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「チョコレート売りの子供達を見なかったか!?」
「え?えぇー!?アルファード国の殿下!?」
シュンとフレイザーの話を聞いたアスベルはクーを連れて衝動のままVIPルームを飛び出した。
警備達にはアルファード国の王子が来賓として来ている事や、特徴を伝えていたので直ぐにその姿を見てアスベルと気づく者が多かった。
「チョコレート売りの屋台を引っ張った子供達だ!見なかったか!?」
貴族と一緒なら警備に見過ごされている可能性があると聞き、アスベルは片っ端から警備に声を掛けていたのだ。
思うような返答が中々得られなかったが、やっと一人の警備から情報を得ることができた。
「サイアリース侯爵様の従者の方が連れているのを見ましたよ」
以前、サイアリース侯爵家の護衛を務めた事があるという兵士は間違いないと頷いた。
「確か、メルセスお嬢様のお側仕えの者でしたね」
それはもう犯人決定じゃんとクーの表情はスンと真顔となったが、アスベルは
「侯爵家への裏切り行為か!?」
と斜め上の予想を立てた。
裏切り行為ってなんだ!?と焦る警備にアスベルは事の発端を話した。
子供達を探している事を告げると、侯爵の人間だからと見逃した自分にも非があるのでは!?とアスベルとクーを引き連れ警備は子供達と従者を見た場所へと案内をした。
コロシアムの裏の人通りの少ない場所。
そちらへと向かって行ったと話すが、その先には何も無い。
一定の距離が離れた箇所に警備はいるが、その警備は何も見ていないと言う。
コロシアムの裏で屋台も子供達も従者も忽然と姿を消したのだった。
『さぁ!始まりました午後の部!次は魔法使いの試験となります!ここまでの試験参加者の合格はゼロ!黒の一団の圧倒的な力量差に合格者は出るのか!?』
レイルが非常に面倒そうにノロノロとリングへと上がる。
「俺はお前達と違って普通だから、瞬殺とか秒殺とか無理だからな」
なんとも言い訳がましい言い草だが、本人は気付いていない。
その規格外を育てたのは自分であると言うことに。
そもそも魔法陣を使わない時点で「こいつやべぇ」なのだ。
リング上の魔法使い達は道具に仕込んだ魔法陣をいつでも発動できるように準備万端だ。
『それでは午後の部一回戦!開始!』
合図と同時に周囲からは一斉に魔法が放たれたが、その魔法はレイルに届くことなく消え去った。
「え?なんだ!?」
「魔法が、消えた?」
否、魔法は発動さえしなかった。
「はい、ではなぜ魔法は発動しなかったか?そこのお前答えてみろ」
「え、俺!?何で発動しなかったか!?」
突如始まったレイルの講義に黒の一団側は笑いを吹き出した。
分かるわけが無い。
「・・・分からんのか。じゃぁ、そっちのお前。答えろ」
「えー!?いや・・・わ、分かりません・・・」
「・・・・・・お前も分からないのか?じゃぁ、分かるやつ、挙手しろ」
しーーんと静まり返る会場に「はい!」と嬉々として手を挙げたのはシュンのみで、レイルの溜め息が響いた。
シンもこそっと小さく挙手している。
「お前らそれでも魔法使いか?全員不合格」
パチンと指を鳴らすと、ふわりと参加者たちは浮かび上がり一斉にリングの外へと追い出されたのだった。
「はい、じゃぁ黒の一団のシュン。答えろ」
挙手をしたままのシュンを名指しすれば注目が集まる。
「はい!魔法解除です!」
「正解」
その回答に再び会場が沈黙に包まれた後、参加者達は
「いやいやいや!そんな訳あるか!?」
「ちょっと待て!?こんな大人数の魔法を一瞬でしかも1度で解除したのか!?」
「そんな事できるわけが無い!魔力が足りなさ過ぎる!!」
とブーイングの嵐だ。
何を言われようともレイルは眉ひとつ動かさずに
「どっちにしろ全員場外だ」
とバッサリ言い捨てた。
そう、浮遊魔法でリング上に居た全員が場外へと飛ばされてしまったので、合格者はまたもや無しとなった。
「黒の一団に加入したくばこれくらい瞬きの間にできるようになれ」
と言い残しレイル戦は終了となった。
一団の元へと戻ると全員がニヤニヤとしてレイルを出迎え、それに対しわけも分からず眉を寄せた。
「さっきは瞬殺も秒殺もできないとか言ってたのにな」
「さすが師匠!やってんじゃーん」
シンとシュンに茶化され「問答があった分、瞬殺でも秒殺でもなかった」と言い張るがそれが無ければ文字通り瞬殺だった。
規格外の弟子二人の影響のせいで、他人から見たらレイルも十分に規格外となってしまっていることに当の本人は気づいていない。
受験者からは「あいつやべぇよ・・・」と思われているとは露にも思っていなかった。
コロシアムの裏をアスベルとクー、警備の兵士が丹念に何かを調べていた。
何を調べて良いのか分からないが、兎に角子供たちが消えた痕跡を見つけねばと調べた結果、不自然に途切れた屋台の車輪と足跡を見つけた。
どこが不自然かと言うと、車輪の跡も足跡もコロシアムの壁へと吸い込まれるようにして続いているのだ。
「ここが怪しいのは一目瞭然っすね」
こんこんとノックしてみてもただの石壁だ。
「魔法で穴を開け、通った後にまた閉じたのだろうな。魔力を感知する魔法が使えればどんな魔法なのか分かるのだが・・・」
いかんせんややこしい魔法陣は描けないと歯噛みするアスベルの元へ、ミラルダが合流した。
怪しい箇所を教えるも、ミラルダにもどうする事もできなかった。
「警備に当たっている魔法使いを呼べ」
と、部下に言い渡し去っていったのを見届けた直後一人の青年が顔を出した。
「あの?」
「む?なんだお前は?」
ミラルダは警戒し剣の柄へと手を添え、クーは反射的にアスベルをその背に隠した。
「す、すみません!怪しい者ではないです!魔法使いを探してるみたいだったので、僕に協力出来ることがあればと思って・・・僕は魔法使いのルークと言います」
「魔法使い?」
怪しむミラルダを他所にルークは、
「黒の一団の試験に来たのですが…受付に間に合わなくて・・・」
と哀愁を漂わせ、少しばかり同情を引くことができた。
「ミラルダ殿、子供たちを救うなら早い方が良い。ルークと言ったか。俺はアスベルだ!この壁の向こうに助けたい者たちが居る。どうにかならないか?」
出入り口のない壁へと向かって消える足跡と車輪の跡を確認したルークは、やってみましょうと壁の前に立った。
自前の魔法陣が無数に描かれた本を取り出すと、パラパラと自動でめくれていき、必要とした魔法陣のページを開いた。
(魔法痕跡解析!)
本が一瞬光ったと思ったら、ただの壁が徐々に透け始め、その先には身なりの良い男が一人と、厳つい護衛と思わしき男たちが五人。そして、両手を縛られて猿轡を咬まされたチョコレート売りの子供たちと屋台が現れた。
一様に驚いた表情をしており、初手の動作が遅れた敵に対してクー、アスベル、ミラルダは敵を逃さぬよう出入り口へと立ち塞がった。
「えい」
ルークは本を捲ると、気の抜けたような声で子供たちに防御壁を張った。
「シュンほどじゃないけど、こいつら程度なら防げますよ」
シュンの名前が出たことに驚いたが、それは後だと三人は遠慮なく護衛であろう男たちをあっという間に捕まえ、こっそりと逃げようとした身なりの良い男は、ルークが男の周囲に防御壁を張ったことで防がれた。
『さぁ!続いて魔法の部二回戦の準備が整いました!』
アナウンスにより、シンは
「じゃぁ、行ってくる」
とコートのポケットに両手を突っ込み、散歩にでも行くようなノリでリングへと向かうが、突如メルセスが移動魔法でシンの前に立ち塞がった。
「お待ち下さいませ!貴方様は今魔法が使えない状態です!」
そう叫ぶメルセスは本気で心配しているようでキッとシュンを睨みつけた。
「魔法が使えないシン様に何をさせようと言うのでしょう?」
“魔法が使えない”と言う言葉に会場からはざわめきが起きる。
魔法の試験なのだから当然である。
「そうだねー。貴女がシンの魔力を封じちゃたもんねー。完全に試験の妨害だよねー」
わざとらしくそう声を大にして言えば、「妨害ってどういう事だ?」と観客はざわつきだす。
まさか不正か?と誰かが言い出したがシュンはにっこりといい笑顔で
「でもまぁ、あんな魔法とっくにどうにかしたけどね」
と挑発するように言い放った。
「ーーーーっ!?」
メルセスはこのリュキッド国トップの魔法使いだ。
その自分がかけた、魔力を封じる魔法をあんな呼ばわりされメルセスの頭には血が上っていた。
「さぁ、妨害もいい加減にして次の試験を始めよう」
シュンの挑発に表情を歪めるメルセスに、シンは隠そうともせずにいい気味だと鼻を鳴らした。
「邪魔だ」
「え?」
目の前に立ちはだかったメルセスを入場口へと移動魔法で退かし、シンは漸くリングへと上がった。
(本当に魔法をっ!?)
魔法が使えないはずのシンが魔法を使ったことでメルセスは焦りを覚えるが、黒の一団にとってはそんな事はどうでも良い事だ。
「流石にこのままでは参加者が可哀想だからな。一分待ってやる。こいつを解いてみろ」
そう言い、シンは自分の周囲に防御壁を張った。
「これを破ったらお前たち全員合格にしてやる」
破格の申し出に会場は盛り上がり、受験者たちはお互い話し合い協力体制が一気に出来上がった。
魔法を使ったシンに驚きを隠せないメルセスをよそに、二回戦開始の合図が成された。
一斉に魔法解除や攻撃魔法で砕こうと試みるもヒビひとつ入らない。
「俺は防御やサポートよりも闇の魔法の方が得意だ。こちらが不得手とするものくらい打ち破って貰わないと話にならないぞ」
挑発するも無理なものは無理で、あっと言う間に一分は経過してしまった。
「時間切れだ」
そう言うや否や、リング上全てを影が覆い黒に染めた。
「これはっ!」
「闇魔法だ!避けろ!!」
そう叫ぶが避けるにはリングから降りなければならない為、二の足を踏んでしまい、避けそびれたものは影から伸びた黒い蔦にその足を絡め取られ一斉に影へと引き摺り込まれてしまった。
『・・・・・・え?あの・・・参加者は・・・?』
大丈夫?これ死んでないよね?と思わず司会が口を挟むが、次の瞬間影から黒い花の蕾のような物が出てきてププププッと飲み込んだ参加者たちを吐き出した。
場外へと吹き飛ばされた参加者は、気を失っていたり目を回していたりと戦える状態ではなかったが、さほど大きな怪我もなく全員生きていた。
「冷静に光の魔法を放てば影は消えただろうに・・・」
勿体ないと言うシュンの一言に、参加者たちはゲンナリとした。
そんな心の余裕が無かったのだ、と。
一人が焦ったりパニックになるとそれは周囲に伝染し、集団パニックとなる。
シンは間違いなくこれまでの試験の中でもまともに、更に難易度低く設定していたが、心理的な部分で参加者は敗退してしまったのだった。
「平常心を保てるように努めろ」
そう言い捨て、魔法の部二回戦は終了した。
参加者を介抱すべく担架で運ぶギルド職員の姿を見送り、三回戦開始まで休憩となった。
運ばれていく参加者の隙間を縫って一人の男が黒の一団へと近づいた。
「あれ?クー、どうしたの?」
「どうしたって・・・子供たちを保護したから伝えにきたっすよ」
「流石!速い!」
子供たちは怪我がないか診てもらってから、フレイザーとアスベルが招待されたVIPルームへと通すとの事だ。
「犯人はメルセス・サイアリースの側仕えだったっす。以上!健闘を祈るっす」
それだけ伝えるとクーはさっさと退場していった。
クーの“健闘を祈る”とは誰に向けて放った言葉なのか。
メラッと怒りを増幅させたシュンを見たあと、一同は参加者集団の中に居るメルセスへと視線を向けて合掌した。
「え?ちょっとなんですの?」
離れた所にいたメルセスは、黒の一団から急に拝まれてしまい戸惑っている。
『さぁ、最終戦の準備が整いました!』
司会のアナウンスは最早地獄へのカウントダウンだ。
メルセスを含む最後の参加者たちがリングへと上がり、最後にシュンがその中心へと歩を進める。
「あぁ・・・まずい・・・逃げろぉ・・・」
「無理だ。あの女はもう終わった」
魔王が迫ってるから逃げて!超逃げて!と内心訴えかけるグレンと、喧嘩を売った相手が悪かったと頭を振るマール。
「そのとばっちりを受ける他の参加者が一番の被害者だ」
可哀想になぁとついつい同情してしまうレイル。
「シュンちゃんの秒殺に一票!」
「いいえ、そんな簡単に負けさせるわけはないと思います。なので“甚振る”に一票です」
何せシンだけでなく大事にしている子供たちにまで手を出したのだ。ただではすまないだろう。
「何にせよ、あの女終わった。・・・ふっ実に愉快だな」
言いたい放題言われているとは知らず、メルセスはシュンの前を仁王立ちで陣取った。
準備が整ったのを見計らい、アナウンスは『最終戦開始です!』と死刑執行の合図を出すのであった。
メルセスは油断していた。
シュンは魔法を使う時に必ず指を鳴らしていたので、その手を封じれば勝ったも同然であると。
試験開始の合図と同時にシュンの両手を握り、指を鳴らせないように封じると自分の周りにのみ防御壁を張った。
そして、周囲の参加者たちからは一斉に攻撃魔法が放たれたのだった。
「三流だねぇ」
「何ですって?」
シュンはノーモーションで防御壁を展開すると全ての攻撃を遮断しその攻撃は全て、メルセスへとダメージを与えた。
「きゃぁぁぁぁ!!!!」
つんざくような悲鳴が響き、何が起きたのか周囲には分からない。
「どうせ、貴女が私の魔法を封じるから一斉に攻撃しろとでも言ったんでしょうけど…残念。封じられたのは貴女の方だったね?」
「・・・な、何・・・が?・・・まほ・・・うが・・・つか・・・」
丸コゲになり座りこむメルセスを、シュンは回復魔法で癒した。
「使えないでしょ?魔法」
「っ!?私に何をしたの!?」
魔力を封じる魔法ではない。しかし魔法が使えない。
魔法解除かとも思ったがそう言うわけでも無さそうだ。
シュンは答える事なくにっこりと笑うと、殺気混じりの威圧を放った。
それを受けた参加者の殆どはその場に倒れ込み気を失うか、戦意喪失したように震え上がった。
それを間近で受けたメルセスは、魔法が使えず威圧を軽減する事ができなかった為顔面蒼白で震え上がった。
「おや?よく気絶しなかったね?偉い偉い。このまま終わったらつまらないからね」
加虐的な笑みは、メルセスの全身から血の気を奪った。
しかし、自分にはまだ切り札がある。
「い、良いのかしら?・・・私に、こんな事をして・・・。貴女が懇意にしている、チョコレート売りの子供たちが・・・どうなっても知らなくてよ?」
噛み合わない唇をどうだと言わんばかりになんとか笑みを作るがその発言は火に油を注ぐ行為と同じであった。
「お馬鹿さん。あの子たちならもう助けたに決まってるでしょ?」
「へ?」
シュンがVIPルームへと視線をやると、メルセスもそれに釣られて視線を上げる。
「ーーー!?」
そこには攫った筈の子供たちと、自分の側仕えが捕らえられていた。
「お前はシンだけでなくあの子たちにまで手を出した。私のはらわたは煮えくり返っているよ。どうしたらいいかな?」
口元は笑っているのに、目が完全に怒りに支配されているシュン。
魔法が使えない今、これでは殺されてしまうと判断したメルセスは場外へと逃げようとしたが、動けない。
掴んでいた筈のシュンの手に、いつの間にか掴まれていた。
「は、はなして・・・」
「何で?」
「なん・・・で・・・って・・・」
座り込んだメルセスの瞳をじっと覗き込むように見下ろすシュンからは、恐怖しか感じない。
その間にもずっと殺気混じりの威圧がメルセスへと向けられており、そのうち立つ気力も無くなっていく。
「どうして欲しい?まずは指の骨を一本ずつ折っていこうか?手の指も足の指も。それとも爪を剥ぐ?綺麗な爪だね?それに長くてとても剥ぎやすそうだ」
「や・・・やめ・・・て・・・」
「やめない。私を怒らせたのは君だよ?責任とってよ。そうだ、沢山の人が見てるね。服を一枚ずつ剥いていくのも良いかもね。美しくて綺麗な身体だからみんな喜ぶよ?侯爵令嬢の裸なんて一生に一度でも見られる事なんてないからね。君は初対面の男の人に抱きついたり、急に口付けするような売女なのでしょう?素肌を見られるのは君としても嬉しいんじゃない?」
「いや・・・いや、そんな事っできない!!いやぁぁあ!!!」
「シュン、やり過ぎだぞ」
「えぇ?ただの幻覚魔法だよ?」
周囲から見たらメルセスは一人で泣き喚いており、何が起きているのかまるで分からない。
シュンは最初の威圧で同時に幻覚魔法をかけて、それ以降何もしていないのだ。
あとはメルセスが降参を宣言するのが先か、ショックのあまり気絶するのが先か、それとも正気を失うのが先か…。
選ぶのはメルセスだ。
メルセスはリングの真ん中で自分を抱きしめひたすら「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」と涙を流していた。
もう見ていられないと、リングに一人の男が駆け寄った。
「もうやめてくれ!メルセスは失格でいい!!」
アランド・サイアリース、メルセスの父親であった。
「ならば今後お前の娘が我ら黒の一団に関わらないと誓えるか?お前の娘は私の家族の魔力を封じ試験の妨害をしただけでなく、私の友人を攫い合格させろと脅してきたぞ。そんな輩は絶対に一団には入れない!」
まさに怒り心頭。
大事な者達を傷つければ仮令貴族だろうと国王だろうと許さないと言う意思表示に、周囲は息を呑んだ。
「勿論だ!今後関わらせないと誓う!私の命を賭けてもいい!」
証人が多数いる中での宣言は、なによりも娘を思い、大事にしているからだろう。
シュンは一つ瞬きすると、指を鳴らしてメルセスの幻覚魔法を解いた。
「メルセス!!」
目の前の幻覚のシュンが消え去り、ぽかんとした表情のメルセスは現状を把握する前に父親に抱き止められた。
「・・・お、お父様?」
「あぁ、そうだ!もう終わったよ」
そう言われて、自分が何をしていたか思い出した。
黒の一団の入団試験を受けていたのだ。
他の参加者達はギルド職員により運ばれていく者や、ポーションを売りつけられその場で回復を施されていた。
「わ、私は・・・負けたの?」
「魔力のない貴女に勝ち目があると思う?」
「!?」
アランドが死角となり見えていなかったシュンの声が聞こえ、びくりと肩を震わせた。
シュンが言う様に魔力を感じられない。
「貴女のお父上が、貴女を今後黒の一団に関わらせないと約束した。その約束を破ったら君のお父上が死ぬことになる。お父上を大事に思うなら今後しっかりと考えてから行動する事を期待しているよ」
あのまま幻覚魔法をかけ続けていたら間違いなくメルセスは気がおかしくなっていただろう。
どんなに恐怖に陥ろうとも、プライドが邪魔をしたせいなのか、「降参」を発する気配はなかった。
それを救ったのは間違いなく父親だ。にも関わらずメルセスは
「な、なんで!?なんでそんな勝手な約束をしたのよ!?漸く目の前にシン様が現れたのに!!彼を私のモノにするまで諦めないわ!!」
とむしろ父親へ、憎む様な怒りに満ちた視線を向けたのだった。
「お前っ!」
アランドが何か言う前にシュンは指を鳴らし、メルセスの意識を奪い、アランドへと向き直った。
「眠らせただけです。これ以上コロシアムでの会話は避けるべきかと」
唖然とする会場にハッとしたアランドは、「すまない」と一言だけ告げ、メルセスを抱えて会場を後にし、気まずげなリング上でシュンはどうしたものかと苦笑いをもらす。
すっかり冷めた場の空気をなんとかすべく、シュンは指を鳴らす。
パチンと一つ鳴ると水の魚が無数に現れた。
パチンとまた鳴らすと今度は虹色の蝶が。
パチンと三度鳴らすと色とりどりの鳥達。
パチン、パチン、パチンと鳴らす度に手のひらサイズの小さな龍が火を吹いたり、キラキラと光る光の妖精が結晶を振り撒いたり、翼を持った白馬が会場中を駆け回ったり、小さな花火がポフポフと咲き乱れた。
まるで奇跡の様な光景にあっという間に会場は興奮の渦にのまれ、シュンは
(ふぅ、誤魔化せたぜ)
と一人安堵したのだった。
そして、最後に盛大に指を鳴らすと小さかった花火が空に上るにつれて大きくなり、コロシアムの頭上を盛大に彩ったのだった。
(大分前に火薬を使った花火は却下されたけど、これならどうよ?)
と得意げにレイルを見れば、レイルは苦笑いで一つ頷いてくれた。どうやらセーフらしい。
『これにて、黒の一団採用試験を終了します』
タイミングよく、終了のアナウンスがされ、採用試験は採用者ゼロで幕を閉じたのだった。




