりと笑った。


「私のことはイザベルでいいわ、よろしくね」

「わ、わたしのことはエルシーと呼んでください!」

「ええと、ではイザベル様、エルシー様とお呼びさせてください」


 エルシー様が爵位が下の私に敬語を使うことが気になったのだが、それは彼女の元々の口調なので気にしないでいいと言われた。


「あ、あの……」

「ああ!わたくしが急に招待状をお送りしたものだからなんの事だか戸惑ってらっしゃるのね、ごめんなさい」

「だから私は夜会で仲良くなってからと言ったじゃない!」

「でも近寄りがたいからといってもじもじしていたのはイザベルの方じゃないの!」


 サンドラ王女とイザベル様が言い合いを始めてしまった……

 私はあわあわと二人を見守ることしか出来ない。

 何か言わなければ、そう思った時だった。


 ガチャンッ


 エルシー様がティーカップを荒々しく音を立ててソーサーの上に置いた。

 その音に二人、いや、私も驚いてエルシー様の方を向いた。


「やめてください。クローディアの前でみっともないです」


 彼女はにっこり笑った。

 が、その笑みが黒い、ような気がする。


「……」

「……」


 二人は言い返さなかった。

 エルシー様の第一印象は、少し気弱そうでふんわりほんわか癒し系という感じを受けたが、あながちそうでもないらしい。

 多分、こういう人が怒らせたら一番怖いんじゃないだろうか。


「ごほん。ええと、わたくし達あなたと仲良くなりたくて、このお茶会にお招きしたのですわ」

「……?」


 咳払いして仕切り直したサンドラ王女が私に微笑んだ。

 王族と、この国の要となる高位貴族の令嬢方が、たかが伯爵家の私をお茶会に呼んでまで……


「どうして、私なのですか?」


 それが理由ならば、何故シンシアではないのだ。

 彼女は私より社交的で、友人も多い。


「ああ、言わなくても分かるわ。でも貴方の妹は駄目よ、いけ好かないもの。婚約者がいながら夜会でのあの、男に媚びる仕草と視線、どうかと思うわ。貴方に対してあからさまに見下した態度を取るのも気に入らないわね」


 イザベル様がつらつらとシンシアの悪口を語ると、二人はうんうんと頷いた。

 妹のことを好ましく思わない人もいたんだ、少しびっくり。


「クローディアの銀髪が好きなんです」

「!?」


 隣に座っていたエルシー様が私の垂らした髪に触ろうと手を伸ばした。

 すると、


「エルシー!!!その髪はそのように気軽に触ってよいものではないですわ!!」


 私の正面に座っていたサンドラ王女が長い睫毛にかたどられた大きな目をこれでもかというほど開いて立ち上がった。

 エルシー様の伸ばした手が空中で不自然に止まった。

 そして、私の方を向いて可愛らしく頭を傾げた。


「クローディア、銀髪、1本だけでいいんです。ちょうだい?」


 ぞわわわわわ


 背筋が震えた。

 思わず両腕で体を抱きしめて、エルシー様から距離を取ってしまう。

 それに気付ききょとんとした顔をする彼女。


「嫌、ですか?」

「いや、というか……」

「エルシー、初対面でそんなことを言ったら引かれるわよ。クローディアにお友達になってもらえなくてもいいの?」

「そっ、それは困ります!ごめんなさい、クローディア!」


 謝るエルシー様に私は大丈夫です、と返した。

 上位貴族といえば、いつもツンとすましていて、上辺だけの会話、腹の探り合い、そんなものが日常だと思っていたがそれは偏見だったらしい。

 彼女達は、少なくともこの場では年相応の、ごく普通の少女達に見えた。

 髪の毛が欲しいと言われるのにはびっくりしたが。



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