第六話:安全な遺跡調査
「……本日の依頼は、近郊にある『名もなき古い遺跡』の内部調査です。
あらかじめ言っておきますが、遺跡は魔物以上に危険な『罠』の宝庫です。一歩ごとに命がかかっていると認識しなさい」
薄暗いギルドの机で、セインは遺跡の簡易地図を指差しながら、いつも以上に厳しい声で告げた。
「トラップ! ってことは、それを解除した先には、ものすごいお宝が眠ってるってことじゃん!」
案の定、カノンが『借金回避の双牙』をカチャカチャと鳴らしながら、目を¥マークにして身を乗り出す。
「カノン。お宝に目が眩んで床のスイッチを踏み抜き、矢の串刺しになりたいのですか?
あなたのその悪癖が、最も労働災害を引き起こす原因です。今回は私の指示があるまで、壁や床には一切触れることを禁止します」
「うぐぅ……セインちゃん、私のこと信用なさすぎだよぅ……」
「実績が物語っています。……さて、ケットル。例のものは?」
セインに振られ、待ってましたとばかりにケットルが巨大な背負い袋から、長い金属製の棒を取り出した。
「おうよ! ウチの特製『伸縮式安全確認棒』と、この『カラーチョーク』さ!」
「確認棒……?」
ミルが『もう壊さない杖』で、ケットルの持つ折りたたみ式の棒をつんつんと突っつく。
「そうさ! 怪しい床や扉は、これで遠くからコンコンと叩いて安全を確かめるんだ。
もし罠が発動しても、自分が離れていれば安全だからね。
で、安全が確認できたルートには、セインがこのチョークで床に矢印を書いていくんだよ」
「素晴らしい、完璧なリスクマネジメントです。
さらにミル、あなたには万が一の崩落に備え、衝撃を和らげる『空気のクッション』をいつでも展開できるよう、魔力を待機させておくことを命じます」
「はーい! いつでもふかふかの空気ベッド、作れるようにしておくね!」
「そしてクレア、あなたは私のすぐ後ろを歩き、盾をいつでも構えられるようにしなさい。
前方の安全は私が確認しますから、あなたは不意の事態から後ろのメンバーを守ることに集中するのです」
「は、はいっ! セインさんの背中は、私がこの『切ない剣』と盾で、絶対にお守りします……!」
クレアは弱気ながらも、しっかりと頷いた。
「よし。安全確認棒の伸縮ヨシ、誘導用チョークの携帯ヨシ、全員の防具の留め金ヨシ。……進入を開始します」
遺跡の内部は、ひんやりとした空気とカビ臭い匂いに満ちていた。
どこか不気味な静けさが漂う中、私たちはセインを先頭に、一歩一歩慎重に進んでいく。
「カノン、そこ、右側の壁のレンガがわずかに浮いています。触れてはなりません」
「へ? あ、本当だ。言われなきゃ気づかないよ……」
カノンが冷や汗を流しながら足を引っ込める。
セインは『構造解析』の魔力を常に瞳に宿し、周囲の不自然な構造を次々と見抜いていった。
開けた通路に出たところで、セインが足を止めた。
一見、何の変哲もない石畳の床が広がっている。
「ケットル、安全確認棒で、正面の3枚目の床を叩きなさい」
「了解、いくよ! コン、コン……」
ケットルが長い棒を伸ばし、慎重に床を叩いた、その瞬間。
カチリ。
小さな機械音が響いた直後、壁の隙間から「ヒュババババ!」と、無数の鉄の矢が猛烈な勢いで射出された。
矢は激しい音を立てて対面の壁に突き刺さり、火花を散らす。
「ひ、ひえぇぇぇ! 串刺しです! あんなの踏んでたら、今頃切ない姿になってましたぁ!」
クレアが悲鳴を上げてセインの後ろに隠れる。
「ふぅ……危なかったねぇ。ウチの確認棒がなきゃ、今頃誰かの足に穴が空いてたよ」
ケットルが冷や汗を拭いながら、罠の作動した床にチョークで大きく『×』と書き込んだ。
そして、その脇の安全なルートに『進路→』と矢印を引いていく。
「このように、遺跡の罠は視覚だけでは見抜けません。
必ず物理的な確認を行い、安全な動線を確保するのです。カノン、分かりましたか?」
「はーい……。もう勝手に歩き回りません……」
さすがのカノンも、先ほどの矢の威力を見て完全に大人しくなった。
しかし、私たちが遺跡の最奥にある玄室にたどり着いた時、床の文字を読み解こうとした拍子に、天井から「ゴゴゴゴゴ……」と巨大な地鳴りが響き渡った。
「しまっ……! 部屋全体のトラップが連動しています! 天井が落ちてきます!」
セインの叫びと同時に、巨大な岩の天井が自重で崩れ落ちてきた。
「ミル、今です! 衝撃吸収の結界を!」
「まかせて! えいっ!」
ミルが『もう壊さない杖』を頭上に掲げると、私たちの頭上に目に見えない「空気の巨大なクッション」が展開された。
ドスゥゥゥン!!
凄まじい衝撃音が響く。
ミルの結界が激しく歪み、ミルの小さな体がみしり、と震えた。
「うぅ……重い、重いよぅ! 結界が破れちゃう!」
「クレア、盾でミルの前に立ち、崩落の破片を弾きなさい! カノン、ケットル、私と一緒にミルの魔導を物理的に支えます!」
セインは『魔導ブースター』を最大出力で起動し、ミルの杖に直接魔力を流し込んだ。
クレアは必死の形相で盾を掲げ、上空から降ってくる瓦礫の破片を『切ない剣』の腹で必死に弾き返す。
「うおおおぉぉ! みんなには、破片一つ当てさせませんーーっ!」
全員の必死の連携が、数秒間、数トンの岩の重みに耐え切った。
「――今です! 崩落の隙間から、通路へ脱出します! 走って!」
セインの号令と共に、私たちはチョークで書かれた『進路→』の矢印を逆に辿り、猛スピードで部屋から飛び出した。
直後、背後で玄室が完全に土砂で埋まる、凄まじい轟音が響き渡った。
遺跡の外。
太陽の光を浴びながら、私たちは全員で地面にへたり込み、激しく息を切らしていた。
「はぁ、はぁ……死ぬかと、思った……」
カノンが完全に魂の抜けた顔で呟く。
しかし、これほどの崩落に巻き込まれたというのに、全員、かすり傷一つ負っていなかった。
「……全員、無事ですね。
安全確認、異常なしです」
セインは乱れた髪を直しながら、深く、大きな溜息をついた。
そして、手帳を開くと、今日の凄まじい経験を風化させないために、彼女は真剣な目付きで筆を走らせ始めた。
◆ 労働安全管理報告(ヒヤリハット事例)
発生日時: 遺跡調査任務・最奥玄室にて
件名: 古代遺跡の連動トラップによる天井崩落寸前事象
現象(ヒヤリとした状況):
玄室の調査中、床の碑文を読み解く動作が引き金となり、部屋全体の連動トラップが作動。数トンの岩天井が自重で落下し、危うくパーティ全員が下敷き(死亡災害)になりかけた。
防げた理由(要因解析):
1. ミルによる『衝撃吸収結界』の即時展開。
2. セインの『魔導ブースター』による物理的魔力支援の成功。
3. クレアの前衛盾による瓦礫破片の確実な飛散防護。
4. 事前にチョークで床に『安全避難動線(矢印)』を明示していたため、視界不良の中でも即座に脱出ルートを確保できたこと。
今後の対策:
遺跡最奥の構造物は、単一の罠ではなく「部屋全体が連動する複合トラップ」である確率が極めて高い。今後は、部屋の中心部を調査する前に、セインの『構造解析』による広範囲の魔力線・物理的連動の有無の確認を、必須の事前作業工程として規定に盛り込む。
「……よし」
書き終えたセインが、パタンと手帳を閉じた。
「本当に……セインさんの安全管理がなかったら、あの矢の罠で誰かがケガをして、最後の崩落で逃げ遅れていました……」
クレアが、泥に汚れた『切ない剣』を愛おしそうに抱きしめながら、セインに尊敬の眼差しを向ける。
「……当然のことです。ハプニングで終わらせず、こうして『ヒヤリハット』として記録し、次への対策を講じるまでが安全管理責任者の仕事ですから」
セインはそう言って立ち上がり、先頭を歩き出す。
その背中は、最弱パーティの誰よりも大きく、頼もしく見えた。
最弱パーティの、安全第一な遺跡脱出。
事故を未然に防ぐ彼女たちの歩みは、今日も少しずつ、しかし絶対に倒れない確実さで、前へと進んでいく。
カノン「みんなー! ここまで読んでくれてありがとう! 楽しんでもらえた?」
クレア「あの……もしよろしければ、私たちの旅をこれからも見守っていただけると嬉しいです……!」
セイン「画面下部にある**【ブックマークに追加】や、評価の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】**に染めて応援してくださると、作者の執筆モチベーションが跳ね上がります。……もちろん、私の精神安定にも繋がります」
ケットル「みんなのポチッとが、ウチらの大きな支えになるからね! よろしくおくれ!」
ミル「次のお話も、絶対見にきてねー!」
面白い、続きが気になると思ってくださったら、ぜひブックマークや**評価の星(★★★★★)**で応援をよろしくお願いいたします!
感想やレビューもいつでも大歓迎です。励みになります!




