第四話:安全な川渡り
「……本日の依頼は『対岸の村への親書配達』。
戦闘の可能性は極めて低い、移動がメインの依頼です」
いつものようにギルドの机に依頼書を広げ、セインが淡々と告げた。
「なーんだ、配達かぁ!
それならサクッと行って、サクッと帰ってこれるじゃん!」
カノンが『借金回避の双牙』を腰で揺らしながら、お気楽な声を上げる。
「甘いですね、カノン。
ルートの途中に、この近辺で最も水流が激しいとされる『トネの川』があります。
今回は、そこを徒歩で渡る必要があります」
「川渡りかぁ……。
ウチ、ドワーフだからさ、体が重くて泳ぐのは大の苦手なんだよねぇ」
ケットルが巨大な背負い袋をぽんぽんと叩きながら、眉をひそめた。
「吸血鬼の私も、流れる水はちょっと苦手かも。
あ、でも、私の魔法で川の水を全部どっかーんと吹き飛ばせば、歩いて渡れるんじゃない?」
ミルが『もう壊さない杖』を掲げて無邪気な提案をする。
「ミル、却下です。
大量の水を急激に吹き飛ばせば、下流の村で大洪水が発生します。
それは冒険ではなく、ただの災害です。
というわけで……はい、これを装着しなさい」
セインが取り出したのは、植物の軽い繊維で編まれた、中に空気を溜め込める特製の胴着だった。
「これは……浮き輪、みたいなもの?」
クレアが不思議そうにそれを手に取る。
彼女の持つ『切ない剣』が、水面に反射する光を受けて少しだけ切なく輝いた。
「ええ。ケットルに頼んで作ってもらった『救命胴衣』です。
これを全員着用。さらに、この頑丈な『命綱』でお互いの体を結びます。
川を渡る際は、絶対に単独で動いてはなりません」
「おぉ、ウチの作った試作品が役に立つねぇ!
これなら万が一流されても、沈む心配はないよ!」
ケットルが嬉しそうに鼻を鳴らす。
「安全確認、行います。
救命胴衣の紐ヨシ、命綱の結び目ヨシ、クレアの心の準備……は、まだのようですが、行きますよ」
「ひゃいっ!?
流されてお魚に突つかれる想像をして、切なくなってましたぁ!」
「無駄な想像をしていないで、足元に集中しなさい。出発します」
一時間後、私たちは問題の「トネの川」の前に立っていた。
ゴウゴウと白波を立てて流れる水は、見た目以上に激しく、底の岩が見えないほど深い。
「うわぁ……思ったより流れが速いね」
カノンが防具を濡らさないように、少し後ろに引く。
「構造解析……。
川底の岩は苔で非常に滑りやすくなっています。
クレア、あなたが先頭を歩きなさい」
「えええっ!? 私が先頭ですか!?」
クレアが悲鳴のような声を上げた。
「そうです。前衛であるあなたが『すり足』で一歩ずつ進み、川底の安全を確かめるのです。
カノン、あなたはクレアのすぐ後ろを支えなさい。
私は最後尾から、全体のバランスを管理します」
「うぅ……分かりました。
一歩、一歩ですね……」
クレアは『切ない剣』を鞘に収め、杖代わりにしっかりと地面に突き刺しながら、冷たい川へと足を一歩踏み入れた。
全員が一本の長い命綱で繋がったまま、ゆっくりと横一列に近い形で進んでいく。
「冷たいーっ! でも、なんかみんなで繋がってると楽しいね!」
ミルが『もう壊さない杖』をバシャバシャと水に浸けようとする。
「ミル、遊ばない。水流の抵抗を舐めてはいけません。
……あ、カノン! 左足の置き場が不安定です、右の平らな岩に体重を移しなさい!」
「うわっとっと! ほんとだ、滑りそうだった! セインちゃんよく見てるねぇ!」
セインの的確な指示のおかげで、私たちは川の中ほどまで順調に進むことができた。
しかし、自然はそれほど甘くはなかった。
上流から、大雨のせいで流されてきたと思しき、巨大な流木が猛烈なスピードでこちらへ迫ってきたのだ。
「みんな、上流からデカい丸太が来るよ!」
ケットルが叫び、腰のパチンコを構えようとするが、水流に足を取られて上手く踏ん張れない。
「ひ、ひえぇぇ! あんなのぶつかったら、骨がバキバキに折れて切ないことになりますー!」
クレアが完全に硬直してしまう。
「落ち着きなさい! 逃げるスペースはありません。
ミル、水流を抑える魔法を……いや、威力の加減が信用できませんね。
ここは私がやります!」
セインは最後尾から『魔導ブースター』を起動し、魔力を一気に解放した。
「我が領域の理を書き換える――『環境上書き(エンバイロメント・リライト)』!」
セインが川の水を『静かになさいの槌』で激しく叩く。
次の瞬間、私たちの目の前の水流が、一瞬にして「ドロドロとしたハチミツのような粘質」へと変貌した。
猛スピードで迫っていた流木は、その粘ついた水に突入した瞬間、急激にスピードを落とし、私たちの数メートル手前でピタリと停止した。
「おぉぉ! 流木が止まった!」
カノンが目を丸くする。
「今のうちに、安全な対岸へ移動します!
クレア、カノン、引っ張りますよ!」
セインが命綱をぐっと手繰り寄せ、全員を牽引する。
水流の勢いが魔法で殺されている隙に、私たちは一気に川を駆け抜け、ついに対岸の乾いた地面へと這い上がった。
数秒後、セインの魔法が解け、川は再びゴウゴウと激しい音を立てて流れ始めた。
「ぷはぁー! 死ぬかと思ったー!」
カノンが地面に大の字に寝転がる。
しかし、その体には救命胴衣がしっかりと巻き付いており、ケガ一つない。
「本当に……セインさんの安全管理がなかったら、今頃みんなでどんぶらこ、でした……」
クレアが濡れた『切ない剣』を布で拭きながら、しみじみと呟いた。
「ふん、移動の依頼だからと油断するからそうなるのです。
自然の脅威に対する安全マージンは、常に最大に取らなければなりません」
セインは髪についた水滴を払いながら、胸ポケットから防水処理された羊皮紙を取り出し、新しく一文を書き加えた。
『川を渡る際は、救命胴衣の着用と命綱の連結を義務付ける』
「でもさ、セインちゃん」
ミルが濡れた髪を絞りながら、無邪気に笑いかける。
「今日のセインちゃん、なんかすごく頼もしくて格好良かったよ!」
「……っ。ま、魔法の出力を調整しただけです。
それより、早く親書を届けに行きますよ。時間が遅れると、それだけ夜間移動のリスクが増えます」
セインはあわてて背を向け、早足で歩き出した。
その耳が、恥ずかしさで少しだけ赤くなっているのを、後ろの4人は見逃さなかった。
最弱パーティの、安全第一な配達道中。
彼女たちの絆と歩みは、今日も少しずつ、確実に前に進んでいく。
カノン「みんなー! ここまで読んでくれてありがとう! 楽しんでもらえた?」
クレア「あの……もしよろしければ、私たちの旅をこれからも見守っていただけると嬉しいです……!」
セイン「画面下部にある**【ブックマークに追加】や、評価の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】**に染めて応援してくださると、作者の執筆モチベーションが跳ね上がります。……もちろん、私の精神安定にも繋がります」
ケットル「みんなのポチッとが、ウチらの大きな支えになるからね! よろしくおくれ!」
ミル「次のお話も、絶対見にきてねー!」
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