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「黒の一団の方とお見受けした!我らを仲間に加えて頂きたい!!」
シンがルーワイヤ国でギルドの仕事をこなして、報酬のアロエを受け取っていた時だ。
数人の冒険者達が真剣な面持ちでそう言ってきた。
「・・・デジャヴ?」
シンに付き合って一緒にやってきていたグレンとニノはいつかの出来事を思い出していた。
「メンバー募集はしていない」
シンがキッパリと断るが、引き下がる事なく冒険者達は詰め寄ってきた。
「そちらの団員の方に勝てば入れて貰えると聞いた」
「?初耳だが?」
「「・・・・・・」」
シンは確かに初耳だろうが、グレンとニノには心当たりがあった。
確かにレイルは言っていた。
“シュンに勝てばボスの座をくれてやる”と。
それをシンにコソコソと耳打ちし、その時はシュンが相手を瞬殺した事まで伝えるとシンは少し考えた後で
「試してやる。表に出ろ」
と冒険者達を促した。
「!」
やってきたチャンスに嬉々としてギルドの外へと出て、広場までやってきた。
動ける範囲を決めるためシンの結界が周囲を包んだ。
「魔法でも武術でもなんでも良い。俺に攻撃を当てろ。それで入れてやる」
制限時間は1分。
ギャラリーは満員だった。
結果から言えば誰一人として触れることすらできなかった。
シンの方は身体能力を上げ、相手の冒険者達を素手で次々に倒していき、1分後には誰も立っていなかったのだ。
しかも片手にはアロエの鉢を抱えている。
「諦めろ」
それだけ言い残し、グレンとニノを連れ移動魔法で去っていった。
「アロエ!どうしたのこれ!?」
廃城に戻りシュンにアロエを渡せば嬉々としてそれを受け取った。
「報酬で貰った。ルーワイヤでは薬の代わりらしい」
「アロエの存在は知ってたんだけど、どこにも売ってなかったんだよー!シンありがとう!グレンとニノもありがとう!」
「・・・たまたまだ」
照れ臭そうにするシンを他所にニノは
「お礼はほっぺにチューでいいよ!」
などとのたまわり、グレンに速攻で殴り飛ばされていた。
早速植え替えようと考えていると、別でギルドの仕事をし終えたレイル、マール、エクシャが帰還した。
心なしかげっそりとしている。
「戻った・・・」
「疲れてるね。面倒な依頼だったの?」
「いいえ・・・。依頼自体は魔物の討伐で時間は掛からなかったのですが・・・」
「問題はその後だ・・・」
依頼完了の報告をしにギルドへと向かえば、待ち構えていたのは黒の一団入団希望者だった。
そのギルドに黒の一団が現れたと聞きつけた町に滞在中の冒険者や、近隣の町や村からも沢山の人が押し寄せたのだ。
「ぜひ!仲間に!」と。
勿論断ったが、いつの間にか「団員を倒せば入れてもらえる」と言う噂が一人歩きしていたせいと、実際試験と称してシュンと冒険者を戦わせた事もあり、中々引いて貰えず仕方なく試験を行ったのだ。
「手加減するのは面倒くさい・・・」
「あの方々は弱すぎます・・・」
試験を行ったマールとエクシャは、相手に深手を負わさないようにギリギリの力加減で全員を他に伏せたのだ。
「俺たちの方もそんなだったよ」
ニノがそう言うとシンとグレンも頷き、シンが秒殺した事を伝える。
「この調子じゃ今後も増えるかもね。入団希望者」
「シュン、お前としてはどうなんだ?」
「なにが?」
「新しく人を入れるかどうか」
そう言うレイルの問いにさほど考えるでもなく答えは直ぐに出た。
「信用信頼できないどこかの誰かを無闇に迎えたいとは思わない」
ここにいるメンバーはあらかじめ、生い立ちなども知っているためなんの抵抗もない。
しかし、他は違う。
入団した後黒の一団の名前を自由に使われてはたまったものではない。
「それにみんな程強い人ってそうそう居ないから、メンバーを倒して入団って言うのは現実的ではないよね」
サラリと強さを褒められて、うねうね体をくねらせたり、頬をカリカリとかいたりと照れ臭さを隠せない。
「でも今後の対応は考えなきゃねー」
実際、入団希望者は多く、更にはギルドへの名指しの依頼も年々増えているのでメンバーを増やすという事はやぶさかではない。
「と言うわけで、年1回試験を行うのどう?メンバーの誰かを倒したら合格的な」
夕食後に突如としてシュンから提案された試験方法に注目が集まる。
ギルドに行くたびに絡まれてはたまったものではない。
「それは良いが・・・一体どこでやるんだ?今日の感じでは相当数の人間が押し寄せるぞ」
「ついでにギャラリーもな。広場が満員御礼だった」
「うーん・・・そうだねぇー・・・それはちょっとギルドに相談してみるよ」
「なぜギルドなのですか?」
「うん、試験を行う事を大々的に宣伝しようと思うんだ。それでギルドにチラシの配布をお願いするついでにいい場所がないか聞こうと思って。ギルドなら少しくらい広い会場とか知ってそうだし」
成る程と頷く一同だ。試験を突破した人間がいた場合、その後どう対応するのかと問えば
「実力があればそれに越したことはないよ。性格に難ありなら躾ければいいし」
ニッコリと可愛い笑顔でとんでもない事を言い出すシュンに若干引き攣った表情を見せるが、シュンに逆らう場合、それも致し方ないと天秤のバランスは大きく傾いたのであった。
相談を受けたギルドから提示されたのはギルドの本部があるリュキッド国の首都、エルグランドだった。
エルグランドの町の外れには、毎年国が兵士の入隊試験や昇格試験を行っているコロシアムがあり、リュキッドの国王も「面白そうだ!」とそれを貸し出すことを快諾してくれたそうだ。
「許可の理由が面白そうって・・・。超大国の王様の考えることは分かんないなぁ」
「祭り好きなんだろ」
「場所が決まって良かったと思おう」
次は広告の作成だ。
自前で紙を生産している為、それほど費用はかからない。
「レイル、これでいいかな?」
「どれどれ」
シュン一人に任せるととんでもない事になりそうな為、レイルという確認役は必要だ。
“黒の一団団員試験開催!
この度、黒の一団入団希望者が続出したため、一斉試験を開催します。
試験内容は簡単!
黒の一団メンバーを倒すだけ!
志す者は是非チャレンジを!!!
場所 リュキッド国 エルグランドコロシアム
開催日 ○月×日
午前 武術の部
午後 魔法の部
未成年の方は保護者の許可を得て参加願います。
(許可がない場合、合格の取り消しもあり得ます)
尚、今後どの様な理由があろうとも正式な試験以外では採用を行いません”
「開催日は二ヶ月後か。まぁいいんじゃないか」
開催日を二ヶ月後にしたのは、準備期間や遠く離れた地に住む者達も余裕を持って来られる様にする為だ。
「じゃぁこれを大量コピーして、ギルド本部にお願いしてくる」
順調に計画を進めていく間もギルドの仕事はこなしていき、身代わりくんやポーション作りも数を増やした。
試験会場で販売したいと言うギルドが、場所探しや広告配布の報酬として希望してきたからだ。
材料はあるし、今では一気に大量生産できるのでそんなに苦でもない。
「おまけするから当日は会場を取り仕切ってくれない?」
と言うシュンの依頼も引き受けてくれて、作成の数は膨れ上がっている。
仕切るのが断じて面倒だからではない。
ないったらない。
「シンと二人でのギルドの仕事久しぶりだね」
黒い衣装は目立つので今日は私服だ。
仲良し兄妹にしか見えないが、受けた依頼は町を襲おうとしている岩竜の緊急討伐というエゲツない内容だ。
岩竜は文字通り硬く、更には一国の城より大きな図体をしている。
受付のお姉さんが頻りに「大丈夫?本当にコレ?間違いじゃない?無理じゃない?」と心配していたのでこっそり「黒の一団です」とだけ伝えた。
すると安心した様に受理された。
「岩竜って硬いよね」
「あの岩みたいな鱗、四元素魔法(火、水、風、土)弾くんだったな」
「加工すれば何か作れそうだよね!」
「…そこか?」
あと数キロで町に到達しそうな岩竜を眺めながら、ギルドで依頼を受けた冒険者達が突っ込んでいくのを見ていた。
ほぼ全ての冒険者達が突撃して弾き返された所で、シュンとシンは岩竜へと向かった。
「さて、いっちょやりますかー」
「いや、お前は見ていろ。俺がやる」
「ん?そう?」
良いところを見せたいシンは、その表情から分かりにくいが、嬉々として岩竜の上に陣取った。
竜の下では冒険者達がシンに注目している。
「四元素じゃなくて悪いな」
そう言うとノーモーションで岩竜を黒い“もや”が襲い、硬い鱗をものともせず皮膚へと入り込み、“もや”は鋭く太い針へと姿を変えて岩竜の肉を貫いた。
一瞬で絶命した岩竜は、その巨体を重力に逆らうことなく倒したが、その先には冒険者達が居た。
慌てて避難しようとしたが、間に合わず潰されると思った瞬間、防御壁が現れ冒険者達を守った。
岩竜の巨体を覆うほどの強力な防御壁に唖然とするが、その魔法を使った者の正体が少女であると知り更に驚愕したのであった。
報酬を受け取りいつもの様に町を散策していた。
本屋や植物屋、屋台が並ぶ一角で買い食いしたりとシュンにとってはいつものコースだ。
が、その横を歩く青年は違った。
(これが・・・デート!!!)
いつもは他のメンバーが居た為意識した事はなかったが、本で読んだ二人きりの男女の逢瀬に心躍らせていた。
表情には意地でも出さないが。
(手!手を繋いだ方がいいか!?)
本の中の恋人達は所謂恋人繋ぎという指を絡ませる繋ぎ方をしていた。
手を繋ぐことはこれまで幾度もあったが、その繋ぎ方は未だ無い。
「シン、さっきから黙ってどうしたの?」
「ん!?いや!?何でもない!」
「…いや、何その、見たことない反応。大丈夫?帰る?」
「いや、ちょっと串焼きが詰まっただけだ。大丈夫だ」
「そう?」
「そうだ」
疑いの眼差しを向けるシュンだが、シンがそう言うならと、そう言うことにしておいた。
土産も買い揃え、そろそろ帰るかと町の外に出た時だ、シンはいきなり後ろから思いっきり肩を掴まれた。
「シン様!?」
「は?」
「?」
シンとシュンが同時に振り返ると、そこには見たことのない女が瞳を潤ませて立っていた。
蜂蜜色のふんわりとした長い髪に、潤んだ瞳は黄金に輝き、桜色のぷっくりとした唇。
体型はマントに隠れて分からないが、すらりとしているのは確かで誰が見ても美女だ。
「・・・誰だ?」
シンがそう問えば、キュッと唇を噛み締めシンの首に両腕を巻き付け抱きついた。
「貴方は知らなくとも私は存じております!私の愛する方!」
シンに抱きついた女は肩越しにちらりとシュンを見てその目を細めた。
「・・・」(まさか・・・)
自分を見て敵対の視線を向けた女に、シュンにはある可能性が生まれた。
“そんな人間は自分だけじゃない”事を知っている為可能性は高い。
「お姉さん、もしかして記憶持ち?」
「!?」
シンの前で堂々とそう言い放ったシュンに、女は驚きに身を強張らせた。
「なんだ、こいつもか。結構多いんだな」
そう言いながらシンは女を引き離した。
「シンはモテモテだからねー」
「・・・それは物語の中の俺だろう?俺には関係ない」
「・・・」
しかも漫画の事も話しているのかと、女は内心驚愕したが、ポーカーフェイスを貫いた。
「・・・あの、私、メルセス・サイアリースと言います。そちらのお嬢さんがおっしゃった様に、前世の記憶を持っていまして・・・貴方の事をお、お、お慕いしております!!」
「俺はお前に興味がない。他を当たれ」
顔を真っ赤に染めた、一世一代の愛の告白をシンはあっさりと断った。
行くぞ、とシュンの手を掴むとメルセスはギリッと歯噛みした。
「・・・シン、もうちょっと断り方ってものがさぁ・・・」
メルセスに対しシュンの方が申し訳なくなり、後ろを振り向くとシュンへと手が伸びていた。
「え」
「っ!」
いきなりの殺気にシンは考える間もなく、シュンの手を引き自分の後ろへと隠した。
すると伸ばされたメルセスの手はシンの腕を掴み、その魔力を封じられた。
「っ!?な、なんだ!?」
「シン様!?なぜ貴方が!」
メルセスも突然のシンの行動に慌てて後ろへと飛び退いた。
(あの動き、この人も何かのチート?)
魔法陣も無しにシンの魔力を封じ、飛びのいたその反射神経も普通ではない。
「お前っ俺に何をした!?」
「っ・・・」
シンから向けられた殺気に一瞬怯んだが、メルセスはフッと口角をあげた。
「そちらのお嬢さんの魔力を封じようとしたのに貴方が庇うからいけないのです。勿論直ぐにでも封印は解除して差し上げますわ」
そう告げられ一瞬安堵したが、次の発言にシンの怒りは更に増した。
「私を黒の一団に入れてくださいませ!ご覧の通り私は魔法陣無しで魔法が使えます。他の方々の様に足手纏いにはなりませんわ」
「ふざけるな。シュンに危害を加えようとした奴を入れるわけ無いだろう!」
シュンは密かにシンにかけられた魔法の解除を試みるが、反応がなく内心驚いている。
「あらあら、この条件を飲んでくださらないのでしたら私もお断り致します。魔法が使えない魔法使い程足手纏いはおりませんわね!なんなら今後のシン様のお世話を私がして差し上げても宜しいのですよ?」
「お前・・・死にたいのか?」
「・・・・・・美女に養われるシンか・・・絵になるね!」
「おい」
いつもの調子のシュンをひと睨みすれば一つ咳払いし
「魔法を解け!」
とメルセスを睨んだが、説得力皆無だ。
緊張感が無い。
メルセスは封印を解く気はないらしく、シュンが魔法を使う為に指を鳴らした瞬間距離をとった。
地面から土が盛り上がりメルセスを襲うがそれを全て避け、風の刃でその土を全て粉々にした。
シュンは握っていたシンの手を離すと、両手で指を鳴らした。
逃げるメルセスを防御壁を作り退路を経ち、すかさず移動魔法で接近して取り押さえようとするが、その防御壁を壊されてしまった。
(シュンの防御壁が壊された!?)
これまでに無い事にシンの表情が強張った。
「ふふ、子供なのに強いのですね」
フッと片手を振ると無数の氷の刃が出現し、それらが一気にシュンへと襲いかかったが、同じ魔法でそれらを全て相殺した。
「私を一団に入れる気になりましたか?」
「悪いけど、私たちの一存では無理だから、これに参加してくれない?」
そう言って見せたのは試験の広告だ。
「お姉さん強そうだら、簡単に受かるでしょ」
ぴっと魔法で飛ばされた広告にメルセスはフッと笑みを溢した。
「まぁ宜しいですわ。あなた程度なら簡単そうですもの。それまでシン様の魔法はこのままという事で」
では、と移動魔法で姿を消したあと、シンはらしく無いシュンの行動に困惑していた。
「・・・シュン?」
シュンの行動の意図を問おうとすると、シュンはその場に片膝をついた。
「っ!」
「シュン!?」
氷の刃が一本、シュンの脇腹を貫通していた。
「・・・シン、大丈夫。回復魔法使えるから」
そう言って傷口に手を当てると傷はあっという間に完治しする。
「・・・・・・シュン、悪い・・・俺・・・」
「ううん、謝るのは私だよ。油断していた。シンが庇ってくれなきゃ私が魔力を封じられたんだから。ごめんなさい、シン」
土産も全てダメになってしまった。
シンも魔力を封じられた。
どんな顔をして帰れば良いんだと、シュンは肩を落とした。
「魔法の使えないシンなんてただのイケメンじゃないか。え?マイナス要素あまりないな?」
「シン君は魔法が無くても顔だけで食べていけるよ!なんなら俺がお世話してあげる!」
「グレン、ニノ、魔力が戻ったら覚えておけよ?」
「俺はニノと違って褒めてるんだぞ」
「俺だって褒めてるよ!?」
「そうは聞こえねぇ」
「・・・・・・」
シュンが思っていたより意外と大丈夫そうだった。
しかし、みんなはシンよりもシュンの方を心配していた。
自分が居たにも関わらずシンの魔力を封じられたのだ。
しかもシュンの力を以てしてもそれを解く事ができなかった。
その責任を感じている事は一目瞭然だ。
「シュン、気にする必要はありません」
「そうだ。相手は試験に出るんだろう。ならその場で叩き潰せばいい」
「・・・うん、そうだね。そのメルセスのことは私が相手をするよ」
いつもと同じ口調だが、落ち込んでいることはよく分かる。
「シュン、気にするな。もしかしたら自分たちで封印を解けるかもしれんだろう。シン、とりあえず解析してみるから研究室に来い」
「分かった」
レイルに連れられシンは研究室へと向かい、残った者たちはその場から離れる気になれず、考え込むシュンに寄り添った。




