表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さまよう鎧は今日も帰れない!──毎夜姿を変える星屑の迷宮を歩く、夜になると消えてしまう少女と漆黒の生ける鎧。  作者: nanananaca
第一幕:星屑の道は今日も遠くて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/53

Episode 10:星葉樹ともう一人の魂

朝の光が星屑の道を銀色に照らし出すと、ノワールの胸にある星槽が柔らかく輝いた。ふわりと金色の粒子が集まり、ティアの魂が姿を現す。


「おはよー! ノワール! 今日も元気いっぱいだよ! 里まで、がんばろうね!」


「……おはよう、ティア。今日は……一段と声がはっきりしているな」


「うん! 今日はたくさん歩けそうな気がするの!」


嬉しそうに胸を張るティアの笑顔に安堵しながらも、ノワールは静かに歩みを進めた。


二人が道をしばらく進むと、道の脇にある古びた『星葉樹せいようじゅ』の根元で、小さな影が膝を抱えて座り込んでいるのが見えた。


星葉樹──夜になると葉の縁が星型に淡く輝く、星の記憶を宿した神秘的な樹木だ。その葉は道の『シフト』を緩衝する力を持ち、近くにいる者の魂を少しだけ安定させる性質がある。


その根元にいたのは、銀色の髪をした十歳くらいの少女だった。


身体はガラスのように透き通り、完全に魂だけの存在だ。しかしその佇まいには、どこかただの迷子にはない、不思議と目を引く厳かな輝きが宿っていた。


ぼんやりと道を見つめていた少女の元へ、ティアはすぐに駆け寄った。


「大丈夫? 私もね、あなたと同じ魂だけなんだよ。ティアっていうの。あなたは?」


「……サラ……」


少女はゆっくりと顔を上げ、驚いたようにティアを見つめた。


「ずっと、この道を一人で歩いているの……。家族を探しているんだけど……誰も、私に近づいてくれないの……」


ティアはサラの隣に腰を下ろし、その小さな手に優しく自分の手を重ねた。サラの身体は驚くほど冷たく、まるで触れた瞬間に風に溶けて消えてしまいそうなほど儚かった。


「サラちゃん……一人で寂しかったね。私も最初は怖かったよ。でもノワールがいて、みんながいて……今は毎日が楽しいの。サラちゃんも、一緒にいよう?」


しかし、サラは目を伏せて小さく首を振った。


「……一緒に、なんて……無理だよ。ティアちゃんには、ノワールさんみたいな魂を宿してくれる特別な存在がいるけれど……魂だけの私たちはね、毎日少しずつ薄れていくんだよ」


サラの口から語られたのは、この世界の残酷な真実だった。


「夜になると、記憶がぼやけて……朝になると、昨日何をしたかさえ思い出せなくて……。そうして何もかも忘れて、いつか完全に星の記憶に溶けて、消えてしまうの。それが……私たち普通の魂の、逃れられない運命なんだよ……」


ノワールは静かに二人の会話を聞いていた。サラの言葉は、冷たい鉄の胸に重く、鋭く突き刺さる。


もし、おじいちゃんが最後の力を振り絞ってティアの魂をこの鎧に繋ぎ止めなかったら。もし自分が彼女の依代よりしろとしてここに立っていなかったら──。


ティアもまた、朝を迎えるたびに大好きな思い出を失い、孤独のなかでゆっくりと消滅していたのかもしれない。その凄惨な想像が、鎧の内側を凍りつくように締め付けた。


「そんなの、嫌だよ……!」


ティアはサラの手をぎゅっと強く握りしめた。


「サラちゃんはまだ消えちゃダメ。私、ノワールがいてくれたからここまで来られたの。サラちゃんも、きっと大切な人が見つかるよ。一緒に探そう? 私、絶対に諦めないから!」


「ティアちゃんの手、あったかい……」


魂同士の触れ合いを通じて伝わるティアの熱に、サラの拒絶の表情が、初めて微かな笑みへと変わった。


「私、ずっと一人で、誰にも触れられなくて……怖くて、寂しくて、毎日泣いてた。でも、ティアちゃんに会えて……少し、希望が見えた気がする」


それから二人は、星葉樹の根元で長く、長く言葉を交わした。


ティアはおじいちゃんと星蜜パンを作った幸せな記憶、里に帰ったらしたいこと、そしてノワールと交わした約束の数々を、宝物を披露するようにつむいでいく。不思議なことに、その温かい言葉を聞くたびに、サラの透き通った銀色の身体は少しずつ力強い輝きを取り戻していった。


その様子を横目に、ノワールはサラという少女の魂に、言葉にできない奇妙な残滓を感じていた。彼女が放つ銀色の光の波形は、かつて老魔導師が扱っていた高位の魔導術式の輝きに、どこか酷似していたのだ。


(この少女は、一体何者なのだ……?)


深まる謎を胸に置きながらも、午後を過ぎ、夕陽が道を金色に染め上げる頃には、サラの顔にはすっかり穏やかな表情が戻っていた。


しかし、無情にも世界は回る。夕陽が沈むと同時に、容赦のない『星屑シフト』が訪れた。


空間が激しく歪み、すぐそこに見えていた里の門は無慈悲に遠ざかり、いつもの「あともう少し」の過酷な距離へと戻されてしまう。


同時に、ティアの魂がふわりと重力を失って浮き上がった。限界が近づいている。


「サラちゃん……今日一緒にいられて、すっごく嬉しかったよ。また、会おうね……絶対に!」


「……うん。また、会おうね……ティアちゃん」


二人の魂は、まるで互いの存在を確かめ合うように優しく寄り添うと、夜空の星々へと溶けるように一緒に消え去っていった。サラの淡い銀色の光と、ティアの純粋な金色の光が美しく混ざり合い、夜の帳に祝福の星屑のように淡く散っていく。


一人残されたノワールは、静かに夜闇を見上げた。


消えゆく銀色の光の残光──


それがいつか、自分たちの運命を大きく動かす鍵になることを、さまよう鎧はまだ知る由もなかった。

星葉樹せいようじゅ


■ 見た目


白銀の滑らかな樹皮に覆われた中型の樹木。


昼間は淡い緑色の葉を茂らせるが、

夜になると葉の縁が星型に淡く輝き始める。


葉の表面には微細な星紋が浮かび、

光を受けると銀色の星屑のような粒子を放つ。


■ 生態・性質


大星災で生まれた「星の記憶を宿す樹木」の代表。


夜空の星明かりを吸収して魔力を蓄え、

周辺の星屑シフトをわずかに緩衝する役割を持つ。


近くに魂だけの存在がいると、

葉の輝きが金色に変わり、

魂の消耗を少しだけ抑える共鳴効果がある。


成長は遅いが、星明かりを多く浴びるほど魔導的密度が高くなり、

葉一枚一枚が小さな魔導の欠片のような性質を持つ。


■ 葉っぱの活用法


乾燥粉:星蜜パンの生地に混ぜるとふんわり感と星の風味が増す。

新鮮な葉:お茶にすると魂を落ち着かせる効果があり、ルミ&ルナの宿屋でも人気。

夜の葉:光る葉をそのまま枕元に置くと安眠効果があり、子どもたちの枕元に飾られる。

魔導的利用:粉末を魔導の欠片と組み合わせると、魂の安定や記憶の保持に役立つ(ティアの魂にも微かな影響を与えている)。


星葉樹は「道を守り、魂を優しく照らす樹」として、

里の人々から深く愛されています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ