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人違い魔王  作者: SS野郎
6/7

祭りだ!

「うん、うん、よしそれで行こう」


各種の政策決定で忙しかったある日の事。


「そう言えば魔王様、そろそろいつもの祭りの時期がやってきましたな」

「祭り?」


そんな話は初めて聞くぞ。


「はい、数年に一度、人間に魔王様のお力を見せるために、祭りを開催しているのです」

「具体的にはどんなことをするの?」

「例えば、荒れている土地に魔法を撃ちこんで平らにするとか、水不足の地域に川を通すために魔法で地面に長い溝を掘る、といった事ですね」

「なるほど」

「木材の伐採や、大量の肥料を一度に運ぶといった事もなされていました」


どうやら、力の示威と実務を兼ねた祭りらしい。

これにより、魔王の力を見せつけて恐れさせる目的があるようだ。


「実は魔王様不在や記憶の問題で、ここ数年は多忙と体調不良ということにして中止し続けておりまして…」


そう言えば召喚術士もいろいろごまかす必要があると言ってたな…

これもその一つなのだろう。


「ですが、そろそろ延期も限界まで来ておりまして…」

「そうなの?」

「はい、我々魔族の間でもですが、実は人間も割と楽しみにしている所があるのです」

「人間も?」

「魔王様がすごい力ですごい事をやってくださる、ということで…」


確かに開墾や治水などをものすごい魔力でやるのは喜ばれるだろうな…

見た目のインパクトも強い。


「でも俺まだ記憶が戻ってないから、ろくに魔法使えないよ?」

「そこが問題でして…ですので、魔王様に何か考えていただく必要がありまして…」


弱ったぞ。

本物の魔王ではない俺にそんなすごい魔法は使えない…

今まで一応こっそりと訓練はしているが、コインを少しだけ浮かせるのが限界だった。

なおこれに関しては、以前にも言ったとおり、記憶が無いせいで魔力を使えるようにする方法を忘れている、ということでずっとごまかし続けている。

もちろん人間達には、そのことを知られないようにはしているが。


「祭りはいつ?」

「来月の末のこの日ですので、およそ40日後ぐらいです」

「わかった、ちょっと考えておくよ」

「かしこまりました」


そう言って大臣は執務室から出て行った。


(…さて、どうしよう…)


その日から、祭りについての業務も追加されることになった。


「とりあえずどうしたものか…」


いろいろ考えた結果、まず自分が今までどのような祭りが開かれているのかを知らないのがマズいということで、ここ数十回の祭りの具体的な内容をまとめさせた。


「ふむふむ…」


優秀な部下が多いおかげで、資料はすぐに提出された。

その報告によると、まずこの王都で前夜祭といったような祭りをやるらしい。

期間は特に決まっていないようだが、大抵は2~3日やっている。

内容的には王都の各家で様々な飾りつけをしてお祝いする程度だが、その間は大陸中からこの王都に観光客が集まるそうだ。


「ふむ、俺の世界で言うクリスマスのイメージが近そうだな」


報告書によると、観光客の大半は魔族らしい。

その後、魔王がその現場へ向かい、強力な魔法で何かをやって終わり、という流れだそうだ。


その魔王が現場へ向かう際にパレードみたいな事をするのが割と盛り上がると報告にある。

このパレードが人間の間で人気が高いらしい。


「スポーツの優勝パレードみたいなものだろうか…」


これら全部で1週間~10日ぐらいの期間になるようだ。


「ふむふむなるほど」


部下達が詳しく書いてくれているせいで、大体の内容は把握できた。

頼もしい部下が多くてありがたい。


「さて、どうしたものか…」


色々頭をひねった結果、魔法で何かをするという部分をごまかすしかないという結論になった。


「今回の祭りはちょっと大胆に変えてみようかと思う」


報告を受けた2日後、祭りに関係している大臣を集めてこういう発表をした。


「具体的にはどのように?」

「まず、パレードを無くそうと思う」

「え!?」


会議室に驚きの声が上がった。


「そして、祭りの期間、この王都で各地の料理を出す店を出させようと思う」


また驚きの声が上がった。


「人間も魔族も集まったところで、最終日にちょっとしたサプライズを仕掛けようと思う」


さらに驚きの声が上がり、皆が顔を見合わせていた。


「魔王様、そのお力を見せつけないようにしても大丈夫でしょうか…」


当然の疑問が出てきた。

この祭りは魔王の力を見せつけるという意味もあるのだから。


「今回の祭りに関しては、俺の力というより、今までやってきたことを見てもらうという形にしようと思う」

「と言いますと?」

「ここしばらく、技術交流会や学校の設立などで色々やってきただろう?」

「はい」

「その結果、色々な分野が発展しただろう?」

「はい、各産業の生産量はかなり伸びております」

「そこで、その成果を王都に集めて、皆に見てもらって、これだけ皆で頑張ったんだぞ、というのを見せるという感じかな」


というのを昨日の晩に思いついたのだ。

要は文化祭や展覧会といったようなものだ。

切羽詰まって思い浮かんだ割には良さそうだと思っている。

それに、これによって俺が皆と一緒に今までやってきた成果もアピールすることができるはずだ。

成果を見てもらえば温情ポイントもかなり稼げるに違いない。


大臣たちからは、これは行けそうだ、力の示威が無くても大丈夫か、など、いろいろな反応があった。

特に年配の大臣は力の示威が無いことを心配していた。


「俺がいた世界でも似たような事をやっていて、割と上手く行っていたからね」


いつものアレを言ってみると、大臣たちも心配はあるもののとりあえずやってみようかという方向に動いた。


それからはちょっと大変だった。


「農業技術交流会や漁業協力会などから各地域の代表に、その地域の料理の屋台を準備するように伝えておいてくれ」

「かしこまりました」

「王都に作る仮店舗の資材と、場所の確保も頼む」

「わかりました」

「基本はこの城の庭園を使え。この広さなら、相当な数の屋台を出せるはずだ」

「では早速手配を…」

「食材や資材の搬送の手配も頼むぞ」

「わかりました」

「観光客が泊まれる施設は足りるかな?」

「はい、調べてまいります」


いつもの仕事に加えて祭りの手配も増えたからだ。

そして各分野の専門家を集め、祭りに向けて色々な準備を行った。


「…という祭りをしようと思うんだけど…」


そんな中、召喚術士との面談でも相談してみた。


「いいですね…魔法が使えないというのは徹底的にごまかさないとダメでしょうし…」

「だよな…」

「そのために、各地の名物料理に注目を集めさせるのはいいと思います」

「人間も魔族も美味い物に弱いのは当たり前だもんな。これで温情ポイントは稼げるかな?」

「かなり稼げそうですね。あと、他にも例えば…」


彼女も色々なアイデアを出してくれたのは助かった。


「さて、あとは…」


俺はサプライズのための準備も開始した。


「大陸魔法協会と、技術者連合の人を呼んでくれ」


そして集まった数名の者に、


「君らでこういうのは作れないか?」


と下手な絵を見せて質問してみた。

全員首をかしげていた。

この世界では似たようなものが無いのか、自分も一度も見ていないのだ。

すると、技術者連合の者が何かを思い出したようだ。


「魔王様、大陸の南側の人間の村で、似たような事をやっているという話は聞きました。ただ、魔王様がおっしゃるほど派手ではないようですが…」

「そうなのか、では、そこの人たちに、こういうのできないか聞いてもらえないか?」

「かしこまりました」


こうしてサプライズの準備も進んでいった。


そしてあわただしい準備をし、とうとう祭りの日になった。

思ったより作業が難航し、予定より3日程遅れての開催になった。


「今回の祭りは、我々皆でやってきたことを再確認する意味もあるが、まずは楽しんでもらいたい」


城のテラスに立ち、ビビりながら挨拶をし、祭りの開始を宣言した。


「うちの地方の名物料理だよー」


各地の名物料理を出す露店が料理を出し始めた。

皆よその地方の見たこともない料理に満足している。


「これがこの度新しく開発された…」


一方、新しい魔法の道具を展示しているブースでも、客が説明を受けて感心しているようだった。


最初のうちはそこそこ盛り上がっているという程度だったが、噂が噂を呼んで、5日目ともなるとかなりの人間や魔族が集まるようになっていた。

店によってはかなりの行列ができている。

特に、初日は少なかった人間の観光客が増えていた。


・・・・・・・・・・


「私どもも参加していいのですか?」


祭りの会議の際、集まった人間の代表がこんなことを言っていた。


「もちろん。というか君らも来てもらわないと重罪だぞ。君たちの祭りでもあるのだからな」


そう脅して無理やり来させたのだ。

その彼らが祭りに参加し、その後地元に戻って


「今年の祭りはいつもと違うがよかったぞ。最初は来るように脅されていたが、行って本当によかった」


といった噂を流したおかげで、人間の観光客がさらに増えたようだ。


・・・・・・・・・・


「お祭りは盛り上がっていますわね」


最終日、テラスに作った席で王妃が庭を見て呟いた。


「ああ、上手く行ってよかった…」


ごまかしから始まった祭りがここまで盛り上がって助かった…

また、祭りの開催の結果、色々な問題も露見してきた。

特に、交通に関してはまだまだ改善の余地があるようだ。

開催直前に、ある店で使う食材が届かないという報告を受けた時は心底焦った。

祭りが終わったらその辺も検証しないといけないな…


そう考えていると、庭の上空から大きな音が響いてきた。


「まあ綺麗…」


サプライズとして仕込んでいた花火が打ちあがり始めた。

魔法の技術と、大陸の南の方にある人間の街で使われていた、爆竹に近い火薬の技術を組み合わせたものだ。

こちらの世界では、こういう火薬の使い方をするのは、その南の人間の街ぐらいだったそうだ。

準備期間は短かったものの、綺麗な花火を作ってもらえてよかった。

…実は突貫作業過ぎたのでちょっと心配していたのだ。


後で聞いた話だが、


「いつもの祭りもいいが、今回の祭りのようなのもよかった。どちらがいいかは決められない」


という感想が多かったそうだ。

年配の大臣も、


「魔王様の政治力を見せつけるいいチャンスになった」


と満足してくれたようだ。

だが、一方で、人間側から


「魔王様のパレードはやっぱりやって欲しかった」


という意見が上がってきたのには苦笑いするしかなかった。


「次のお祭りもこういう感じになるのですかね」


花火の音が上空で響く中、王妃が聞いてきた。


「準備期間をもっと長くしないといけないがな…」

「皆が集まる、にぎやかで素敵な祭りになりそうですね」


そう言って、皆も見ているであろう花火を、テラスで王妃と眺めた。


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