第三話:安全な採集とは
「いいかい、みんな。今日の依頼は、
『幻の光るキノコ・ヒカリダケの採集』だよ」
いつものギルドの一角で、
ケットルが案内書を広げた。
「えーっ、今日はバトルなし?
キノコ狩りなんて地味だし、
魔物の素材みたいに
一攫千金は狙えないじゃん!」
カノンが『借金回避の双牙』を
手遊びがてらにクルクルと回しながら、
つまらなそうに唇を尖らせる。
「カノン、口を慎みなさい」
セインが『静かになさいの槌』の柄で、
コン、と床を叩いた。
「地味な採集依頼ほど、
不注意による労働災害が多いのです。
自然の植物や菌類を甘く見る者は、
魔物に喰われる前に命を落とします」
「うっ……セインちゃん、
キノコ相手に大げさだよぅ……」
「大げさではありません。
構造解析による事前情報によれば、
目的のヒカリダケの周囲には、
強力な胞子毒を持つ『シビレダケ』が
群生している確率が非常に高いです。
触れただけで、全身が丸一日
麻痺することになります」
「ひゃうっ……!
ま、丸一日麻痺だなんて、
想像しただけで切なすぎます……!」
前衛のクレアが、
自分の『切ない剣』を盾のように
体の前に構えてブルブルと震えだした。
「だからこそ、事前の安全対策さ!」
ケットルが巨大な背負い袋から、
ゴソゴソと何かを取り出した。
「じゃーん!
ウチが用意した『特製マジックハンド』と
『密閉式キノコ専用保管缶』だよ!」
「マジックハンド……?」
ミルが『もう壊さない杖』で、
ケットルの持つ長い鉄製のハサミを
つんつんと突っつく。
「そうさ! これを使えば、
毒キノコに直接手を触れることなく、
安全な距離から採集ができる。
素手で毟る(むしる)なんて、
安全管理の観点から絶対に禁止だからね!」
「素晴らしいですね、ケットル」
セインが眼鏡を押し上げるような仕草で
深く頷いた。
「さらに、全員に厚手の『防毒マスク』の
着用を義務付けます。
ミル、あなたには念のため、
風を操る魔法で、私たちの周囲の
胞子を吹き飛ばす防護壁の展開を
命じます。……いいですね?」
「はーい!
そよ風さんで、胞子を
ふう、って飛ばせばいいんだね!」
「そうです。ただし、突風にして
キノコごと吹き飛ばさないように。
出力は最小限に抑えなさい」
「はーい、気をつけるー!」
「よし。装備の点検ヨシ、
マジックハンドの動作ヨシ、
防毒マスクの密着度ヨシ。
……出発します」
こうして私たちは、
ガチガチの安全防護を固めて
目的の湿地帯へと向かった。
薄暗く、じっとりと湿った
森の奥深く。
大きな大木の根元に、
ぼんやりと青白く光る
美しいキノコの群生が見えてきた。
「あったー!
すっごく綺麗!」
ミルが歓声を上げる。
「待ちなさい。
美しさに目を奪われてはダメです」
セインが手を出そうとしたミルを
鋭い声で制した。
「構造解析……やはり。
青い光の根元に、
斑点のある禍々しい紫のキノコが
混じっています。
あれが胞子毒を持つシビレダケです。
わずかでも振動を与えれば、
周囲に毒胞子を撒き散らします」
「うわぁ……本当だ。
よく見ると、すっごく切ない色の
キノコが混じってます……」
クレアが防毒マスク越しに、
怯えた声を出す。
「よし、ウチの出番だね!」
ケットルがマジックハンドを構え、
慎重に足元を進める。
その後ろでは、ミルが
『もう壊さない杖』を小さく振り、
微風の障壁で空気の流れを一定に保っていた。
カチャ、カチャ。
ケットルは職人ならではの
器用な手つきで、
毒キノコを刺激しないよう、
見事にヒカリダケだけを
一本ずつ挟み取っていく。
「ふふん、どうだい!」
「さすがケットル。
そのまま、密閉缶へ」
セインの指示通り、
採集されたキノコは次々と
安全に保管されていった。
だがその時、
「シャーーッ!」という鋭い羽音が、
頭上から響いた。
「みんな、上だよ!
キノコの縄張りを守る
大スズメバチだ!」
カノンが鋭い耳を動かし、
『借金回避の双牙』を構えて叫ぶ。
上空から、人間の頭ほどもある
巨大なハチが数匹、
猛スピードで襲いかかってきた。
「クレア、剣を構えなさい!
ただし、大振りは禁止。
ハチの針には麻痺毒があります、
防具の隙間を狙われないよう、
小さく払うだけでいいです!」
「は、はいぃぃ!
小さく、優しく、払います!」
クレアは『切ない剣』を
体の前で小さく素早く振るい、
突撃してきたハチの羽を
見事に叩き落とした。
「ギチギチッ!」
地面に落ちてのたうつ大スズメバチ。
「チャンス!
今度こそ私の双牙で――」
お宝でもないのに条件反射で
飛び出そうとしたカノンの襟首を、
セインがガシッと掴んで後ろへ引き戻す。
「カノン、言ったはずです。
ハチは死に際に、仲間を呼ぶ
フェロモンを撒き散らします。
ここで叩き潰せば、
大群に囲まれて安全管理が破綻します」
「えっ!? じゃ、じゃあどうするの!?」
「ミル、私たちの周囲に、
一時的な『空気の遮断壁』を。
フェロモンと胞子を同時に閉じ込めます」
「まかせて!
えいっ!」
ミルが杖を振るうと、
私たちの周囲の空気が
ピタッと止まり、透明なドームのような
風の壁が形成された。
「ケットル、残りの採集を
急ぎなさい!」
「おうよ! これでラストだ!」
ケットルが最後のヒカリダケを
マジックハンドで掴み取り、
密閉缶のフタをパチンと閉めた。
「採集完了です!
全員、このままゆっくりと
後退しながら
避難します。
走って転んで、防毒マスクが外れたら
元も子もありませんからね」
「了解っ……!」
私たちはセインの指示に従い、
一歩一歩、確実に安全を確認しながら、
大スズメバチの縄張りから離脱した。
ギルドへ戻り、無事に
依頼の報告を済ませた私たちは、
大きなケガ一つなく
温かいお茶をすすっていた。
「いやぁ、今日も無傷、無事故だね!」
ケットルが満足そうに、
綺麗に洗浄したマジックハンドを
背負い袋に片付ける。
「最初はキノコ狩りなんてって思ったけど、
あんな危険が潜んでるなんて
思わなかったよ。
セインちゃん、止めてくれてありがとね」
カノンがバツが悪そうに、
頭の角を指先でいじりながら呟いた。
「分かればよろしい。
どんな小さな依頼であれ、
家に五体満足で帰るまでが
冒険ですからね」
セインはそう言って、
羊皮紙の安全管理規定に
『採集時の直接接触の禁止』と
誇らしげに書き加えた。
「私、今日も生きて帰れて
本当に嬉しいです……。
セインさんの安全管理、
やっぱり最高です!」
クレアが『切ない剣』を優しく磨きながら、
心からの笑顔を見せる。
「……フン、当然です」
セインはそっぽを向いたが、
その耳はほんの少しだけ赤くなっていた。
最弱パーティの、安全第一な日々。
彼女たちの歩みは、
今日も少しだけ、確実に進んでいく。
カノン「みんなー! ここまで読んでくれてありがとう! 楽しんでもらえた?」
クレア「あの……もしよろしければ、私たちの旅をこれからも見守っていただけると嬉しいです……!」
セイン「画面下部にある**【ブックマークに追加】や、評価の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】**に染めて応援してくださると、作者の執筆モチベーションが跳ね上がります。……もちろん、私の精神安定にも繋がります」
ケットル「みんなのポチッとが、ウチらの大きな支えになるからね! よろしくおくれ!」
ミル「次のお話も、絶対見にきてねー!」
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