【エピローグ】最後に代えて
王のところに赴いても、ユリウスの髪の毛について特に突っ込みが入らなかったところをみると、元から金色だったということになってしまったらしい。
なんとなく複雑な気分になりながら──蛇足だか、やはり第一王女のままだった──王のところを辞して、村へと向かう。
「王女の相手を選ぶ席に同席してほしいとはねえ」
「それ、前は言われませんでしたね」
「まあ、前と少し変わっているんだろうな」
「そうですね。そしてまたわたし、そこで死ぬのでしょうか」
「ああ、そのことだが」
「はい」
「時の女神に介入させないようにすると『偉大なる母』に確約させた」
「え……と?」
「『偉大なる母』の監督不行き届きでこちらは迷惑を被った上、俺は呪われちまうし、それくらいはしてもらって当たり前だろ」
「わたしがその、いろいろ大変な目に遭ったのは」
「すべて時の女神の仕業」
「ふへっ?」
「自分たちではアイラの力を引き出せなかったから、周りを巻き込んだんだとよ」
「となると、一番の被害者は師匠、ということですか?」
「俺、被害者なのか?」
「そうなりませんか?」
「……迷惑だと思ったことはないなあ」
「でも、わたしと会わなければその」
「会わなかったら辛い人生だったと思うから、会えて良かったよ」
「ぅ……。わたしはユリウスのそばにいてもいいのですか?」
「え? いてくれないの?」
「だって……」
「俺、アイラのことを殺したんだぞ?」
「でもそれは仕方がなく……ですよね」
「罪滅ぼしというか、責任を取らせてくれないか」
「……責任?」
「結局、あの二人も最後の最後で甘かったんだよ」
「意味が分からないのですが」
「これさ、呪いっていうけどとりようによっては祝福だよな」
「…………?」
「アイラとずっと生きていけっていうあの二人なりの祝福かな、と」
「…………────っ!」
「……そこで泣くか?」
「だって!」
「なんか癪だけど、最後は認めてくれたってことだよ。どーせ今から時の女神の教会に行くんだから、ついでにヘルガのばーさまに式をしてもらうか」
「ふへっ?」
「アイラ、俺と結婚してください」
「……は、い」
「素直でよろしい」
「あの……とても照れくさいです」
「これからもっと恥ずかしくて照れくさいことが待ってるぞ」
「えっ、それは嫌です! ぜ、前言を撤回」
「いやもうそれは無理。お、ちょうど着いたぞ。なんか言わなくても式の用意がされてるような気がするな」
馬車から降りた二人は村の入口に飾られた白い花を見て思わず遠くを見つめた。
この辺りの風習として、村に祝い事──特に結婚──がある場合には周りに分かるように白いものを飾るのだ。白ければなんでもいいようなのだが、結婚の場合は花が飾られることが多い。
この様子だと村の全員が教会に集まっていそうだ。
「今日は夜通しの祝いだなあ」
思わず他人事のように口にしたユリウスにアイラは笑った。
+◇+◇+◇+
教会に行く途中で待ち伏せしていた村人たち──まつりの時のおばちゃん集団だ──につかまり、ふたりはそれぞれ式用に着替えさせられた。
白は時の女神の色であり、差し色に金色が入る。
先に準備ができたユリウスが教会に行くと、すべてお見通しと言わんばかりのヘルガが待っていた。
「結婚するために来たのだろう?」
「んー、当初の目的は違ったんだが、まあそれは別で解決したから結果的にはそうなった」
「まだるっこしいな」
「いやまあ、結婚の承諾がとれたのはつい先ほどだからな」
「なんとまあ、不甲斐ない」
「いろいろとあったんだよ」
「まあ、私たちの預かり知らぬところよ」
「結果良ければすべてよし!」
そんなやりとりをしていると、準備が終わったアイラがやってきた。
白いドレス姿のアイラを見て、ユリウスは息をのんだ。
「ほう、これは美しい花嫁だ」
「お……おう」
「なんじゃ、言葉も出ないか」
「いやまあ、……うん」
「情けないのぉ」
ヘルガの笑い声にユリウスはぎくしゃくとぎこちない動きをしてアイラがこちらへ来るのを待っていた。
アイラはゆっくりと近づいてくる。
教会内は村人たちでいっぱいだった。その中に白い髪を見つけ、ユリウスはどきりとした。
そちらに視線を向けると、やはりそこには時の女神と隣に見知らぬ金髪の青年。あれはきっと金色の獣の人の姿だろう。
二人はユリウスの視線に気がつき、薄く笑って小さくお辞儀をしてきた。
アイラがユリウスの目の前に来たので少し腰を屈めて呟く。
「時の女神と時の処理人が来てる」
「え──」
「あそこ」
アイラはユリウスの視線をたどってそちらを見ると、確かにそこには二人がいた。
アイラの視線が向いたことを知ると、二人は笑い、手を振ってきた。
「さてと。始めるぞ」
ヘルガの声に二人は時の女神像に向かい合った。
両親が来てくれた。
アイラはそれがとてもうれしくて、来てくれたことに感謝した。
式は無事に終わり、ユリウスが言うように宴は夜通し行われた。
二人は疲れもあり、早々に宿のハユリュネンに引き上げた。
「あの二人が来てるとは思わなかったな」
「はい、驚きましたけど、うれしかったです」
二人は式が終わると同時にいなくなったようではあったが、それでもアイラはうれしかった。
「さてと、アイラ。先に風呂を使ってこい」
「ぇ……と?」
「自覚はないかもしれないが、おまえ、半日前まで身体が粉々だったんだからな」
「……グロいこと言わないでください」
「俺も疲れたから寝る」
「……はい」
「なに? なにか期待してる?」
「え……い、いえっ。遠慮します!」
「ならとっとと入ってこい」
「はい」
「俺は別で借りてくる」
「……はい」
そういってユリウスは部屋を出ていった。
アイラとしてはユリウスと結婚したということが未だに信じられない。
だけど結婚したからといってなにかが変わるとも思えないから、今まで通りでいいのかなとも思う。
アイラはドレスを脱いで風呂に入ってさっぱりした。
着替えて部屋に戻ると部屋は暗くなっていて、寝台の上にユリウスがいたが寝ているようだった。
アイラはそれを見て、眠くなった。
素直に布団の中に滑り込み、ユリウスの腕の間に入り込むと瞳を閉じた。
【おわり】




