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「此度はメルセスがすまなんだ。アレは幼少時より類い稀な才能を持ち、神童と誉めそやされてきたもので、自分の我儘は何でも通ると思っている。しかし、今回の件は我儘で通せるものではないという事は理解し重く受け止めている。・・・・・・流石に誘拐は駄目だ」
攫った相手がすこぶる悪かったと言う事もあり、ラインハルトからは何という事をしてくれたんだと言う哀愁が漂っている。
平民とはいえ、フレイザーと黒の一団が懇意にしている子供達を攫ったのだ。
しかも、侯爵令嬢の指示で。
人払いを済ませたリュキッド国の会議室に集まった一同の中でも、アランドの表情は青々としており、何とか娘の処罰を軽くできないものかと思案している様子だ。
当の本人メルセスは、シュンに対して鋭い視線を向けている。
先程、顔を合わせた途端激しく捲し立てられやかましいことこの上なかったので無音魔法をかけてやったのだ。
ゆえに騒いでも声は届かず、睨むことしかできないのだ。
「誘拐は強制労働5年だったかな?まぁ死ぬ訳でもないし、それで済んで良かったと思おうよ?まぁ、若い娘が色に飢えた野獣にどんな目に遭うかは知らんけど」
強制労働は男も女も関係ない。
罪の償いは平等にやってくるのだ。
シュンの意地の悪い発言にメルセスとアランドはサッと血の気がひく。
何か抗議する様にメルセスは口をぱくぱくとさせているが聞こえない。
「それが嫌なら身分剥奪の上国外追放か・・・」
それくらいなら妥当だろうとフレイザーが呟くが、それに難色を示したのはシュンである。
「野放しはダメだよ。侯爵家と縁を切れば何しても良いと思ってまた黒の一団に被害が来る。メルセスが勝手をできない様に現侯爵家の当主の命を賭けたのに意味が・・・・・・」
不自然に言葉を区切ったシュンは数秒考えニタリと、黒い笑みを浮かべる。
その笑みをフレイザーは知っている。
間違いなく良くないことを考えている顔だ。
「メルセスがラインハルト王と魔法契約すれば良いんだよ」
要領を得ない発言に、フレイザーのみがなるほどなと頷いた。
「つまり、メルセス嬢がラインハルト王の命に逆らえないよう契約書を交わし、逆らえば魔法による報復があると言うことか」
「それはっ」
聞いたことのあるその契約は、奴隷契約と全く同じであった。
娘を奴隷と同じ扱いとする発言にアランドは、今度は怒りにより真っ赤になっていた。
「流石に首輪は可哀想だからネックレスを作ってあげるよ」
「娘の尊厳を貶めるのもいい加減にしろ!」
あれこれと好き勝手に発言するシュンについに堪忍袋の緒が切れたのか、吠えるアランドであるがシュンもフレイザーも眉ひとつ動かさない。
「やって良い事と悪い事の区別も付かない御宅の娘さんの自業自得なんだけど?と言うか、私は別に強制労働行きでも良いんだよ?それこそ帰ってきた時にはその“尊厳”なんて粉々になってると思うけど」
「侯爵家の令嬢だからと譲歩しようと言うこちらの意も汲んでくれんか?」
「ーーーーっ」
「ラインハルト王の命をちゃんと聞いて、家臣として普通にしてればなんら問題ないんだよ?それともその普通が難しい程に愚かな娘なの?」
まぁ、これまでの言動を見ていたら我儘放題だったのだろうと言う事は考えなくとも分かる。
これまでのような自由がないと言うことほど辛い罰はないだろう。
これでラインハルトが一言“黒の一団と関わるな”と命じればシュン達に平和が戻るのだ。
更に攫った子供達ヘの償いとして、碌なことを考えないようにひたすら無償奉仕を課し時間を奪えば万事解決だ。
罪の償いの一環に孤児院での子供達の世話や町での清掃などがあるので、真面目に数年ほど務めれば減刑もあり得るのだ。
「はい、選んで良いよ。ラインハルト王と契約するか強制労働か」
今回の事はラインハルトも庇う事はできないので、最早、一択である。
どっちも嫌だと首を振るメルセスにチラリと視線をやったアランドは、直ぐにその視線を逸らし
「・・・・・・陛下、メルセスをお願い致します」
と深々と頭を下げたのだった。
「分かった。フレイザー大公、シュン、リュキッド国の国王の名にかけて今後メルセスを黒の一団に関わらせないと誓おう」
そう力強く頷くラインハルトの発言に、今後シンに会えないと言うショックのあまりメルセスは項垂れるのであった。
「・・・ところでメルセスの魔力はどうなるのだろうか?一応、こんなでも我が国の最高魔法神官だ。魔力が無いとなると今後の身の振り方も変わってくる」
「普通に生活していれば少しずつ戻るから大丈夫。一ヶ月後には元通りだよ」
ならば問題ないなとラインハルトは安堵する。
従姉妹の尊厳よりも国の益を優先するあたり王様としては好感が持てる。
話は終わったと指を鳴らし、メルセスにかけた無音魔法を解くが反抗する気力も失ったのか喚く様な事はしない。
しかし、ギロリとした視線を寄越し、静かに口を開いた。
「貴女、私の魔力を封じる魔法をどうやって解いたの?アレは私の魔力が無いと解けないはずですわ。それに、私の魔力をどうしたのよ?」
この世界最強の大国で最も力のある魔道神官となった自分が最も強いのだと信じて疑わなかったのだろう。そのプライドを粉々にされてメルセスは悔しそうに表情を歪めている。
シュンを排除し黒の一団を乗っ取り、そのポジションに取って代わろうとしたのが見え透いていて笑いが込み上げた。
「あっははー!手の内を教える訳ないじゃん」
「っ!本当っ不愉快な人ね!」
「ありがとう!」
煽るようににっこりと笑みを向けるシュンに更に苛立ちを募らせ、何か言う前にアランドがメルセスを何とか引きずり部屋を出ていった。
このままここに居たのでは状況が悪化する未来しか見えなかったのだろう。賢明な判断だ。
それを見送ったあと、メルセスの態度に対してラインハルトは小さく「すまんな」と謝罪の言葉を口にした。
「まぁ、この国自体が腐ってなくて良かったです。でなければ、今日私たちを見せ物にして荒稼ぎした分くらいは暴れ回ってた所ですよ」
メルセスが退場した途端、ふざけた口調から一変し、姿勢も正し真っ直ぐにラインハルトを見た。
(成程、こちらが本物か)
と感心する。言っている事はちっとも感心できないが。
「どうせ閣下の入れ知恵でしょうし?」
「はてはて?」
ちらりとフレイザーへと視線をやれば、あらぬ方向へと目を逸らしていた。
かの有名な大公閣下に張り合うその姿に、やはり敵に回す相手ではないと再認識せざるを得ない。
「こちらの戒める言葉に耳を傾けず好き放題やってきたアレの鼻っ柱を折ってくれてありがたい限りだ。メルセスの事で何かあればこのラインハルトが責任を持つ故、言ってくれ」
「分かりました。まぁ、魔法契約もあるのでそうはならないと思いますが、もしもの時はお知らせにあがります」
話は纏まり漸く解散となった。
会議室を出ると待ち構えていたのはミラルダだった。
フレイザーは「お先」と待機していたランスロットと共に去っていき、ミラルダはシュンを中庭へと連れ出した。
「今日は本当にすまなかった。全て私の落ち度だ」
心底落ち込んでいるようで、眉尻をへにゃりと垂れさせている。
「もういいよ。王様とも話はついたし、本来信用たる侯爵家の者がこんな事をするとは思わないだろうからね。それ以外は特に問題もなく平和に終わったから、それはミラルダや警備についた兵士達や騎士達のおかげだね。それに子供達も約束通りちゃんと助けてくれたしね。ありがとう」
「・・・その助けたのも私ではどうにもならなかった。通りすがりのルークという魔法使いのおかげだ」
「え、ルーク来てたの?」
「やはり知り合いか。向こうもシュンの事を知っているようだった」
「ルークは黒の一団予備軍だよ」
「予備軍・・・成程、あの優秀さならば頷ける。黒の一団は新たな人員は入れないつもりかと思った」
今日の試験を見ていれば誰もがそう思うだろう。
志した者達の心をことごとく折ったどころか、粉砕したのだから。
「じゃぁ、ルークにもお礼言っておかないとね」
「私からも礼を伝えておいてくれ。一応伝えたのだが、さっさと去って行ってしまってちゃんと伝えられていないんだ」
シュンは分かったと一つ頷き、ミラルダに向き直った。
「次に試験をやる時もまたミラルダお願いね?」
「!」
危うく国際問題に発展しかねない事態を招いたにも関わらず、再び警備を自分に依頼したシュンに、ミラルダは
「勿論だ!今度は必ず何事も無く達成してみせる!」
と胸を張った。
正直、シュンの信頼を損ねたのではないかと、内心とても恐ろしかったのだ。
失敗しても挽回のチャンスを与えられ、それをこなす事でちゃんと仕事を評価してもらえる。それは理想の上司とも言える。
この人の下で働きたいと僅かでも思ってしまった事を頭を振って払い飛ばし、ばんばんと両手で自らの頬を叩いた。
「いや、気合い入りすぎ」
赤くなっている。
そんなもの気にしないと、ミラルダは握手を求めて右手を差し出すとシュンも同じく右手を差し出しその手を掴む。
「私は必ず君の期待に応えてみせる!一年後を楽しみにしていてくれ!そしてまたその次も私を指名してくれると嬉しい!」
「そうだね。ミラルダだから心配はしてないよ。まぁ、今回の試験を目の当たりにして来年があるかどうかは分からないけどね」
「・・・あぁ・・・確かに。その心配はあるな・・・」
その予想は的中し、第二回の試験は僅か十数人と激減することとなる。
中途半端な実力では黒の一団には入れないのだと、世間に知らしめたのだ。
「さてと、私はそろそろ帰るよ」
「あぁ、たまには遊びに来てくれ。黒の一団ではなく友人として」
「うん。それなら喜んで」
離れていくシュンの手を名残惜しそうに見つめ、完全に離れてからはからりとした笑みでミラルダは見送ったのだった。
廃城へと戻りリビングへと向かえば黒の一団とプラスアルファが揃っていて、真っ先にシンはシュンに2つの水晶を手渡した。
「魔力は戻った?」
「あぁ、問題ない」
さて、どう言う事かと言うと。
シンはメルセスから魔力を封じられ、解けていなかったのだ。
メルセスの魔力が無いと解けないと言う事が分かり、ならばと、シュンがメルセスとリングで対峙した際に、メルセスから魔力を奪い一つの水晶に保存した。
そのためメルセスは魔力を失い魔法を使えなくなってしまった。
奪った魔力を解除の魔法陣に流し込み、シンの魔力はついさっき戻ってきたばかりだ。
では、なぜ魔力が封じられていたのにも関わらずシンが魔法を使えたのか。
それはもう一つの水晶が原因である。
シュンが長年魔力を溜め込んでいた水晶に関連付け魔法を組み込み、ポケットの中でトントンと指先で水晶に触れる回数で、使う魔法を区別していたのだ。
「さて、じゃぁ・・・何で当たり前のようにそこの二人はお菓子食べてるの?」
その二人とは
「そこに茶菓子があったから」
どこまでもマイペースな護衛クーと
「すまない!どうしてもシンとシュンに伝えておきたい事があったんだ!」
どこまでもマイペースな王子様アスベルである。
因みに、その奥にはもう一人、ニノとグレンに挟まれて慣れたようにお茶をすすり、馴染んでいるルークがいる。
「伝えたい事?」
シンに視線で“聞いたのか?”と問えば首を横に振られる。
「来月、我が国で建国祭が行われるんだ。俺も国の王太子として挨拶をするんだ」
あの幼かった弟が王子として公務に参加するのかと、キラキラとした楽しみなのをまるで隠さないシンに対してシュンは“ついに来た”と内心冷や水を浴びたかのようだった。
その建国祭で、シンは両親を殺すのだ。
それを知っているだろうクーは、特に気にした様子もなくモリモリとクッキーを頬張っている。
シンが両親を殺す話はしてあるがどのタイミングとまでは伝えていない。
話すべきかと戸惑っていたが、シンは嬉しそうに
「大丈夫だ」
とシュンを見た。
そしてアスベルへと視線を戻して
「お前の勇姿は必ず見に行くからな」
と、“お兄ちゃん”の顔でアスベルの頭を撫でたのだった。
「!必ずだぞ!!」
子供扱いされた様なものなのに、アスベル自身は本当に嬉しそうに破顔し、シュンへと向き直る。
「俺の王子姿を見て驚くなよ!」
と悪戯っ子のように歯を見せて笑う姿はただの少年で王子様とは思えない。
シュンは
「・・・失敗したら指差して笑ってあげる」
と同じく悪戯っ子の笑みで返したのだった。
ところで、と今度はルークへも声を掛けた。
「三人とも、子供達を助けてくれてありがとう」
詳細はミラルダから聞いているため、改めて礼を述べるとアスベルは得意げに笑みを深めた。
「お礼はいらないからモテる魔法かけてほしいっす」
「それは自力で何とかして」
モテる魔法も無くはないが、クーに必要なのは定期的に決まった休みだろう。
まぁ、主人がアスベルである限り無理というものだが。
「記念に黒の一団の試験を受けに行ったんだけど、受付に間に合わなくて。僕はたまたま居合わせただけだよ」
いやいやいや、と首を振ったのはグレンとニノだった。
「残念ながらルークはもう黒の一団の予備軍だよ?」
「気が向いた時にいつでも入団できる仕様だ」
「え!?そうなの?」
「ルークは凄いんだな!?」
ただの魔法使いではないと思っていたが、まさかそんなポジションとは知らなかった。
流石のクーも本当か?とシュンへと視線を送ると、シュンはしっかりと頷いた。
「魔法陣無しで移動魔法使える逸材は中々居ないからね。どうせあれからまた魔法陣無しの魔法を覚えたんでしょ?」
「へへ、まぁね。でもこっちの方がかっこいいから」
と必要のない魔法陣の描かれた本を開き、魔力を通して高速でパラパラとめくる。
目的の魔法陣のページを開くと明かり取りのための光の魔法が浮かび上がり周囲を照らした。
厨二じゃんと思ったがシュンは言葉を飲み込んだ。
なぜならまんまブーメランとして返ってくるからだ。
(お揃いの黒い衣装は間違いなく厨二だ・・・)
それはさておき、ルークが一団へ入りたいのならば、いつでも迎える事は可能だ。
しかし、ルークは今のところまだ入団する気はなく、本当に記念受験のつもりだったそうだ。
「アスベル様と護衛の方を送り届けたら僕はまた旅に出るよ。案外楽しいんだ」
「そう、楽しいのがなにより。いつでも寄ってね」
「うん」
アスベルとクーもそれぞれ簡単な挨拶を済ませ、三人は廃城から姿を消し、これでやっと今日という一日が終わったと、シュンは息を吐いた。
もうすぐやってくる、未来への分岐。
シンが大丈夫だと言ったのだ。きっと大丈夫だ。
「さぁ、晩ごはんにしようか!何食べたい?」
そう言い振り返れば
「チョコタルト」
とぬかすシンを無視して、シュンはキッチンへと足を向けるのだった。




