俺じゃないよ
気が付くと見たことも無い部屋にいた。
「どこだここは?」
周囲を見回してみると、石を組んで作られている壁、見たことも無いような道具や薬瓶、何か古そうな荘厳な感じがする本、いわゆる魔法使いの杖のような物が見えた。
床には魔法陣が描かれており水晶玉のような物も配置されていた。
典型的な「剣と魔法の世界」のような光景だった。
「ずいぶんできがいいな…」
実際に杖などを触ってみると、作りものにしてはずいぶん本格的で、まるで本当に使われていたかのような質感があった。
「おかしいな。俺確か事故に遭いそうになってた子を助けようとして…」
ここに来るまでの間の事を思い出そうと首をかしげながらつぶやいていると、木のドアが開いて一人の女の子が部屋に入ってきた。
「魔王様お帰りなさい」
その17歳ぐらいに見えるかわいい女の子はどことなく違和感があった。
服装がファンタジーっぽいのもあるが、それ以上に発言がおかしいせいだろうか…
とはいえ言葉が通じるのはありがたい。
早速質問してみることにした。
「すごく凝ってるセットだけど、映画の撮影?それともドッキリ?」
「な、何を変な事を…あ、向こうの知識ですか?」
どうも話がかみ合わない。
しかもウソをついているような様子は全く無かった。
「一体どういう事なんだ?」
状況がわからないので長々と説明してもらった内容を、簡単にまとめると次のようになった。
こちらの世界を治めているいわゆる「魔王」が亡くなった。
その際、魔王は魂を別の世界、つまり俺の住んでいた世界に飛ばして生まれ変わらせるようにした。
そしてその魔王の生まれ変わりが亡くなった反応があったので、こちらの世界に魂を戻して身体を作り上げたのが俺らしい。
仕組みは全くわからないが、すごい技術なのだけは理解できた。
「その魔王とやらの事やこっちの世界の事全く覚えてないんだけど…」
「転生したばかりだと思いだせないことが多いんです。そのうち思い出しますよ」
とはいえ思い出せる気がしない。
とりあえずわからない事も多いし、もっといろいろな事を質問してみよう。
凝ったドッキリならそのうちボロを出すだろう。
「この世界だと魔王が一番偉いの?」
「そうですね。我々魔族を率いて人間を支配している感じですね」
「人間は支配されてる側なのか」
魔王とやらの記憶が無く、完全に人間の感覚の俺は少し妙な気分になった。
「はい。かなり昔の話ですが、人間同士でものすごい戦争しようとしてたんで、巻き込まれそうになった我々魔族が介入して支配することになった感じですね」
「なるほど」
「気の毒とも思うんですが、放っておくとこっちまで迷惑受けるので抑えつけてる感じですね」
この世界の人間はそんなに物騒なのだろうか。
そして気になった事を確認してみた。
「…と言う事は君も魔族?」
「はい。魔法学校をトップで卒業してこの度魔王様の呼び戻しの術を担当させていただきました!」
この子を最初に見た時の違和感の原因の一つがわかった。
そしてさらにいろいろ質問してみたが、まったく戸惑うことなく普通に答えてくる…
本当に別の世界に連れてこられた、ということなんだろうか。
まだいまいち信じきれない俺は、さらにいろいろ聞いてみる事にした。
「ところでさ、魔王が亡くなってから俺がここに来るまでの間って、魔王がいない状態だったの?」
「はい。魔王様がいない間は人間達にごまかし続けなければいけないので大変だったんですよ」
「どうして?」
魔王が不在というのはそんなに都合が悪いのだろうか。
別の者が引き継げば問題なさそうなのだが。
「我々魔族は人間よりも強いのは強いんですが、そこまで圧倒的な力の差はないんですよ。そして数で言えば人間の方が多いんですよね」
「ふむ」
「なので、突然変異的に飛びぬけて強い魔王様がいない間に徒党を組んで攻め込まれたら、我々は間違いなく滅ぼされますし…」
「なるほど…」
魔王の力が抑止力になってるような感じなのかな。
「それを心配した魔王様は、生まれ変わりの術を完成させて死んでもいつかは戻ってこられるようにしていたんです」
「原理はさっぱりわからないけどさぞ大変だっただろうな…」
先ほども思ったが、俺には全く原理が理解できそうにないので、この世界の魔法はかなり進歩しているようだ。
「それはもう大変な苦労だったそうです。おかげで何とか魔族による支配が続いてて一応平和な状況になってます」
本当ならどこの世界でも大変だなと思った。
「となると、隙を見せると攻め込まれる可能性もあったって事か…」
「そうですね。そのため魔王様不在の4年間はそれはもう大変でした。いつもはもっと長いので今回はマシだったんですが」
「え?たった4年!?」
「はい。そちらの世界と時間の流れが違いますので、そちらでは…」
そう言うと彼女は小さな望遠鏡といったような小さな筒で俺を見た。
「…今度転生していた世界だと、16年ぐらいの時間になりますかね」
…あれ?おかしいぞ?
「ちょっと待った。俺19歳なんだけど…」
「え!?」
俺が年齢を言うと、彼女は真っ青な顔になった。
「魔王様って今16歳ですよね?」
「いや、俺19歳だよ」
「…」
年齢の確認をすると、彼女はまるでこの世の終わりが来たかのような顔になった。
「はははははごごごごごご冗談を…」
「いや19歳だよ」
「いやいやいやいや、右手の甲に星の形をしたアザありますよね!?」
「…無いよ」
当然そんなものはない。
右手の甲を見せると彼女は泡を吹いて倒れてしまった。
「おい大丈夫か?」
「いやそんな事はないあり得ない違う違う…」
近づいて様子を見てみると、真っ青な顔をしながら何やら現実逃避をするような感じの事をつぶやき続けていた。
「もしかして人違い?」
「はははははははそそそそそんなわけなななななないですよ」
どう見てもメチャクチャに動揺している。
…もしかして俺は人違いでここに連れてこられたのだろうか…
ふと思い出したが、確かあの時助けようとした子は中学生か高校生ぐらいだったような…
そのことを告げると、彼女は泣きそうな顔で妙な板を取り出した。
「向こうの世界でジョークのセンスを磨いてきたみたいですね魔王様…ちょっと動かないでくださいね」
そう言うとその板から出る妙な光を俺に当て始めた。
何をしているかはわからないが、特に嫌な感じはせず、気のせいか少しくすぐったい気もした。
そして板の方を見ると、青ざめた顔からさらに血の気が引いて白くなっていった。
「…魔力が低すぎる…!?」
あの光る板は魔力の量を測る装置のようだ。
「どういうこと?」
「いやいやいや、きっとこれの調子が悪いだけですよ!」
「…やっぱり人違い?」
そう言うと彼女はまた倒れてしまった。
「おいおい大丈夫か?もし人違いだったらどうなるの?」
「そんな事はあり得ませんけど、間違いなく私は処刑されるでしょうね」
「それは大変だ」
「それどころか、魔王様がいなくなったということで人間が反旗を翻して我々魔族が滅ぼされるかもしれません…」
「…それは大変だ」
「何を他人事みたいに言ってるんですか!あなたもおそらく人間に倒されますよ!?」
「…それは大変だ…!」
なんか本当に大変な事になっているのは、この子に説明された範囲でしかこの世界の事を知らない俺でも理解できた。
そして当然の疑問を聞いてみた。
「もう一度魔王の魂を呼び戻すための術は使えないの?」
「魔王様が向こうの世界で亡くなった際に発するエネルギーが必要で、それをあなたをこちらに呼び出すので使ってしまったので無理ですね…」
「別のエネルギーでは無理なの?」
「発生したエネルギーで魂の位置を検出するのもありまして…ですので、一度使ってしまうと今の技術では魂を見つけるのができない状態に…」
どうやらダメらしい。
となると、俺が助けようとした子が本当の生まれ変わりで、結局助けられず俺と一緒に亡くなってしまったということだろうか…
その際に、近くで亡くなった俺が間違えて連れてこられたのかもしれない。
その事を言ってみると、彼女は魂が抜けたかのようになった。
「おい大丈夫か」
「お空、お空がきれいだなー」
おかしなことを言っているのでツッコミのように頬をひっぱたいたら正気に戻ったようだ。
「こうなったら、徹底的にごまかし続けましょう!」
「え?」
この子はとんでもない事を言い出した。
「大丈夫です!この建物は離れ小島にあり私以外誰もいません!だからあなたが人違いだというのを知っているのは私たちしかいません!」
「…やっぱり人違いだったか…」
どうやら人違いなのは間違いなさそうだ。
「たぶん違うと思いますけどね!でももうとにかくごまかすしかありません!人違いしたなんてバレたら人生終了ですし!」
「…大丈夫かな」
「お願いします!この国の平和のために、そして何よりも私の身の安全のために!」
「…なんか大変な事になったぞ…」
こうして俺は、人違いのせいで、国の平和と俺と彼女の命を守るために、魔王のふりをし続ける事になった。




