表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人違い魔王  作者: SS野郎
PR
4/7

出まかせ演説

人違いが発覚しないように過ごしていた、そんなある日の事。


領土の視察をしている時に、罪を犯した人間にかなり厳しい刑罰を与えている現場を見た。

少額の窃盗をしたらしく、初犯にも関わらず鞭でかなり叩かれていた。


「おいおい、こんな軽い罪の初犯で、血が出るまで叩くのはやり過ぎじゃないか?」

「いえ、人間の場合、これぐらいやらないと反省しないもので…」

「うーん、やっぱりちょっと重くないかな?…そういやこの辺りで工事やってなかったか?」

「はい、崖崩れがあったのでその辺りの撤去作業やっております」

「…じゃあ、そこで3日ほどタダ働きさせるぐらいの方が良くない?」


嫌がるお付きの者を何とか説得し、魔法でケガを治させ、その工事現場に放り込む事ができた。

その人間は俺に感謝して工事現場へと向かっていった。


「しかし魔王様、ちょっと甘すぎるのでございませんか?」

「うーん、俺がいた世界だと大体こんな感じだったからねぇ…」

「左様でございますか…」


実際にどうだったかはよくわからないが、とりあえずそれで皆納得はしてくれたようだ。

その後城に戻って調べてみると、この国では同じ犯罪でも人間と魔族では刑罰の重さが違うのに気が付いた。

しかも、人間の方がびっくりするほど重くなっている。

これは不味いんじゃないかと周りの者にも聞いてみたが、


「人間の場合、これぐらいやらないと反省しないもので…」


という答えが返ってきた。

そこで、


「自分が死後に避難していた世界では、こうこうこういう感じでやってもっと上手く行っていたので、こっちでも真似してみてはどうか」


という感じで説得しながら、刑罰の差を無くすようにしていった。

かなり時間はかかったものの、大半の刑罰は基本的に同じになった。


それから色々な部分の改革をやろうとした。

主に人間と魔族の間での格差を縮めていく方向でだ。

なんだかんだ言っても俺の感覚は人間なのだから。

その際、


「向こうの世界では…」


というのが殺し文句みたいになっていた。


だが、やはり反対する者も多かった。特に年寄りは反対する者が多い。

皆口をそろえて、


「人間の場合、これぐらいやらないと反省しないもので…」


と言うのだ。

そこで、スケジュールを確認し、今は手が空いている反対派のある大臣と面会し、二人きりで腹を割って話す事にした。

すると、彼は大昔に人間同士の戦争を目の当たりにしていた世代だったことがわかり、その際に相当ひどい光景を見たらしい。


「ですので、人間を抑えつけておかないと、またあんな恐ろしい戦いを始めるのでは…と怖くてしょうがないのです」


他にも色々聞いてみると、どうやらその時の人間同士の戦争が相当恐ろしく、それを見ていた魔族にはすっかりトラウマになっているようだ。

大半のその世代の魔族は、同じような感じで人間が怖いらしい。

その為、特に年配の魔族は支配を緩めるとまたあんな戦争が始まるのでは…と恐れているらしい。


「あの時の戦争で私は両親と兄を失っております。そんな中、魔王様が立ち上がり、その力で戦争を止めたのです」

「らしいね」

「まだ思い出せませんか?」

「ごめん…」


思い出そうにも人違いなのでどうしようもないのだが…

そこでちょっとハッタリも交えて語ってみた。


「まだこちらの記憶が戻らないので、自分は向こうの世界で暮らしていた普通の人間の感覚なんだけど、その自分がそんな恐ろしい戦いを起こすように見えるかい?」

「いいえ。こちらに戻られてからの魔王様を見る限り、そういうことができるような性格ではないと思っております」

「だろ?皆が皆そういう人間ばっかりじゃないと思うんだ。現に向こうの世界でもいろんなやつ居たしね。だから、もうちょっと自分も含めた『人間』も信じちゃもらえないかな?」

「…わかりました」


まだ完全には納得してもらえてはないようだが、一応説得はできたようだった。


一方で、反逆罪だけは例外的に刑罰を重くした。

重い罰によって、俺の正体を探る者が出ないようにするという目論見もある。

人違いだとバレたら困るからだ。

だが、これを公布してからしばらくすると、人間側で不安の声が上がり始めたという報告が上がった。

突然こんなのを公布されたらまあ不安になるのも当然ではあるが…


「魔王様、いかがいたしましょう」


部下の大臣からもせっつかれるようになった。


「ちょっと考えさせてくれ」


そう言って解決を先延ばしにしていたが、とうとう限界がきた。


「これについての演説するから準備をしてくれ」


そう言ってその準備期間だけ引き延ばすのには成功した。

だが、とうとうその日がやってきた。

これ以上はもうどうやっても延ばせない。


(こうなったらやぶれかぶれだ)


そんな気持ちで城のテラスへと向かった。


(うわぁ、大勢いるなぁ…)


人間も魔族も大勢集まって俺の声明を待っているのだ。

城のテラスと集まっている場所の距離が離れているのは好都合だ。

焦ったりしてもバレないであろう。

そして、覚悟を決めて魔法のマイクともいうべき道具に語り掛けた。


「あー、ちょっと声の調子が悪いのは許していただきたい」


そう言ってごまかしながら、演説らしきものを始めた。


「まず、このように急に罪が重くなったりすると不安になるのはわかる」


会場が静かになった。

皆が真剣に聞き始めたようだ。


「だが、逆に考えてほしい。今、色々あるがとりあえずは平和な形に収まっているのは、皆理解はしてもらっていると思う」


少し間を開けて、どう言うか考えた。


「なので、今回の法改正は、この一応保たれている平和を壊そうとするのを防ぐ目的だと思っていただきたい」


実際は正体バレを防ぐのが目的なので、今ここで思いついたでまかせである。

そしてまた少し考えて、言葉を続けた。


「今の状況がベストではないかもしれないが、これより悪い方に向かうのを防ぐ必要があるからだ」


舌がもつれそうになりながら、それっぽい事を言った。

皆真剣に聞いているようだ。


「また、これは我々魔族にとっても大きな課題である、と受け取ってもらいたい」


色々考えながら、間を取っているような感じにごまかしながらさらに演説を続けた。

庭の方を見てみると、聞いている皆が困惑したような様子でお互いに顔を見合わせていた。


「反逆が起こるのは、政治への不満が一因なのは間違いないからだ」


…まあおそらくそういう事だろう。

俺がいた世界で習った歴史を思い出しながら言ってみた。


「つまり、我々魔族も不満が出ないような立派な政治をして、いい国を作らねばならないという事だ」


さらに足が震えてきた。

幸いな事に、距離が離れている上にテラスの縁や演説台で見えなくなっているので、何とかごまかせてはいる。


「この改正を、皆でより良い国を作っていくためのきっかけにしてもらいたい」


限界だ。

これ以上は何も言うことが思い浮かばない…

汗も止まらなくなってきていた。

集まっていた聴衆はしんと静まり返っていた。


「…」


大丈夫かな?ダメだったかな?

そう思っていると、突然会場に歓声が沸き上がった。

その場で思いついたことを並べてただけなのでちょっと抽象的過ぎたのだが、多分うまく行ったんだろうと思いながら、ひきつった笑顔で手を振って城の中へと戻っていった。


「ぷはぁ…」


城に入りテラスへのドアを閉めると、一気に疲れが出てきた。

腰が抜けたかのように床に座り込んでしまった。

そのまま立ち上がれないでいると、大臣が一人走ってきた。

何とか立ち上がると、大臣はこう言ってきた。


「演説を聞いて感動しました。まさかここまで考えてあの法律改正を行ったとは思いませんでした」


そう言って大臣は泣き出した。

実際は口から出まかせなのだが。


「我々も…あの法に恥じないように、頑張っていこうと思います…」


どうやらうまくごまかせたようだ。

後で聞いたところによると、会場でも似たような感じで皆感極まっていたらしい。



その演説の日の晩。


「また思い切った改革を行いましたね」

「そうだな…向こうの世界ではそういうやり方で上手く行ってたからね。こっちだと不味かったかな?」

「いえ。その結果はまだわかりませんが、私は悪い事にはならず、昔のような事は起こらないと思います」


初代の魔王と共に戦争を止めたので、当時の事を知っているであろう王妃も、そう言って褒めてくれた。

これで温情ポイントはだいぶ稼げたかな?と思い、眠りについた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ