第五話:安全な夜営
「……本日の探索はここまでとします。
これより、本日の最終重要任務『安全な夜営』を開始します」
鬱蒼とした森の奥、太陽が西の地平線に沈みかけた頃、セインが厳かに宣言した。
「やったぁ! やっとご飯だね!」
カノンが『借金回避の双牙』を放り出すようにして、その場にへたり込もうとする。
「カノン、座ってはダメです」
すかさずセインの『静かになさいの槌』の柄が、カノンの背中を小突いた。
「まだ安全確保が済んでいません。
夜の森は、魔物だけでなく、野生動物や気温低下、さらには有毒な夜行性の虫など、あらゆる危険が跳ね上がる時間帯です。
全員、持ち場につきなさい」
「うぅ……セインちゃん、お腹ペコペコだよぅ……」
「これを見て、まだそんなことが言えますか?」
セインが取り出したのは、一枚の地図と、周囲の木々をじっと見つめる眼差しだった。
「構造解析……。
この場所は一見平坦ですが、わずかに傾斜しており、夜間に大雨が降れば水の通り道になります。
また、あそこにある大木は枯れており、夜風で太い枝が頭上に落ちてくる危険性が非常に高い。
テントの設営場所は、そこから十歩離れた、あの岩陰の平地とします」
「なるほどねぇ。さすがセイン、よく見てる。
じゃあ、ウチの特製グッズの出番だね!」
ケットルが巨大な背負い袋をひっくり返すようにして、頑丈な鉄杭と、目の細かい網を取り出した。
「じゃーん!『対魔獣用・侵入検知鳴子付き防護ネット』と『安全ペグ』だよ!
これでキャンプの周りをぐるっと囲めば、夜中に魔物が忍び込んできても、カランカランって音が鳴ってすぐに分かるからね!」
「素晴らしい防犯設備です、ケットル。
ミル、あなたにはテントの周囲への『遮音と遮光の結界』の展開を命じます」
ミルが『もう壊さない杖』を胸に抱き、少し不安そうに首を傾げた。
「えっと、光と音を外に出さないようにすればいいんだよね?
でも、魔力を込めすぎると、結界がバリバリって光って逆に目立っちゃうかも……」
「ですから、出力は一割です。
外から見たら、ただの暗闇に見える程度に抑えなさい。
火を焚いた煙や光が漏れれば、広範囲の魔物を呼び寄せる原因になります」
「はーい! じゃあ、優しく、そーっと張るね!」
ミルが杖を小さく振ると、私たちの数メートル周囲を、うっすらとした透明な膜が包み込んだ。
「そしてクレア、あなたは私と一緒に薪拾いです。
ただし、絶対に一人で茂みの奥へ入ってはなりません。
バディ(二人一組)の原則を守り、互いに声が届く距離を維持すること」
「は、はいっ! セインさんの後ろにピッタリくっついていきます!
暗い森の中って、なんだかすごく切ないお化けが出そうで怖かったので、一緒だと心強いです……!」
クレアは『切ない剣』をしっかりと腰に帯び、セインの影を踏むような距離で薪を集め始めた。
一時間後。
ケットルの防護ネットに囲まれ、ミルの結界に守られた安全なキャンプ地で、私たちは小さな焚き火を囲んでいた。
パチパチと薪がはぜる音が、ミルの結界のおかげで外には一切漏れずに響く。
「う〜ん! ケットルちゃんの作ったお鍋、最高に美味しい!」
カノンが温かいスープをフーフーと吹きながら、幸せそうに頬を緩める。
昼間の疲れも、この安全な空間のおかげで急速に癒やされていくようだった。
「ふふ、安全が確保されてこその、美味しい食事だからね」
ケットルが満足そうに、自前のパチンコの手入れをしながら頷いた。
しかし、夜が更けた頃。
防護ネットの端に取り付けられたケットル特製の鳴子が、闇の中で微かに静かに、警報を鳴らした。
チリン……。カラン……。
「――っ! みんな、起きて!」
一番に気づいたのは、耳の良い斥候のカノンだった。
全員がガサリと身を起こし、それぞれの武器を手にする。
結界のすぐ外の闇の中で、無数の赤い目がギラギラと光っていた。
夜行性の狂暴な魔獣、ウルフの群れだ。
「ひ、ひえぇぇ……! すっごくたくさんいます!
夜の狼なんて、切なすぎるシチュエーションです……!」
クレアが『切ない剣』を構えながら、ガタガタと膝を震わせる。
「動揺してはダメです、クレア。
相手はミルの結界とケットルのネットに阻まれ、こちらの正確な位置を把握できていません。
闇雲に突撃してくるだけです」
セインが冷静な声で、全員に指示を飛ばした。
「カノン、ネットの隙間から『借金回避の双牙』で、近寄ってきた個体の足元だけを牽制しなさい。深追いは厳禁。
クレア、あなたはネットの正面で盾を構え、防衛ラインを維持」
「了解! ここから先は一歩も通さないよ!」
「は、はいっ! 通しませんっ!」
カノンが素早い動きでウルフの鼻先を切り裂き、クレアが頑丈な構えで体当たりを弾き返す。
ネットという物理的な障壁があるため、最弱パーティの前衛でも、十分に有利な戦いを展開できていた。
「ギゥン!?」
攻めあぐねたウルフのリーダー格が、大きく跳躍してネットを飛び越えようとした。
「させないよ!」
ケットルがパチンコを引き絞り、特製の閃光弾を放った。
パァン!
眩い光がウルフの目の前で弾け、視界を奪われた魔獣が地面に落ちて悶絶する。
「――ミル! 結界の維持を優先しつつ、あの目眩ましを食らった個体の足元だけに、ピンポイントで『土の拘束魔法』を!」
「おまかせあれ! えいっ!」
ミルが『もう壊さない杖』を地面に向けると、ウルフの足元の土が生き物のように伸び、その体をがっちりと地面に縫い付けた。
身動きの取れなくなった群れのリーダーを見て、残りのウルフたちは、この獲物が想像以上に「固い」ことを悟ったらしい。
一斉に尻尾を巻き、闇の奥へと退散していった。
「……ふぅ。追撃は不要です。
周囲の安全確認、異常なし。これにて防衛行動を終了します」
セインが『静かになさいの槌』を収め、静かに息を吐いた。
「やったぁ……! 夜襲されたのに、誰もケガしてないよ!」
カノンが驚いたように自分の体を見回す。
今までの彼女たちなら、夜襲を受ければ大パニックになり、誰かが大ケガを負うのが当たり前だったのだ。
「フン、事前の安全管理と防護策が機能した、ただの当然の結果です」
セインは手帳を取り出し、新しく一文を書き加えた。
『夜営時は、視覚・聴覚の遮断結界と、物理的防護ネットの二重設置を義務付ける』
「本当に……セインさんのおかげで、安心して眠れます。
私、このパーティにいて、初めて夜を怖いと思わずに済みました……」
クレアが防毒マスクを外した顔で、心からの、温かい笑みをセインに向けた。
「……当然の責務です。さあ、見張りの交代時間を決めますよ。
しっかり睡眠を取ることも、明日の安全管理に含まれますからね」
セインはあわてて寝袋に潜り込み、顔を隠した。
その横顔が、焚き火の光とは違う理由で、ほんのりと赤くなっているのを、仲間たちは温かい目で見守るのだった。
最弱パーティの、安全第一な夜。
彼女たちの絆と信頼は、今日も少しずつ、確実に深まっていく。
カノン「みんなー! ここまで読んでくれてありがとう! 楽しんでもらえた?」
クレア「あの……もしよろしければ、私たちの旅をこれからも見守っていただけると嬉しいです……!」
セイン「画面下部にある**【ブックマークに追加】や、評価の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】**に染めて応援してくださると、作者の執筆モチベーションが跳ね上がります。……もちろん、私の精神安定にも繋がります」
ケットル「みんなのポチッとが、ウチらの大きな支えになるからね! よろしくおくれ!」
ミル「次のお話も、絶対見にきてねー!」
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