第二話:最初の壁
「……というわけで、これが本日の依頼、
『洞窟に住み着いた巨大ムカデの討伐』です。
ですが、そのまま出発するわけがありませんね?」
翌朝。ギルドのロビーで、
セインは依頼書の羊皮紙を
冷徹な手つきでパシッと叩いた。
「ゲェッ!? ムカデぇ!?」
カノンが露骨に嫌そうな顔をして、
自前の小さな角を震わせる。
「やだなぁ、虫はちょっと……。
早く行ってサクッと片付けようよ。
私の『借金回避の双牙』で、
さっさと刻んで終わらせよ!」
「却下です、カノン」
セインの冷たい声が響く。
「事前準備と安全確保のない出撃は、
ただの無謀であり、自殺行為です。
今回の標的は巨大ムカデ。
当然、牙には強い『神経毒』があると
私は構造解析で予測しています。
というわけで……はい、これを装着しなさい」
セインが机の上にドンと置いたのは、
分厚い革製のプロテクターと、
怪しい緑色の液体の入った小瓶だった。
「なになにー?
ケットルちゃん、また何か
怪しいものでも作ったの?」
ミルが『もう壊さない杖』をぶんぶんと
危なっかしい軌道で振り回しながら
覗き込む。
「ウチの特製、防毒面と厚手の保護具さ!」
ケットルが巨大な背負い袋から、
予備の装備を次々と引っ張り出した。
「ムカデの毒液の飛散を想定して、
目と口を覆う保護メガネと防毒マスク、
それから、酸にも強い特製革手袋だ。
全員、ちゃんと着けるんだよ!」
「うぅ……重いし、
見た目がすっごく怪しいよぅ……」
カノンがぶつぶつと文句を言う。
「文句を言わない。
それからミル、あなたには
事前に『対毒の障壁魔法』の
付与を義務付けます」
「はーい!
じゃあ、みんなに緑色のバリア、
張っちゃうね!」
ミルが杖を掲げると、
全員の体を淡い緑色の光が包み込んだ。
これで万が一、毒液を浴びても、
数回は完全に防げるはずだ。
「そしてクレア」
「ひゃいっ……!」
名前を呼ばれただけで、
クレアは飛び上がらんばかりに驚いた。
両手でしっかりと抱きしめている
『切ない剣』が、微かに震えている。
「あなたは前衛ですから、
一番頑丈な追加装甲を着けてもらいます。
重いでしょうが、命には代えられません」
「う、うう……。
ムカデに噛まれる想像をするだけで、
もう切ないです……。
でも、こんなにガチガチに対策してもらえるなら、
私、泣かずに頑張れるかもしれません……!」
「よし、保護具の着用ヨシ。
魔法の付与ヨシ。
毒消し薬の携帯ヨシ。
……安全確認、すべて完了です」
セインは満足そうに
『静かになさいの槌』を肩に担ぎ直した。
「では、最弱パーティの、
安全第一な初陣と洒落込みましょう」
目的地である薄暗い洞窟。
ひんやりとした空気の奥から、
「カサカサカサ……」という、
無数の足が岩肌を這う
不快な音が響いてきた。
闇を割って姿を現したのは、
赤黒い甲殻に覆われた、
巨大なモンスタームカデだった。
「ひ、ひえぇぇ……!
やっぱり、すっごく切ない見た目ですー!」
クレアが悲鳴を上げながらも、
ガチガチの保護具に守られた体で
『切ない剣』を構えて前に出る。
巨大ムカデは、獲物を見つけるや否や、
その無数の足を激しく動かして
猛烈な勢いで突撃してきた。
その口元からは、紫色の不気味な毒液が
ポタポタと滴り落ちている。
「クレア、そのまま待機!
保護具の性能を信じなさい!」
後方から、セインの鋭い声が飛ぶ。
「セインさん!
でも、あんなの無理ですー!」
「まだです……今!
『構造解析』――そこ、左から三番目の
関節の噛み合わせが緩い!」
セインの瞳が、一瞬だけ
妖しい魔力の光を帯びる。
「ケットル、あの関節を狙いなさい!」
「任せときな!」
ケットルがパチンコを限界まで引き絞り、
特製の鉄球を放った。
金属質な風切り音と共に放たれた弾は、
寸分の狂いもなく、セインの指摘した
ムカデの足の関節を直撃する。
バギィィン!
「ギシャァァァ!?」
突撃のバランスを崩し、
巨大ムカデの巨体が
大きく右側に傾いた。
その拍子に、口から大量の毒液が
クレアめがけて放射される。
「きゃああっ!?」
だが、ミルの張った緑色の障壁が
ジュウ、と音を立てて毒液を弾き、
防ぎきれなかった飛沫も
クレアの防毒面と保護具が完全に遮断した。
「本当に、痛くない……!」
「今です、クレア!
傾いた頭を、上から叩きつけなさい!」
「う、うおおおぉぉ!
これでもくらええぇぇ!」
セインの的確な指示に背中を押され、
クレアは目をつむりながら
『切ない剣』をがむしゃらに振り下ろした。
ガキィィン!
刃の半分ほどが、
ムカデの頭部の薄い甲殻に
見事に突き刺さる。
「やったぁ!
クレア、ナイスだよ!」
カノンが叫ぶ。
「ギシ、ギシャァァァ!」
しかし、痛みに狂ったムカデが、
長い体をくねらせて、
クレアを巻き込もうと
大きな尾を振り回した。
「しまっ……!
引き抜けないですぅ!」
剣が甲殻に挟まり、硬直するクレア。
真横から、丸太のような尾が迫る。
「カノン、突撃は禁止です!
下がっていなさい!」
「えっ、あ、ハイ!」
飛び出そうとしたカノンを声で制し、
セインは『魔導ブースター』を
最大出力で起動した。
「我が領域の理を書き換える――
『環境上書き(エンバイロメント・リライト)』!」
セインが地面を『静かになさいの槌』で
激しく叩く。
次の瞬間、クレアの周囲の地面が
一瞬にして「ふかふかの砂地」へと
変貌した。
「えっ!?」
足元が急に柔らかくなり、
クレアの体がズブズブと沈み込む。
そのおかげで、ムカデの尾のひと振りは、
クレアの頭上をかすめるようにして
虚しく空を切った。
「――ミル!
今です、威力を『三分の一』に抑えて、
ムカデの胴体に撃ち込みなさい!」
「はーい!
いっけぇぇーー!」
ミルが『もう壊さない杖』を掲げると、
抑えめの火球が放たれた。
ドガァァァン!!
爆風が洞窟内に吹き荒れ、
巨大ムカデの巨体は、
今度こそ完全に消し飛んだ。
「……ふぅ。
なんとか、無傷ですね」
セインは衣服についた煤を払いながら、
静かに息を吐いた。
「す、すごいです、セインさん!
私、本当にケガもしてないし、
毒も全然平気でした……!」
クレアが自分の頑丈な保護具を
ペタペタと触りながら、目を輝かせる。
「あはは! これなら、
どんな魔物が来ても楽勝じゃん!
さあ、奥のお宝を探しに行こうよ!」
調子に乗ったカノンが、
保護メガネを外して
『借金回避の双牙』を振り回し、
奥へ進もうとした、その時。
ゴツン!
「あ痛っ!?」
カノンの頭に、セインの
『静かになさいの槌』が
容赦なく優しく(?)落とされた。
「言ったはずです、カノン。
まだ安全確認が終わっていません。
保護具を勝手に外すのも違反です」
「うう……セインちゃん、
本当に容赦ないよぅ……」
頭を押さえて涙目になるカノンを見て、
ケットルとミルはケラケラと笑う。
「でもさ、これならいけるよ」
ケットルが満足そうに、
予備の防毒面を袋に片付けた。
「事前の安全管理さえしっかりすりゃ、
ウチらは確実に強くなれるさ」
「ええ」
セインは羊皮紙の規定に、
『防具・薬品の事前点検徹底』と
新しく書き加えながら、
小さく口元を緩めた。
「私たちは、今日も少しだけ、
安全に成長しましたからね」
凸凹な5人の、安全第一な冒険は、
まだ始まったばかりだった。
カノン「みんなー! ここまで読んでくれてありがとう! 楽しんでもらえた?」
クレア「あの……もしよろしければ、私たちの旅をこれからも見守っていただけると嬉しいです……!」
セイン「画面下部にある**【ブックマークに追加】や、評価の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】**に染めて応援してくださると、作者の執筆モチベーションが跳ね上がります。……もちろん、私の精神安定にも繋がります」
ケットル「みんなのポチッとが、ウチらの大きな支えになるからね! よろしくおくれ!」
ミル「次のお話も、絶対見にきてねー!」
面白い、続きが気になると思ってくださったら、ぜひブックマークや**評価の星(★★★★★)**で応援をよろしくお願いいたします!
感想やレビューもいつでも大歓迎です。励みになります!




