66
シンが魔力を封じられて一カ月。
面々はいつものようにギルドの仕事を黙々とこなしていた。
シンの魔力は、戻っていなかった。
封印の魔法陣の解析はできたのだが、厄介なことに、メルセスは自分の魔力でないと解けない様に魔法を作っていたのだ。
(間違いない・・・メルセスは私と同じ、魔法チートだ)
そう確信したシュンは研究室に篭っていた。
魔法も魔力も圧倒されていた訳ではない。
しかし、本気ではなかったとしても、これまで破られることがなかったシュンが最も得意とする防御壁があっさりと破られたのだ。
念には念をいれて強化する必要がある。
防御壁の魔法陣だけではない。
“自分と同じ”なら余計にだ。
(全ての魔法に強化魔法の式を組み込む。魔力はそれだけ削られるけどそこは問題ない・・・)
レイルに教わった魔法や自分で作った魔法など、数は決して少なくない。
それらの魔法全てに強化魔法を組み込もうとしているのだ。
膨大な時間が掛かるのは分かりきっているが手は抜けない。
万が一、手を抜いてメルセスに敗れたら目も当てられない。
(平穏な日々に水を差されてたまるか。黒の一団は私が死んでも守る・・・!」
魔法が使えないシンは、じっとして居られず自主的に鍛錬を繰り返していた。
いつかシュンにもやしと言われていた体型も、魔法を使えなくなってから肉付きも良くなり、グレンとニノの考えた筋トレメニューのお陰で脂肪ではなく筋肉へと成長している。
鏡を見るのがちょっと楽しい時期になっているせいか、鍛錬にも力が入る。
(・・・これならもやしとは言われないだろう)
鏡を見ながら自分の腹筋をむふふと堪能している姿は、正直気持ち悪い。
動きやすい服装に着替え、普段グレンやニノが使っている鍛錬用の剣を持ち素振りでもしようと外へと出る。
鳥の声と柔らかな風を感じながら剣を振る姿は中々に様になっている。
程よく汗をかきながら、グレンやニノの剣技を思い返しながら真似てみるが、身体強化ができない今のシンではやはり思い通りに出来ないでいた。
(・・・あいつらはこれを魔法無しでやってんのか・・・凄いな・・・)
ちょっとやそっとの努力でどうにかなるものではないのだなと感じ、素直に感心した。
日が天辺に昇り、そろそろ昼だなと廃城へと戻ろうとした時だ。
バリンと分厚いガラスが破られる音が響いた。
なんだ?とシンが振り向いた時には、それはもう眼前まで迫っていて、把握する暇もなくシンの唇に柔らかなものが押し当てられた。
「!?」
ちゅっとリップ音をさせて離れたのはメルセスの妖艶な微笑みで、慌てて引き離そうとするが相手はシンよりも何倍もの強い力で引き寄せ、先ほどよりも深く口づけてきた。
「ーーーふっ!!」
抵抗虚しく侵入を許した舌をガリッと噛んでやることしか出来なかった。
「ーーっ」
驚きにメルセスが一瞬体を離した瞬間、轟音が響き渡り、メルセスが居たはずのシンの目の前に雷が落ちた。
落雷より一瞬早くメルセスは飛び退き、惨事を免れる。
「人の家の前でなにやってるのかな?」
「シュ・・・っ!?」
庇う様にシンの目の前に姿を現したシュンからは、感じた事のない殺気が放たれていた。
魔法で軽減できないその殺気は、自分に向けられていないにも関わらず、震えが起きるほど強力であった。
「ふふふ、ごめんなさい。“未来の自宅”を見学に来ましたの。そうしたらたまたまシン様がいらして、その色香に我慢できずつい、ですわ」
「所構わず発情するのはやめて貰いたい。そんなに飢えているのなら男娼でもはべらせては如何か?」
シュンが殺気まみれでジロリと睨みつければ、魔力効果も相まって大抵の人間は恐怖するのだが、メルセスは余裕の表情でふふふと可愛らしく笑うだけであった。
「不愉快だ。お帰り願う」
「あら、私今来たば」
言い終わらないうちにパチンと指を鳴らし、無理矢理メルセスを退場させた。
そのすぐ後、破られた結界をこれまでの何十倍もの厚さにかけ直し、踵を返した。
動けないでいたシンの横を一瞥だけ視線をやり、無表情で通りすぎ、
「先に戻る」
とだけ残して移動魔法で姿を消した。
「ーーヒュッ!ゲホッ!ゲホッ!」
自分が息を止めていた事に気づいてシンは、いきなり取り込んだ酸素に驚いて咽せてしまった。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・ーーっ」
シュンは自分に一言もくれなかった。
いつもなら「大丈夫?」と必ず声を掛けられ、メルセスとの口付けを見ていただろうから、ハンカチや袖口でゴシゴシと乱暴に唇を拭われるのすら想像できるというのにだ。
サッとシンから血の気が引いた。
見限られたのではないか、と。
ドンドンと心音が太鼓の様な音をたて始めた。
「・・・違う・・・シュンは、そんな奴じゃない・・・」
じゃぁ何でいきなり態度を変えた?
今朝までは普通だった。
(メルセスの行動を自分でなんとかできなかったからか?でも魔力が封じられてるのはシュンが一番よく分かってるはず…なんで?)
理由が全く分からなかった。
でも、あの視線がとても恐怖に感じ、気づいたらシュンの部屋へと向かって走り出していた。
自室へと戻ったシュンは、ソファに腰掛けこれまでに無いほどの長い長い溜息を吐いた。
俯き、顔を両手で押さえ、その両手の肘は両膝で支えられている。
「こんな形で知りたくなかったわーー・・・・・・・・・」
思い出されるのは先程のシンとメルセスのキスシーンだ。
頭が真っ白になり、心は黒く塗りつぶされた。
(この感情を知ってる。怒りと嫉妬だ・・・。しかもシンに八つ当たってしまった・・・・・・)
心配する気持ちもあったが、苛立ちの方が勝り、シンを放置してきてしまったのだ。
(嫉妬した。つまりそういう事なんでしょ・・・最悪だぁー・・・)
自己嫌悪と共に項垂れているとバンッ!と盛大な音を立てて自室の扉が開いた。
「うわっ!?何!?」
驚きにそちらを見れば顔面蒼白なシンが、またバン!と乱暴に扉を閉めてツカツカとシュンに詰め寄った。
シンはソファに座るシュンよりも視線を下げる為に床に膝をつき、両手を握ると覗き込む様にして見上げてきた。
「っ!・・・シ、シン?」
不安の表情のシンに息を呑む。
(・・・・・・闇の魔法使いの面がイイ!!!!!いや!知ってたけど!?自覚したらさぁキラキラ度増すって本当だね!?)
ある意味荒れてるシュンの心境など知る由もなく、シンは握った手に更に力を込めた。
「シュン」
「・・・!」
声が震えていた。
「俺は、どうすれば良い?」
「・・・え?どうって・・・」
「このまま万が一魔力が戻らなかったら・・・」
荒れた心境が一気に凪いだ。
そして分かったのだ。
自分のさっきの態度がシンを不安にさせたのだと。
シュンは堪らずシンの頭を抱き寄せた。
「ごめん!ごめんね!不安にさせたね!大丈夫だよ!!絶対取り戻すから!万が一無理だった時は一団は捨てよう!!」
「・・・え?」
突然のシュンの発言に驚き、腕から逃れ顔を見た。
シュンは真剣そのもので、本気でそう考えていると言うのが分かった。
「この城も黒の一団の名もくれてやれば良い。でもシンは・・・みんなは絶対に渡さないから。彼女が一団に入ったらみんなで辞めてまた違う道を探せば良いんだよ!まぁそうはならないけどね!」
シンの両頬を掴み、ニンマリと笑うのはいつものシュンだ。
勝っても負けても思い通りにはさせないのだという決意がありありと出ている。
「シン、大丈夫だよ。大丈夫。なんてったって、私は人外だから!」
考え込んでいる様子ではあるが、シンが頷いたのを確認して、ほらほら!床じゃなくてソファに座って!と促しシンが腰掛けた場所はシュンのすぐ隣。
それもピッタリとくっついている。
「・・・・・・」(近い!!!)
今までこんな事は普通であった。
そう、普通だった。普通なのだと自分に言い聞かせて、魔法でお茶とお茶菓子を用意しようと指を鳴らすポーズを取るとその手を取られた。
「・・・シン?」
「一つ頼みがある・・・」
「なに?」
「・・・・・・殴ってくれても構わない」
「え、なんなの?」
「さっきの・・・あの女・・・」
「うん?」
「く、」
「く?」
「くちびるの感触が・・・残っていて気持ち悪い」
「・・・・・・あぁ、それで殴って感触を消して欲しいと・・・とんだバイオレンスだね!?」
「違う!そうじゃない!」
「良かったよ!私だって殴りたく無いからね!?じゃぁなに!?」
「キスしてほしい!!」
「ふぁっ!!?何言ってんの!!?」
ガッともう片方の手も握られ、意を決した表情のシンが真っ赤になりながらシュンを見つめてくる。
「ーーーっ」
なんとか抗議の声をあげようとするが、ハクハクと声にならない。
「本気で嫌なら殴って抵抗して欲しい。お前なら簡単だろう?」
スッと近づく整った顔と、先程の自覚してしまった気持ちのせいもあり抵抗するかどうか戸惑ってしまう。
(だって嫌じゃないから・・・)
シンを見ていられなくて逸らした視線がなんと無しに捉えたのは鏡だった。
それを見た瞬間、シュンはシンの手を振り解き、魔法で生チョコトリュフを取り寄せるとすんでのところでシンの唇に押し当てた。
「・・・・・・」
「・・・・・・今日のおやつデス」
シンは口を開けて、トリュフを頬張りいつものように
「うまい」
と好きなチョコレートを堪能したが、もう片方の腕は掴んだまま離さない。
「・・・俺は殴れと言った」
「殴れるわけないじゃん。そもそも絵面がヤバいからキスなんてダメです」
14歳の未成年少女と20歳のイケメン青年のキスシーンなんて、色々とヤバい。
日本ならシンは「お巡りさん!この人です!」案件だ。
「拗ねてもダメ」
「・・・裏を返せば、」
「?」
「お前がもう少し成長したら良いんだな?」
「は!!?いやそんな話してないよ!!」
「分かった。じゃぁあと1年は待つ」
「1年じゃ何にも変わらないよ!?」
「お前の前世ではどうか知らないが、この世界では15歳で結婚できる」
「知ってるけど!?」
一体何がどうしてこうなったのか…と頭を悩ませるシュンであるが、わかる事は一つ。
1年後、シンが本気で迫ってきたならば自分はきっと抵抗できないだろうという事だ。
「っ!」(いやいや!1年後に迫ってくるという可能性なんてほぼゼロだよ!この事を覚えてるかどうかも怪しいし!そもそも何でそんなにキスしたがるの!?さっきのメルセスとのキスがそんなに良かったの!?気持ち悪いとか言ってたけど本当は良かったんじゃないの!?)
未だ掴んだ手を離さないシンをキッ!と睨み付けると、シンは繋いでいないもう片方の自分の手の甲で唇を拭っていた。
「・・・大丈夫?」
さっき言うはずだった言葉が今やっと出てきた。
「・・・ん、あぁ。やっぱり気持ち悪い」
シュンは少しだけ湿らせたハンカチを取り出すと、シンの唇へ押し当てた。
「あんまり擦ると皮むけるよ?」
「寧ろ、むけて無かったことにできればいいのに」
ハンカチ越しに動く唇にドキっと心臓が鳴るが、表情には出さずに、優しく向きを変えた。
悪戯心の芽生えたシンはハンカチ越しにシュンの指をはむっと軽く唇で挟んだ。
「!?ふんぎゃぁ!?」
突然の事にシュンからは聞いたことのない声が出てきて思わず指を離して笑ってしまった。
「ちょっ!?なにすんの!?」
「ふんぎゃぁ!って!ぶふぅ!」
「シン!!」
この後魔法が使えないシンがシュンにより簀巻きにされるとほぼ同時に、ギルドから帰ってきたレイル達が一様に疑問符を浮かべる。
何があったんだと言う問いに、シュンは「何でもない!」と言い張ったそうだ・・・。
黒の一団、採用試験当日。
試験会場、リュキッド国首都エルグランド
コロシアム。
「なんじゃこりゃ!?」
会場はお祭り騒ぎとなっていた。
コロシアムの周囲には屋台が並び、黒の一団の全貌と試験見たさに世界中から人が押し寄せてきており、コロシアム内の観客席には立見が出る程だ。
更には受験者の数も予想以上に多く、二千人を超えたと言う。
今回の大イベント・・・もとい試験の仕切りを任されたギルド職員の案内でコロシアムの関係者入り口からコッソリと中へと入り、現在までに受け付けた受験者一覧をパラパラと見るシュンとレイル。
「待って、予想外なんだけど」
この人数をどうやって選定しろと言うのか。
1日で終わらない。
「方法はある」
参加者一覧を見ていたレイルに案があるらしい。
「武術部門と魔法部門別々にしてあるだろ?各部門全員舞台にあげてその中に一人うちのメンバーを入れる。あとはそいつに全部倒させればいい」
などと言い放つレイルに反対の声をあげたのはグレンとニノだった。
「俺たちには無理だぞ!」
「やるならマール辺りにしてくれない!?」
一人で千人以上を相手なんてやってられない。
一人一人に手加減なんてできない。
精々半分がいいところだ。
「・・・いや、手加減と言うのならば俺よりグレンとニノの方が得意だろう?」
「うーん・・・私も今マールで考えてたよ。マールなら竜の咆哮で殆どの人を場外もしくは気絶させられるでしょ?ポーションや身代わりくんをギルドが大量に投入してるから、殺しさえしなければ大丈夫だよ」
「・・・・・・」
シュンがそう言うならと黙り込むマールと、ホッと安堵の息を吐くグレンとニノ。
「問題は千人も舞台に上がれないってことだよね」
今この時も更に人数は増えている。
基本的に一対一を想定して作られたコロシアムの舞台はそれほど広くはないのだが、ならば半分ずつ上がらせればどうかと言うギルド職員の意見に賛同する事になった。
中々受付が終わらず、暇潰しに屋台を見てまわろうとコロシアムを出た時だ。
試験受付の行列に居てはならない人物を見つけてしまい、シュンとシンは頭を抱え、他のメンバーは苦笑いを浮かべた。
「もっと早く出ればよかったっすねー。順番までまだまだっすよ」
「予想はしていたがこれ程とは・・・やはり凄いな黒の一団は!」
某国の王子とその護衛だった。
「おいこら護衛、何やらせてんの」
「あ、見つかった」
「おぉ!シュン!シン!」
「おぉじゃないよアスベル!全く!こっちきなさい!!」
「待ってくれ!まだ受付が!」
「させるわけあるか!!」
ぐいぐいと遠慮なく耳を引っ張り列から引きだすと、人混みから離れた。
「一国の王子の参加を許可できるわけないでしょう!?」
「しかし、フレイザー閣下は勉強にもなるし面白そうだからと許可して下さったぞ!」
「あのジジィは・・・・・・。で?貴方のお父様は許可してくれたの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
きゅっと口を真一文字に結び視線をそっと逸らす。
それだけで答えを言っているも同然だ。
呆れたように同時にため息を吐き、次の攻撃対象である護衛へと視線をやった。
「仕事しろよクー」
「あははは、アスベル様は俺には止められないっすよ」
「止める気がないの間違いでしょう」
兎に角アスベルの参加は絶対に認めないと念をおし、もしクーが本気で出たいなら、雇い主に辞表を出してこいと伝えるとそれはダメだ!とアスベルが断固反対をしてみせた。
仕方なくギルドの職員に頼み、貴賓席を用意してもらう事となり、参加は無理だがそこで見学していろと押し込む形となったが…。
「申し訳ありません・・・貴賓席には当国の国王陛下と侯爵閣下のお席、それとは別にあと一室しか無くフレイザー・アーリッシュ大公閣下の席となっておりまして・・・」
と、歯切れ悪くさせてしまった。
「大丈夫です。フレイザー閣下と同室で。閣下の学校の生徒でもあるので問題ありませんて言うか来てたんかいあのジジィちょっと文句言ってくる」
一息に言うやいなや、ズルズルとアスベルを引き摺りながら焦るギルド職員に案内されシュンは、観客席の所謂VIP席へと向かった。
ギルド職員は、アルファード国の王太子殿下をまさかこんなに雑に扱うと思っておらず、黒の一団怖い…と若干引いている。
案内された部屋の扉をノックすると、聞き覚えのある老人の声で返事があった。
入室するとそこにはフレイザーと側近兼護衛のランスロットがいた。
「もう見つかったか!」
「見つかる前提かい!」
シュンなら千人の中からでも見つけ出すだろうと踏んでいたフレイザーだが、まさか受付前に見つかるとは思っていなかったらしい。
「くっ!フレイザー大公閣下のご期待に添えないとは不甲斐ない!!」
「そうだね。これに懲りてアスベルはこの人に関わらない方が良いと思うよ?」
アスベルの純粋な思考がフレイザーに汚染されてはたまったものではない。
早速席を用意してもらい、更には王太子として相応しい服までも即座に手配された。
ギルドは随分手際がいいなと思っていたら、フレイザーがこうなる事を見越して用意していたらしい。
何でもお見通しかこのジジィ。
「そうだ、シュン」
「なに?」
いつもの好々爺然とした朗らかな笑みに、何を企んでいるのかと身構えるが、発せられた言葉は予想外のものであった。
「“あの町”のチョコレート売りの子供達も来ておるぞ」
「え!?教会の子たち!?」
シュンが元々暮らしていたロザリール国の元スラム街であり、今では国一の仕立て屋とチョコレート加工工場と化している。
「うむ、そろそろあのチョコレートを他国にも大々的に広めても良い時期かと思ってな。この機会に移動販売所共々連れてきたのだ。お前さんに会えると言っておいたから顔を出してやってくれ」
「分かった。どの辺りにいるの?」
嬉しさを隠そうともしないシュンに、場所を説明すると、すぐ様退室していった。
「・・・ふぅーこれでお小言を避けられた」
「閣下、これを見越して子供たちを連れて来てたんすか?」
「さすがは閣下!シュンの小言を回避する策まで用意してあるとは!!」
「ほっほっほっ。ナイショナイショ」
シーと口許に人差し指をあて、歳と身分の割になんともちゃめっ気のある人だと、護衛兼側近のランスロットだけが苦笑いしていた。
レイルやシン達と合流したあと、先ほど聞いたチョコレートの屋台を探しに向かった。
「あ、シュンだ!」
「ルイも一緒だったのかー」
ルイは縫製工場で今や代表となっているアルマの息子だ。
母親が仕立てた服を売る商人になると言っていたが、今日は子供達の手伝いに来ていたらしい。
「慣れない土地での接客は得意だからさ」
「成る程。みんなの見本というわけか」
シュンより少し歳上で、スラムにいた時はさほど変わらなかった身長は随分引き離された。
「そっちはもしかしてシンと・・・え!?レイルさん?!」
当時は伸び放題の髭と髪で顔が分からなかった為、レイルの素顔がまさかこんな精悍な顔だちとは思わなかっただろう。
そして非常に美形に成長したシンに対し、売り子の女の子や行き交う女性達が釘付けだ。
更にはマールやエクシャ、グレンにニノも美形の側なのだ。やけに目立つ。
「面白い人達だよね」
「それをシュンが言うのか…」
シュンがルイ達と話しながら一緒に店番することになり、シン以外のメンバーは各々自由に見回りに行ってしまった。
さてさて、売り上げはどんなものだい?と覗き込むと、三分の一は売れていると言う。
「まぁまぁだな。まだ試験も始まってないし、これからこれから!」
完売を目標に子供達は気合を入れて「おー!」と拳を上げた。
「シュンも戦うのか?」
子供達の中で唯一、シュンが黒の一団だとアルマから聞いて知っていたルイが問うとシュンは一つ頷いた。
「出るよー。頑張っちゃうからね!」
それが耳に入ったのか丁度やってきた客の男が、
「お嬢ちゃんも出るのかい!?」
と驚いた風に口を挟んできた。
「そうは見えないと思うけど魔法得意なんだよ」
「それは凄いな!」
豪快に笑いながら、チョコレートを購入して
「応援してるからな!」
と去っていった。
試験開始時にその少女が黒の一団側に居るとも知らずに。
「シンも出るのか?」
屋台の後ろで座り込み涼んでいたシンの顔を覗き込むとシンは一つ首を振った。
「まだ分からないな。参加者が増えすぎて舞台に上がりきらないから分ける必要がある。そうなるとシュンが一回、誰かが一回と分けることにはなるだろう。まぁ、二人で一緒には無いな」
シュンとシンが二人一緒に出てしまうと、受験者秒殺で見にきた客からブーイングの嵐だろう。
そもそも客を呼んだ覚えはないのだが。
「…いやいやちょっと待って。コロシアムの集客売り上げはもしかしてギルドとリュキッド国に入るの?酷くない?勝手に客呼んで私たちを見せ物にしてお金取るとか酷くない?」
「確認しなかったお前の落ち度だな」
「絶対に閣下の入れ知恵だよ。だからVIPルームに居たんだよ」
「ふえっくしょん!!」
「大公閣下!お風邪ですか?」
突然のくしゃみにアスベルが気遣うが何でもない、と手を振った。
(・・・ふむ、後からシュンがやってきそうな予感…終わったらさっさと帰るか・・・)
しばらくすると試験受付終了の魔法弾が空高く打ち上げられた。
「じゃぁそろそろ行くね」
「おう、頑張れよ」
「任せろ」
シュンとシンを見送った後何気にチョコが半分程減っている事に気がつき、いつの間にか売り上げが伸びていた。
「よーし!俺たちも頑張るぞ!」
再び「おー!」と気合を入れる子供達の姿に周囲は微笑ましく思っていた。
それを影から見ている者が居るとも知らずに…。




