Episode 27:ジグの奇妙な展示
星屑の道を三人で並んで歩いていると、突然前方から派手な爆発音のような、しかしどこか気の抜けた音が響いた。
「ぱふっ!」
ティアが驚いて小さな肩をすくめる。
「わわっ! 今、なに!? キラキラした煙が向こうから飛んでるよ!」
ノワールは兜をわずかに上げ、重厚な漆黒の腕を前に出して警戒しながら先を見据えた。肩の上のユウも半透明の翅を少しだけ広げ、緊張した様子でふわりと浮かび上がる。
すると、七色の煙の向こうから、ぼさぼさの白髪に巨大なゴーグルを掛けた中年男性が、工具だらけの分厚いコートをはためかせながら大興奮で飛び出してきた。彼の背中では、小さなネジや歯車が剥き出しになった小型の浮遊機械が数台、くるくると忙しなく回り続けている。風変わりな発明家、ジグだった。
「おおおっ! ティアちゃん! ノワール君! ユウちゃん! ちょうどいいところに来てくれた!」
ジグは両手を大きく広げ、ゴーグルの奥の目をランランと輝かせた。「新作の試作、今日こそ完成させたんだよ! 見て見て見て! 絶対に可愛すぎて困るやつだからさ!」
「ジグさん! また新しい発明品!? わー、楽しみ! 早く見せて見せて!」
ティアは先ほどの警戒もどこへやら、大きな瞳をキラキラと輝かせてジグの後に続いた。
◇
ジグの浮遊遺跡の入り口に到着すると、彼は得意げに胸を張り、作業台から次々と奇妙な試作品を取り出して並べ始めた。
まず最初に取り出したのは、手のひらサイズのハート型をした浮遊装置だった。ジグが中央のゼンマイボタンを押し込むと、装置がふわっと頼りなく浮かび上がり、周囲にピンク色の星屑をシャワーのように撒き散らしながら、ティアの満面の笑顔を模したホログラムを空間に投影し始めた。
「これ、本当は天星界の微弱な魔力信号を探知するはずだったんだ!」と、ジグはなぜか頭を抱えながら自慢げに叫んだ。「なのに……調整を間違えたらほら、こうなるんだよ! 可愛すぎて困るだろ!?」
「きゃー! 私の笑顔が空中を飛んでる!」
ティアは手を叩いて大喜びした。
「すごいかわいい! ジグさん、やっぱり天才過ぎだよ!」
「……探知機能は一体どこへ消えたんだ」
ノワールが面甲の奥から、低く呆れたようなため息を漏らす。
ユウはそんな二人のやり取りを見つめながら、翅を小さく震わせて短い詩片をハラリと落とした。
「……『探すはずの遠き星が、愛しき笑顔になって宙に舞う』……。ジグさんの根底にある温かな想いは、ちゃんと形になって届いているね」
ジグは「へへ、そうかい?」と照れくさそうにぼさぼさの頭を掻きながら、すかさず次の試作品を取り出した。今度は小さなメガホンのような形状の装置だ。声を入力すると、なぜか勝手に「ティアちゃん可愛いよね~」「ふわふわ雲のお城を作ろうね~」と、ピクシー四姉妹の賑やかな声を合成して延々と楽しそうに喋り続ける。
「これも天星界への長距離通信機にするはずだったのに……なぜか過去にこの道で交わされたみんなの声が勝手に録音されて、勝手に大騒ぎするんだよ! 可愛すぎて全く実用的じゃない!」
「あはは!」ティアはくすくすとお腹を抱えて笑った。「でもこれ、星月亭に持っていったらルミとルナがすっごく喜びそう! ジグさんはいつも、優しい失敗ばっかりだね」
ジグはさらに熱を上げて、三つ目の試作品を披露した。
それは見るからに柔らかそうな、ちぎり雲のような形をしたクッションだった。試しにノワールがその前に立つと、センサーが反応したのか、クッションから放たれた魔力でノワールの巨体がふわふわと数センチほど浮かび上がり、同時に頭の上で星の形をした可愛らしい冠が自動で次々と生成され始めた。
しかし、出力の計算が狂っているのか冠の生成スピードが早すぎる。
「ほら! また可愛くなっちゃった!」
ジグは大爆笑した。
「本来は天星界の空間座標をここに固定して安定させる装置だったのに……これじゃただのパーティーグッズだよ!」
「……俺の兜が……」
ノワールは渋い声を漏らしながら、頭の上に山積みにされていく星の冠を大きな鉄の手で慌てて払い落とそうとする。
「ノワール、すっごく似合ってるよ!」
ティアは大笑いしながら、傾いたノワールの冠を優しく直してあげた。
「ちょっとおじさんなのに、まるでおとぎ話の王子様みたい! ジグさん、今日も最高の発明だよ!」
そんな可愛い失敗連発の展示会が続き、ジグが興奮のあまり「いやあ、実に惜しい!」と遺跡の頑丈な壁を強く叩いた、その瞬間だった。
ゴゴゴ……と、遺跡の奥の壁が低い地鳴りを立てて脈打ち、隠されていた石の扉がゆっくりと滑るように開いた。
「おお……!?」
ジグは目を丸くしてゴーグルを跳ね上げた。
「ここ、開いちゃうんだ……!? 新作の放った奇妙な振動に、古い回路が反応したのか!?」
扉の向こうは、ひんやりとした空気が満ちる薄暗い隠し部屋だった。
壁一面には大星災より前のものと思われる精緻な古い星図がびっしりと刻まれており、部屋の中央にある古びた台座の上には、半透明の美しい球体が静かに浮かんでいる。球体の内部では淡い金色の光が穏やかな渦を巻いており、時折、反転するように『天星界』という古代の魔導文字が浮かび上がっては消えていた。
ユウが何かに導かれるように翅を最大限に大きく広げ、部屋の中央へと留まった。翅の文字が烈しく輝き、これまでになく重厚な長い詩片を落とす。
「……『失われたさよならの言葉を、星の彼方で再び紡ぐための鍵』……。ジグ、これは……天星界へと至る、時空制御装置の核心を示す失われた断片だ……」
「これだ……!」
ジグは興奮のあまりコートをはためかせ、台座へと駆け寄った。
「僕がずっと探し求めていた『星の記憶の共鳴核』の設計図の欠片! これさえあれば、僕が作っている天星界へ行くための装置の安定性が、一気に跳ね上がるぞ……!」
ティアはその美しく明滅する球体をじっと見つめ、優しく微笑んだ。
「ジグさん……これで、大切な人に、ちゃんと『さよなら』が言えるようになるんだね。私は、ノワールやみんなと一緒にいる今がすっごく幸せだけど……ジグさんのその温かい想い、私、絶対にずっと応援するよ!」
ノワールは静かにその球体を見つめていた。彼の胸の奥にある星槽が、球体の金色の光と呼応するように、微かに、しかし確かに共鳴して温かくなっていくのを感じていた。
(……この天星界の装置が完成すれば、それはジグの願いを叶えるだけでなく……先日の暴走で衰弱しかけた、ティアの魂を完全に安定させるための大きな手がかりになるかもしれないな)
◇
やがて一日の終わりを告げる夕陽がゆっくりと地平線へ沈み、いつもの『星屑シフト』が静かに訪れた。地鳴りとともに空間が書き換わり、里の温かな灯りは無情にも遠ざかっていく。
約束の時間が訪れ、ティアの魂がふわりと夜空へ向けて浮き上がっていった。
今日の賑やかで楽しい出来事を思い出すように、彼女は優しいピンク色の光の余韻を、いつもより少しだけ長く空間に残しながら。
「えへへ……今日も、里には帰れなかったね。でも、ジグさんの可愛い失敗と、すごい隠し部屋の発見があって……なんだか胸の奥がわくわくして、明日がすっごく楽しみになっちゃった。だから、明日も絶対にがんばろーね?」
希望に満ちた弾けるような笑顔を残し、彼女の魂は夜空へと溶けるように消え去っていった。
ノワールは肩の上のユウの柔らかな感触を確かめながら、隠し部屋で得た新たな可能性を胸に、静かに、そして確かな足取りで次の朝へ続く道を歩み始めるのだった。
【ユウの可愛い詩紙頭巾コレクション】
■ ジグの「ユウちゃん専用可愛すぎ失敗作」より
ジグ「ノワール君の鎧を可愛くしようとしたら
大失敗してしまったあの日……
今度はユウちゃんのために頭巾を作ってみたんだ!
でもやっぱり……
全部可愛くなりすぎて実用的じゃなくなっちゃったよ!」
■ ユウの詩紙頭巾コレクション(現在5点)
・星霧のふわふわ詩頭巾
星霧の海の霧を織り込んだ薄い紙のような生地。
被ると翅の文字が優しく光り、周りに小さな詩の粒が舞う。
効果:詩を紡ぐときに声が少し甘くなる
(ユウ本人は「恥ずかしい……」と翅を隠す)。
・宵花のピンクリボン頭巾
宵花の花びらを細かく織り込んだリボン付き頭巾。
被ると頭の上に小さな宵花の冠が自動で浮かぶ。
ジグ曰く「ティアちゃんの笑顔をイメージしたのに、
なぜかユウちゃんがプリンセスみたいに……!」
・雲綿のぽよぽよ耳付き頭巾
モコの綿毛を少し分けてもらって作った耳付き頭巾。
被ると耳がぴょこぴょこ動き、モコと会話が少ししやすくなる。
ユウ「……可愛いけど、博識のイメージが……」と
照れながらも、たまに被っている。
・星槽ミニチュア頭巾
ノワールの星槽を小さく再現した光るバッジ付き頭巾。
被ると翅の記憶再生が少し安定するが、
頭巾全体がキラキラ光りすぎて目立つ。
ジグ「これで天星界の信号を拾えるはずだったのに……!」
・ティアちゃんスマイル詩頭巾(試作No.7)
現在ジグが一番自信作と言っているもの。
被るとティアの笑顔の小さなホログラムが頭の上に浮かび、
ユウの詩が少し明るいトーンになる。
ユウは「大切にしまってある……」と言いつつ、
誰も見ていない夜にこっそり被っているらしい。
ジグ
「ユウちゃんの翅に合う頭巾を作ろうとしたら、
全部『詩の妖精さん』みたいになっちゃって……
次はもう少し実用的に頑張るよ!(多分また可愛くなる)」
ユウ(翅を小さく震わせて)
「……ジグさんの優しさ、ちゃんと翅に刻んでるよ。」




