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人違い魔王  作者: SS野郎
2/7

モテる男は辛いね

それからはもう大変だった。


記憶に関しては、いつもより早く戻ってきたせいで記憶がなかなか戻らない可能性が高い、という事にした。

魔力が低いのも使い方を思い出せないためという事にした。

右手の甲の星のあざは、向こうの世界でケガをした際に無くなってしまったという事にした。

とにかく他にも色々理屈をつけて、「戻ってきたがなかなか以前の事を思い出せない魔王」としてふるまい続けた。

そのためか周りも皆気を使ってフォローをしてくれた。



そして魔王としての公務を続けていくうちに、完全ではないものの、この国の様子がいろいろとわかってきた。


各地方を治める役所や議会などの組織を魔族が独占しており、人間が政治に関わるような事は一切無かった。

ただ、魔族は政治や経済などの分野がそれほど得意ではないようで、あまり上手く統治はできていないようであった。

真面目にはやっているが、素人の俺が見ても「あまり効率が良くないな…」とわかるぐらいだ。

とはいえそこまで無茶な事をやる魔族もおらず、それなりに平和には治められていた。

あくどい事をする政治家はいないが、人間の住民の権利はかなり制限されている、と言えばいいだろうか。



その辺何とかうまくできないかと考えながら、魔王ではない事をごまかしていくのは大変だった。


特に大変だったのが、前の魔王の妻である王妃であった。

前の魔王がこの国を平定する前からの長い付き合いのある数少ない人物で、彼の事をよく知っているからだ。

彼女も記憶が戻らない俺の事を非常に心配してくれて気を使ってくれており、その前でボロを出さないようにふるまうのはかなり神経を使った。


(にしてもこの人綺麗だな)


と思いながら…


なお、魔族は男性が生まれづらいせいで一夫多妻が普通で、妻を2~3名娶る者も少なくはないらしいのだが、前の魔王はその妻一筋だったという。

彼女の容姿を見ると納得はできるものの、魔王のハーレムみたいなのを作るのは難しそうな点は少し残念であった。

異世界の人間である俺の感覚でも、魔族の女性はスタイルのいい美人ばかりなので余計に…



俺を召喚した召喚術士は「記憶を安全に取り戻す方法を研究させるため」という名目で、召喚に使っていた建物に軟禁するような状態になっていた。

これは普通に暮らしているとボロを出しそうで怖い、と恐れている彼女の要望があったからだ。

そのため定期的に食料や資料になりそうな本を届けている。

そして俺は「記憶を取り戻すためのカウンセリングを受ける」と称して時々彼女の元へと行き、打ち合わせをしていた。


「上手く行っているか?」

「はい、一応記憶を取り戻す術とは別に、本物の魔王様の魂を戻すための研究は続けています。まだ戻す際のエネルギーをどうするかで詰まっている段階ですが…」

「なるほど」


よくはわからないが、基本の部分で詰まっているというのは分かった。


「代用になりそうなのが無い上に、魂を特定するのも難しい状態ですね…そちらは上手くごまかせていますか?」

「ああ、皆が気を使ってくれているのもあって今の所何とかなっている」

「頑張ってくださいね…私も処刑はされたくありませんし…」


こうしてお互いの状況を確認しあって王宮へと戻るのだが、その時はいつも妻がピリピリしているようであった。

ちょっと睨まれているような…



そんな毎日を過ごしていたある日の事。

気分転換も兼ねて城の中をうろうろしていたら、肖像画が並んでいる場所に入った。


「城にこんな所あったのか」


広い城のため、行った事のない場所がかなりあるのだ。

ちょうどいい、少し見て回るとしよう。

そのうちの1枚に、どことなく俺に似ている肖像画があった。

ちょっと目つきが鋭いが、30代ぐらいになったらこんな感じになるのかな?という印象を受けた。

周囲を見回しメイドを見つけたので、この肖像画について説明をしてもらった。

この国を興した魔王の肖像画らしい。


「大陸を統一し平和をもたらした頃の魔王様ですね」


ついでとばかりに他の肖像画について質問してみた。


「隣の肖像画の銀髪の男は?」

「こちらは一度亡くなった後、別の世界から戻ってきた魔王様ですね」

「なるほど」

「その隣は、2代目の銀髪の魔王様が亡くなった後に戻ってきた、3代目の魔王様ですね。ですので、あなた様は3度目に戻ってこられた4代目の魔王様になります」


銀髪の2代目はいわゆる耽美系の美形で、3代目は丸顔で優しそうな感じだった。


「転生して戻ってくるときは元の姿と似た感じにはならないんだね」

「そうですね。私は術の仕組みは分かりませんが、あくまで同じ魂を持った別人がこちらに帰ってくる感じだそうです」

「なるほど…しかしこれだけ容姿が違うと、戻ってきた時周りの人も大変だろうな」

「はい。容姿が違いすぎますので、本人が目の前に居るのに探したりとか、遠くからでは気が付かないとかしょっちゅうです」


その光景を想像してみたが、なかなか愉快な事になっているようだった。


「それに魔王様も記憶が戻られるまでは、やはり別人の記憶しか残ってませんから、戸惑われることが多いですね」

「なるほど…」

「今回戻ってこられた魔王様は、最初の魔王様に似ておられるので年配の方はその辺が楽だとおっしゃってますね」


しかし別人である以上、似ているのは本当にただの偶然なのだが…

そして肖像画を見比べて、ふと思った事をメイドに聞いてみた。


「変な事聞くけどさ、この最初に戻ってきた銀髪の魔王って、女性の間で人気あった?」

「それは当然魔王様ですからね…ただ、失礼を承知で言うと、見た目に関しては今までの魔王様の中で一番人気は無かったんですよね…」

「え?そうなの!?こんな男前なのに!?」

「ええ…こちらのお姿より、2回目に戻ってこられた優しそうなお顔の方が素敵ですし、そもそもの話として最初の魔王様が素敵すぎて…」


どうやら魔族の女性は、俺の元の世界とは顔の好みが違うらしい。


「そうなのか…俺が居た所だとこの銀髪の姿が人気出そうなんだけどね」

「やっぱり世界によって好みは変わるんですね」

「そうだね…」


感覚の違いに驚いていると、メイドは話を続けた。


「私はまだ生まれていなかったので、当時を知っているお年寄りから聞かせてもらった話になりますけど、初代の魔王様はそれはそれはモテてモテてモテまくってたそうですよ」

「え!?」

「私の祖母もあんな素敵な人と結婚したかったと言ってますし、それを聞いた祖父も嫉妬はしてましたが、あんないい男なら仕方がない、とまで言ってましたしね」

「…」


その話を聞いて唖然とした。

俺の顔は不細工でもイケメンでもない中途半端な平凡な顔なのだが、どうもこちらの世界の魔族にとってはものすごいモテる顔らしい。

元の世界では全くそんな事も無かったのに…

言われてみると、このメイドの女性魔族も少し頬を赤らめているようだった。

そして今までの事を思い出してみると、いくつか思い当たる節があるのに気が付いた。


俺との会話で言葉に詰まる魔族の女性。

指示や質問に対しての返答がちょっと鈍い、仕事ができると聞いていた女性官僚。

注文を聞き間違える、忙しい時に利用する食堂のおばちゃん。

たまにぼーっと俺を見ている事がある、女性秘書。


他にもいろいろあったが、これは俺が国の最高権力者だから緊張したりしているせいだろうと思っていた。

だが、それにしてはちょっと変だな…と違和感があったのだが、このメイドの女性の説明を聞くとその理由が理解できた。


魔族からすると、俺がとんでもないイケメンに見えるからだ。


それなら、魔族の女性の今までの態度が全て納得できる。

それに、最初に俺を召喚したあの子。

人違いが発覚するまで、面倒くさがらずに色々と説明してくれた事や俺の質問に答えてくれていたのも、単純に召喚に成功してハイテンションになっていたからだけではなかったようだ。

さらに思い出してみると、目つきもかなりキラキラしていた。

俺だってものすごい美人に同じような事をするはずだ。

現に、王妃に俺がいた世界の事を聞かれた時には、俺もかなり喋ってしまっている。


ちょっといい気分になったところで、彼女に礼を言って執務へと戻った。


その日の晩、王妃と話をする時間にその辺の話を聞いてみた。

記憶を取り戻すためと称して時々こうして話をするのだ。


「それは大変でしたよ。ライバルなんて何人もいましたから…」

「え!?」

「当たり前じゃないですか。少しでも振り向いてもらうために、皆必死だったんですから」


この王妃は俺の感覚からしてもものすごい美人なのだが、そんな美人が必死に気を引こうとするぐらいモテていたというのが驚きだった。

正直な所、俺だったらこんな美人に告白されたら一発でオーケーを出してしまうが…

そして召喚術士の所へ一人で行った後、王妃がなんとなくピリピリしてる理由も理解できた。


また、丸顔の魔王について聞いてみたところ、魔族の男性は太っていないのに顔が丸い者が極端に少なく、女性に人気があるそうだ。

確かに、太っていない魔族の男性は大抵顔がすっとしている印象の者が大半だった。

その上で、優しそうな顔の2番目に戻ってきた魔王は、やはり女性にモテたという。

おそらくだが、その頃も王妃は、他の女性と魔王が会話している時など、ピリピリしていたことが多かったのかもしれない。


「ではおやすみなさいあなた」


そして話が終わり、王妃はそう挨拶をして自分の寝室へと帰っていった。

その後、こんなにモテるのにハーレムは作れなさそうだ…と残念に思って悔しがっていたが、ふとある事に気が付いた。


こちらの世界ではかなりモテる顔だということは、それだけ女性から注目を集めるという事だ。当然、目立つ顔という事だから、男性からも…

つまり、それだけ俺はガッツリ見られているという事にもなる。

という事は、ある意味皆から監視をされているようなものだ。


(あれ…皆に注目されているって事は、ボロ出した時に見つかって発覚しやすいって事でもあるんじゃ…)


誰もいないと思ってる所で、ふと「人違いなのに大変だ」なんてつぶやいてしまったら、物陰から熱いまなざしで見つめている女性がいる可能性もあるわけだ。


(これまずいな…ちょっとでも隙を見せるとバレる可能性高いぞ…)


こうして俺は、元の世界では考えられないほどモテそうなチャンスなのに、ますます気が休まらない事態になっている事に気が付いた。




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