「人違い魔王」
人違いでこの世界に連れてこられてどれぐらいの年月が経っただろうか。
色々な事をやり、国は豊かになっていった。
相変わらず魔族の方が上に居る感じではあるが、以前と違い人間との立場の差は縮まっていた。
中には地方を治める地位、俺の世界で言うところの「県知事」みたいな立場にまで上り詰めた人間もいる。
有能な者であれば、人間であれ魔族であれ関係なく腕が振るえるような仕組みになったのだ。
まだギクシャクしている所はあるものの、魔族と人間の関係はかなり良好になっていった。
そしてあらゆる産業が国中で発展していった。
おかげで、魔族の間からは
「記憶は戻ってないのにものすごい手腕なのはさすが魔王様だ」
といった感じで評価されるようになっていた。
今まで口先だけでごまかしたのも数えきれない回数になっていた。
俺は詐欺師の才能でもあったのだろうか。それとも、命がかかってるために必死になったせいなのだろうか。
「あなた、大丈夫ですか?」
「ああ、今日はだいぶ楽だな」
先日ちょっと公務中に気を失って倒れてしまったのだ。
そのためここ数日王妃に看病をされている。
俺の身体は特殊な術で作られたため、普通の魔族に比べると老ける速度が速く、寿命が短いらしい。
そのせいか体のあちこちにガタが来てかなり弱ってきた。
王妃も俺がこっちに来たばかりのころと比べると老けてはいるものの、それでも俺と比べるとかなり若々しく、綺麗なおばさんという感じであった。
「ところで、私を召喚したあの術士は今どうしている?」
彼女は俺の記憶を戻すのが無理だということで研究は中止にして、その後魔法学校の教師として赴任させたのだ。
「今日も生徒に囲まれて元気に教鞭をとっているようですよ」
「そうか…ちょっと彼女を呼び出してもらえないだろうか」
しばらくすると、彼女がやってきた。
彼女は最初に出会った頃とほぼ変わらない。
魔族の女性は男性以上に老けづらい体質だそうだ。
「魔王様、具合はいかがですか?」
彼女は部屋に入ってくると、かしこまって挨拶をした。
共犯者であることが悟られないようにするためだろう。
「ああ、今日はだいぶ楽だな」
「良かった…ところで私に何か御用でしょうか?」
「…あの事について王妃に話しておこうかと思ってな…」
すると彼女は顔を真っ青にした。
人違いが発覚した時よりはだいぶマシだが…
ここまでいろいろな事をやってきたし、もう寿命も近いようだから、きっと許してもらえるだろうという算段もあるのだが。
「あら、お二人の間に私にも言えなかった秘密でもありますの?」
「あのそのいえ…」
落ち着いて笑みを浮かべながら話す王妃とは対照的に、召喚術士はものすごく慌てていた。
そして王妃に、俺が人違いで連れてこられたただの人間で、夫である魔王は帰ってきてない事を正直に話した。
「今までずっと騙していて済まなかった。わが身可愛さのために、ずっと彼女と二人で秘密にしていたのだ」
だが、王妃の反応は予想とは違っていた。
「ええ、そんな事ならとっくに気が付いていましたよ」
「「え!?」」
驚く俺と彼女。
「こちらに来てすぐではないですが、そうですね…漁港の整備を大々的に行うようになった、ちょうどあの頃ぐらいでしょうか」
「け、結構前じゃないですか」
召喚術士の言う通り、漁港の整備に力を入れ始めたのは割と前の事だ。
「いくら何でもここまで記憶が戻らないのはおかしいですし、立ち居振る舞いや雰囲気などからやっぱり違う人だ、となりましたからね」
王妃は魔王と付き合いが長いため、細かい所で俺が別人だと気が付いていたようだ。
言われて思い出してみると、時々そんな感じの態度があったようだ…
「おそらく私だけじゃないですよ。側近の中でも数名かは気付いていたと思いますよ。いや、もっと多かったかもしれません」
「…そうか…だが、気付いていたのになぜそのことで私を糾弾しなかったんだ?」
本来なら処刑されてもおかしくないのだが…
「そりゃそうですよ。あなたはこの国のために必死で色々やってたんですよ?そんな人を糾弾できますか」
「…」
「しかも、あなたの立場からすれば、縁もゆかりもない見知らぬ国ですよ?それにもかかわらずあんなに頑張ってもらってるなんて申し訳なくて…」
言われてみると、確かに心当たりがあった。
ある時期を境に、何人かの側近がやたらと手回しがよくなったのだ。
俺のやり方に慣れてきたせいかとも思ったのだが、人違いだと気がついて王妃の言うような考えになって、気を使ってくれていたのだろう。
…ありがたい話だ。
「それに私も覚悟はしていました」
「…覚悟ですか?」
「ええ、夫はすでに死んでいるんです。それで会えなくなるのが当然なのに、それでもこの国を守るために無理やり帰ってきてたんです…」
よく見ると王妃の手が震えている。
「だから、本当ならとっくに会えなくなっているはずなのに、それでもまた会えていた事自体が奇跡だったんです」
「王妃様…」
召喚術士も王妃の話をじっと聞いていた。
「ですので、いつか術が効かなくなり会えなくなる事は覚悟していたんです」
俺も言葉が出なかった。
「そして術が失敗し、本当に会えなくなったにも関わらず、あなたは私に気を使って必死で夫のふりをしてくれたんですよ」
「…」
「そんな優しい人を糾弾できますか」
王妃は涙を浮かべながら笑顔でそう答えた。
「…ありがとう」
「それはこちらのセリフですよ。人違いで連れてこられたにもかかわらず、夫が目指していた、魔族も人間も幸せな国を作るのを引き継いで、必死で頑張って…立派にやり遂げてくれたんですから」
そう言って手を握ってきた王妃に、俺は一言返した。
「…ありがとう」




