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『全ての受付が終了致しました。受験者は会場までお越しください。繰り返します・・・』
サウンドボムと言う、本来鼓膜を破る程の大きな音の爆発を起こす魔法を、声をただ大きくするためだけに改良した拡声魔法で魔法道具、拡声石を作り、ギルドの女性職員がアナウスを始めた。
因みにこの魔法はシュンが作ったわけではなく、昔からあり、国の祭事などにも多く利用されている、割とポピュラーな魔法道具だ。
コロシアム内を埋め尽くすほどの受験者に、会場は盛り上がる。
そして、その中にはあのメルセスもおり、彼女の周りだけぽっかりと空間ができている。
『それでは!黒の一団の皆様の入場です!!』
さて、彼らは一体どんな人物達なのだろうと、会場全体が固唾を呑んで待った。
カツ、カツ、と出入り口から響くヒールの音にすら耳を澄ます。
現れたのはグレンとニノ、そのすぐ後にマールとエクシャ、そしてレイルとシン。
最後にシュンが姿を現すと会場の一部で騒めきが起きた。
「あれ?あいつ試験に出るって言ってた奴」
と声を発したのはチョコレートの屋台で会った男だ。
「あ!さっきのおじさーん!約束通り応援してねー!」
と無邪気に手を振るシュンに男は顔を引き攣らせた。
なぜなら、黒の一団として入場してきて、更にはトレードマークの黒い衣装に身を包んでいるからだ。
まさかあんな子供がと誰が思うだろか。
『それでは、ルールの説明を行います!参加者は奇絶するか降参、リング場外となった場合失格です。合格基準は舞台上に居る黒の一団の団員一人を倒すのみ!一人で立ち向かうもよし!チームを作り協力しあってもよし!黒の一団が倒された時点で舞台上に残っていた全ての人が合格となります!!ただし!!黒の一団が全員を倒した場合には、合格者無しとなります!!』
合格者が一人ではない事から、受験者達のやる気は一気に上がり、舞台上も観客も大盛り上がりだ。
受験者は武術部門1752人、魔法使い部門1496人となり、武術部門は約600人ずつの3回、魔法使い部門は約500人ずつの3回に分けて行う事になった。
それに伴い、みんなで出てみようとなった。
「じゃぁ武術の方は最初はニノ、次はグレン、最後にマールで、魔法の方は最初にレイル、次がシン、最後が私ね」
「シュン、私は?」
名前を呼ばれなかったエクシャはしょんぼりと眉尻を下げている。
「会場に魔物を召喚するわけにいかないから・・・ごめんね」
よしよしと撫でるだけでしょんぼりは直ぐに回復した。
シュン以外のメンバーに(ちょろいな・・・)と思われているとも知らずに。
出る順番を決めている間に、武術部門受験番号1から600までの受験生を除き他は一度退場となった。
『さあ、間もなく開始となります!!受験者の皆さんはあちらの方にギルドと黒の一団が用意したポーションや身代わりくんを格安で販売しておりますのでじゃんじゃん購入しちゃって下さい!』
抜かりなく商売を始めるギルドの図太さを横目に苦笑いしていると、出番はまだの筈のメルセスが一同に近づいてきた。
『おっとー!あの方は今回最注目の我がリュキッド国侯爵のご息女であり国王陛下の従姉妹!しかしてその実態は!!最高魔法神官メルセス・サイアリース 嬢!黒の一団に宣戦布告か!?』
「・・・そんな肩書きがあったんだー」
「ただの痴女じゃねぇのか」
「誰が痴女ですか」
「出会い頭に口付けする女はどう見ても痴女だろ」
サッとシュンの後ろに隠れてメルセスから距離を取るシンとは逆に、前に出たのはニノだった。
「シンくんとキス!?初耳なんだけどっ!!どんなだった!?」
「それはもう・・・甘くて柔らかで・・・」
うっとりとするメルセスに顔面蒼白なシンは、まるで隠れることができていないシュンの背後で、背中を丸めて視界に映さないように努めた。
魔力どころかファーストキスまで奪われ、レイル達からは同情の眼差しを向けられ、居た堪れない。
「はいはい、ニノもその辺に!シンに嫌われるよー」
「えーそれはやだなぁー」
「心配するな、もう手遅れだ」
「え!?ごめんね!?」
「・・・」
メルセスはシュンとシンに違和感を覚えた。
魔力を奪われて、シュンの得意とする防御壁や結界を破り少なくとも自分に対して嫌悪や怒りを感じているはずなのに、まるで何ともない。
取るに足らないと思われているのか。
「何はともあれ、全力を尽くしますわ。どうぞお手柔らかに」
「こちらこそ。あ、因みに貴女が万が一合格した場合は貴族としての名は捨ててもらう事になるけど大丈夫?黒の一団は一国を贔屓しないからね?」
「勿論ですわ!血筋も名も全て捨ててシン様と生涯を共に致しますわ!」
(まぁ、嘘ですけれども)
そんな心の声がありありと聞こえてくるその笑みに、シュンはにっこりと笑い返した。
「まぁ、億が一にも貴女の合格は無いけれどね」
「・・・・・・は?」
笑顔も口調も無邪気な子供のそれであるが、言っている事は可愛くない。
思わずメルセスもいつもの令嬢の顔を忘れて素面となってしまった。
「さぁさぁ!出番がまだの方は会場から出てくださいね!」
お帰りはあちらです、と言わんばかりに出入り口を指されて周囲を見ればあとは自分の退場を待つばかりとなっていた。
シュンの思惑もわからぬまま、メルセスは渋々会場を後にしたが、万が一だろうが億が一だろうが、メルセスは自分の“勝ち”を確信している。
(どんなに卑怯でも奥の手というものは常に用意しておくものよ?ふふふ・・・)
リュキッド国国王及び侯爵が観戦するVIPルーム。
室内にも室外にも重装備の警備が配置されており、そこへ赤い鎧を身に纏った女騎士が入室を求めてノックをした。
入室を許され、警備は当然の様に誰も止めない。
「場内外への警備の配置完了致しました!」
「ご苦労様、ミラルダ」
リュキッド国四強の一人、ミラルダ・キーカス。
数年前からシュンの友人であり、黒の一団からの信頼も厚いため今回会場の警備の纏め役と、このVIPルームで国王と侯爵の護衛と言う任務を与えられた。
ミラルダとしては特等席でシュンの戦いが見られるため役得だ。
「しかし、宜しかったのですか?ご息女を試験へ出しても・・・」
侯爵令嬢でありながら最高魔法神官と言う肩書きを持つメルセスは、勿論実力も伴っている。
この国で彼女に敵う魔法使いはいないだろう。
「いやなに、黒の一団が一つの国に傾倒しないことは重々承知している。我々はメルセスを通して黒の一団と友好関係を築きたいのだよ」
メルセスはその為の橋渡し役。
悪く言えば生贄だ。
勿論父親であるアランド・サイアリース侯爵は心の底から娘を愛している。
愛しているからこそ…
『いやですわ!!絶対!絶対!黒の一団に入る!でなきゃお父様の事嫌いなります!!!』
『えぇ!きら・・・きら・・・ぃ・・・・・・』
と言う子供の様な我儘に頷くわけで、生まれてこの方自分の我儘が通らなかった事がないメルセスは父親が頷くことを分かった上で癇癪を起こしたのだ。
これを国王たるラインハルトに相談した所「それは面白そうじゃないか!」と面白半分で快諾してしまい、アランドは大分頭が痛い思いをしている。
「それならば、私でも良かったのでは?私の代わりは居りますが、メルセス様の代わりはいらっしゃらないかと…」
「いやーダメだよ。そんな事をしたら君の兄君も漏れなくついて行っちゃいそうだからね。それに、問題はない」
「・・・?」
「あの娘にもそろそろ学ばせる時だ」
「陛下?」
「上には上が居るって、ね」
「!?」
フレイザー主従及びアスベル主従が観戦するVIPルームだが、間も無く試験が開始すると言う時間なのにその場にアスベルの護衛である筈のクーの姿がない。
少し前に観戦のオトモと言う名のおやつを、屋台へと調達に出たのだ。
このVIPルームには平民の屋台料理に嫌悪する者は誰もおらず、寧ろ味が濃くてうまうまぁと思っているのでアレも買って来いこれも食べたいと、渡された軍資金はホクホクだ。
そのクーは、串焼きやらサンドやらを抱えて最後に目当ての一軒の屋台を探しているが、中々見つからない。
受付しようと列に並んでいた時には確かに見かけたのであるが、屋台ごと無くなっている。
「おっかしーなー・・・確かにあのチョコレート屋台あった筈・・・」
何度も行ったり来たりと探してみたがやはり見つからず、クーは仕方なくVIPルームへと戻ったのだった。
円形のリングのその中心には、ニノが。
それを取り囲む様に受験者が殺気だった様子で得物を構えている。
『準備が整った様ですので、開始したいと思います!それでは!第一回、黒の一団入団試験初戦開始です!!』
ファァーー!とラッパの様な法螺貝の様な音が鳴り響き、参加者達は一斉にニノに襲いかかった。
ニノは難なくヒラヒラと攻撃を躱してリングの端へとたどり着いた。
「シュンちゃーん!無傷で勝ったらご褒美ちょーだーい!」
そんなふざけた言葉に観戦者はどよめき、参加者は苛立ち、そして仲間からは・・・。
「どうせ碌な要求じゃないんだろ」
「細切れにされると良いと思います」
グレンとエクシャにそれはそれは冷ややかな視線を浴びせられた。
そこに待ったをかけたのは意外にもシンである。
「いや、待て・・・ニノにご褒美が適用されるなら俺達にも適用されて良い筈だ」
思わずハッ!とするが参加しないエクシャには結局関係のない事なので全力で反対した。
そんなやりとりを横目に、シュンは一先ず何が希望なのかとリング上のニノヘと声を掛けた。
「因みに要求はなにー?」
「ほっぺにちゅー」
更にざわつく会場。
黒の一団からは殺気が溢れ
「おい!リング上の奴!誰でもいいからそいつを始末しろ!!」
「息の根を止めてくれてもいいんですよ!」
「一斉に飛び掛かるよりも左後ろを狙え!そいつはそこが狙い目だ!」
いつもなら暴走するニノを止めに入る面子であるが、リング上に上がれないことから参加者にアレコレ指示を出す始末。
ニノの一番の相棒であるグレンからの的確なアドバイスに、慌てふためくニノは漸く剣を鞘から抜いた。
それに警戒して一瞬だけ、参加者達がニノから距離を取った。
そして、それが仇となる。
魔法を纏った刃は、ニノの身体の回転に合わせて膨らみ、竜巻となり半数以上の参加者を一瞬で場外へと吹き飛ばした。
「おっと、全員飛ばすつもりだったのに手加減し過ぎ?」
“手加減”と言う言葉に周囲は凍りついた。
武器への付与魔法は珍しく無いし、魔力を持つ戦士は当然のように皆んな使用する。
問題は、その威力だ。
成る程、と息を呑んだ。
リング上の者達も次の試験の参加者達も、生半可な実力では黒の一団には入れないという事実をこの初戦で嫌と言う程に理解した。
そうしてニノは無傷のまま試験を終えて、両手を大きく振って帰還した。
「シュンちゃーん!ちゅー!」
「するとは言ってない」
「えぇ!?」
言ってない。確かに言ってない。聞いただけだ。
マールやエクシャ、グレンはザマァミロとニヤニヤしているのがなんとも腹立たしい。
(ご褒美は無しか・・・)
内心残念がっているシンに気づいたレイルは、呆れた様に息を吐いたのだった。
次戦参加のグレンは、参加者たちの入れ替えが終わる間、入念に身体を動かし解した。
ニノとグレンはその戦い方はほぼ同じだ。
ニノが手の内を一部見せてしまった事で同じ事はできない。
(よし、あれで行こう)
大体の作戦を脳内でシミュレーションし、準備万端でリングへと上がった。
グレンがリングに足を踏み入れるとモーゼの様に人垣が二つに割れて、リング中央までの道ができた。
『さぁ、準備も整った所で二戦目開始!』
アナウンスが響くと同時に参加者は一斉に飛び掛かってきて、先程のニノの戦いを見ていなかったのかと、息を吐く。
「ポーションや身代わり君の準備はできているか?」
上段に構えた刃を振れば、斬撃が無数飛び出ししかもそれは急カーブしグレンと離れている者達にも的確に足へとダメージを与えて膝を突かせた。
「ぐあぁ!足がぁぁ!」
「心配するな骨が折れた程度だ」
立てなくなった参加者達になんとも非道な一言を浴びせ、再び斬撃を生む。
斬撃と言っているが、ちゃんと手加減をしているため斬られることはない。
精々鉄のハンマーで殴られる程度の痛みだ。
つまり、めちゃくちゃ痛い。そうでもしないと四肢ごと切り落としてしまいかねないのだ。
剣を振るごとに見えない斬撃は参加者を襲い、それがいつ来るのか分からない恐怖と戦いながらグレンへ攻撃を仕掛ける。
しかし、誰の刃も届くことなく二戦目も呆気なく終了したのだった。
リングやその周辺には足を押さえてのたうち回る参加者で溢れ、ギルドは嬉々としてポーションを売り捌いたのだった。
人の不幸で飯食ってるのか?と思わずにはいられない。
三戦目のマールはシュンからちゃんと手加減する事をしつこい程言い聞かされている。
竜種のマールが本気を出そうものなら会場が木っ端微塵だ。それが分かった上で、シュンの注意を聞き頷いたのだった。
が、見世物となるのはあまり好きではないマールは開始と同時にさっさと終わらせようと殺気を混ぜて会場内に響き渡る咆哮を放った。
咄嗟にリングの周囲に防御壁を張ったシュンは少し苦笑いだ。
瞬殺とはまさにこの事。
一瞬で参加者たちは気を失い、中には痙攣を起こしたり、白目を剥いて泡を吹いている者までいる。
会場はしんと静まり返り、何が起きたか理解できない者が殆どであった。
「手加減は・・・・・・した」
マールにとっては、だ。
「・・・うん、分かってる」
悪い事がバレた幼い子供のようにおずおずとシュン達の元へと戻る、しょぼんと項垂れる青年を見て誰が竜種だと思うだろうか。
本当に手加減したんだ・・・と小声で訴えると
「うんうん、分かってるよ」
とよしよしと頭を撫でられて慰められる始末だ。
以前から手加減は苦手だと言っていたマールにしてはよく頑張った方だ。こればかりは誰も何も言わなかった。
午前の部が終わりを迎え、1時間程の休憩を挟んで午後の部が開始される。
屋台で昼食をとも思ったが、関係者用出入口の扉を開けた瞬間見渡す限りの人、人、人の視線が一斉に集まり、目が合うなり波のように押し寄せてきた。
来場者にすっかり顔を覚えられてしまい、出ることは困難だ。
(出待ちされるアイドルってこういう恐怖を味わってるのかな・・・)
と素早く扉を閉めて外から開けられないように魔法で錠をしたシュンは微かに腹の虫を鳴らした。
「なんかとんでもないことになったな・・・」
人の数があまりに多かったせいか、レイルや他のメンバーの顔色も少し悪い。
別に有名になりたくて活動していた訳ではないのに、元々生活費を稼ぐ為の手段だった筈なのに・・・と考えても仕方がない。
腹は減るのでどうやって昼食を購入しようかとメンバーが顔を見合わせる中、シュンはパチンと一つ指を鳴らした。
すると一斉に身にまとっている黒の衣装から普段着へと変わり、髪の色もいつもと違う色へと変化した。
「変装はこんなものかな」
お互いの見慣れない姿に少し笑いが込み上げてくるが、これならバレないだろう。
あとは移動魔法で少し離れたところへ飛ぶだけだ。
各々目的の屋台へと足を運ぶ中、シュンは先程まで一緒にいたチョコレートの屋台へと足を向けた。
当然のようにその後ろをシンが付いてきている。
しかし、そこに屋台は無く二人は首を傾げた。
チョコレートの屋台は車輪がついているので移動することは容易ではあるが、こう言う催しものの会場であれば屋台が勝手に乱立しないために事前申し込みがあり、誰がどこに屋台を出すかは決められている。
決められた場所以外に屋台を出せば大きな罰金が課せられるのはどこの国も同じだ。
試験開始前の在庫状況から、早々に完売するとは思えない。
不思議に思いシュンは隣の屋台でせっせとご当地包み焼きを焼いている店主にチョコレートの屋台の行方を尋ねた。
「あぁ、それならどこぞのお貴族様の従者の方が来て、主が屋台のチョコをとても気にいったから全部買い取るから屋台ごと主人の所に来て欲しいって連れてっちまったよ」
羨ましい限りだねぇとカラカラと笑う主人の包み焼きを昼食に購入してそれを食べながら、違和感のあるそのお貴族様に表情が険しくなる。
「攫われた?」
「シュンが監修したチョコは他のと比べ物にならない程美味いからな。製法を聞き出そうと攫った可能性もあるな」
商品の買い取りなら屋台を一緒に持っていく理由がない。
子供達全員を連れて行き、お互いを人質として製法を聞き出すつもりなのかもしれない。
メラッとシュンから漂う殺気にシンだけでなく周囲もギョッとしてシュンから距離をとる。
「ほほぅ・・・相手は命はいらないらしいね」
「・・・今から犯人探しは午後の試験開始に間に合わないぞ」
「大丈夫、大丈夫。私の代わりに動いてくれる人ならいるから」
ニタァっとあまり・・・いや・・・かなりよろしくない黒い笑顔でシュンは包み焼きを手早く食べたあと会場へと戻った。
そして向かう先は、VIPルームだ。
ノックのあとVIPルームへ招き入れられた先には、シュンの代わりに考えてくれるフレイザーと、シュンの代わりに動いてくれるアスベルとクーが何事かと目を丸くしていた。
「何やら殺気立っているが、どうした?」
フレイザーの護衛のランスロットも少し警戒している。
「閣下が連れてきた子供達が攫われた可能性がある」
「!!?」
その一言でシュンの殺気の理由が直ぐに分かった。
包み焼きの屋台の店主に聞いた事を話し、流石にそれはおかしいとフレイザーだけでなくアスベルにも分かったようで、直ぐに探そうと席を立とうとするがそれを制したのはクーだった。
「犯人も居場所も分からないのに何処を探すつもりっすか?」
「しかし!子供達が怖がっているかもしれないだろう!」
「一先ず他にも情報がいるな。シュン、この会場にお前が動かせる者はどれくらい居る?」
シュン以外は「どういうことだ」とクエスチョンマークを浮かべるがシュンは当てがある様で
「必要なだけ」
と更に黒い笑みを浮かべ、パチンと黒い衣装といつものシュンに戻ったあと移動魔法にて姿をくらませた。
午後の部までもう暫くと言う頃合。
もう一つのVIPルームでは国王のラインハルトと侯爵のアランドが貴族流の食事を丁度済ませていた。
護衛の騎士とミラルダも待機しており、突如として目の前に現れた黒い衣装に警戒態勢へと入った。
「あれ?ミラルダ、久しぶり」
「シュン!?一体なぜ・・・いや、それよりもここがどこだか分かっているのか!?」
陛下の御前だぞ!と友人であるが主を守らねばと剣の柄へ手をかける。
周囲の護衛も同じように、一瞬焦ってはいたが直ぐに気を取り直し警戒するあたり流石と言える。
「勿論、リュキッド国の王様のお部屋」
「ほぅ・・・黒の一団のシュンだったか。無国籍とはいえ不敬であるぞ。俺がその気なら今この場で罰する事もできる」
「悪いがお前を敬う気持ちは欠けらも無い」
「!?」
あまりのもの言いに、緊張が走る。
「貴国の警備のずさんさに呆れてものが言えないのだがどうしたらいい?」
それに眉を寄せたのはミラルダであった。
今回の警備の責任者はミラルダだ。
ずさんであると言いきられて表情が歪む。
どういうことかと問うとシュンは
「フレイザー・アーリッシュ大公閣下が自国から招いた、チョコレート売りの子供達が屋台ごと攫われた。これをずさんと言わずなんとする?」
まさかと驚く一同にミラルダはすぐさま事実確認をする為に護衛の一人を走らせた。
どこぞの貴族が屋台ごと招いたという情報であるが、そんな勝手は許されるはずがないのだ。
「買い取りが事実であったとしても屋台にはロザリール国王家御用達と大公閣下の刻印が記されている。勝手に連れて行くなど言語道断。もし、その連れていった貴族がこの国の貴族であったなら二重の意味で大失態だと思うが?」
「・・・なるほど・・・それで国際問題とならぬように黒の一団の貴殿が間に入ってくれると?」
「こちらとしても我々の試験で起きたことを見なかったことにするのは心苦しいのでね。早期解決してもらいたい」
話はそれだけだと今度はきちんと扉から出れば、その後をミラルダが追ってきた。
「シュン!すまない!私の失態だ!」
「・・・ミラルダ、聞いてもいい?」
先程とは打って変わって砕けた口調のシュンであるが、ミラルダは真剣になんでも聞いてくれと頷いた。
「屋台を引っ張る子供達が居たら警備は声をかける?」
「それは当然だ。屋台を開く場所は決まっているから移動は許されない。子供達だけなら余計に声をかける・・・・・・そうか、そんな報告は上がっていない・・・不審なことがあったら逐一報告するよう言い含めている・・・」
しかしだ、子供達だけでなく、子供達と共に警備が信頼できる誰かが一緒なら報告には上がらない。
警備はこの国の騎士や兵士だ。
もし、子供達がこの国の貴族と共に居たのなら警備は簡単に見過ごすだろう。
「・・・やはり、この国の貴族が噛んでいるようだ・・・本当にすまない!迅速に子供達を見つけ保護をする!」
「うん、ミラルダの事は信用しているよ」
「必ず!では、失礼する!」
足早に去っていくミラルダを見送り、フレイザーにこの事を告げたあとシュンは控え室へと戻った。
そこには既に全員集まっており、午後への備えは完了している様子だ。
「で、どれだけ動かした?」
そう問うレイルに
「相手をフルボッコにできるだけ」
と黒い笑みで返した。
この国は世界でも武力の高い国として知られているが、フレイザーの戦略には劣る。
武力としても商戦としても、一筋縄では行かない相手を敵に回すなど国の損失にしかならない。
あのフレイザー・アーリッシュとの全面対決を回避するためにラインハルトは総力を挙げてくれるだろう。
「あの子達を攫った犯人にはどんな地獄が相応しいか、今から考えておかないとね!」
笑顔は可愛いのに言ってる事がちっとも可愛くないシュン。そんな笑顔をさせる犯人に一同は内心で「ご愁傷様」と合掌したのだった。




