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後日、ルーズランス国の国王と正式に謁見することとなったシュンと保護者のレイル、そして今回はなぜか付いてきたシンは、相変わらずの黒い衣装にリュルスとマリス以外をどよめかせた。
国王を前に何たる格好かと、側近達が騒つくがそれを国王が一喝し静まらせた。
先日と同じくヘルオキア連邦国の現状を説明し、今後の対策を説明した。
ヘルオキア連邦国の者達は黒の一団が動きを止めるので、ルーズランス国の兵士達には彼らをなるべく傷付けず捕らえて欲しい事を告げる。
ルーズランス国としては自国の兵士が欠ける事なく相手を制圧できるため否は無く、話はスムーズに進んだ。
その後このまま行方を晦ませていたら疑われるため、ルークにはヘルオキア連邦国へと帰ってもらい、これまで通り過ごしてもらう。
そして数日後、その日は来た。
「父さん、母さん」
「ルークどうした?」
この日のために銃の訓練を積んできた平民達の手には、それを証明するようにタコができている。
ルークの両親も例外では無く、その痩せ細った体とは不釣り合いな銃を装備していた。
「…」
心配そうに黙り込む息子に父親は「大丈夫だ」と肩を叩いた。
「訓練もして殆ど的を外さないし、何より俺たちには優秀な魔法使いの息子がいる」
「そうよ。貴方は貴方の仕事をなさい」
これから死にに行くというのに二人とも穏やかで、覚悟を決めていた。
そうならない為に黒の一団が協力してくれるとはいえ、シュンの言葉が気になっていた。
原作の矯正。
学校でうまく行っていると思っていたのに起こった補正だ。
(シュンの魔法が失敗してここでもしその補正が入ったら…)
シュンやシンも居るとはいえ、今ルーズランス国の隊にはグレンとニノが居り、状況は殆ど原作通りだ。
レイナードとウォルトを殺さなければ、殺されるのは自分の家族や見知った友人達だ。
「…ルーク、さぁ持ち場に着くんだ」
「…うん」
不安が払拭されないまま父親に促され、隊の中央前列へと向かった。
両親に人を殺させたくない。
しかし死んで欲しくもない。
万が一の時、ルークは自分がどうすべきか迷っていた。
ルーズランス国とヘルオキア連邦国の国境付近。
ルークから聞いた進軍ポイントにシュンとシン、グレンとニノ、さらにルーズランス国の騎士であるレイナードとウォルトの隊が待機していた。
「まさかこんな事になるとは」
「レイナード隊長、騎士や兵士のみんなの役目は動けなくなった人の確保のみだから。ほら、ウチの庭先でシンに闇魔法で動けなくされたでしょう?あんな感じ」
「……古傷をえぐりますね…」
「え、そんなつもりじゃなかった…ごめんなさい」
「冗談ですよ」
ルーズランス国一の騎士であるレイナードと見た目幼気な少女の対等な会話に、事情を知らぬ者たちは驚きに目を丸くしている。
そんな事とは知らず、その二人の横では未だカカオの木を燃やされた恨みを込めて、シンはウォルトを睨み付けていた。
「…シンくん…そろそろいいんじゃないかな?許してあげても」
「俺も悪かったと思っているぞ」
「……」
じっとりと向けられる視線に明朗快活なウォルトも苦笑いが溢れる。
グレンは一つ思案すると、そっとシンに耳打ちした。
「女々しい男は嫌われるぞ。…勿論シュンもな」
「ぐっ!」
押し黙ったシンは数秒考えた末に、ぐるんとウォルトに体ごと向き直り
「チョコの事はもういい!」
とだけ言い捨ててシュンの方へと向かっていった。
ニノとウォルトは一瞬呆気に取られていたが、グレンのウィンクに声を殺して笑った。
シンがシュンに声をかけようとした時、シュンは録画水晶の映像を眼前に映し出した。
進軍ポイントよりまだ先の方からヘルオキア連邦国がやってきている映像だ。
「もうそこまで来てるな」
「シン。うん、そろそろ防御壁の準備に取り掛かるよ。シンも魔法の展開よろしくね」
「あぁ」
シュンの役目はルーズランス国とヘルオキア連邦国の間に防御壁を張り、ヘルオキア連邦国の流れ弾がルーズランス国の兵士に当たらないようする事で、シンの役目はヘルオキア連邦国の所持する銃の弾切れを狙う為にルーズランス国兵士の幻を作り出し攻撃してくるように見せかける事だ。
その後で身動きができないようにし、ルーズランス国の騎士と兵士達が捕らえる。
ルーズランス国とヘルオキア連邦国の境は平原となっていて、膨大な広さに一気に魔法を展開するこの方法は、正にこの二人にしか実践不可能だ。
グレンとニノは故郷の事でもあり、親友の心配もあり今回は懐かしのルーズランス国の騎士の鎧を身に纒い参戦している。
そしてそれが原作通りの配置となっていた。
「ルーク、これまでよくやってくれた」
「!ナブラ様」
シンの作り出した幻のルーズランス国兵士が遠くに見え始めた時、まだ一国家であった時に国王と呼ばれていた男、ナブラが馬上から声をかけた。
男はルークに銃を集めさせていた張本人である。
ナブラ自ら命をかけるとあって、国民は立ち上がったのだ。
国王自身も平民と変わらず働き、質素な生活を送り励まし合ってきた、これほどまでに民に愛される主はいないと言ってもいい。
今回の事も自分と男たちだけでと言っていたが、女たちはそれを振り切ってついてきたのだ。
ルークにも両親と同じくらい死んでほしくない相手であった。
「今からでもナブラ様だけでも戻る事はできないでしょうか?」
「それは何度も話し合った筈だ。私の代わりに宰相が残る事になった。アレはまだ若いが優秀だ。私の方こそお前に残ってもらい宰相の補佐をして欲しかったのだ。我が領で一番優秀な魔法使いだからな」
「いいえ、僕はナブラ様のお側に居ります」
漫画ではルークがレイナードとウォルトを倒し、初めは勝利するが、本気でルーズランス国に攻められナブラは討ち取られ負ける。
両親も殺され生き残った者たちはバラバラとなってしまい、故郷に残してきた子供たちも老人たちも反逆罪としてヘルオキア連邦国に殺されるか奴隷にされる。
ルークはグレンと対峙する事になるが、事情を知ったグレンはルークを逃し、それを知ったニノは親友のグレンにすら裏切られたと感じルーズランス国を去る事になる。
(そうならない為にもシュンやシンが協力してくれている。グレンやニノも事情を知っている。未来は変わっている筈だ。向かってくるあの兵士たちは皆、幻…幻だ)
フと、もし違ったら?と心のどこかで小さく声がした。
(魔法が失敗していたとしたら?いや、そんなはずは無い。闇の魔法使いの力は本物だ。しかし、それは漫画の中の話であって、今のシンは別人のようだ。もしそれが影響していて…魔法が発動していなかったとしたら…)
そう考えている間にも双方の距離は近づいてきている。
ルークは思わず両親を見た。
もうすぐ射程に入る。
母親の震える手が他の人より早く銃を構えた。
その瞬間、これまでの母との思い出が過ぎった。
前世の記憶が蘇る前であったが、幼い頃の記憶もある。
記憶が蘇り様子のおかしくなった自分に、それでも母は優しく抱きしめてくれた。
畑を耕し、質素ではあるが工夫して美味しい食事を作り、ルークに魔法の才能があると分かり、大はしゃぎで喜んでくれた。
魔法使いになって初めての給料で豪華な食事を取った事や、綺麗な服を買っても勿体無いと1度も袖を通さなかった事。
記憶が戻った時はどうしても母とは思えず戸惑った。
それでも、あの人は母だった。
指に掛かったトリガーが引かれる瞬間、ルークは移動魔法で飛んだ。
(あれ?魔法陣使ってないのに)
と呑気に考えているうちに母親の銃の前に飛び出し、同時に発砲音が響いた。
そして衝撃の後、体が後ろへと傾き、驚きに満ちた母と父の顔が視界に入り、笑ってしまった。
(そんな顔、初めて見た)
「ルーク!!!」
「何やってんだあいつ!!!」
録画水晶で一部始終見ていたシンが悪態吐きながら、幻の兵士たちの進軍を止めた。
ルークの突然の行動にヘルオキア側も混乱しており、その足を止めている。
「シュン!どうする!?」
同じく水晶で見ているはずのシュンに声をかけると直ぐに返事は返ってきた。
「私が行く!シンとレイナード隊長達はそのまま待機!!」
混乱し、ルークを取り囲む人々の頭上に現れたシュンが見たのは、心臓付近を貫かれたルークだった。
「ルーク!!ルーク!!しっかりしろ!」
「あぁ!私はなんて事を!」
銃弾は貫通しているようで、血の流れが止まらず血溜まりを作っていく。
「降りるから場所を空けて!」
「!?」
頭上からの突然の少女の声に、どよめきが起きる。
「な、なんだお前は!」
誰かがそう叫ぶと人だかりはルークを守ろうと更に固まった。
「ちっ!早くしないとルークが死ぬぞ!!さっさとどけっ!!!」
バチっと軽い放電魔法に驚きルークの直ぐそばに隙間ができた。
そこに降り立つと今度はルークの両親がルークを守ろうと、立ち塞がる。
「これが最後だ。さっさとどいて」
少女とは思えない気迫に押されながら、それでも父親は踏ん張った。
仕方なしと、シュンは身体能力を高め一瞬にして父親を後方の人だかりに投げ飛ばすと、今度は母親を突き飛ばした。
直ぐ様態勢を立て直し周囲が突っかかってこようとしたが、瞬時に防御魔法を張りそれを防いだ。
「全く…愛されてるねー」
これまでとは違い優しい穏やかな声色で、シュンがルークに触れると、その瞬間淡い光が傷を包み込み、その傷を見る見る癒していった。
「…傷が…」
治療を終えるとシュンは一つ息を吐き、ルークの両親へと向き直った。
「事情を話している暇が無かったから、手荒な真似をしてごめんなさい。しかし分かって欲しい。ルークは友達だからどうしても助けたかったの」
「ルークの、友達?」
黒い衣服を纏い、魔法陣も無しに回復魔法を使うこの少女が?と思うがその特徴に噂くらいは聞いたことがある。
「…黒の一団?」
その声に向き直りシュンは頷いた。
「現ヘルオキア連邦国ニルリール領領主であり、元ニルリール公国ナブラ元公王、今すぐルーズランス国へ投降されよ」
「!?」
その衝撃の一言はナブラを激怒させるのに十分だった。
いや、ナブラだけではない。
ナブラや故郷を慕う、今ここにいる者全てだ。
「小娘、ルークの友人と言ったか?ここに居ると言う事はルークから何かしらの事情は聞いているのだろう。それでも投降せよと申すか!?」
ナブラを筆頭に殺気立つのが分かったが、ルークの両親だけはどうすることもできず見ているだけである。
「あなた方のやっているお門違いな行動を、ルーズランス国は全て知っている」
「なに!?」
どう言う事だと騒めく周囲だが、シュンの言葉で静まり返った。
「我ら黒の一団はギルドを通じてルークから依頼された。故郷を助けて欲しいと」
「!!?」
これまで何も言わず忠実にナブラに従ってきていたルークの裏切りとも取れる行動に絶句した。
しかし、それを責められる訳がなかった。
「ルークにとって外部に頼るのは最後の手段だった。どうしても大事な人達を死なせたくないと黒の一団に縋った。ルークには未来が分かっていたのですよ」
「…未来?」
「敗戦した貴方、ナブラ様を始め沢山の人々が死に、ヘルオキア連邦国は反逆したとしてニルリール領を解体、残った老人や子供達は殺されるか奴隷にされる。それがあなた方の未来です」
「!!!?」
この戦いは聖戦などではない。
ただの自殺行為だ。
「ーーっ!やってみないことには分からないではないか!」
「分かるから言ってるんだよ!この民間人混じりの兵力数千と鍛えられた兵士たちの数千では兵力差は圧倒的だ!銃を使った所で勝ち目はない!今回勝てても次はルーズランス国も数万単位で兵士を送り込んでくるぞ!?銃弾だって有限だ!次までに物資を補充する時間を与えてくれると思っているのか!?故郷を救いたいなら死ぬな!!」
いや、分かっているんだ。
シュンの言う通りだと。
しかし、他に方法が思いつかなかった。
他領に助けを求めても足蹴にされたように相手にされなかった。
同盟国とは言えルーズランス国に助力を乞おうにも、常識では小規模一領主が相手にされる訳がない。
ナブラにとっても最後の手段だったのだ。
(………)
押し黙ったナブラを心配そうに見つめる民達の間で呻き声が聞こえた。
「!ルーク!!気がついたのか!?」
ルークの父親がその声に気づいて声の主を見れば、ルークの目が薄らと開いた。
「あぁ…ルーク!」
感極まり母親はルークにしがみつき、声を上げて泣きじゃくってしまった。
「…母さん…」
「ルーク、傷は癒したけど流れた血は戻らないから動かない方がいいよ」
最近聴き慣れてきた声に、ルークは「やってしまった」と眉間に皺を寄せた。
「シュン…ごめん…僕のせいで、」
計画は崩れた。
「…ルーク」
「!!ナブラ様!」
ナブラの声に体を起こそうとするが、貧血でふらついてしまい、力も入らない。
そのままで良いとナブラは言うが、両親の支えでなんとか上半身を起こし、向き直った。
「この者から話は聞いた」
「っ!申し訳ございませんっ!」
地面に頭を擦り付けるように頭を下げるルークにナブラは苦悶の表情を浮かべた。
自分の半分も生きていない青年だ。
辺りを見回すとその年頃やそれ以下の年齢の男女も多くいる。
未来を担う若者だ。
自分はそれを道連れに何をしようとした?と冷水をかけられたように一気に冷静になった。
「ルーク、すまなんだ」
「!?ナブラ様?」
「お前は私達を死なせないようにと考えていたのに、私は…」
もっと足掻くべきであったと項垂れるナブラに、ルークは首を横に振った。
ナブラがどんなに拒んでも、結局は漫画通りになっていくのだ。
未来を知っているルークですら変えられなかった。これはそう言う運命だった。
しかし、シュンの介入で大きく未来は変わった。
小さな体に不釣り合いだと思うほどの大胆な行動力は、全てを変える力があると思うほどに、頼もしかった。
「反省も後悔も後にしてもらって良いですか?このまま攻めますか?降伏しますか?どちらにせよルーズランス国には皆さんを出来るだけ傷つけずに捕らえる用意があります」
(……)
ちょっと時間押してるよと言わんばかりなシュンに、もう少し空気を読んで欲しかったと苦笑いのルークであるが、このままここに留まっているわけには行かない。
「…捕らえられた後、我らはどうなる?」
「あなた方がルーズランス国を攻めた罰を受けてもらいます。大丈夫、死人は出ないです」
悪いようにはしないからと、促すとナブラは逡巡した後一つ頷いた。
「全ての責は私にあり。甘んじて受けよう」
そう胸を張ると周囲からは「ナブラ様だけ受けさせるわけにはいかない」だとか「罰なら自分にも!」と名乗りが上がり、心底慕われているなと感心すらした。
「大丈夫、依頼を受けたからには必ず遂行しますよ。安心して捕まってください」
我ら黒の一団の名にかけて失敗は無い!と黒い衣服の裾をはためかせ格好つけるがいかんせん少女だ。
ちょっとだけ不安が込み上げるが、覚悟を決めたナブラは武器を一ヶ所に集めさせ投降する事に決めたのだった。
その日のうちに一同は王都へと連行され、ナブラとルークを除き町外れにて監視付きのテントでの待機となった。
数千と言う人間を入れておける牢がないからだ。
元々抵抗するつもりもないので監視兵の指示を守り、シュン等と共に水晶で成り行きを見守っている。
城へと連れて行かれたナブラは、早速リュルスとの謁見が待っていたのだが、そこにはヘルオキア連邦国の代表14名も待っていた。
なんと言うことをしてくれたのかと、14名は揃ってナブラを睨みつけた。
しかし、ナブラは怯まず真っ直ぐに前を見据え、リュルスと対面した。
「さて、ナブラ殿。今回の件について釈明はあるか?」
「国内の問題にルーズランス国を巻き込んでしまった事は申し訳なく思って」
「貴様の軽はずみな行動で我ら全てが迷惑を被っている事を分かっているのか!!?」
まだ話の途中にも関わらず、代表の一人が声を荒らげそれを遮った。
「軽はずみ?」
そんなわけがない。
一度は死を覚悟した行動は決して軽はずみではない。
しかもその原因を作った者たちに言われたくもない。
「…いや、少しでも民の生活が明るくなればと“軽はずみ”に連邦に加入したのが私の最大の汚点だろう」
「なに!?」
「今まで散々目を掛けてやっただろう!?」
「恩を仇でかえしよって!」
「感謝していましたとも。あなた方の狙いが我が領地の鉱山だと知るまでは!」
負債を負わせるだけ負わせ、担保に鉱山を奪うつもりだった。
鉱物の輸出を続けていればニルリールはどの領地よりも裕福だっただろう。
だがニルリールを連邦国に引き入れる時点で、鉱山を奪う算段だったため、ニルリール自体を潰すのが目的だったとも言える。
それを原作知識のあるルークが、独自で調べて発覚した。
ニルリールの財政では鉱山の発掘をする資金すら工面できず、手の打ちようが無かった。
「うむ、ナブラ殿の言い分は分かった。だがしかし、それが我がルーズランス国を攻める理由にはならん!!」
「…」
リュルスの反応からヘルオキア連邦国側は、ナブラは死んで責任を取ることになるだろうと誰もが思った。
ナブラですらそう覚悟していたのだが、リュルスの答えは違った。
「ヘルオキア連邦国に損害賠償を求める!」
「は!?」
ナブラ以外の代表達の声が驚きに重なった。
「私たちは無関係です!」
「そうです!全てナブラ殿が仕組んだ事!」
「何を戯けた事を!ナブラ殿もヘルオキア連邦国の一員。ならば連帯責任となるのは必然であろう!?」
お前等全員で責任取れと迫るリュルスの発言に沈黙する。
どうしたものかと顔を見合わせる代表達に、リュルスはわざと大きく息を吐いた。
「今後も同盟を継続するのであれば、ニルリール領を連邦から除外してもらおう」
「!?」
「でなければ、こ度のナブラ殿の行動は宣戦布告と受け取り、全力で受けて立とう!」
「!!?」
流石にそれは無理だ。
3回戦争をして3回とも負けている。
同盟もリュルスの温情で成り立っているのだ。
もはや選択肢は無かった。
「リュルス国王様、役者だねー」
「あの迫力なら頷くしかないな」
水晶で一部始終見ていたテント待機組は、事情を知るもの達以外は不安な表情だ。
連邦から追い出されたニルリールは小国に戻るのだ。
「さて、さて、後ろ盾の用意をしようかなー」
フレイザーはどんな表情をするだろうと、ウキウキとしていると横から「あ」と言うシンの声が聞こえた。
「どうしたの?」
と問えば水晶の映像を指した。
「…え?」
そこにはいるはずのない好々爺然とした老人がいた。
「ナブラ殿、今後おかしな行動を取らぬようにロザリール国のフレイザー・アーリッシュ大公閣下が監視役となる」
「……は?」
「黒の一団から聞いておらなんだか?」
「!?」(後ろ盾!?)
「なに、悪いようにはせんよ」
まさかこんな大物が出てくるとは夢にも思うまい。
フレイザーはシュンにルークの居場所を教えた後、こうなる事を予測してヴァレル宛に文を認めていた。
“学校での借りを返すチャンスだ!”と。
ヴァレル自身も、苦手意識のあるシュンにいつまでも借りを作ったままでいる事に耐えられず、“よっしゃきた!”とあっさり了承した。
そしてシュンは絶対に自分に面倒事を押し付けると踏み、先手を打った。
これで少なくとも、シュンの悔しがる顔が見られると。
フレイザーの思惑は当たり、テントでは全てを理解したシュンが地団駄を踏んでいた。
「さて、もう一つ。前ロッド侯爵を殺害した犯人も捕らえてある」
「なんと!フレイザー殿にそこまでしていただくとは!」
「いやいや、子飼に指示しただけにすぎんよ」
これもシュンへの当て付けと言ってもいい。
前ロッド侯爵殺害を指示したバレッタ伯爵は、ロッド侯爵やナブラの思惑を知り、ヘルオキア連邦の代表等に伝えて報酬を得ていた。
つまり前もってヘルオキア連邦は今回ナブラが進軍する事を知っていたのだ。
にも関わらず止めなかった事は同盟国に対する裏切りに他ならない。
あとは捕まえた実行犯に自白魔法をかければ良いだけだ。
これらを盾にする事によりシュンが言っていた「ルーズランス国が主導権を握れる様にする」と言うことが実現する筈であったのだが、それすらもフレイザーに先を越される形となり、シュンはギリギリと苦虫を噛み潰したように表情を歪めていた。
かくして、多大なる被害をもたらす筈であった一連の騒動はルークの負傷のみ(治癒済み)で幕を閉じたのであった。
「いやいや!納得出来ないんだけどぉ!?美味しいところ全部閣下が持っていったよね!?」
「これで貸し借りは無しだな。ホッホッホッ」
「うがぁーーー!そのヒゲ引っこ抜きたいいぃぃぃーーー!!!」
後日、完全に回復したルークは廃城へ訪れていた。
今後の身の振り方を考えていたらしい。
「ルークなら黒の一団に入ってもいいんだぞ」
珍しいシンからの申し出にルークもまんざらでは無い様子で頬を掻いた。
しかし、返事はノーである。
「僕は暫く旅に出ようと思う。いつどこで補正が入るかわからないから、いつでも対処できるように、もう大丈夫だって思える時期までね。その後もシンの気持ちが変わらなかったらまた誘ってもらえると嬉しい」
「分かった」
随分と仲良くなったものだとシュンとしては嬉しい限りだ。
実際、ルークは努力の天才だ。
魔力の量自体はシュンやシンに劣るとしても、自作の魔法の本からして知識量は多いことが分かる。
一団に入っても十分にやっていけるし、シュンとしても前世の話が気兼ねなくできる相手がいる事は嬉しい限りだ。
「たまには遊びに来てよ」
「待ってるぞ」
仲の良いグレンとニノは勿論歓迎モードだ。
「ルーク、何か困った事があったら遠慮なく頼ってね」
「うん、ありがとう。シュン、じゃぁ、また」
「またね」
ふっと移動魔法で消えた後に、思い出したようにレイルが口を開いた。
「ギルド経由で依頼を受けたんなら報酬はどうした?」
そう、依頼を受けたのだ。
勿論報酬は発生する。
「勿論貰ったよ。コレ」
そう言って見せたのは、ルークお手製の魔法の本のコピーだ。
「ダメ元でお願いしたらコピー作ってくれたんだよ!」
「ほほぉ……」
「それ、俺も見たい」
初めは興味なさげであったのに、やはりシンも魔法馬鹿なのだ。
「そういえばルークのやつ魔法陣無しで移動魔法使ってなかった?」
「あ、」
そうだ、本を開いていない。
シュンもシンもレイルも何も教えていないにも関わらず、独自でやってのけたのだと思うと、なんとも近い将来が楽しみである。
再会の日を待ち侘びて、シュンはルークの本の表紙をなぞったのだった。




