表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さまよう鎧は今日も帰れない!──毎夜姿を変える星屑の迷宮を歩く、夜になると消えてしまう少女と漆黒の生ける鎧。  作者: nanananaca
第一幕:星屑の道は今日も遠くて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/53

Episode 28:影のかくれんぼ

星屑の道を三人で静かに進んでいると、道の脇にひっそりと広がる、どこか神秘的で薄暗い谷が目に入った。


「わあ……! ここ、星影ほしかげの谷だよね? なんだか、柔らかい影がいっぱいに満ちていて、まるで秘密の遊び場みたい!」


ティアは楽しそうに声を弾ませ、その谷の入り口を覗き込んだ。


『星影の谷』──そこは、星屑の道が旅の途中で時折繋がる、特別な隠れ里のような場所だった。


辺りには淡い銀色と紫色が複雑に混ざり合った不思議な影が、木々や岩、そして地面全体にゆらゆらと波打つように漂っている。その影の奥深くには、小さな星の粒が無数に蛍のように浮かんでおり、夜が近づくにつれて、それらがゆっくりと夜の海を泳ぐように幻想的な光を放つのだ。


ここに住む『星影の子』たちは、全身が少し透き通った身体を持つ、小さな化身の子供たちだった。


彼らは濃い影そのものを「家」とし、影が最も深く溜まる場所で身体を休め、影に浮かぶ星の粒を少しずつ食べて生きている。彼らの間には「影語り」と呼ばれる独自の美しい習慣があり、夜になると互いの影を重ね合わせることで、言葉以上に雄弁に昔話や夢の物語を語り合うのだという。


しかし、長らく他の地域からは「影は暗くて不気味で、何か恐ろしいものを隠している」という偏見を持たれがちで、他の化身や里の村人たちから距離を置かれてしまうことが多かった。


「……ティアお姉ちゃん、ノワールさん、ユウさん……。また、ここに来てくれたんだ……」


岩陰の濃い紫色の影がもぞもぞと動き、そこから小さな影を縮めるようにして、一人の男の子が照れくさそうに顔を出した。星影の子の『ルカ』だった。


ルカは以前、ティアたちがこの谷に迷い込んだ時に初めて出会った星影の子だ。


あの時は、「みんなと本当は仲良く遊びたいのに、影だから怖がられる」と一人で殻に閉じこもり、生真面目すぎる星言守護者との間に深い心の壁を作って寂しがっていたが、ティアの底抜けた優しさに触れて少しずつ心を開き、今ではこの谷の子どもたちの立派なまとめ役を務めるようになっていた。


「ルカちゃん! 久しぶり!」


ティアはすぐに満面の笑顔になってルカの元へと駆け寄った。


「元気だった? ルカちゃんの影、今日はなんだかいつもよりふわふわしてあったかそうだね!」


「……うん」と、ルカは頭の影の耳をぴょこぴょこと嬉しそうに動かした。「あの時、お姉ちゃんたちが来てくれて以来、谷のみんなと少しずつだけど外に出て遊べるようになったんだ。でも……」


ルカは少しだけ視線を落とし、自身の足元の影をいじった。


「……まだ他の子たちは、人と遊ぶのを怖がっている子が多くて。影の奥深くに隠れて、一人きりで寂しく『影語り』をしている子も、まだたくさんいるんだ……」


それを聞いたティアは、少しも暗い顔をせず、むしろ大きな瞳をキラキラと輝かせた。


「じゃあ決まり! 今日は、この谷にいるみんなを巻き込んで、おっきなかくれんぼ大会をしようよ! リーダーはルカちゃんね!」


「えっ……?」


ルカが目を丸くする。


ティアは楽しそうに胸を張った。


「影の中で隠れるんだよ? そんなの、絶対に世界一見つけるのが難しい、最高のかくれんぼになるに決まってるじゃん!」


「……本当に? 僕たちみんなと……遊んでくれるの……?」


ルカは驚きながらも、その身体の影をぽうっと少しだけ広げ、嬉しさを隠しきれない様子で呟いた。


ユウはノワールの肩からふわりと飛び立つと、半透明の翅を優しく広げ、谷全体を包み込むように淡い光を帯びた詩片をハラリと落とした。


「……『影は決して怖きものではない。寄り添う光が、すぐそばにありさえすれば』……。ルカちゃん、君の仲間を想う優しい気持ちは、ちゃんとみんなに届くよ」





こうして始まったかくれんぼ大会によって、静まり返っていた星影の谷は、瞬く間に久しぶりの賑やかな笑い声で満たされていった。


さすがは影の子というべきか、ルカは影の中にすーっと溶け込むと、岩の隙間の影に完璧に同化して気配を消してみせた。他の星影の子たちも、最初は人間のノワールや魂だけのティアを遠巻きに見つめ、遠慮がちに影の最奥へと隠れていたのだが──。


「あ! 見つけたー!」


ティアは楽しそうに谷を駆け回り、一つの影の前にしゃがみ込んだ。


「ここに可愛いお耳がぴょこって出てるよ! あはは、かわいい!」


ティアがそうやって笑いながら、宝探しでもするように次々と子どもたちを優しく見つけていくと、影の子たちは次第に警戒を解き、影を縮めるのをやめて、堂々と姿を現すようになっていった。


「……お姉ちゃん、僕の影……本当に怖くないの?」


見つけられた一人の小さな影の子が、自身の身体を少しだけ透けさせながら、不安げにティアを見上げた。


「暗くて気持ち悪いって、いつも言われるから……」


「全然怖くないよ!」


ティアはその子の影の頭を、愛おしおしそうに優しく撫でるようにして、自身の半透明な両手で包み込んだ。


「影ってね、そこに『強い光』があるからこそ生まれる、とっても素敵なものなんだよ? 光が強ければ強いほど、影もはっきりして、こんなに優しい形になる。みんなの影、すっごく綺麗で、あったかいよ!」


「……ティアお姉ちゃんがそう言ってくれるなら……」


隠れていた影から完全に這い出てきたルカが、出会った頃には見せなかったような、弾けるような大きな笑顔を咲かせた。


「僕たちも、もっともっと外の世界に出て、みんなとたくさん遊びたいって……胸を張って思えるようになるよ……!」


ノワールは谷の入り口に佇み、重厚な鉄の腕を組んだまま、その温かな光景を静かに見守っていた。漆黒の面甲の奥で、彼の心臓代わりである胸の星槽が、穏やかに、そして深く熱を持って光る。


(……影はただ暗いだけの、恐れるべき場所ではない。あの子の光が当たれば、影すらもこんなに優しい色彩を帯びるのだな。ルカや、今まで怯えていた子供たちが、少しずつ前を向いて胸を張れるようになっていく……。ティア、お前がただそこにいるだけで、世界のすべての影が、美しく照らされていくようだ)


ユウは賑やかなかくれんぼの最中、宙で大いなる翅を広げ、隠れていた子どもの記憶の断片を優しく紡いで再生した。


『影の中で一人ぼっち、膝を抱えて遊んでいた寂しさ』と、『本当は誰かと手を繋ぎ、一緒に笑い合いたかった』という切なき想いが、ユウの美しい詩片を通じて、谷全体へと温かい春の風のように広がっていく。影の子たちの心は、今や完全に一つに融け合っていた。





やがて夕陽がゆっくりと山を赤く染めながら沈み、一日の終わりを告げる『星屑シフト』の地鳴りが響き渡る。谷を満たしていた柔らかい影たちは少しずつ薄くなり、空間が書き換えられて、いつもの一本の道へと戻っていった。


約束の時間が訪れ、ティアの魂がふわりと夜空へ向けて浮き上がっていく。


「えへへ……今日も、里には帰れなかったね」


ティアは少しだけ名残惜しそうに息を弾ませながらも、満面の笑みを浮かべてノワールを見つめた。


「でもね、ルカちゃんやみんなと全力でかくれんぼができて、すっごく楽しかったな……。影の中でも、笑顔がいっぱい溢れていたよ。だから、明日も絶対にがんばろー!」


優しく、そしてどこまでも濁りのない笑顔を残し、彼女の魂は夜空の星々へと溶けるように消え去っていった。


ユウは今日この谷で生まれた、温かな影の記憶の粒子を、そっと星の粒のように夜空へと散らした。ノワールはその美しい光を胸の星槽に静かに受け止めながら、あの子が照らしてくれた道を、次の朝を待ち侘びながらゆっくりと、確かに歩み始めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ