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人違い魔王  作者: SS野郎
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魔王面談

そして色々な執務を続けている時、大臣から報告が入った。


「魔王様、農業学校で初めての人間の卒業生が出ました」

「ふぇ…?」


ちょっと寝不足なのもあって間抜けな返事をした。


「こちらがその生徒の詳細です」


以前、小麦の生産が落ち込んだことがあった。

素人の俺ではわからないということで、各農村の詳しい人を集めて意見交換会を開かせた。

その結果、各地でバラバラだった技術の進歩が共有され、各地の生産量が上がったのだ。

さらにその技術を指導し広め、体系的に研究するために、農業学校というものが設立されたのだ。

この農業学校も、俺の所に話が来た際に、


「向こうの世界では…」


という事で強力に推したものだが、意見交換会の成果を知っている皆からは、それをもっと発展させようと賛成されてスムーズに設立できた。


なお、この農業での意見交換会が成功したのをきっかけに、色々な分野で同じような事をやるようになった。

魔族だけでなく人間側からも「我々もやってみたい」という要望が多かったのだ。

特に漁業や工業の分野で効果があったが、意外な事に魔法の分野でもかなりの成果があった。

魔族の方が魔力は圧倒的に高く色々な魔法が使えるので、その分全体的な技術は進んでいた。

一方で人間は少ない魔力でいろいろ工夫する技術を、独自の方向で進歩させていたのだ。

それらの情報を交流会で得て、お互いに組み合わせていろいろな新しい技術も生まれたのだ。


まあ、今はその事は置いておこう。

まずはこの報告が来た理由を考えなければならない。


「…」


書類を眺めながら考えたが、どうも理由が思い当たらない。


「えーと…」


しばらく書類とにらめっこして、ようやく理由が思い浮かんだ。


この農業学校を作る際に、俺は人間も入学できるようにしようとしていたのだが、反対する者も多く、その辺の議論がかなり続いていた。

だが、いつものように「向こうの世界では、種族に関係なくこういう教育がなされていた」と言って、強引に人間も入学できるようにしたのだ。

そして、魔族だらけの所で勉強して卒業した最初の人間の生徒に、同じ人間として


「頑張ったなぁ…」


とちょっと褒めてあげようと思ってたのだ。

その為、最初の卒業生が出たら報告するように、と指示を出していた。

…のを、多忙もあってすっかり忘れていたのだ。


「その生徒も、魔王様との謁見を大変名誉だと喜んでいました」

「…え?」

「魔王様のお言葉を一言一句聞き逃さないと気合が入ってるとの報告も上がっております」

「…ええ?」

「ですので魔王様、生まれ変わりの件や、記憶がまだ戻っておられない件などは決して悟られないように気を付けてください」

「…そうだね」


そして大臣のこの報告により、俺はこの謁見で下手な事が言えない事に気が付いた。

大臣に指摘された事以外にも、俺が人違いのただの人間であることも悟られるわけにはいかないのだ。

それは、俺の死や国の崩壊を意味するのだから…

俺は以前の俺を恨んだ。


その日以来、公務の合間にどういう事を話そうか考えていた。

だが、そこそこ忙しいのもあって、上手く考えがまとまらなかった。


そして、とうとうその日がやってきた。

かなり緊張したまま、その生徒が待っている部屋へと入った。

中には一人の青年がやはり緊張したような様子でかしこまって座っていた。

どこにでもいそうな、優しそうな青年という印象だった。

「どこにでもいそうな」と言えば俺も人の事は言えない顔つきだが。

俺も彼もちょっと震えているようだった。


「…!」


彼は俺に気が付くと、大慌てで立って大げさなぐらい頭を下げた。


「まあ、そう緊張しなくてもいいよ」


メチャクチャ緊張している俺が言えた事ではないが。


「は、はい」

「まあちょっと話を聞いてみようという程度の事だから、もう少し楽にしてくれ」

「は、はい」


とはいえすぐにできるわけはない。

俺だって緊張しているのだ。


「まず、学校に入ろうと思った理由を聞かせてもらえないか?」

「は、はい!私は田舎の方の農村の出身なのですが…」


彼は村の名前を口にしたが、まだこの世界の地理を完全に覚えきれていない自分には、どの辺りなのかピンと来なかった。


「以前、魔王様が開催された農業意見交換会で、魔族の方に教えていただいたやり方で村の生産量が一気に上がりまして…」

「ふむ」


実際に現場で上手く行ったようで何よりだった。


「子供心に魔族の技術ってすごいなと思いました」

「なるほど」

「そして、農業学校の話を聞いて、もっと知りたいと思い入学させていただいた次第です」


わかりやすい動機である。

こういう人間が増えたのもよかったと思う。


「…やはり最初は戸惑った?」

「はい、魔族の方ばかりでしたし、ずっと緊張し続けでした」


彼を見る限り、今もまだ魔族に慣れてはいないようだ。


「ですが、高度な農業技術を教えていただける授業は非常にためになりました」

「うむ、それはよかった。ところでいじめとかは無かったか?」


ちょっと気になる事を聞いてみた。


「いじめというほどではないですが、最初はかなり避けられてた感じですね…」

「あー…」

「ですが、1年もすると皆親切に接してくれるようになりました」

「なるほど」


どうやら同じ学問を志すもので仲良くはなっていったようだ。

意見交換会でもそうなったように。

その後、学校での生活について聞いてみた。

そして、こちらの事をいろいろ言うのは止めておいた。

下手にぼろを出せないため、なるべく聞き手に回るようにしたのだ。


「これからはどうするつもりだい?」

「はい、これからはこの技術で魔族の方に役立てるように頑張っていきたいと思います!」

「あー、それは違うなあ…」


ちょっと大げさな身振りで否定してしまった。


「違う、とおっしゃいますと?」


ちょっと怯えながら彼は聞いてきた。


「これから君が頑張っていくのは、我々魔族だけじゃなくて、この大陸に住む皆のためだよ」

「そ、そうですか?」

「うむ。あの学校の目的がまず大陸全体の農業技術の向上だからね。そのために作ったんだよ」


これに関してはウソではない。

反対意見もあったが、実際に農業学校の理念に強引に追加させたからだ。


「なるほど」

「なので、これからの君は、魔族や人間というより、この『国』に尽くすという感じであの学校で習った事を活用してほしいんだ」

「わ、わかりました!」


彼は少し震えていた。

感極まって泣いているようでもあった。

その場の思い付きで何となく立派そうな事を言ってごまかした俺も、先ほどからずっと足が震えているのでお互い様だ。


「じゃあ、この国の農業のために頑張ってくれたまえ」

「は、はい、頑張ります魔王様!」


そして大物らしく部屋を去っていった。

部屋から出ると、緊張が切れて腰が抜けそうになった。

内心ドキドキしていて、ずっと恐々話していたのだ。

何とか誰もいない部屋まで歩いていき、そこでドサッと椅子に座り込んだ。


「な、何とかごまかせただろうか…」


思わずつぶやいてしまったが、誰かに聞かれた様子はなかった。

とりあえず今日はもう休もう…


「魔王様、先日の謁見の件ですが…」


後日、農業関連の大臣が報告に来た。


「何かまずい事でもあった!?」

「いえ、そういうわけではないのですが、あの時の人間の青年が、魔王様の言葉に感動して心酔したようでして…」

「え!?」

「この国のために頑張るぞと言って相当頑張っているようです」

「なるほど…」


この調子だと、彼は地元の農業政策の中心を担う人材になるであろうとの事。

それは決して悪い事ではないのだが、割と出まかせ言ってごまかした結果であるため、ちょっと罪悪感があった。

こちらも命がかかってるとはいえ、言葉巧みに騙している詐欺師になったような気もするからだ。


「それと、その話を聞いた各教育機関の人間達が大勢魔王様への謁見を希望しておりまして…」

「え!?ほんとに!?」

「はい、他にも、工業交流会や魔法学院などからも講演の依頼が来ています」

(…あ、これはヤバイ…)


あの謁見自体は成功だったようだが、どうも墓穴を掘ってしまったかもしれない…

謁見や講演が増えるという事は、皆俺の言動に注目しているわけで、下手な事を言ってバレる危険が増えるという事だ。

慎重にやらなければならない。


そんなある日の事。

講演会の原稿を書いている時の事だった。


「精が出ますわね」


王妃が飲み物を持ってきてくれたのだ。


「ああ、下手な事を言って皆のやる気をそぐわけにはいかないからね…」


そう言って飲み物を取ると、王妃は少し真顔になった後、いつもの優しそうな笑顔に戻ってこう言ってくれた。


「頑張ってくださいね。でも体を壊しては元も子もないですから、そこは気を付けてくださいね」


そしてグラスを持って部屋から出て行った。


(何か気が付かれたのだろうか…)


ふと心配になったが、原稿が間に合いそうにないのですぐに作業に戻った。


こうして、俺は毎日毎日、ひやひやしながら魔王としての公務を行い、神経をすり減らすような延命作業を行っていった。



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